こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~天上院オウヒの愛用品~

・オウヒのハンカチ
 何の変哲もない、黒のハンカチ。
 長年使い続けているせいもあってか、色あせており、補修した跡もある。
 


第12話 オウヒの新装備

 

 

 ────これが夢だと気付くのに、ワタシは時間を費やす────。

 

 

 

 周囲の光景は光源が一切ない暗闇。

 一筋の光すら差しこまない、墨よりも黒く、闇よりも黒く、何よりも黒い光景が、ワタシの周囲を染めていた。

 

 でもどうしてか、両手だけが視認が出来る。

 いいや、両手だけじゃない。視線を落とせば、身体も、両足も、眼で見たモノを眼で介し、脳で情報として処理されていく。

 

 本来であれば、両手両足なんてわからない筈。

 そこにあるというのは分かるけど、両手の形、両足がどこに立っているか、視界に入る髪の色までは、本来であれば分からない筈。

 

 例えるなら、黒色に塗られたキャンバスに、ワタシという存在の色が一点あるような状態。

 

 

 そこでやっと、これがワタシが見ている夢であると、認識することが出来た。

 我ながら、なんて察しの悪さなのだろう。ワタシよりも頭が良く、細かいところに気付ける人であったなら、もっと早い段階で気付いていたに違いない。

 

 

 そんな、いつもの自己嫌悪に苛まれながら、ワタシは辺りを見渡す。

 ワタシしか存在しない漆黒の領域────かと、思いきや。

 

 

「ぁ……!」

 

 

 小さく、本当に小さく、ワタシは声を洩らした。

 

 目の前には、見知った背中。その数は数百人ほど。

 それが誰なのか、何者なのか、なんて問うまでもなかった。

 

 それは、アリウスの皆であった。

 ワタシは自分が思っている以上に、不安だったみたい。

 だって、アリウスの皆の姿を見て、心の底から安堵しているのだから。

 

 でも、どこか様子がおかしい。

 皆、こちらを向いてくれない。まるで、ワタシの存在に気付いてないみたいで。

 

 

「…………」

 

 

 いいや、アレは、違う。

 気付いているけど、敢えて無視している。何故か説明が出来ないけど、ワタシはそう確信することが出来ていた。

 

 それの証拠に。

 

 

「ぇ……?」

 

 

 皆が歩き始める。前だけを向いて、ワタシを無視するように、示し合わせたかのように一斉に。 

 置いてかれないように、ワタシはそのあとを追おうと足を踏み出そうとするも、上手く歩けなかった。

 

 身体が言う事を聞いてくれない。

 ワタシの身体じゃないみたいで、足を踏み出そうとしても動かないし、やっと動かせたとしても足が縺れて転んでしまう。

 立ち上がろうと、力を入れるもそれは無駄。どれだけ力を籠めようと、どれだけ歯を食いしばろうと、ワタシは立ち上がることが出来なかった。

 

 

 対して、皆は歩いていく。

 サオリも、アッちゃんも、ミサキも、ヒヨリも、アズサも。アリウスの皆が、ワタシから離れていく。

 

 

……まって、まってよ

 

 

 搾り出す声。

 あまりにも小さくて、ワタシにすら聞き取れない。

 

 

サオリ、皆っ!

 

 

 身体の自由が利かないのなら、それは口もなのだろう。

 喋っている感覚はあるのに、うまく言葉に出来ない。

 

 思わず手を伸ばそうとするけど。

 

 

「…………」

 

 

 その手は止まる。

 伸ばしかけた手が途中で止まり、そのまま力なく下ろした。

 

 

 その時が来たのだと、観念してしまった。ワタシの心は、それを自然と受け入れていた。

 だって、()()()()()()()()()()()()()から。二度あることは三度あるように、一度起きたことは二度あることもある。

 

 一度目は黒いアイツが、ワタシから離れていった。

 二度目はアリウスの皆が、ワタシから離れていくのだ、と受け入れる。

 

 

 何も、見返りを求めていたわけじゃない。

 彼女達が謂れのない扱いを受けていたのが許せなくて、大人に利用されているのが我慢できなくて、勝手にワタシが共感しただけ。

 彼女達にとって、ワタシが不要であると判断し、ワタシから離れていくのなら止めることなんて、ワタシには出来ない。

 

 以前、アッちゃんはワタシが地獄に行くのなら、アッちゃん達も一緒について来てくれると言ってくれたけれど、そこまでしてもらう価値はワタシにはない。

 アリウスの皆が幸せになるのなら、それだけで良かった。ワタシの命一つでどうとでもなるのなら、喜んでワタシは犠牲になる。

 

 ワタシの力が必要がなくなり、アリウスの皆にとって不要なモノであるとされたのなら仕方ない。

 彼女達の邪魔になるのなら、それを受け入れて、彼女達の前から消えるべきなのだから。

 

 でも、それでも────。

 ワタシは思わず、震える声で────。

 

 

「でも、何も言わないでいなくなるのは、寂しいよ皆……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタシは目を覚ます。

 眼を開けて、視界に入ったのは、見慣れた天井。つまりは、ワタシが借りているミレニアムの寮の天井。

 

 上半身を起こす。

 呼吸は荒く、玉のような冷や汗が頬を伝う。

 着ていたパジャマも、その下に身に着けている下着も、汗で濡れていて気持ちが悪い。

 

 壁にかけてある、時計は止まることなく秒針を刻んでいる。

 見てみれば、夜中の2時。

 

 

「…………」

 

 

 思わず、深いため息が出る。

 何もこれが初めてじゃない。最近、ワタシは満足に眠れない日々を過ごしている。

 魘されて夜中に眼を覚ます。きっとまた寝たところで、結果は変わらない。()()を見たワタシは、再び魘される事となりまた飛び起きるに決まっている。

 

 ()()と称したのは、簡単な事。

 見ていた夢。悪夢の類だと思うそれを────全く覚えてないからだ。

 

 まるで身体が安全弁(セーフティー)をかけているように、心が壊れないように抑止するように。

 ワタシはその悪夢を思い出すことを拒否しているようだった。

 

 その推察はきっと当たっている。だって。

 

 

「……ぁ」

 

 

 小さく声を洩らした。

 手で触れるのは目元。一滴、頬を伝っているそれは、涙だった。

 

 何を視たのか。

 夢の中のワタシは何を視て、何を感じて、何に絶望したのか。

 定かではないものの、ワタシは今日も欠けた夢を見て、眠れぬ日々を過ごす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 アレから、やはり眠れなかったワタシは、身支度を整えてミレニアムに登校していた。

 

 向かう先は、エンジニア部の研究室。

 先ほど、彼女達から連絡があり、ワタシは足を運んでいた。

 

 内容は、ワタシの装備が出来上がったから取りに来てほしいと言うもの。

 それは喜ばしい事だ。これで、次の闘いに備える事が出来る。素手の闘争も原始的でいい物だったけれど、やはり銃火器による戦闘も捨て難いものがある。

 

 普段であれば、ワタシの足は軽やかなものとなり、エンジニア部の部室に駆け込んでいることだろう。

 

 でも、今のワタシの足は明らかに重い。

 別に、エンジニア部の皆さんがどうこうというわけではない。

 問題があるとすれば、ワタシ自身にある。

 

 

 

 ────アズサがトリニティへ登校するようになってから、数週間が経過していた。

 

 その間、特に問題は起きていない。

 アッちゃんからも、先日のゲヘナの生徒会────万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)との会談も滞りなく終わったと聞いている。

 順調に次ぐ順調。アリウスとしても、何の問題もなく事を進めることが出来ていた。

 

 問題があるとすれば、ワタシ自身。

 どうにもサオリの態度が余所余所しい。ワタシの顔色を必要以上に伺うことが増えた気がするし、前以上に押し黙るようになった。

 

 それも関係しているのかわからないけれど、最近良く寝れていない。

 悪夢を見た、というのはわかるのだけど、内容までは覚えてない、ということが日に日に増していた。

 

 誰かに相談すれば良いのかもしれない。

 でも、臆病なワタシはそれすらも出来ない。

 

 サオリに嫌われた事実を、改めて突きつけられるのが怖くて、それで言葉にする事を怯えて、ワタシは今日も行動を起こせないまま悶々と過ごす。

 

 

 本当に情けない。

 余だの何だのと、演技した所で中身がこの程度。

 ワタシはどこまでも情けなくて、どこまでも空っぽな奴で、どこまでも臆病なダメな女だ。

 

 アーちゃんであれば、このような事態にならなかった。

 ムーちゃんであれば、要領が良いからこんなことにはならない。例え起きても、ワタシのように立ち止まらず、解決に直ぐに乗り出していた。

 

 ワタシは二人とは違う。

 力だけが強いだけの、どうしようもないダメな女。

 今でもどうすればいいのか、思いつかないでいる。

 

 

 そんなこんなで、ワタシは足取りが重いまま、エンジニア部の部室へと足を運び────。

 

 

 

 

 

 

「……何故、ヒマリがここにいる?」

 

 

 珍しい人がいたので、思わず言葉にしてしまった。

 あら、と。優雅に紅茶が入っているカップをテーブルに置いて、悲しそうな口調でヒマリさんは口を開く。  

 

 

「私がいては不都合でもありましたか?」

 

 

 悲しいです、という言葉を聞いて、ワタシは慌てて訂正する。

 違うのです。違うのですよ、ヒマリさん。会長から特異現象捜査部の部長になったと聞いているから、てっきり忙しいのだと思って……!

 

 

「い、いや、違う。そうではない。リオから聞いている。貴様も多忙であろう?」

 

「えぇ、あの女から難題を投げられました。私でなければできませんよ、あんなの」

 

 

 ヒマリさんのいう事も一理ある。

 リオ会長が新たに立ち上げた、特異現象捜査部という部活。セミナー傘下であり、その活動内容といえば、既存の科学では証明が出来ない事象の研究と解明といったモノ。

 

 学のないワタシだけど、それが如何に難題であるか分かっているつもりだ。

 既存の科学では説明が出来ないということは、ほぼ手探りのようなもの。科学とは、既存の技術を応用し発展していった文明。失敗や成功を積み重ねていくモノであり、そういう意味では人類史そのもの。

 

 特異現象捜査部が対象とする物は、一線を画す代物。

 ワタシ達が積み重ねていった常識が、通用しないモノが中にはあると聞く。

 

 そんなもの、リオ会長やヒマリさんのような、本物の天才などではないと、証明が出来ないといっても過言ではない。

 

 そういう意味では、リオ会長がヒマリさんを頼るのも納得できる。

 生半な生徒では手も足も出ない。ヒマリさんほどの頭脳を持っている人じゃないと。

 

  

「それだけ、リオは貴様に信頼を置いているのであろう」

 

「信頼、信頼ですか。あの女が……」

 

 

 本当に嫌そうな顔でぼやくヒマリさんだけど、ワタシは知っているのです。

 ヒマリさんの性格上、本当に嫌なことは嫌だと断る人だし、今回それがないということは頼られて満更でもなかったという事の筈。

 

 この二人、やっぱり仲良しなのでは?

 

 

「……今、失礼なことを考えてました?」

 

「そ、そんなわけないぞ。うん」

 

「本当に?」

 

「本当本当。余、嘘つかない」

 

 

 ギクッ、と。

 身体が硬直するのを自分でも感じる。

 何でこんなに、思っていることを、言い当てられるのだろうか。

 

 でもその辺りは、大丈夫なのです。

 ワタシだって日々成長している。ヒマリさんの目を見たらきっとバレるから、視線をあらぬ方向に向けるという高等テクニックで誤魔化すのです。

 これでバレる心配もなし。

 

 それを証拠にヒマリさんは、いいでしょう、とため息を吐いて。

 

 

「私がここにいるのは、貴女の様子を見るためですよ」

 

「余の? リオに言われでもしたか?」

 

「まさか。あの女がそんな気遣い出来るわけありません。お忘れですか? 私は清楚で可憐な病弱美少女であり、ミレニアム最高の天才清楚系病弱美少女ハッカーですよ? 気遣いも完璧なのです」

 

「わぁ、美少女を二回も言った……」

 

 

 でも否定が出来ない。

 事実だから。ヒマリさんはしっかり美少女だし、ちゃんと美少女だから。おまけに頭も良い。

 

 それは本人も自覚しているのか、悩ましいといった調子で。

 

 

「どうして、天は私に二物も三物も、何もかもを与えたのでしょうか?」

 

「機嫌でもよかったのだろう」

 

 

 顔も良し、頭も良し、そして器量も良し。

 目の前にいる完璧超人に、己のどうしようもなさを痛感したワタシは、エンジニア部の部室に備えられている椅子に座る。

 

 

「余の様子を見に来たといったな?」

 

「えぇ、そちらはそちらで、()()()お忙しいようですし」

 

 

 色々。

 つまりは、エデン条約の件をヒマリさんが言っていることは、直ぐに察する事ができた。

 

 だって、ワタシ達がトリニティが来る前に知ることが出来たのは、ヒマリさんと会長がトリニティへハッキングしたのが原因だから。

 公になったら大問題だし、手放しで褒められる事じゃないけど、渦中にいたアリウス(ワタシ達)としては、対策が取れて本当に助かった。

 

 改めて御礼をしようとしたけれど。

 

 

「どうした、ヒマリ?」

 

 

 思わず首を傾げる。

 ヒマリさんはワタシの顔を見て、怪訝そうな声のまま。

 

 

「……いいえ、見に来て正解だったと思いまして」

 

 

 いまいち、ヒマリさんが何を言わんとしているのかがわからない。

 ワタシは改めて、問おうと、口を開きかけるも。

 

 

「またせたね!!」

 

 

 ばんっ、と。

 勢いよく、ドアが開いた。

 

 そこから現れたのは、エンジニア部の『マイスター』と呼ばれる技術師の三人。

 

 ウタハ先輩と、ヒビキちゃんと、コトリちゃん。

 いつも変な発明をしている三人だし、ミレニアムでも個性的な彼女達だけど、今回は何だか様子がおかしい。

 

 テンションもおかしい。

 また徹夜したのか、様子もおかしい。

 そして何よりも。

 

 

「ウタハ」

 

「なんだい?」

 

「……三人共、何故怪我をしている?」

 

 

 三人共、怪我をしていた。

 腕にはギプスやガーゼが巻かれている。

 更には、むちうちにでもあったかのように、首にも固定帯であるカラーキーパーが装着してある。

 

 外見は痛々しい、でも表情は三者三様、満面の笑みであるのだから、どこか奇妙な光景といえるのかもしれない。

 

 ワタシの問いに、ウタハ先輩は代表として。

 

 

「まぁまぁ」

 

「いや、まぁまぁ、じゃなくてだな。どうして怪我をしているのか────」

 

「それはそれとして」

 

「え、なに、なんなの。全然理由話してくれない。なんなの怖い余!?」

 

 

 じりじり、と笑顔で近付いて来る三人に、思わずワタシは立ち上がり後ずさる。

 見ようによってはホラーだと思う。三人の怪我人が、近付いて来る。しかも笑顔で。わけも話さず。

 

 うん、しっかり怖い。

 これが夜とかだったら、悲鳴をあげている自信がある。

 

 そんなワタシの心境とは裏腹に、ウタハ先輩は一丁の銃と防弾仕様でもある軍用ロングコートを取り出して、机の上に置いた。

 

 

「はい、オウヒの銃といつものコートだよ」

 

「あっ、うん」

 

 

 あまりにも普通に言われたもんだから、ワタシも素の反応で返してしまった。

 

 机の上にあるのは、白銀の大型自動拳銃。

 色から察するに“リク”であることがわかるのだけど、どうもその形はワタシの記憶している“リク”とは少しだけ違う。

 

 不思議そうに見つめるワタシに、ヒビキちゃんが答え合わせをしてくれた。

 

 

「マガジンが拡張されているよ。装弾数は12発」

 

「あぁ、道理で……」

 

 

 違和感があるわけだ。

 よく見たら、マガジンが少しだけはみ出ている。

 

 

「更に、説明するとですねっ!」

 

 

 そう言いながら、コトリちゃんは興奮気味な口調で。

 

 

「マガジン導入部も、マガジンが入りやすいように広げてあります!」

 

「ふむ」

 

「トリガーガードの付け根を削りこんでますから、ハイグリップで握りこめます」

 

「うん?」

 

「トリガーも指をかけやすいロングタイプにしてあります」

 

「……うん」

 

「拡張したバレルには、ストライクプレート・コンペンセイターが装着されてまして、これによって反動が────」

 

「待って、ちょっと待ってコトリちゃん。メモ取るから、説明を暫し待たれい」

 

 

 本当に待って。

 ちゃんと聞くから、もう少しゆっくりお願いします。こちとら、銃は使うけど、そこまで詳しくなくてですね。

 

 懐から、柴関ラーメンのバイトでも使っているメモ帳を取り出そうとするも、ウタハ先輩は苦笑を浮かべて。

 

 

「要はめっちゃ改造したってことだよ」

 

「なるほど?」

 

「これはもう“リク”ではない。“リク弐式”だ!」

 

「……なるほど!」

 

 

 つまりは、めっちゃ凄い銃になったことですね。

 理解しました。天上院、超理解しました。普通の“リク”でよかったんだけどなぁ、って気持ちがないわけではない。愛着もあったしね。

 

 

「というわけで、試し撃ちをしようか!」

 

「構わんが、何だそのテンションは……?」

 

 

 本当にテンションがおかしいと思う。

 もう、見たくて見たくて仕方ない、って感じだ。ウタハ先輩だけじゃない。ヒビキちゃんも、コトリちゃんも、眼をキラキラさせている。

 

 撃つの初めてじゃないよね?

 試し撃ちしたんだよね?

 ちゃんと、動作確認したうえで、ワタシに連絡をくれたんだよね?

 なんだか、不安になってきた。

 

 緊張してきたワタシは、恐る恐る新造の“リク弐式”を手に持つ。

 恐ろしく握りやすかった。ワタシの手に馴染むような感覚。グリップもワタシの手の形に馴染むように改造されているらしい。

 さすが、エンジニア部。力の入れ所を間違えなければ、本当に優秀だ。

 

 ウタハ先輩は端末を操作する。

 電子音と共に、的が床からせり上がる。的との距離は、ざっと数十メートル。狙おうと思えば当たる距離、“リク”の適正距離ともいえる。

 

 不安な気持ちと共に、ワタシは引き金を引く。

 

 

「っ!?」

 

 

 銃声が聞こえる。当然だ、ワタシが撃ったのは銃なのだから。

 問題は、単発ではなく、連続だった事。

 

 直ぐに引き金から指を離したけど、それは間違いなく連続だったし、的には胸の辺りに5発の弾痕があった。

 つまりは、フルオート。思わずビックリして、ウタハ先輩にこれはなんなのか聞こうとするも。

 

 

「~~~っ!! 見たか!? ちゃんと的に当たったぞ!」

 

「はい、見ました!! 扱える人が扱えば、ちゃんと当たるんですね!」

 

「うん、いいものを見たね……!」

 

 

 テンションが上がってそれどころじゃないみたい。

 ひゃっほー! と、三人共テンションが上がってる。

 

 待って、待ってほしい。置いてかないでほしい。

 確かに改造したとは言っていたけど、“リク”をフルオートに改造したとは聞いてない。

 

 

「みんな、みんな。待って。置いてかないで。ちゃんと余にも説明するべきだと思うのだがどうか?」

 

「ん? あぁ、そうだね」

 

 

 一人だけ帰還してきたウタハ先輩は冷静な口調で。

 

 

「牽制用にフルオートに改造したのはいいんだけどね、威力がありすぎて私達じゃ扱いきれなかったんだ。試し撃ちで怪我をしてしまうとは思わなかったよ」

 

「あぁ、だから貴様達はそんな有様だったのか────ん、待て。牽制用? これが?」

 

「そのためのフルオートだとも。トドメ用で改造した“アサ”────いいや、“アサ改”でトドメのズドンだ」

 

「……火力過剰過ぎでは?」

 

 

 トドメ用ってことは、これ以上に威力があるってことでしょ?

 ワタシが不安になっているのを余所に、ウタハ先輩は胸を張って自信満々に。

 

 

「大丈夫、当たっても死にはしない。むしろ威力が強すぎて、その反動で撃つ方が怪我をするかもしれないね」

 

「え、なにそれこわい……」

 

「君なら使いこなせるさ。お披露目したかったけど、まだ未完成なんだ。リオ会長とコンサバティブちゃんと私達で鋭意開発中だからもう少し待ってもらえるかな?」

 

 

 うわー、超不安。

 大丈夫かな、ワタシ。一発撃つたびに、肩とか脱臼するようなモノお出しされないよね?

 

 何が不安って、コンサバティブちゃんが関わってるのが不安。

 リオ会長ならまだしも、絶対自重しないもんあの子。

 

 本当に不安でしかない。 

 

 

「ウタハ」

 

 

 ここで、静観していたヒマリさんがウタハ先輩に声をかけた。

 ウタハ先輩は興奮気味なこともあって、漸くヒマリさんの存在に気付いたようで、少しだけ驚いた調子で。

 

 

「おや、いたのヒマリ。うん、なにかな?」

 

「エンジニア部に何か依頼がありませんでしたか?」

 

「依頼? いいや、そんなものは────」

 

 

 そこまで言うと、ウタハ先輩は不自然に口を閉ざした。

 その視線は、ヒマリさんへと注がれている。

 

 沈黙が二人を包む。

 それが、数秒か、数十秒か、黙して二人は見つめ合って、ウタハ先輩が口を開いた。

 

 

「────いいや、あったかもしれないな」

 

「そうでしょう」

 

「あぁ、助かったよヒマリ。ヒビキ、コトリ、行こうか」

 

「……部長?」

 

「あっ、待ってください。まだオウヒちゃんに説明が終わって────」

 

 

 どこか強引に、二人の手を引っ張りウタハ先輩はエンジニア部の部室から出て行ってしまった。

 

 あまりにも突然な事で、ワタシは眼を丸くして、思考が追いつかない。

 

 

「えーっと」

 

 

 それから気まずくなって、当たり障りのない話題をヒマリさんに振ることにした。 

 

 

「預けているコンサバティブちゃんの様子はどうだ? 我儘を言っておらぬか?」

 

「良い子ですよ。貴女に会いたがっていました」

 

「本当か?」

 

 

 それはちょっと意外だった。

 いいや、ヒマリさんが気を利かせてくれた可能性すらありえる。コンサバティブちゃんがそんな殊勝なヤツだとは思えない。ワタシは詳しいのだ。

 

 

「そういえば、レールガンがなくなっているな。あれはどこに────」

 

「オウヒ」

 

 

 ヒマリさんは遮ると、ワタシを真っ直ぐに見つめて。

 

 

「なにか、悩み事でもあるのではありませんか?」

 

 

 思わず硬直する。

 

 悩み事ならたくさんあった。

 サオリのこと、エデン条約の事、トリニティのこと、ゲヘナのこと、そして、最近満足に眠れない事。

 

 だけど何よりも、どうしてそれをヒマリさんがわかっているのか気になって、ワタシは搾り出すような声で。

 

 

「どうして……?」

 

「ふふっ、全知にして聡明かつ俊英たるこの私ですから、何でもわかるんですよ。あとは、眼の下のクマが凄いので」

 

 

 おどけて言うヒマリさんに、自然と笑みが零れてしまう。

 きっと理由も、前者でもあり、後者でもあるのだろう。本当にこの人には頭が上がらない。ワタシなんかを良く見ているし、人の心の機微にも気付ける凄い人だ。

 

 

「……流石だな、ヒマリ」

 

「私はリオとは違いますから。後輩をよく見てこその先輩です」

 

 

 それに、と言葉を区切りヒマリさんは続ける。

 

 

「貴女に似た人を、良く知っていますから」

 

「余に似た?」

 

「えぇ。普段は他人を頼るくせに、いざというときは自分一人で抱え込もうとする。全く、どうして貴女達は、そういうところが似てしまったのか……」

 

 

 誰のことを言っているのか、ワタシにはわからない。

 けれど、ヒマリさんの言っているワタシと似ている人は、彼女にとって気心の知れた人であることはわかる。

 だって、どこか、楽しそうにしているから。その人を言う時のヒマリさんが、どこか楽しそうであるから。

 

 

「いいえ、今は貴女の話です。オウヒ、良ければ話してみませんか?」

 

「……うん、でも」

 

「怖いですか?」

 

 

 うん、とワタシは力なく頷いた。

 

 そう、怖いんだ。

 今、ワタシが悩んでいるモノを口にするのが怖い。

 あの年増が恐怖で縛ったように、今度はワタシが武力で、サオリを縛っている。だから、余所余所しくなってしまったのではないか、という事実を口にするのが怖い。

 何よりも────嫌われてしまった、と事実を口にするのが怖い。

 

 ワタシはどうしようもなく臆病で、弱くて、後ろ向きな女だ。本当にどうしようもない女だ。

 ただ言葉にすれば、確かめればいいだけの話なのに、たったそれだけのことを何よりも怖がっている。

 

 ヒマリさんはバカにするでも、呆れるでもなく、ただ微笑みを浮かべて。

 

 

「不安になる必要なんてないです。大丈夫ですよ、オウヒ。貴女のやってきたことは、間違いなんかじゃありませんから」

 

「ヒマリ……」

 

「だから、そんな泣きそうな顔をしないでください。ここには貴女を責める人間なんていませんよ?」

 

 

 ヒマリさんはそういうと笑みを浮かべていた。

 

 思わず、ワタシは口を開きかける。

 今、溜め込んでいる感情が、決壊するように。

 

 でもそうはならなくて。

 

 

「……ぁ」

 

 

 端末が鳴り響いた。

 それはワタシのもの。取り出して画面を見るとアッちゃんの名前。

 

 

「ヒマリ、すまぬが」

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

 

 もう一度心の中で、ごめんなさい、とヒマリさんに謝りながら端末を操作して、片耳に当てて。

 

 

「アツコか。何用だ?」

 

『ごめんね、殿下。今大丈夫?』

 

「問題ない。それでどうした?」

 

『うん、アズサなんだけどね……』

 

 

 どこか歯切れの悪い。

 アッちゃんは言葉を選びながら続けて。

 

 

『トリニティの生徒と喧嘩したみたいで』

 

「ほう、やるではないか。それで、勝ったのか負けたのか」

 

『しっかり勝っちゃったみたい。篭城までしたんだって。その件でナギサさんに呼ばれてるんだけど、どうしよう?』

 

「余が行こう。貴様達は何も気にするな」

 

『うん、ありがとう殿下』

 

「良い。さて、この場合はどうするべきか。菓子折りを持っていくべきだな」

 

 

 急に忙しくなってきたね────。

 

 

 

 





 △リク弐式
 新たに、新造されたオウヒの白銀の銃。
 リク二式ではなく、リク弐式なのはエンジニア部の強いこだわり。
 形状は変わらずデザートイーグルの改造銃。ただリクと違いフルオート。
 マシンピストルというよりもマシンキャノン。エンジニア部の三人共試し撃ちしたものの、反動がエグすぎて怪我をした程の一品。
 あくまで牽制用であるのだから、やはり頭がおかしい。
 セミオートにも切り返れるし、GPUもついており、Wi-Fiの完備だし、おまけにBluetoothも内蔵されている。どういうことなの?
 当初は、超大型口径リボルバーにしようとしていたものの、コンサバティブちゃんから「この世界線では止めといた方がいいかと」と言われたそうな。またコンサバティブちゃんが変なことを言ってる。

 Q.どうしてフルオートなんですか?
 A.エンジニア部の偉い人「ロマンあるだろ?」
 
 ロマンなら仕方ない。



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