こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

 オウヒ「余、暇である」
 リオ「そう」
 オウヒ「暇なので、お嬢様言葉でしか会話しちゃダメって遊びでもせぬか?」
 リオ「なんて生産性のない遊びなの────よろしくてよ」
 


第10話 仲良しティーパーティー

 

 

 アリウスとの会談を終えた、桐藤ナギサと聖園ミカはトリニティへと戻っていた。

 彼女達が居るのは、トリニティのティーパーティ談話室。ナギサは座り書類仕事を行っており、ミカといえば興奮気味に自分の世界に入り込んでいた。

 

 何をしにナギサは戻ってきたのかといえば、先ほど会合をしていたアリウスとの議事録をまとめ、今後の方針を定めるためである。

 

 

 ナギサは決して、遊びに行ったわけではない。

 ミカの推薦があったとはいえ、アリウス分校がトリニティに益をもたらす学校であると分からない以上、見定める方法としては自分の眼で現状を把握するしかなかった。

 そのために、ナギサはトリニティから足を運び、アリウス自治区の現状を把握し、在籍する生徒がどのような人間性なのかを観察する必要がある。

 

 それも、これも。

 トリニティを預かるティーパーティーとしての責任感から来るもの。

 学校を率いる身として、ナギサはその重責を背負わなければならない立場にある。もし、アリウスが基準に達していなければ、現在ナギサが注力している条約────エデン条約にアリウスを組み込むつもりはなかった。

 

 非情に見えるかもしれないが、全てはトリニティのため。

 同情や憐憫で人を動かす事は出来る筈もない。ナギサがトリニティの生徒会である以上、優先順位は決まっており、天秤がトリニティに傾くのは当然の事だ。

 

 

 とはいえ、ナギサも人の心がないわけではない。

 本来の彼女は他者を慈しむ健全な感情があり、困っている者には手を差し伸べられる人格の持ち主だ。

 

 アリウスが苦労していたことは、ミカから話は聞いているし、出来る事なら支援もしたい、と思うのは彼女の本音でもある。

 

 

 そういう意味では、内心ナギサは安堵していた。

 自らの目で確かめたアリウスの現状に問題はない。治安も良く、生徒達の倫理観が破綻しているわけでもない。傭兵として要請されれば各地へ派遣しているため、戦闘技術も高く戦力としても申し分がない。ゲヘナ、もしくは、トリニティへの抑止力として大いに期待が出来る。

 

 大義名分は得た。

 エデン条約における同盟学園として、物資などの支援をすることがこれで可能となったといえよう。

 

 

 そのためには、更に段階を進めなければならない。

 エデン条約機構のもう一つの段階。つまりは、ゲヘナとの会談。そのためにも、アリウスとの議事録を早急に纏め上げて、ゲヘナとの会談に備えなければならないのだが────。

 

 

「聞いてよナギちゃん~」

 

 

 あまりにも蕩けた笑顔。

 にへへ、と緩みきった表情で、ミカはナギサに話しかけた。その声色は能天気なそれ。ナギサの苦悩などお構いなしに、己の感じたままミカは振舞っていた。

 

 ナギサにとって、それは初めてではない。

 ミカとは長い付き合い。それこそ、幼馴染といえる関係性でもある。ともすれば、ミカの性格など手に取るように理解しており、今ミカが何を思っているのかなど聞かずとも分かる。

 

 しかし、逆を言えば、だ。

 ミカにも同じ事が言えるという事。ナギサが現在、何に対して注力しているのか、何に頭を悩ませているのか、ナギサと同じ立場(ティーパーティー)であれば分かる筈だ。

 それなのに、気遣う様子がないミカの姿に、ナギサは若干の苛立ちを禁じえない。

 

 つまるところ、空気を読め、という心境。

 ナギサは作業していた手を止めて、攻撃的な満面の笑みを張り付かせて。

 

 

「その前に、ミカさん。少しは手伝ってくれると助かるのですが?」

 

「私が話した後でね」

 

「なるほど。つまり、手伝う気はない、と?」

 

 

 あまりにも冷たい声色。他人が聞けば、ナギサが苛立っている事は一目瞭然でもあった。

 ミカにも人の心はある。むしろ、他人とコミニュニケーションを取ることを好んでいるミカであれば空気を読み、ナギサが多忙である事を理解し、自ずと何か手伝える事はないか尋ねてくる────筈だった。

 

 そう、その前提は、()()()()()であればの話。

 

 

「それよりも聞いてよナギちゃん~!!」

 

 

 悲しいかな。

 現在のミカは()()()()()とは程遠い。分かりやすくいうと、誰が見ても現在のミカは浮かれている。浮かれすぎていると言っても過言ではない。

 

 最早、今の彼女は人の言葉を話し、人の心がわからないモンスター。

 どうして、彼女がそこまで変貌を遂げたのかと言うと────。

 

 

「────私のこと、覚えてくれていたよ~!!」

 

 

 わーい、と両手を広げて、喜びを身体いっぱいに表現する。

 ナギサとて女の子。ミカの気持ちはわかる。長年想っていた人物が、自分のことを覚えていてくれたのだ。ミカじゃなくとも、浮かれてしまうのはしょうがないこと。

 

 普段であれば気にも留めず、ミカが嬉しそうで良かった、と見守るナギサであるが、今はそんな余裕がない。

 

 

 ともすれば仕方ない。ナギサはため息を吐いて、書類仕事を一旦中断する事にした。

 集中しようにも、それを許さない現状。それを打破する術を持たないナギサにとって、今は諦めてミカの話を聞くしかない。

 

 

「それは、良かったですね」

 

「それに、何て言ったと思う? “アイツ”、私のことを、何て言ったと思う??」

 

「……なんて言ったのですか?」

 

 

 我ながらなんて白々しい事か。

 あの場にはナギサもいた。ミカがいう“アイツ”────天上院オウヒが何を言ったかなんて、ナギサの耳に入っている。

 

 加えて、この話をするのは初めてではない。

 アリウスからトリニティへ帰ってくる間に、何回も何十回も、数える事すらバカバカしくなるほど、つまりはたくさんいっぱい、この話をミカから聞いている。

 次に来る言葉も、ナギサは一語一句暗記しており────。

 

 

「我が運命、だってー!! 運命とか、もう嫌だな~。私のこと、どんだけ好きなのって話じゃない~?」

 

「はぁ」

 

 

 言葉とは裏腹に、ミカは自身の両頬に手を添えて、いやんいやんと体をくねらせる。

 そんな奇行に走る幼馴染を見て、呆れた口調で。

 

 

「好きとは違うような気もしますが。アレは……そう、絶好の獲物を見つけた肉食獣のような眼、だったかと……」

 

「えっ、お似合いって言った?」

 

「言ってませんよ?」

 

 

 どういう耳をしているのか。

 今のミカは何も通じない無敵状態であり、こちらの言葉を意に介さない最強状態でもあった。つまりは勝てない。どうあがいても、今のミカを止める事なんて誰にも出来ない。

 

 それを理解しながら、ナギサは口を開く。

 せめて一矢報いるために、矢を番え弦にかけ、狙いを定めて。

 

 

「……ミカさんが嬉しそうで何よりです」

 

「うん、もう幸せって感じ。悩んでいたのがバカみたい」

 

「ならば、どうしてあのような嘘を?」

 

「嘘って?」

 

 

 ピタッ、とミカの動きが止まりナギサの方へと意識を向ける。

 千載一遇のチャンス。滅多にない反撃の機会を得た、と言わんばかりにナギサは追撃を開始する。

 

 

「自分で言ってましたよね。我が運命は大袈裟、だとか」

 

「だって、大袈裟だったし……」

 

「それに、忘れた事がなかったといわれたときも、自分はそうでもなかったと言ってましたよね?」

 

「それは、その……」

 

 

 声が小さくなっていく。

 まるで、空気の抜けた風船のように、見る見るうちにミカがしぼんで行くのを幻視する。

 

 ナギサはトドメの一撃と言わんばかりに。

 

 

「素直に、私も同じ気持ちだったと言うべきだったのでは?」

 

「だって、だってぇ……!」

 

 

 泣くのを我慢するような情けなく震える声でミカは続けて。

 

 

「緊張して、上手く、お話が出来ないんだもん!!」

 

「なるほど」

 

 

 そういうと、うんうん、と何度かナギサは頷く。

 そして、自身の前に置かれた紅茶が入っているティーカップのハンドルを持ち、優雅にカップのふちを口へと運び、紅茶を摂った。匂い、味、風味を楽しみ、ソーサーの上にカップを置いて。

 

 

「────乙女ですか」

 

「────乙女なんだけど!?」

 

 

 間髪いれず、心外だと言わんばかりにミカが声を上げて、言い訳じみた自己弁護を次々と口から出していく。

 「あそこまで綺麗になっているとか想定外」だとか「目と目が合う瞬間闘争を求めていた」だとか「そもそも覚えてくれていたのが嬉しい」だとか、次から次へとミカの口から雪崩の如く言葉が飛び出ていく。

 

 とりあえずは、これでよし、とナギサは敢えて放置する。

 静かではないものの、妙な惚気を言われるよりはマシであると、ナギサは判断をし中断していた書類仕事に取り掛かろうとするも。

 

 

「失礼するよ」

 

 

 ティーパーティ談話室に入っていた一人の人物に意識が向けられ、手を伸ばしていた手を止めた。

 ナギサはその人物に労いの言葉を送る。

 

 

「お疲れ様でした、セイアさん。パテル分派の抑制、ありがとうございます」

 

「構わないよ。今の私に出来ることといえば、これくらいしかなかったからね。それに、連中は大人しいものだったさ」

 

「そうなのですか?」

 

「あぁ。さすがミカが纏める分派だ。彼女の命令なしに動くような、命知らずはいなかったようだ。隊列を組まれて、いつでも動ける準備はされたけどね」

 

 

 そういうと、入ってきた人物────百合園セイアは奇怪なモノを見るような目でミカを見て。

 

 

「アレは、なんだろうか?」

 

「お気になさらず。ミカさんも乙女だった、ということです」

 

「ふむ、哲学かな?」

 

 

 それはそうと、と言葉を区切りセイアは続けて。

 

 

「アリウスとの会合はどうだった?」

 

「有意義なものでした。これならば、彼女達をエデン条約に関わらせることが出来ます」

 

「それは重畳。天上のア────いいや、天上院オウヒとは会えたのかい?」

 

「えぇ。その辺りは少々問題はありましたが、直にお会いしました」

 

「どんな人間だった?」

 

 

 セイアの問いに、思わずナギサは戸惑いを隠せなかった。

 ミカほどではないが、セイアとは長い付き合いだ。浮世離れしているセイアが、個人を気にかける、ましてや他校の生徒であるオウヒを気にかけるとは思いもしなかったから。

 

 それに追求することはない。

 きっと、知的好奇心であろう、とナギサは判断すると自身が感じたモノをそのまま口にした。

 

 

「不思議な方でした」

 

「不思議とは?」

 

「口調や態度は暴君のそれなのですが、アリウスへの態度や方針は真逆でした。彼女の人となりを初見で把握するのは困難でしょう」

 

 

 ナギサは感じたまま、オウヒを初めて見た所感を語り続けて。

 

 

「しかし、初めて見ました」

 

「何をかな?」

 

「ミカさんと闘い、心を折られず、あろことか再戦を望む方を見たのは……」

 

「意外といると思うけどね。ツルギ委員長も、そういう類の人間のようだが?」

 

「……そういえばそうでしたね」

 

 

 正義実現委員会の『歩く戦略兵器』と称される生徒────剣先ツルギを思い出しながら、胃痛に悩む人物のように顔を渋いものに変えてナギサは口を開く。

 

 

「闘い好きと噂には聞いてましたが、天上院さんがアレほどとは思いませんでした。『戦闘卿』と呼ばれるのも納得です」

 

「闘い好きとは、また物騒な……」

 

「えぇ。しかし、大変楽しそうでしたよ彼女」

 

 

 だからこそ、とナギサは言葉を区切り。

 

 

「────危ういですね、アリウスは」

 

「どうしてそう思った?」

 

「今のアリウスは天上院さんの下、一枚岩で団結しています」

 

「トリニティとは違うね」

 

「えぇ、団結力に乏しい身として耳が痛いお話です」

 

 

 ため息を吐いて、策謀渦巻くトリニティの長として、呆れた口調でナギサは応じた。

 だが直ぐに、ですが、と言葉を洩らして。

 

 

「それはそれで利点があります」

 

「言わんとしていることはわかるよ。要は、指揮系統の話だろ?」

 

「はい。例えば、私が倒れることがあろうと、ミカさんやセイアさんに指揮を委ねれば最悪混乱は起きません。最終判断を下せる人物多ければ、平常であれば足を引っ張る事もありますが、非常事態に臨機応変に対応できる強みがある」

 

「アリウスではそうではない、と?」

 

「……恐らくですが、天上院さんになにかあれば、アリウスは簡単に瓦解することでしょう」

 

 

 ナギサは、恐らく、という曖昧な表現をしているが、その言葉には確信があった。

 そう言い切るほどの、何かを、アリウスに見出したのだろう。

 

 冷静な口調で、尚且つ、公平な視座で以て、ナギサはアリウスを語る。

 

 

「今のアリウスは天上院さんという光に導かれ、迷うことなく邁進しています。その光が、失われればどうなるか。想像に難くないでしょう」

 

「それを天上院は理解していると思うかい?」

 

「恐らく。だからこそご自分ではなく、アツコさんを生徒会長として据えているのでしょう。もし自分に何かあったときのために」

 

 

 ふむ、とこれまでのナギサの考察を聞いてセイアは感想を漏らした。

 

 

「意外と考えているようだ、天上院は」

 

「えぇ。しかし、意外ですね」

 

「何がかな?」

 

「セイアさんがそこまで気にするとは思いませんでしたから。そういえば、天上院さんを一方的に知っている、と以前仰っていましたね?」

 

 

 首を傾げて、単純な興味本位への問いかけ。

 ナギサは本当に不思議に思ったから質問した程度の認識なのだろう。それ以上の意図はない。

 

 対して、セイアは迷っていた。

 

 どうして、自分が、天上院オウヒを気にかけるのか。それを口にしていいものなのか、と。

 別に、オウヒを気になったからという可愛らしいものじゃない。単純に────彼女が脅威となり得る未来を視てしまったからに他ならない。

 

 以前、彼女の過去を視ることもあった。

 正体不明の集合意識と共に、彼女がキヴォトスに来訪したばかりの状況を、観測する事があった。

 

 そして、今。

 再び観測した光景は、凄惨なモノであった。

 『黄金の終焉』と呼ばれた彼女は、恐怖に染まった死の神と、異形の躯を伴って、キヴォトスにて君臨していた。

 

 その様子は、まるで機械のよう。

 無感情に、無表情に、無機質であり、無感動。人の形を為した、ナニかのように、セイアには見えていた。

 きっと、極限まで感情を削ぎ落とした人間は、あのような有様になるのだろう。

 

 それほどまでに、セイアから視た黄金の終焉(ソレ)は不気味なモノであった。

 

 その見た目は、明らかに天上院オウヒ。

 故に、セイアは情報を集めていた。オウヒがどのような人間性なのか、趣味嗜好はなんなのか、一体何者なのか、おいそれと外出できない身であるからこそ、ナギサの眼から見た天上院オウヒが何者なのか尋ねる事とした。

 

 

 しかし、セイアが想像していたモノとは違った。

 無感情な希薄なそれとも、機械のような合理性を伴った人格とも違う。

 闘争の気配があると嗤い、前線へと赴く。その姿は無感情とは程遠いものであり、観測した『黄金の終焉』と呼ばれる者とは程遠い反応であった。

 

 

 

 ──さて、どうしたものか。

 ──ナギサに伝えていいものか。

 ──無駄に不安を煽っても仕方がない。

 ──ここは、様子を見るしかない、か。

 

 

 そう結論を付けたセイアは、ナギサに向かって首を横に振って。

 

 

「いいや、単純な興味本位だよ。アリウスを治めた人物がどのような者か、少しだけ気になってね」

 

 

 そういうと、セイアは視線を未だに自己弁護を繰り返すミカに向かって。

 

 

「ミカ、君からもよければ教えてくれないか?」

 

「……あれ、セイアちゃん? いつからいたの?」

 

「つい先ほど来たばかりだ。それよりも、天上院のことを────」

 

「セイアさん、待っ────!」

 

 

 意図をやっと察したナギサはセイアに制止の声をかける。

 だがそれは遅かった。ミカはニッコリと満面の笑みを浮かべて、イキイキとした声色で。

 

 

「うん、セイアちゃんにも教えてあげるねっ! アイツと私の出会いはね────」

 

 

 そこで、おや、とセイアは不安を覚えた。

 ナギサを見ると頭を抱えており、ミカの語り口が熱を帯びていくのを感じ取る。

 

 それから瞬時に理解した彼女は心の中で。

 

 

 ──なるほど、これが薮蛇というものか。

 ──……何時間後に解放されるのだろう。

 

 

 

 

 

 





 △蕩けているミカ
 デレデレになっているミカ。長年想っていた人にあそこまで言われちゃ、そうもなる。
 でも、本人の前だと素直になれない。でも、本人がいないときは軽率にドロドロにデレる。
 ある意味でミカは面倒臭い。ツンドロ。


 △「目と目が合う瞬間闘争を求めていた」
 Q.貴女は今、どんな気持ちでいるの?
 A.オウヒ「闘争」


 △「もし自分に何かあったときのために」
 これに対して、コンサバティブちゃんは苦笑い。
 曰く「アイツ、そこまで考えてませんよ。朕は詳しいのでわかるのです」とのこと。
 後方腕組み理解者面。腕ないけど。


 
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