こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

 アル「今日はスーパームーンらしいわね」
 オウヒ「本当!? ちょっと見て来るね!」>望遠鏡を担いで
 ムツキ「転ばないでねヒーちゃん」
 オウヒ「うん、わかったよ!」

 オウヒ「アーちゃん、ムーちゃん!」
 ムツキ「あっ、帰ってきた」
 アル「どうだった、月はよく見えた?」
 オウヒ「うん! クーデターがよく見えたよ!」
 アル「クーデ……え、なんて?」
 ムツキ「多分、月では大変な事が起きているみたいだね~」
 オウヒ「ぁ…………っ!(クレーターといい間違えた事に気付く)」

 


第9話 サオリにとっての殿下

 

 アレから何の問題もなく、つつがなく、アリウスとトリニティの会談は終わりを告げた。

 

 いいや、訂正が一つ。

 問題はあった。

 

 その元凶たるは、『アリウスの王』たる天上院オウヒ。そして、パテル分派の首長でもある聖園ミカにあった。

 長年、心残りでもあった人物の再会は、人を狂わせるには充分であったらしい。眼を合わせる度に無言になったと思ったら、その数十分後にはお互い戦意をぶつけ合う。それを何度も繰り返して、ナギサとミサキに叱られる。それを何度も何度も繰り返して、会談は無事終わりを迎える事となった。

 

 帰り際も両者の態度は変わらない。

 まるで再戦を約束する戦士のように、別れを惜しむ恋人のように、再び会えることを確信する宿命のように、オウヒとミカはお互いから眼を離すことはなかった。

 

 

 

 アツコはそれを見て、珍しいと内心感じていた。

 オウヒとは苦楽を共にした。彼女の全てがわかる、なんて思い上がるつもりはアツコにはない。だが、会談中のオウヒはアツコの知らない一面を覗かせていた。

 

 天上院オウヒは、戦闘行為に悦楽を見出しているのはアツコも理解している。

 だが、あの場での彼女の反応は、タガが外れていた。抑えが利かないと言わんばかりに、制止の声をかけてやっと停止する。それを数度繰り返す。考えなしに行動する事はあるものの、あの場でのオウヒは気分が異様に高揚している様子であった。

 

 それだけ、聖園ミカと再会出来たことが嬉しいのだろう、とアツコは結論する。

 それは、アツコにとっても喜ばしいことだった。アツコから見たオウヒは、どうにも我慢しているように見えていたから。

 

 いいや、我慢しているとは少し違う。

 どこかアリウスの皆に気を使っているような。壊れ物を扱うように、丁重で慎重に物事を進めていたように、アツコは感じていた。

 

 それは嬉しい事だ。

 それだけ、自分達が大事に思われている証左に他ならないのだから。

 だけどそれとこれとは違う。大事にされているのは嬉しい。でも、もっと我儘になってくれてもいいのに、とアツコは同時に思っていた。

 

 そして、現在。

 ミカのおかげで、オウヒは自分の感情をあるがまま、思うがまま爆発させてくれていた。

 

 そういう意味では、ミカには感謝しなければならないのかもしれない。

 それを自分が出来なかったという意味では、少しばかりの妬みの火が燻ってしまうのは、仕方ないと割り切るしかない。

 

 

 だが、どうやら────。

 

 

「……………」

 

 

 サオリはどうやら違ったようだ。

 彼女は、何か深く考え込むように、アリウスの生徒会室の中心に設置されている円卓の席に座っていた。

 

 オウヒ以上に付き合いのある人物だ。

 アツコにとって、サオリが今何を考えているのか、それこそ手に取るように分かる。

 

 だが、敢えてアツコは問いを投げた。

 

 

「どうしたの、サッちゃん?」

 

 

 その声は優しく、慈愛に満ちたモノ。

 

 現在、生徒会室にはアツコとサオリの姿しかいない。だからこそ、二人しかいないからこそ話せることもある。

 

 サオリは見上げる。

 その視線の先にはアツコの姿があり、少しだけ目を丸くさせている事から、アツコの存在に今気付いたようでもあった。それほどまで、サオリは深く深く思考の海に潜っていたようだ。

 

 アツコの視線から逃げるように、眼を逸らして言い淀むように。

 

 

「……いいや、なんでも────」

 

「────サッちゃん」

 

 

 しかし、アツコは逃がさない。

 遮るように言うと、続けて優しい口調のまま。

 

 

「大丈夫、私も同じ気持ちだから」

 

「……………っ」

 

 

 驚いたようにアツコを見上げて、サオリは一度は唇を固く閉ざすも、意を決して静かにポツリポツリと紡ぎだしていく。

 

 

「私は────いいや、私達は、殿下に救われた」

 

「うん」

 

「明日に希望を見出せなかった私達に、あの方は光を示してくれた。いいや、あの方こそ私の光になった。あの時から、マダムが打ち倒されたあの時から」

 

「そうだね……」

 

「私はあの方のためなら命も差し出す。あの方の駒であり、剣であり、盾であろうとした。それが私に出来る、あの方へ返せる唯一のモノだと思ったから」

 

 

 だけど、とサオリは言葉を区切り。

 

 

「あの場において、私は嫉妬していた」

 

「それって、ミカさんに?」

 

「あぁ。浅ましくも、醜くて、聖園ミカが妬ましいと思った」

 

 

 サオリは奥歯を噛み締める。

 自分自身に苛立ちを募らせながら続けて。

 

 

「あのように、楽しそうにされている殿下は初めて見た。だがそれが向けられているのは、私達に対してではない。私達以外の存在である、聖園ミカに対してだ。その事実に私は……っ!」

 

「嫉妬、したんだね」

 

 

 アツコの言葉に、サオリは力なく頷いた。

 

 自身を救ってくれた者に、サオリは忠誠を誓っていた筈だ。彼女のためなら、命を差し出すつもりであった。それは今も変わらない。オウヒが死ねといったのなら、喜んで首を落す。それほどまでの忠誠心を抱いている。

 

 なのにも関わらず、主の見たことがない顔を見て、その感情を向けられているのが自分ではないと思うと、いとも簡単に、サオリの心は制御不能となった。

 これではまるで────。

 

 そこまで考えて、サオリは浅はかな己を自嘲するように、一笑し自分の手のひらを見て。

 

 

「何が殿下の駒なんだ。駒は感情を持たない、主の命令に忠実であるべきだろう。私はなんて、浅ましい女なんだ……」

 

 

 軽蔑されるのを覚悟していた。

 殿下のためなら命すら差し出す、といっていた者とは思えない思考。所詮、錠前サオリはその程度の女でしかないと、軽蔑されるべきだとサオリ自身結論付けていた。

 

 だが、アツコからの言葉はそれとはまた違っていて。

 

 

「そうかな?」

 

「────え?」

 

 

 思っていた言葉とは違い困惑するサオリを余所に、首を傾げてアツコは不思議そうな声で。

 

 

「それって普通だと思うよ」

 

「そう、なのか?」

 

「うん。大切な人が自分には見せた事がない一面を、他人に見せたんだもん。嫉妬だってするよ」

 

「それはアツコもか?」

 

「勿論。ミカさん、いいなーって見てた」

 

 

 ポカンと見つめてくるサオリの顔が面白かったのか、アツコはクスクスと鈴のなったような可愛らしい声で笑って。

 

 

「でもね、考えてみてサッちゃん。確かに、殿下は私達にあんな楽しそうな顔を向けてきてくれることなかったけど、アレって戦ってみたいとかそういう類の顔だったでしょ?」

 

 

 サオリは頷く。

 確かに、アツコの言うとおりだ。オウヒの笑みは、戦闘に対する高揚が抑えきれずに生じた笑み。

 

 オウヒと事を構える事など、サオリにとってはありえない行為。

 あっても、それは訓練によるもの。オウヒのいう“闘争”とはかけ離れたものであり、実戦とは程遠い。

 

 それを踏まえて、アツコは続けて言う。

 

 

「逆を言えばさ、殿下は私達と戦いたくないって思ってくれているから、あんな顔を見せてくれなかったってことにならない?」

 

「それは……」

 

 

 そうかもしれない。

 でも、違うかもしれない。そのために、否定するための材料を探すも、サオリには考え付かなかった。

 

 言い淀むサオリに対して、アツコは、ふふっ、と笑みを漏らして。

 

 

「殿下はね、私達が思っている以上に、私達のことを大事にしてくれているよ」

 

「殿下が、私達を?」

 

「殿下って急にバイトを始めたでしょ? 何でだと思う?」

 

 

 わからない。

 サオリも、オウヒがバイトを始めたことは知っていた。そのために、アリウス総出でバイト先へと赴き、協力しようとしたが「止めよ、本当に止めよ。来ても良いが全員は止めよ」と真面目に止められた事を思い出す。

 

 何のためになんて、考えもしなかった。

 きっと、オウヒには自分では思いもしない深い考えがあるのだと、サオリは今の今まで思っていたから。

 

 考えるサオリに対して、アツコは嬉しそうに。

 

 

「殿下はね、アリウスの皆にメロンを食べてもらいたいから、バイトを始めたんだって」

 

「それは、誰から?」

 

「殿下から。何度も聞いてたらね、渋々答えてくれたの」

 

 

 皆にはまだ内緒だよ、というアツコの言葉が耳に入るも、それに答える余裕はサオリにはなかった。

 

 視界が滲む。

 浅ましい自分が嫌になる。でもそれ以上に、オウヒが自分が思っている以上にアリウスを大切に思ってくれていた事実に、サオリは感銘していた。

 

 搾り出すように、そうか、と呟いて。

 

 

「殿下が、私達にメロンを……」

 

「どう、サッちゃん。感動した?」

 

「あぁ、家宝にしよう……」

 

「そこは食べてあげてよ。食べ物なんだから……」

 

 

 斜め上の返答に、アツコは苦笑を浮かべて、直ぐに微笑をサオリに向けて。

 

 

「でもわかったでしょ。殿下は私達を大切にしてくれているんだよ。だからサッちゃんも、我慢しないで自分の気持ちを伝えても言いと思うんだ」

 

「しかし私は、殿下に忠誠を誓って────」

 

「それはそれ、これはこれだよ。殿下がどうした、って聞いてくれたときサッちゃんは何でもないって言ったけど、あの時の殿下悲しそうだったよ?」

 

 

 素直に嫉妬した、って言えばよかったのに、とアツコは言うとサオリに向かって。

 

 

「サッちゃんは殿下と何がしたいの?」

 

「私が殿下に求めるなんて……」

 

「いいじゃん。言うのはタダだよ。それに、ここには私しかいないし」

 

「私、は……」

 

 

 願望はあった。

 しかし、サオリにとってそれはあまりにも身の程知らずなものであり、身に余る願望でしかなかった。

 

 でも出来る事なら、我儘を一度だけ叶えられるのなら、サオリはやりたい事が一つだけあった。

 それは────。

 

 

「───────」

 

 

 それを言葉にすると、アツコは少しだけ驚いて何度も頷き肯定すると。

 

 

「良いと思うよ。素敵だよ、サッちゃん」

 

「そう、だろうか……」

 

「うん。むしろ私は殿下にやってほしいかな。それを殿下にやりたいってなるのは、サッちゃんらしいけど」

 

「うぅ……!」

 

「サッちゃん、顔真っ赤。ふふっ、可愛いね?」

 

「アツコ!」

 

「ごめんごめん」

 

 

 あはは、と笑みを浮かべて謝るが、本気ではないことはサオリには分かっていた。

 

 秘めていたい願望。

 一生、口にする事がないと思っていたモノを口にした。

 思っていたよりも、口にする事が出来た事実に、サオリは自分自身驚いていた。

 

 叶わないかもしれない、むしろ、叶わない事を覚悟している。

 サオリにとって、自身が抱いていた願望はそこまで重要な事ではなかった。問題なのは、それを口に出来た事実、それこそがサオリにとって重要な事であった。

 

 嘘偽りなく。

 自身の気持ちを素直に口にする。

 

 殿下が悲しそうだった、とアツコは言った。

 であるのなら、オウヒはもしかして、もっと自分の意見を口にして欲しいのではなかっただろうか、とサオリは思う。

 

 違うかもしれない。

 でも、そうだったのなら、オウヒを悲しませたことに他ならない。

 

 それはあってはならない。

 サオリにとって、それだけはあってはならないことだ。

 

 ならばどうするか、など決まっている。

 自分自身の考えを口に出来るようにする。サオリに出来る事があるとすれば、それしかなかった。

 

 違ったのなら、それまで。

 オウヒが求めることが、違うのであればそのときは腹を切って詫びれば良い。それだけのことだ、とサオリは結論付けると。

 

 

「アツコ」

 

「なに?」

 

「ありがとう」

 

 

 気付かせてくれた幼馴染に、サオリは礼を述べる。

 対してアツコは、ニコッ、と綺麗な満面の笑みで。

 

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 





 △サオリのやりたいこと
 オウヒとやってみたいこと。サオリがやる側で、オウヒがされる側。
 それを聞いたアツコは、オウヒにされてみたいと思った模様。
 頑張れサオリ。しっかり言わないと、おたくの戦闘卿は気付かないぞ。
 
 
 
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