こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~アリウスのひみつ~
 
 アリウスには『殿下燃え派』『殿下萌え派』『殿下の良さは私だけが知ってれば良い派』の三派閥がある
 


第8話 高嶺の聖園さん

 

 

 アリウス分校の生徒会室にて。

 会談はナギサが想定していたよりも。スムーズに事を進めていた。

 

 

 

 エデン条約を締結するための第一歩。それは三校同盟になる関係の構築に他ならない。

 トリニティとゲヘナの二校での条約を結んだ所で、想定外のイレギュラーに対応が出来るほどの柔軟さはない、という幼馴染である聖園ミカの意見を取り入れ、もう一校を条約に組み込もうと画策していた。

 その白羽の矢が立ったのが、最近頭角を現しているアリウス分校に他ならなかった。

 

 ミレニアムサイエンススクールのように規模が大きくなく、山海経高級中学校のように閉鎖的でもなければ、百鬼夜行連合学院のように内情が不安定でもなく、レッドウィンター連邦学園のように治安が悪いわけでもない。

 武力としても戦力に組み込める程度には充実している。なにせ、あの『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』の先生が協力を要請するほどの実力を持った学校であり、見事全うしてみせた遂行力がある。

 

 そういう意味でも、アリウス分校は丁度良かった。

 とはいえ、打算的ではなく、どこか感情的なミカの説得に、ナギサはどこか不安があったのは事実ではある。

 

 なので一度会談の場を設けた。

 これは、査定であり鑑別。少しでも、トリニティの不利益な存在であればそれまで。ナギサも己の非情さを自覚しているものの、一校の学園を率いる身として、譲れないモノはある。同情では平和を勝ち取ることなどできず、伊達や酔狂で他校に助力など出来る筈もない。

 

 

 何もかも、残酷に事を見定める裁定者。

 そのつもりで、桐藤ナギサはアリウス分校へと足を踏み入れたのだが。

 

 

「────どうしたの、ナギサさん?」

 

 

 ハッ、と。

 声をかけられたナギサは我に帰る。

 ナギサの視線の先には、不思議そうに首を傾げるアリウス分校の現生徒会長────秤アツコの姿があった。

 

 少しだけ慌てて、ナギサは応答する。

 いいえ、と首を横に振って。

 

 

「申し訳ありません。少しだけボーっとしてしまいました」

 

「大丈夫? 疲れているのなら、休憩する?」

 

 

 毒気を抜かれるとはこのことを言うのだろうか。

 肩に力が入っていたナギサとは対照的に、アツコはあくまで他人を気遣うほどの余裕がある。

 

 いいや、それだけではない。

 ナギサはどこか不思議な感覚を、アツコに覚えていた。

 言葉には表しがたい不思議なもの。そう、ナギサはアツコから高貴な気風のようなものを感じていた。

 彼女は自身と同じく格式高く、青き尊い血が流れている────などとナギサも思い上がるつもりはないが、シンパシーを感じざるを得ないものを、アツコに見出していた。

 

 だからだろうか。

 

 

「アツコさんはお優しいですね」

 

「そんなことないよ。普通だよ」

 

「いいえ、お優しいですよ。ですが、この場に於いてはその優しさは悪手かと」

 

 

 いらぬ世話を焼いてしまう。

 一拍を置いて、ナギサは続けて。

 

 

「会談の場とはいえ。いいえ、会談の場だからこそ、他校の重役に隙を見せてはなりません」

 

「そう、なの?」

 

「えぇ。それは回り回って弱みとなってしまいます。相手に心労があろうと、断固とした態度で応対するのがよろしいかと」

 

 

 そこで、ちらり、と。

 空席となっている、玉座へと視線を向ける。

 座するべき主を失った玉座。そこへ誰が座るのか。生徒会長であるアツコが座っていないのだから彼女の席ではなく、ましてや会談の内容を記録するために同席している戒野ミサキのものでもなければ、護衛としてアツコの傍についている錠前サオリのものでもない。

 

 なれば、その玉座は誰のものか。

 答えは明白だった。

 

 

「……『アリウスの王』がこの場にいないということは、外交の担当者はアツコさんなのでしょう?」

 

「うん。殿下から任せられているけど……」

 

「ならばこそ、もっと駆け引きや交渉術を身に着けるべきです。真心では人を動かす事は出来ません。利があり益があって、初めて人は動くのですから」

 

「なるほど……」

 

 

 その言葉を受けて考え込むアツコに対して、ナギサは視線を落す。

 余計な事を言った事は自覚している。それこそ、文字通りいらぬ世話なのだろう。でも放っておけなかった。出過ぎた真似であることは自覚しているものの、見過ごし放っておけない魅力がアツコにはあった。

 

 故に、ナギサは口を出してしまい、浅はかな自分に対して自己嫌悪を抱いてしまう。

 

 でもアツコはナギサに対して負の感情は抱いていなかった

 ナギサの言葉を咀嚼するように、何度も何度も心の中で繰り返し頷いて。

 

 

「それじゃ、ナギサさんが教えて?」

 

「……え?」

 

 

 想定外の切り返しに、ナギサは眼を丸くしてアツコを見る。

 視線の先のアツコは笑顔を浮かべて。

 

 

「私、まだ外交とかわからないから。ナギサさんが良ければ教えて欲しいの」

 

 

 それに、と言葉を区切り。

 

 

「トリニティにも悪い話じゃないと思うから」

 

「……それはどういう意味でしょうか?」

 

「だって、私達ってこれから協力し合っていくんでしょ?」

 

「えぇ、そうですね。予定通りことが進めば、ですが」

 

「そうなると、条約内でのアリウスの立場って、トリニティとゲヘナの抑止力的な側面なんだよね? アリウスがこれ以上の戦力を求めるなら外交しかないと思うし、アリウスが強くなればトリニティとゲヘナも助かると思うの」

 

 

 一際笑みを深めて、アツコは続けて。

 

 

「これってつまり────トリニティ(そちら)にも益があるお話だと思うのだけど」

 

 

 どうかな、と尋ねるアツコに、ナギサは鳩が豆鉄砲を食ったように呆然と見つめていた。

 

 認識を改める。

 突然、頭角を現したアリウス。トリニティと比べて戦力が劣ると断じていた。その認識は変わらない。キヴォトスの三大校と比べても、アリウスは取るに足らない存在であり、真正面からぶつかることがあれば、トリニティの勝利は揺るがないだろう。

 だからこそ、アリウスは必死であった。戦力差を埋められないのなら、数で劣るなら、質でどうにもならないのなら、上手く立ち回る。

 

 故に、外交官としてアツコは勤めを全うする。

 任された仕事に全力で臨み、他校との窓口と言う役目を十全に理解し、知識を常に最新へ更新していく。

 全てはアリウスのために、そして────『アリウスの王』のために。

 

 そのためなら、他校の生徒に教えを請う事も厭わない。

 正に形振り構っていられないといったように。

 

 

 ナギサは平静を装うために、出された紅茶が入っているカップを持ち、口へと運ぶ。

 

 目的がどうであれ、ミカの判断は間違いなかった事を認める。

 アリウス分校。これは、ある意味で、放ってはおけない学校だ。下手をしたら、寝首をかかれる可能性すらあるほど、彼女達は必死であった。

 それを踏まえてナギサは毅然とした態度で応じた。

 

 

「えぇ、わかりました。ですが、お覚悟を。かなり厳しく行きますので」

 

「うん、よろしくね、ナギサさん」

 

 

 アツコの表情は崩れない。

 本当に嬉しそうに、花が咲いたような満面の笑みを浮かべる。

 

 もしかしたら、自分はとんでもない学校を招き入れてしまったのかもしれない、そんな考えが頭を過ぎるも

 

 

「し、失礼します!」

 

 

 それはノックもなく突然だった。

 勢いよく、生徒会室のドアが開く。

 

 駆け込んできたのはトリニティの生徒。

 白い制服であり、ナギサは自身の派閥の生徒────つまりは、フィリウス分派のトリニティ生徒であることを認識する。

 

 その上で、ノックもなく入ってきた生徒を冷ややかな視線で見つめた。

 和やかな会談は冷え切ったモノへと変わり、ナギサは冷たい口調で。

 

 

「……ノックもなしに入ってくるのは、無礼ではありませんか?」

 

「も、申し訳ございませんナギサ様。セイア様から、その、至急伝えるようにとのことでしたので……」

 

「……セイアさんから?」

 

 

 訝しみながらも、ナギサは視線をアツコへと送る。その意図を察したアツコは頷き、ナギサはそれを見て。

 

 

「セイアさんはなんて?」

 

「は、はい! パテル分派の連中は、トリニティの戦力を総動員して抑えておくから後は頼んだ、と……」

 

「────」

 

 

 言葉を失った。

 ナギサは肩を震わせて、なんとか笑顔を浮かべているがそれは引き攣ったそれだ。

 

 常に優雅たれ。

 それがナギサの最後の理性の砦のようであったようだが、最後の一言で儚くも崩れ去る事となる。

 

 

「すまない、バレた、と仰っていました……」

 

「────は?」

 

 

 

 

 

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「本当に、本当に、申し訳ございませんでした!!」

 

 

 開口一番。

 アリウスの生徒会室に戻ってきたワタシ達は、トリニティ生徒の一人から謝罪の言葉を投げられる。

 

 彼女が誰なのか、ワタシにはわからないけれど、あの人がアッちゃんと会談をしていたトリニティの偉い人であることは想像ができた。

 現に。

 

 

「ナギサさん、大丈夫だよ。殿下も楽しそうだったし。それに、謝るのはこちらも一緒だから……」

 

 

 アッちゃんが困ったように、言うのをワタシは聞いていた。

 なるほど。あの人はナギサさんというのか。やはり、トリニティの偉い人のようだ。道理で何か気品があると思った。アッちゃんとはまた違った、気品のようなものを感じる。洗練されている、というべきか。一挙手一投足、その佇まいから、その所作まで、格式の高い振る舞いである事は見て取れた。

 

 対して、ワタシはナギサさんに応じるほど、余裕がなかった。

 本当にごめんなさい。後で謝るから、今だけは許して欲しい。

 

 

 眼が離せない理由は、ワタシの目の前に居る。

 

 

 アレから、ミレニアムの体操服から、ミレニアムで指定されている制服に着替えて、アリウスの生徒会室へと来ていた。

 いつも座っている玉座ではなく、ワタシはとある存在と相対していた。

 手を伸ばせば届く距離で。眼を離すことなく、真正面から堂々と。ワタシの視線は釘付けになっている。

 

 

 うっかり、手が滑って衝動的にならないように、ワタシは両手を胸の下で組んでいる。

 きっと、“彼女”も同じ事を思っているのだろう。“彼女”は自身の後ろに手を回して組んでいた。

 

 言ってしまえば、拘束具のようなもの。

 不用意に手を伸ばさないように、ワタシ達は自分自身で己を戒める。

 

 これ以上、事を大きくしないように。

 でも我慢も限界に近い。ワタシの笑みは益々深まり、目の前の“彼女”の笑みも扇情的な淫靡なそれ。

 

 高鳴る鼓動は絶え間なく、火照る身体を吐き出すように、ワタシは辛うじて残っている理性を総動員させて口を開く。

 

 

「其方が聖園ミカだったとはな?」

 

「うん、そうだよ。天上院オウヒちゃん、でいいんだよね?」

 

 

 “彼女”もしくは“あの娘”────聖園ミカの言葉にワタシは頷いた。

 

 知っている。

 知っているとも。

 ワタシは、彼女を知っている。

 忘れるものか、忘れてなるものか、忘れることなんて出来る筈もない。

 

 変わらない、あの時と、何一つ変わらない。

 ワタシの世界に、色彩をくれた、闘争の喜びを教えてくれた彼女と、何一つ変わらない。

 

 

「如何にも、余が天上院である。やっと会えたな、我が運命よ」

 

「……運命とか。大袈裟すぎないかな?」

 

「ククッ、大袈裟なものか。余は待ったぞ、再び其方と見えるこのときを。幾日を迎えようと、其方を忘れる事はなかった」

 

「……ふーん、そうなんだ。私はそうでもなかったけどなー」

 

 

 何てつれないことを言うのだろう。

 ワタシだけなのだろうか、貴女ともう一度戦いたいと思っていたのはワタシだけなのだろうか。

 

 だとしたら、もう戦えない。

 闘争とはお互いの同意なくして行ない得ない行為だ。ワタシの身勝手で、彼女を巻き込むわけにはいかない。

 それは残念だ。非常に残念な事だ。

 

 

「そう言ってくれるな。闘争とは独りでは出来ぬもの。どうか余と今一度、(おど)ってはくれまいか、我が運命よ?」

 

「────」

 

 

 彼女が何を思ったのかわからない。

 でも、彼女の笑みが益々深まっていく。

 

 その上で、どこか不満そうな口調で。

 

 

「それよりも、なにその喋り方? そんなに可愛くなかったっけ?」

 

「余の敬愛する友に、勧められてな。以来、この口調である」

 

「……それって、ゲヘナの?」

 

「然り。アーちゃんとムーちゃんだ」

 

 

 へぇ、と呟くと、笑みを浮かべたまま。

 笑うという行為は、本来攻撃的なものであることを思い出させる表情のまま、彼女は口を開く。

 

 

「やっぱり、まだ付き合いがあるんだ」

 

「当然であろう。其方が余に闘争(じんせい)の喜びを教えた存在であるのなら、あの二人から余は人間(ヒト)の素晴らしさを学んだ」

 

 

 今のワタシがあるのは、彼女と、アーちゃんとムーちゃんのおかげとも言える。

 彼女達に出会わなかったら、ワタシはどういった存在になっていたかなんて、想像も出来ない。それほどまでに、ワタシの中で彼女達は大きな存在でもあった。

 

 

 だからこそ、聖園ミカが戦いたくない、というのなら諦めるしかない。

 とても残念な事だけど、彼女が嫌がることを、ワタシはしたくない。それもまた、ワタシの本心だ。

 

 諦めかけていた、そんなワタシの心を見透かすように。

 

 

「────────」

 

 

 

 まるで誘うように。

 彼女は戦意を迸らせながら、ワタシに向けてきてくれた。

 

 参った。

 諦めていたのに。しょうがない、と思っていたのに。

 そんな眼で視られちゃうと。 

 

 

「何と言う戦意だ。そんな眼で視られてしまうと、拒否など出来る筈もない」

 

「断るなんて許さないよ。だって────今までの私を破壊(こわ)したのは貴女だもん」

 

「異なことを。それをいうのなら────これまでの余を創造(つくった)のは其方だろうに」

 

 

 ククッ、と堪えきれないように笑みを洩らすワタシに対して。

 ふふっ、と彼女は鈴がなったように綺麗に可愛らしく笑う。

 

 それから、彼女は一言だけ。

 

 

「戦闘狂。ううん、この()()()

 

「何故二回も言うのか。まぁ、良い。では往くぞ、有り体で言えば、表へ出ろと言うやつだ」

 

「上等」

 

 

 もはや堪らない。

 そういうかのようにワタシ達は、示し合わせたかのように出て行こうとするも。

 

 

「ミカ?」

 

「殿下?」

 

 

 冷たい口調。

 思わず、肩を震わせる。まるで頭から冷水をかけられたかのように、茹った頭がクリアとなり、冷静さを取り戻していった。

 

 見ると彼女も同じようで、恐る恐るといった調子で、ワタシ達は振り返る。

 そこには────鬼が立っていた。もっと言うと、ナギサさんとミサキが仁王立ちしていた。

 

 二人は冷たい視線をワタシ達に向けたまま。

 

 

「お二人共、どちらに?」

 

「まさか、戦いに行くわけじゃないよね?」

 

「そんなわけありませんよ、ミサキさん。そこまで考えなしじゃありません」

 

「そうだよね。大事な会談中に、アリウスとトリニティの二校の関係が決まるかもしれないこの状況で、トップの二人が戦うわけがないよね」

 

「そうですとも。ですよね? ミカさん、天上院さん?」

 

 

 冷や汗が溢れる。

 思考が定まらない。

 

 そうだよね、そうだったよね。

 今じゃないよね、戦うのは。流石にね、今じゃないよね。うん、わかってた。わかってたよ。テンションが上がってどうにかなっていた。

 

 聖園ミカもしどろもどろになりながら。

 

 

「や、やだなぁ、ナギちゃん。戦うなんて野蛮じゃん。そんなことしないよ、ね?」

 

「う、うむ。そうだとも。余達はそんなことしない余。天上院、嘘つかない。本当だ余」

 

 

 何という必死な弁明だろうか。

 我ながら、そこまで怒られたくないのかと思うけど、そこまで怒られたくないのです。

 

 ワタシ達は自己弁護に必死だ。

 アッちゃんは笑って助けてくれないし、サオリといえば────。

 

 

「…………」

 

 

 ジッ、と。

 聖園ミカから視線を離さない。

 

 彼女にしては珍しい光景だった。

 どこか面白くなさそうに、不満そうに、グッと言いたい事を堪えているようにも見える。

 

 サオリの本音を聞けるかもしれない。

 そう思ったワタシは、ミサキからサオリへと意識を向けて。

 

 

「サオリ、何か言いたい事でもあるのか?」

 

 

 対してサオリは、面を伏せ慎むように。

 

 

「いいえ、何もございません」

 

 

 ワタシと視線すら合わせてくれない。

 手を伸ばしかけるも、直ぐに引っ込める。

 

 ワタシはあの年増とは違う。そう思いたいのだけど、本音を語ってくれないサオリを視て、その疑念は深まっていく。

 本人に聞けば言い。年増とワタシは同じなのか、と。年増は恐怖で縛り、ワタシは武力で封殺しているのではないか、と。

 

 でも臆病なワタシはそれ以上言葉を紡ぐ事はなく。

 

 

「────で、あるか」

 

 

 

 

 

 

 





 ~おまけ~

 ナギサ「では交換留学の件ですが、そちらはどなたをトリニティへ?」

 アツコ「それがまだ決まってなくて……」

 オウヒ「あやつでいいだろう」

 ミカ「うん。あの娘で良いと思うな。私達の間に入るくらいの娘だし」

 オウヒ「当然であろう。あやつの根性は、余も眼を見張るモノがある」

 ミサキ「それって、まさか?」

 オウヒ「うむ、その者は────」



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