こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

ヒヨリ「サオリ姉さん、大変です! 殿下が大変で本当に大変で、どれくらい大変かっていうとわからなくて、でも本当に大変で!!」
サオリ「待て、ヒヨリ。結論から言ってくれないか?」
ヒヨリ「殿下がプリキュアになりました」
サオリ「すまない。やはり途中過程も言って────いや、その前にカメラだ」
アツコ「サッちゃん、任せて。私がしっかり撮るから」




第7話 それでも愉しいとワタシは言うのだろう

 

 私がアリウス分校に訪れていたのは、他でもない。

 勝手に会談の日程を決めて、これまた勝手にアリウスに赴き、私には内緒で事を進めた幼馴染────桐藤ナギサことナギちゃんに文句を言うためでもある。

 

 全く酷いよね。

 セイアちゃんと組んで、コソコソ二人で私には内緒で話を進めるなんて。

 私だって、一応ティーパーティーの一人であるし、話は通しておくべきだと思うんだ。こういうの、なんて言うんだっけ? 報告と連絡と相談のやつ。こくらくだん、だっけ確か。

 

 まぁ、いいや。どっちでも構わない。兎に角、内緒で進めるのは良くないことだよ。

 

 

 セイアちゃんを問い詰めていなかったら、どうなっていたことか。

 きっと、私は何も知らないまま、ナギちゃんから事後報告されていたに違いない。

 

 

 本当にナギちゃんも人が悪いよ。

 アリウスに行くのなら、私に真っ先に声をかけるべきだと思う。だって、私の気持ちを知っているのだから。

 

 

 それに、これはきっかけになると思うし。

 大義名分、ってやつなのかな。トリニティとアリウスの会談をするという理由であれば、“アイツ”とお話できるかもしれない。

 

 

「でも……」

 

 

 本当に?

 そんな疑問が私の胸中にこびりついていた。

 

 “アイツ”が入院していた時だって、私は会いに行くことも出来なかった。

 緊張して、何をお話しすればいいかわからなくて────私のことを忘れているかもしれないのが、怖くなって。

 

 会いに行けば良い、ってセイアちゃんは簡単に行っていたけれど、私にとってそれはとても難しい事で。

 何が難しいのかなんて、考えるまでもない。ただただ、私が、臆病なだけ。

 

 会って久しぶりなんて声をかけて、“アイツ”からの返答が「誰?」とかだったらって考えるだけで、胸が苦しくなる。

 きっと、私は耐えられない。激情に任せて暴力に走ることもなく、見栄も恥も外聞もなく私は泣いてしまうことだろう。

 

 

 忘れられても仕方ないことなのはわかってる。

 私達の関係性なんて、絹のように薄く、少しでも傷つけば容易く切れてしまう。それほどのか細い縁だ。

 

 “アイツ”にとって私は、昔にちょっと争っただけの子供でしかない。

 私の名前なんて知らないだろうし、私の顔を覚えているかどうかすら怪しい。私のように声も、顔も、名前も、何もかもを覚えているとは限らないのだから。

 

 

「……っ」

 

 

 そう考えただけで、私は泣きそうになる。

 自業自得なのはわかってるんだよ。私があの時、あのゲヘナの二人よりも────陸八魔アルや浅黄ムツキよりも早く、声をかけていればまた違っていたのだと思う。

 

 きっと、私達は仲良しで、ナギちゃんも交えた三人で幼馴染になっていたし、その仲の良さをセイアちゃんは呆れながら見ていた。そんな未来があったに違いない。

 でもそうはならなかった。私が臆病で、面倒臭くて、ウジウジしていたから、そんな素敵な未来は一生迎えられなかった。

 

 

 だから、今、出来る事をしたい。

 二度と後悔しないように、悔しい思いをしないように。

 

 そう決意したのは良いけど、臆病な私は踏み出せないで居た。一歩だけで良い、たった一歩だけで良いのに、その一歩が何よりも遠くて。

 

 

 そうして、私は思考が纏まらないまま、アリウス分校に訪れていた。

 もし、“アイツ”に会ったら何を話せば良いのか。

 

 元気だった、と聞くべきなのだろうか。

 何をしていた、と尋ねるべきなのか。

 好きなものはなに、と距離を詰めるべきなのか。

 

 会話ってこんなに難しい事だったっけ。

 こんな気持ち、本当に初めて。“アイツ”を想うと何を話して良いかわからなくなる。お喋りとか、得意だった筈なのに。私の今までの経験が何もかも通用しないみたいで、どう話せば良いのか分からなくなってしまう。

 

 

 

 

 そんな調子なのに、そんな有様なのに、そんな準備不足にも関わらず────遂には見つけてしまった。

 

 

 ミレニアムサイエンススクールの体操服を着ていた“アイツ”が、目の前に、居た。

 記憶と遜色がなく、綺麗な黄金の頭髪。腰まである髪の毛は綺麗で艶もあって、スタイルも良い。ああいうのを、体の黄金比って言うのだと思う。

 同性から見ても、本当に綺麗で。思い出は美化しがちとは言うけれど、子供の頃に記憶していた“アイツ”と比べても色褪せていなくて、綺麗で可憐で美しく“アイツ”は成長していた。

 

 どうすればいいのか、わからなくなる。

 この日のために美容院にいったし、お気に入りの香水をつけて、メイクもバッチリな筈。制服に皺もほこりもなく、両翼だってお手入れは済ませてきている。

 普段、お出掛けするときよりも、何倍も気を使って準備してきた。なのに、途端に足が踏み出せなくなった。怖くて、恐ろしくて、不安で、簡単な筈なのに、一歩が踏み出せないで居た。

 

 

 そんな私を、“アイツ”は、見ていた。

 じっ、と。穴が開くほど、眼を逸らさずに、ただ私だけを“アイツ”は見る。

 その視線で。

 

 

「あは」

 

 

 笑みが零れた。

 先ほどまで、怖がっていた私はいなかった。

 あまりにも遠かった一歩は、呆気ないほど簡単に、踏み出す事が出来た。

 

 覚えてないと思った。

 忘れていると不安を覚えた。

 反応がないことを覚悟していた。

 

 でもそれは違ったみたい。

 何故なら“アイツ”の眼は変わらず、あの時のまま────黄金の双眸でこちらを見つめていたから。

 

 それが嬉しくて、何よりも嬉しくて、言葉に出来ないほど嬉しくて。

 まるで私達は示し合わせたかのように一歩一歩、確実に歩みを進めていく。

 

 

 私は“アイツ”だけを見ていたし。

 “アイツ”も私だけしか眼に入っていなかった。

 

 今まで不安に思っていたのがバカらしい。

 始めからこうしていれば良かったと、自分自身を自嘲する。

 

 “アイツ”は本当に愉しそうに笑っていた。

 眼を輝かせて、子供のように、口元を引き裂くように。あの頃のように、昔と変わらず、再現するかのように。

 

 

 いいよ、戦おう。

 あの時の続きをしよう。

 今度こそ、満足させてあげる。

 だから────。

 

 

 

 

 

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 はて。

 どうして、ワタシの視界に、青空が広がっているのだろう。

 最初にそんな、疑問が浮かび、遅れて視界が歪んだ。

 

 そこからワタシは倒れているのだと、現状を把握するまでにそこまでの時間が掛からなかった。

 

 上半身を起こす。

 視界の先には、アリウス分校のグラウンド。

 その先には片膝を突いている────“あの娘”の姿。

 

 

 いまいち、記憶がない。

 “あの娘”の姿を見てからの数秒間。まるで記憶障害でも起こしたかのように、ワタシの記憶は曖昧だった。

 

 何が起きたのか、何があったのか。今までの状況をぼんやりとした頭で整理する。

 

 

 “あの娘”を見た瞬間、身体が熱くなったのを覚えている。

 理性が蒸発し、本能が暴走し、()()()()()と切り捨てた筈の意思が、独りでに動いたような感覚を思い出す。

 

 そうだ、思い出した。

 ワタシは“あの娘”の存在を認識した瞬間、言葉を交わすことなく近付いて、そして────。

 

 

「あぁ、道理で」

 

 

 殴り合ったのだった。

 その結果は見てのとおり。同時に、お互いの右頬に着弾した拳。殴り飛ばされたのはワタシの方。距離的には50メートル程だろうか。

 

 初めての感覚。

 正面からの殴り合いでは勝てない。身体の基本性能(スペック)は、あちらの方が上だろう。()を全て外した所で、ワタシは“あの娘”に勝る事はない。

 

 それに加えて────。

 

 

「……入っている」

 

 

 そう、入っている。集中極限状態(ゾーン)に、“あの娘”は入っている。

 本来は、身体が無意識にセーブし、八割ほどしか性能を発揮できない。だが集中極限状態(ゾーン)に入れば話は変わってくる。

 精神は安定し、意識は全能感に支配され、最高のパフォーマンスを発揮する。

 

 あの、ネルちゃんですら自分を傷つけてギリギリまで追い込む、というきっかけ、つまりは引き金(トリガー)があって、それでも入れるか入れないかといった領域だ。意識的に入ることなど出来るわけがない、ましてや狙って集中極限状態(ゾーン)に入ることなんて出来るわけがない。

 

 そんなことが出来るのは、神域の天才。

 キヴォトスにて存在する強者でも、容易くは辿り着けない至高の領域。

 

 なのに、“あの娘”はいとも簡単に、きっかけもなくその領域に到達していた。

 なんて出鱈目なのだろう。あれはそういった類の怪物だ。誰もが辿り着けない領域に、まるで嘲笑うように、自身の才能のみで。

 

 

「何を馬鹿な」

 

 

 そんなわけがない。

 才能のみで辿り着けるわけがない。本当に、自分の狭い見識には呆れるばかり。

 

 鍛錬に次ぐ鍛錬。訓練に重ねた訓練。それこそ、ワタシの想像を絶する血反吐を吐くほど、“あの娘”は鍛え上げたのだろう。

 そうでもないと、あの領域に辿り着けるわけがないのだから。

 

 きっと、ワタシは負けるに違いない。

 単純な殴り合いでは分が悪く、愛銃も破損や紛失し、エンジニア部からその代わりのものも届いていない。

 絶対に負ける。このままでは“あの娘”に敗北する。

 

 

「────それが、何か問題?」

 

 

 本当に自分でもどうかと思う。

 負けるのが確定している現状、逃れられない敗北の未来を前にして、ワタシの笑みは深まるばかり。

 

 愉しい、本当に愉しいんだ。

 気持ちが高揚する。筆舌尽くしがたい多幸感に溢れ、ワタシの理性は既に蒸発していた。

 

 勝ち負けなんて、どうでもいい。

 視界はグラグラと今も揺れているし、気持ち悪く今も吐きそうになる。口の中には鉄の味が広がっており、切れて血が出ているのだとわかる。

 

 でもそれが良い。それが愉しい。

 自分が生きているのだと、実感できるこの瞬間が、たまらなく愛しい。

 

 まるで運命だ。

 あの頃の続きのようで、ワタシの前に現れた“あの娘”は、昔と比べるのも失礼なくらい強くなっていた。

 

 呼吸が荒くなるのを自覚する。

 それは興奮によるものなのか、はたまた上手く呼吸が出来ていないだけなのか、ワタシ自身すらわからない。

 でもこれだけは言える。

 

 

「いいよ、本当に。貴女は本当に、本当に最高────」

 

 

 結果がどうなろうと知った事じゃない。

 今を愉しまないと。例え負けるとしても、無様に地面に転がる結果になっても、今を愉しまないと勿体無い。

 

 

 回復したのか。

 あの娘も片膝を突いていた状態から、立ち上がっていた。

 

 ワタシも立ち上がろうとするけど。

 

 

「あ、れ……?」

 

 

 立つ事が出来たのはいいけれど、膝が笑っている。

 ダメージが抜け切っていない。なんて脆い身体なんだろうか。

 

 苛立ちはない。

 ただ、自分の情けなさに呆れるばかり。

 

 ワタシは握り拳をつくり、振り上げた。

 

 

「────っ!」

 

 

 太ももを殴りつけた。

 叱り付けるように、情けない身体を鼓舞するように、何度も何度も殴りつける。

 痙攣していた膝はとまり、五体満足。これで再び戦う事ができる。

 

 

「そうだよ。これからでしょ、最高に盛り上がるのはさ……!」

 

 

 歩く。

 優雅に、逸る気持ちを抑えて、優雅に歩いて近付く。

 

 近付いて何をするのか。

 技で攻めるのか、駆け引きをしかけて翻弄するのか、メンタルを崩すのか。

 なんてツマラナイ。あんな最上の相手に、そんなツマラナイことなんてやったら勿体無い。いつものように、正面から堂々と。撃ち合えないのなら、殴り合うべきだ。それが一番、愉しいに決まっているのだから。

 

 

「で、殿下!」

 

 

 割って入る人影。

 それがアズサであることを、ワタシは辛うじて認識した。

 

 彼女は慌てながら。

 

 

「良かった、眼も紅色に戻って────」

 

「アズサ」

 

 

 ワタシは遮るように、彼女の姿を見ることもなく。

 

 

「直ぐに退いて。怪我しちゃうよ?」

 

 

 

 演技している余裕もない。

 ワタシは事実だけを口にするけど、アズサの意志は固いようで両手を広げて行く手を阻む。

 

 

「い、いいや! ダメだ殿下! 今戦ったら、会合が台無しになっちゃう」

 

「────ぁ」

 

 

 その言葉に、蒸発した筈の理性が微かに戻ってくるのを自覚する。

 

 

 そうだ、そうだった。

 今はアッちゃん達とトリニティの偉い人が会談していた。

 

 それなのに、ワタシは“あの娘”と戦っていて良い筈がない。絶対に問題になるし、下手したらアリウスとトリニティで戦争になるかもしれない。

 それだけは駄目だ。絶対に駄目だ。ワタシのツマラナイ欲望で台無しにしていいわけがない。

 

 今ならまだ間に合うかもしれない。

 直ぐに停戦して、“あの娘”に謝罪をすれば、何とかなるかもしれない。

 でも────。

 

 

 ────本当に、それでいいの?

 

 

 これが最後かもしれない。

 アリウスが例の条約に参加したら、それこそこうして“あの娘”と戦うことなんて出来なくなるだろう。

 

 だから、これは最初で最後のチャンス。

 “あの娘”と戦える、最後の状況。

 なんて身勝手だろうか。考えるまでもなく、戦いをやめるべきだ。でも事実が、ワタシの判断を鈍らせた。

 

 それは、刹那にも満たない。

 一瞬の、瞬き程度の身体の凍結。

 それが良かったのか、功を制したのか。

 

 

「────ミカ?」

 

 

 凜、とした声がグランドに響く。

 いつの間にかトリニティの生徒が、ワタシに対するアズサと同じように“あの娘”の前に立っていた。

 

 後姿しか見えないものの、有無を言わせない迫力。

 “あの娘”も身体を硬直させて、怯える姿となりその生徒の名を口にしていた。

 

 

「な、ナギちゃん……」

 

 

 その姿に既視感を覚えるが、直ぐにどこで見たのか理解した。

 冷や汗を流し、視線を泳がせ、しどろもどろになる姿。

 

 アレは、そう────やらかしたワタシにそっくりだ。

 

 

 

 





 △ナギちゃんも交えた三人で幼馴染になっていたし
 そんな世界線も間違いなくあった。
 でも、そんなことにはならなかった。ならなかったんだよミカ。だからこの話は、ここでおしまいなんだ。
 それはそれとして、許さないよ陸八魔アル、覚えてなよ浅黄ムツキとはなる。


 △正面からの殴り合いでは勝てない。
 それはそう。
 
 Q.ミカなんで強いの?
 A.才能があって努力したから。あとオウヒが絡むとステータスが二段階くらいアップする。ここのミカは性能だけでいえば最強なのだった。これにはナギサ様もにっこり。


 △「────それが、何か問題?」
 それでも、と嗤う系女子。
 勝ち負け関係なく、身体は闘争を求める。



 評価をしていただきありがとうございます。
 高評価だともっとテンションが上がりますので、どうかよろしくお願いします!




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