こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~
ヒヨリ「ミサキさんに焼きそばをかけてしまい、凄く怒っています……」
アズサ「何があった?」
サオリ「喧嘩したのか?」
オウヒ「なに焼きそばだ?」
アツコ「殿下、それ詳しく聞くとこ?」


 


第3話 ゲーム開発部という職人集団

 

 ワタシはミレニアムの図書館に来ていた。

 あまりきたことがない場所であり、古き良き本の香りがするのかな、って思ったけど別にそういうわけじゃない。

 

 書物もあるにはあるけど、思っていたよりも少なかった。

 ならば、ミレニアムの図書館の規模はそこまで大きくないのか、と言われると別にそういうわけでもない。

 

 そこはさすが、ミレニアムサイエンススクールと言った所。

 書物での管理よりも、データでの管理。つまりは、サーバーなどに本のデータを保存して、来訪者に端末を貸し出して、そこから調べて閲覧ができるようになっている。

 

 つまりは、電子書籍。

 なので、ミレニアムの図書館は本を読む場所というより、保存されている情報を閲覧できる場所、という意味合いの方が強いのかもしれない。

 

 

 人によっては、それが味気なく映るかもしれないけど、ワタシは別に気にしていない。むしろ、電子での管理閲覧の方が好ましく思っている。

 だって、壊れないしね。本の管理はとても難しいと、聞いた事がある。特に古書なんて、太陽の光、部屋の湿度、その他諸々に細心の注意を払わないと保管ができない代物とのこと。

 その点、電子での管理は違う。端末が壊れても、サーバーに保存していれば問題がなく、サーバーが壊れてしまってもバックアップを取っていれば大丈夫ときた。

 

 何かと物騒なキヴォトスにおいて、破壊されない紛失しない焼失しない、というのはそれだけで大きな利点と言えるだろう。

 何事も暴れないのが一番だろうというのは、それはそう。でも悲しいかな、ここはキヴォトス。いつもどこかで争いが生まれ、火種は数秒単位で育ち、それが起爆剤となり爆発する事がある。それがキヴォトス、今最もホットでエキサイティングな世界なわけ。

 

 ……うん、やはり本は電子で管理するべきだと思う。

 

 

 

「現実逃避、良くない」

 

 

 ボソッ、と。

 誰にも聞かれない程度の声量で、ワタシは机に突っ伏していた顔を上げる。

 

 視界に広がるのは、ミレニアムの図書館。白を基調とした壁と床、それがアクセントとなっており、清潔感を醸し出している。うん、実際綺麗なんだけどね。一時間置きに数台配備されているミレニアム産のお掃除ロボットが巡回し、掃除をしてくれているから、床にゴミはなく、塵一つない。

 

 エンジニア部の皆さんが悪ノリで弄ったからか、暴走した事もあったっけ。

 『生徒を排除して青き清浄なる世界のために』なんて言いだしたときには驚いた。暴走したお掃除ロボットを破壊して回ったのは良い思い出だ。確かその頃だった筈、ネルちゃんと一悶着あったのは。

 

 

 思い出に浸るのは良いけど、現実逃避は本当に良くない。

 猪女のワタシが図書館なんて、知識を得るための聖域にいるのは、他でもない。政治のことについて勉強するためだ。

 

 先人に学べとはよく言ったもの。

 上に立つものとして何が出来るのか、偉人の伝記やら偉人の歴史やら、はたまた偉人のやらかしまで調べているのだが、如何せん人には詰め込める知識は限界があるのです。

 

 つまるところの、オーバーヒート。

 数値化すると53万億あるワタシの脳内CPUが唸りを上げて『ジブン、限界ッス!!』って叫んでいる。うるさい、働け。

 

 

 普段しない事をするからそうなる。

 常日頃、勉学に励んでいれば、こんなことにならなかったのに。本当にコンサバティブちゃんを特異現象捜査部の皆さんに貸し出してよかった。こんな姿を見せたものなら、コンサバティブちゃんに何を言われるかわからない。一通り罵倒されて、貶されて、小馬鹿にされて、また罵倒されるに決まっている。

 

 でも、しょうがないのです。

 ワタシだって頑張らないとならないのです。

 それが、そのときなのです。

 

 エデン条約機構なんてお出しされてしまった日には、ワタシだって危機感を覚えてしまうよ。

 力による闘争じゃなくて、知による政争にはワタシなんて無力に等しい。少しでも、トリニティとゲヘナの割を食わないように立ち回り、アリウスが上手く利用されないように話を進めないとならない。

 

 そのために勉強をしないと。

 何もかも準備不足。力不足にも程があるけど、やれることはやらないと。アリウスの皆が笑って過ごせる世界を作るためなら、ワタシも頑張らないと。

 

 

 ────でもそれは、本当にアリウスの皆のためなのか────

 ────いつものように、余計な事をしているのではいか────

 ────本音を言ってくれないアリウスの娘達はどう思っているだろうか────

 

 

 

「────────」

 

 

 雑念だ。

 また、余計な事を考えた。

 ワタシは頭を振る、それをはじき出すように。

 

 でもそれは、簡単にワタシから出て行ってくれないみたい。

 生まれてしまった疑念は、ワタシの矮小な心を、容易く蝕んでいく。

 

 この疑念を口にしたところで、彼女達は────サオリは答えてくれるだろうか。

 自身の意見を口にせずに、ワタシに従ってくれるのではないか。主張しないのは、原因がワタシにあるのではないか。それこそ────あの年増のように。

 

 

 口の中で奥歯を噛み締める。

 そんなことはない、と口にしたかったけどそれは出来ない。

 だって、そうかもしれないから。

 

 ワタシは力だけはある女だ。それしかない女だ。それだけの女だ。

 人を惹き付ける程の魅力があるわけでもなく、知識でもってアリウスを豊かに出来る手腕もない。ましてや政治が上手く他校との外交が出来るほど要領も良くない。

 ワタシがやったのなんて、有無を言わせずにアリウスを武力で以て制圧しただけ。それが、彼女達にとって良い事だったのか。これが原因で、ワタシを恐れている可能性すらある。

 

 それは本当に正しい事なのだろうか。

 余計な事。ワタシの欲求のまま戦ったソレは、真の意味で彼女達にとって良い事だったのか。

 

 答えなんて、出るわけがなかった。

 

 

 思考の袋小路。

 出口が見えない問答に、ワタシは自分自身を押し潰そうとしていた。

 でも、それは唐突に終わりを迎える事となる。

 

 

“あれ、オウヒ?”

 

 

 声が聞こえた。

 顔を上げると、そこには珍しい人物────という、わけでもない。

 彼がキヴォトスを駆け回っているのは、ワタシも知っている事実。ここにいるということは、また何か厄介事を解決するためなのだろう。

 

 生徒の悩み事を聞き寄り添う。

 それこそが、彼の為すべきことなのだから。

 

 でも驚いたのは本当。

 ワタシは眼を丸くさせて、彼の顔を見上げながら口を開く。

 

 

「シャーレの」

 

 

 先生、と口にする前に、彼は心配そうにワタシの顔を覗き込んで。

 

 

“大丈夫、オウヒ?”

 

「え?」

 

“顔色が悪いから……”

 

 

 どうやら顔に出ていたらしい。

 ワタシは、いいや、と首を横に振り誤魔化すように先生に問いを投げた。

 

 

「問題ないとも。それよりも、シャーレの。どうしてここに?」

 

“……あぁ、ゲーム開発部から連絡があってね”

 

「ゲーム開発部?」

 

 

 聞きなれない部活に、ワタシは首を傾げる。

 そんな部活があるなんて知らなかった。何をする部活なのか、なんて問うまでもないだろう。文字通り、ゲームを開発する部活であることは間違いない。

 うん、擬似科学部とかいう部活よりも、健全である事は間違いないだろう。

 

 だからこそ、わからない。

 ゲーム開発部なる部活が、シャーレの先生に連絡を取った理由が。出来上がったゲームをプレイしてもらうためだろうか。

 

 でもそれは違うみたい。

 シャーレの先生は困ったような笑みを浮かべて。

 

 

“部活の存続の危機になっているから相談に乗って欲しい、ってシャーレに要請があったんだ”

 

「あー……」

 

 

 なるほど、だいたい理解した。

 結果を出さない部活には厳しいからなぁ、ミレニアム。でも逆を言えば、些細な結果を出せば、部活動は続けて良いということ。

 余程の事がない限り、廃部になることなんて先ずないのだけど。

 

 

「存続の危機、つまりは廃部であろう。結果を出せば赦されるミレニアムにおいて、由々しき問題よな。ゲーム開発部とやらは、何をやらかしたのだ?」

 

“違法カジノの運営、他部活の襲撃、とかかな……?”

 

「えっ、マフィア?」

 

 

 思わず素になってしまった。

 ゲーム開発部って何かの隠語で、もっと他にも悪どいことをやっている部活なのだろうか?

 なにそれこわい。とてもこわい。ゲームって人の人生を壊すことを目的としている、みたいな感じなの?

 

 

 そんなワタシの不安が通じたのか、シャーレの先生は慌てながら首を横に振って。

 

 

“いやいや、まっとうな部活だからね”

 

「で、あるかなぁ? 貴殿の口からは、まっとうのまの字もない単語しか出てこなかったのだが?」

 

“色々やってしまっているけど、ちゃんとゲーム開発もしているからね!”

 

 

 それ、本当にちゃんとしたゲームなのかな、って思ってしまうのはワタシだけだろうか。

 アウトレイジ的なアレをどうしても連想してしまいますのですよ。

 

 

 

「直近でどのようなゲームを作っていたのだ?」

 

“えーっと、確か。『王様カノジョ』だったかな?”

 

「ほう、どのようなゲームか?」

 

“恋愛シミュレーションと聞いたよ私は”

 

「貴殿はやってないのか?」

 

“うん、私も興味があったんだけどね。どういうわけか、やらせてもらえなかったんだよ”

 

 

 クオリティが低すぎて恥ずかしいってミドリが言っていたな、と語る先生の顔はすこぶる残念そうだった。それだけで本当にやってみたかったというのが感じ取れる。

 

 でも、そうか。

 シャーレの先生にすらプレイさせない辺り、部活の成果として出すほどの出来ではないということか。

 それはそれで残念。繰り返しになるけど、少しでも部活の成果があれば部活動として許されるのがミレニアムだ。どんなクオリティでも、最低の出来でも、完成していれば廃部になるなんてことにはならなかったことだろう。

 

 でもそれが許せない辺り、ゲーム開発部は職人肌の集まりなのかもしれない。

 こだわり抜き、妥協を許さず、自分達が納得したものしか世間に出す事を認めない、そんなクリエイター集団こそがゲーム開発部。

 ────なにそれ、超カッコいい。

 

 マフィアなんて思った自分が恥ずかしい。

 ゲーム開発部。なるほど、彼女達は凄いカッコいい集団だった。

 

 

「しかし、実績がないのはミレニアムにおいて致命的だ。当てはあるのか?」

 

“うん、近いうち『廃墟』に行く予定でね”

 

「…………なんで~? なぞなぞ~?」

 

 

 そんなピクニック、みたいな気軽に行く場所でもないよ廃墟。

 あそこは、自動防衛機構が今もなお稼動している危険地帯。足を踏み入れたが最後、防衛ロボットが殺到する場所であり、確か連邦生徒会が立ち入りを禁止しているエリアだった筈。

 

 まぁ、それだけなら問題はないのだけど。

 襲われたら返り討ちにすればいいだけだし。問題はその立地。暗いしジメジメしているし、何よりも暗いし。お化けでそうだし、虫がいそうだし。そんなこんなで廃墟は、ワタシの中で行きたくないところの五指に入る場所となっている。

 

 

 そんな場所にわざわざ行く理由がわからない。

 ゲーム開発となんの関係があるのだろうか。

 

 先生もあまり行く理由がわかっていなのか、ふわふわした口調で。

 

 

“G.Bibleというモノを探しに行くんだ”

 

「………………なるほど?」

 

 

 ますます意味がわからない。

 でも、職人肌のクリエイター集団である、ゲーム開発部がわざわざ出向いて取りに行くほどの代物だ。それはなくてはならない代物であり、厳選しなければならないほどの物なのだろう。

 

 物にまでこだわりを見せるとは、やはり職人達。

 ゲーム開発部はカッコいい、廃墟に行くとか、本当に尊敬する。

 

 先生は思い出したかのように声を上げると。

 

 

“そうだ、オウヒってゲームに興味がある?”

 

「経験は全くないな、如何した?」

 

“実績もそうだけど、部員数も足りてなくてね。興味があるのなら、オウヒが良ければ入ってくれたらなーって”

 

 

 なんと、少数精鋭だったのかゲーム開発部。

 それはそうだろう。何せ、職人たちの集まりだ。選び抜かれた者達じゃないと、ゲーム開発は務まらないだろう。

 

 そう考えると、ワタシが入っても足を引っ張ってしまうのは目に見えている。

 やんわりと、首を横に振って。

 

 

「いいや、余では力不足というもの。職人たちの足を引っ張るわけにも行くまいよ」

 

“そうか、少し残念────って、職人?”

 

「そも、余はそこまでゲームに精通しているわけでもない。……ヤヨイやルイであれば入部していたかもしれぬが」

 

“あぁ、アリウスの生徒の。彼女達はゲームが好きだったね”

 

「あぁ。奴らであれば、興味を持っていたであろうさ」

 

 

 頭に浮かぶのはアリウスのゲーム好き二人の姿。

 きっと、眼を輝かせていたことだろうし、何だったら直ぐにでもゲーム開発部の部室に突撃していた事だろう。

 

 ワタシは自然と口元が緩むのを自覚する。

 シャーレの先生は感心するような口調で。

 

 

“オウヒは凄いね。アリウスの皆の名前と趣向を把握してて”

 

「凄いものか。それをいえば、貴殿こそ、だ」

 

“私?”

 

 

 キョトン、と首を傾げるシャーレの先生にワタシは頷いて。

 

 

「ヤヨイやルイの名を出しただけで、アリウスだと言い当てている。貴殿の事だ、アリウスだけではなく全ての学校に在籍する生徒の名前と趣向を把握しているのであろう?」

 

 

 そう、普通は把握してないと出てこない。

 それをシャーレの先生は直ぐにどこの生徒か言い当てて、なおかつその生徒が好んでいる事を口にしていた。

 

 ワタシなんて、精々アリウスの皆と周りで親しくしてくれている人達が限界だ。

 でも先生は違う。全ての学校の生徒を覚えており、好んでいるモノまで理解している。物の優劣なんて考えるまでもない。ワタシなんかよりも凄い人だ。

 

 そしてその通りで。

 シャーレの先生は誇るでもなく、事実だけを口にするように、それが普通と言わんばかりの口調で。

 

 

“私は先生だからね。皆の名前を覚えるのなんて当然だよ”

 

 

 その姿は迷いがなくて、『先生』という立場に誇りを持っているようで、その姿が────頼もしく見えた。

 

 本当に変な人だ。

 シヴァさんもそうだったけど、ワタシが知る大人とは違う。

 自分のやる行動に責任を持ち、迷いがなく、その言葉は力強い。シヴァさんと同じく、この人ならもしかしたら、シャーレの先生ならもしかしたら────ワタシを置いて消えてしまう事はないのかもしれない。

 

 そんな淡い期待を、勝手に抱いてしまう。

 だからかもしれない、ワタシの口は意志とは関係なく、動いてしまっていた。

 

 

「貴殿に、一つ、問いたい事がある」

 

“なにかな?”

 

「貴殿は、自分のやってきたことが、間違いないと、言う事が出来るだろうか……」

 

“……何かあったの?”

 

「……いいや、何もないとも。ただの興味だ。答えたくないのなら、別に構わない」

 

 

 でも口とは裏腹に、ワタシは両手を握り締めていた。

 ワタシ自身、シャーレの先生に何を求めているのか分からない。だけど聞きたかった。自分のやってきた行動に、自信を持てるかどうか否かを、シャーレの先生に答えて欲しかった。

 

 シヴァさんと同じく、ワタシの知る大人とは少し違う彼なら、ワタシの求める答えがあるかもしれない。

 そう思ったから。

 

 でも、その返答は少し違っていて。

 シャーレの先生は少しだけ考えて、何かを思いついたようにワタシに提案する。

 

 

“オウヒ、アルバイトしてみる気はある?”

 

 

 

 





 △ゲーム開発部(オウヒの脳内)
 凄まじい、こだわりをもったクリエイター集団。
 日夜アイディアを出し合っては、銃弾を打ち合う殺伐とした職人達。
 てやんでい、ばかやろう、が口癖だと思っている。みんな腹巻とか巻いている。頭に何かを巻いている。そんな集団がゲーム開発部。
 つまりは、オウヒの想像するカッコいい職人達。それがゲーム開発部である。
 これにはユウカも苦笑い。


 △ミレニアムの図書館
 ライブラリを閲覧できる施設。
 来館者にタブレット渡して、館内であれば自由に行き来しても許される。
 卒論とか発表会の時期が近くなると人が増える。


 △お掃除ロボット
 ミレニアムで稼動しているロボット。
 エンジニア部にメンテナンスを頼んだところ、暴走して帰ってきた事がある。その鎮圧の際に、オウヒはネルと知り合い、戦闘になりかけたのは別のお話。
 Bluetooth完備。


 △『廃墟』
 ミレニアム郊外にある場所。
 オウヒ曰く、お化けでそうだし、虫とか絶対に居るからいきたくない。
 そんなところに良くとか、ゲーム開発部かっけー!!ってなってる。


 △“私は先生だからね。皆の名前を覚えるのなんて当然だよ”
 先生なら絶対に覚えているという信頼がある。
 ネームド生徒だけではなく、モブ生徒の顔や名前を覚えている。
 それが先生なのだ。


 
 
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