こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 スタレどハマリしていました。


幕 間 彼女は策謀を巣とする蜘蛛

 その場所がどこにあるのか、判別する事は難しい。

 

 窓がない、音がない、風も吹かず、匂いすらない。まるでそこだけ、世界から切り離されたかのような。そんな印象を持たざるを得ない場所にて。

 

 常人では辿り着けそうにない場所。

 そこに集うのも、また常人足りえないのだろう。

 

 

 二人の人影があった。

 

 いいや、それは()と形容していいのかわからない出で立ち。

 

 一人はタキシードを着た人影。その姿は人形のようで、何よりも目を引くのはその顔だ。

 一つの首に分かれるように生えている二つの頭。顔には口もなく鼻もなく、眼も無い。

 

 もう一人はコートを着ており、そもそも首から上が存在しない。

 片手にはステッキ、もう片方の腕には写真が収められている額縁を抱えている。

 

 

 それは人の形を為したナニかといっても過言ではない。

 

 彼らは何をするでもなく、何者かを待つようにその場に黙って立っていた。

 

 

「────クックック」

 

 

 そして、後から現れる彼もまた、人とは形容し難い風貌であった。

 

 とはいえ、先の二人よりかは、人の形を為していると言える。

 

 両腕があり、両足があり、首があり、その頭は一つ。しかし、彼は黒かった。

 履いている靴も黒く、スーツも黒く、肌は影の様に黒く無機質。右目の辺りには発光部があり、そこから顔全体に亀裂が走っている。

 

 不敵な笑みを携えて現れた者────黒いスーツを着た彼は開口一番、自身が抱いていた疑問を口にした。

 

 

「緊急の召集とは、穏やかじゃありませんね。私を呼び出したのは、どちらでしょうか?」

 

 

 それに答えるのは、一つの首に二つの頭が生えているような出で立ちの人物。

 

 しかし、その返答は黒服が望んでいたものではなかった。

 

 

「私ではない。そなたと同じだ黒服」

 

「……ふむ。となると、マエストロも呼び出されたと?」

 

 

 短い問いには、短い答えが返ってきた。

 二つの頭を持つ人物────マエストロは「然り」と答える。

 

 ここまで来ると消去法となる。

 

 この場にいるもう一人の方へと黒服は視線を向ける。首から上が存在しない者、そちらに意識を向けて黒服は改めて問いを投げる。

 

 

「ゴルコンダ、私達を呼び出したのは貴方ですか?」

 

 

 だが、その視線は奇妙であった。

 

 黒服の目線は首から上が存在しない者に向けられていない。

 

 その視線は、抱えている額縁へと注がれており、このことから『ゴルコンダ』と呼ばれた人物は、首のない彼ではなく、額縁に収まっている彼であることが分かる。

 

 

「……いいえ、私でもありません」

 

 

 ゴルコンダは黒服と呼ばれた彼の問いに、簡潔に答える。

 

 となると、自分達を呼んだのは何者か。

 それは考えるまでもない。この場にいない存在こそ、彼らを呼んだ張本人なのだから。

 

 そしてそれは、直ぐに姿を現した。

 

 

「呼び立てたのは私です、黒服」

 

「…………」

 

 

 それは女性だった。

 長身であり、紅い肌に白いドレス。長い黒髪の髪の毛は歩くたびに揺れる。

 カツンカツン、と傲岸にヒールの音を鳴らし、三人の前に彼女は姿を現した。

 

 対する、黒服は無言を貫いている。

 

 自身の問いに対する返答があったにもかかわらず、彼は無言を貫き、召集したと口にした女性に視線すら向けない。

 

 女性は気にすることなく、クツクツと笑みを浮かべて一言だけ述べる。

 

 

「まずは感謝を。よく私の招集に応じてくれましたね」

 

 

 その返答は淡白なもの。

 

 マエストロは自身の身体にギシギシと軋みを上げさせながら、問いを投げる。

 

 

「それでベアトリーチェ、何用で私達を呼び出した?」

 

「私達の方針を明確にしておきたかったのです」

 

 

 それはどういう意味か。

 

 そんな何者かの問いが投げられる前に、彼らを呼び出した彼女────ベアトリーチェが口を開く。

 

 

「あの小娘の、今後の処遇について」

 

 

 その反応は三者三様。

 

 問いを投げたマエストロは、またか、といった調子であり、二人のやり取りを見守っていたゴルコンダは沈黙を貫き、黒服は何かを思案するように考えに耽る。

 

 三人に共通点があるとすれば、特に驚いた様子はないという事くらいだろう。

 

 マエストロはため息を吐きながら。

 

 

「何度も口にしている通りだ、ベアトリーチェ。件の生徒をどうこうするつもりは、私にはない」

 

「念のため確認します。何故ですか?」

 

「興味がないからだ。彼女と私の探求が交わることはない故に」

 

「……アレは単騎で彼の預言者の一体を打ち倒しました。それでも興味がないと?」

 

「くどい」

 

 

 取り付く島もない。

 

 マエストロは忌憚なく己の意見を述べる。

 彼は本当に、ベアトリーチェが上げた議題に興味がないのだろう。

 

 マエストロは暗に語る。

 ────やりたければ、勝手にやれ、と。

 

 その答えに、不快に顔を歪めるわけもなく、ベアトリーチェは口元に笑みを浮かべいた。

 

 その様子はまるで、マエストロの思考を予期していたかのよう。

 

 彼女は特にうろたえることなく、視線と意識をマエストロから外し、それは黒服へと注がれて。

 

 

「貴方はどう思いますか。()()()()()()()?」

 

 

 その言葉は含みのあるモノ。

 

 まるで試すように、観察するように、洞察するように、ベアトリーチェの視線は黒服へと注がれることとなる。

 

 居心地がいいわけがない視線。

 それでもなお、黒服は自然体のまま、ベアトリーチェを無視するように、沈黙を貫いていたゴルコンダを一瞥して。

 

 

「……貴方はどうですか、ゴルコンダ」

 

「私もマエストロと同意見です。彼女に興味はありません」

 

 

 ですが、と言葉を区切り。

 

 

()()はそうではない」

 

 

 他人が聞けば、抽象的な言い回しで、要領の得ない物言いであるが、聞いていた黒服は違うようだ。

 

 ゴルコンダの言う、私達。

 その意味を理解した上で、無駄な問いを省き、事実だけを確認する。

 

 

「……あの生徒が脅威だと思っているのですか?」

 

「えぇ。特にフランシスが」

「そういうこった!」

 

「よりにもよって、フランシスか」

 

 

 あの娘には同情するな、と付け加えてマエストロが言葉を洩らした。

 

 しかし、黒服はその言葉に応じる事はなく、いつものような笑みすらないまま、無言で踵を返し歩を進める。

 

 その振る舞いに、マエストロとゴルコンダは違和感を覚える。

 

 いつもの彼なら、ここで何か一言二言、ベアトリーチェや他の面々と意見を交わすために口を開く筈だ。

 それが好奇心によるものなのか、探究心によるためか、単純に話好きなのか、それは定かではない。

 

 だがここで、無言でこの場から去ろうとする黒服に、二人は違和感を覚える。

 

 その様子はどこか余裕がないようにも見える。

 

 そんな中、黒服の行動に疑問に思わない者が一人。

 

 

「────黒服」

 

 

 背を見つめたまま、ベアトリーチェは口を開く。

 

 彼女は呼び止めようと、黒服を呼んだわけじゃない。

 

 

「私はアレを殺します。間違いなく、アレは私達にとって脅威となり得る存在。私達の目的の障害となる事が、明白だからです」

 

「……つまり、何が言いたいのですか?」

 

 

 振り返りはしない。

 顔すら向けないまま、黒服は立ち止まり、ベアトリーチェの次の言葉を促した。

 

 その背を見つめて、ベアトリーチェは冷淡な口調で。

 

 

「決して、私の邪魔はしないように。貴方が思慮深く、大局を見据え、()()で動く愚か者ではない事を、願います」

 

「……えぇ、勿論ですとも。私達の目的はあくまで、神秘を解明し、崇高へと至る事にあります。一介の生徒がどうなろうが、私には関係ないことです」

 

 

 黒服は言葉を区切り、仰々しく芝居がかった口調で続けて。

 

 

「精々、貴女の本懐が遂げられますよう。影ながら応援していますよ、()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最早、この場にいるのはベアトリーチェとゴルコンダ、それにデカルコマニーとなった。

 

 黒服はあれから振り返ることなくその場を後にし、マエストロも話は終わりだと言わんばかりに黒服に続く。

 

 それはつまり、ベアトリーチェの募った、ある生徒の排除、その協力者は誰一人としていないことを意味していた。

 

 

「どうするつもりですか?」

 

「方針に変更はありません」

 

 

 ゴルコンダの問いに、ベアトリーチェは特に気にする素振りを見せずに続ける。

 

 

「マエストロの協力を取り付けるカードはあります。きっと彼も、首を縦に振らざるを得ないでしょう」

 

「黒服は?」

 

「彼には最初から期待していません」

 

 

 あまりにも冷たい口調と物言いに、ゴルコンダは眉を顰めて。

 

 

「……手厳しいですね。我々は向いている方向は違えど、同じ崇高へと至ることを目的とした同志では?」

 

「最後に、ゴルコンダ。確認しますが、貴方は私に協力するということでいいのですね?」

 

 

 ゴルコンダの嗜めるような問いを無視して、ベアトリーチェはその冷たい口調のまま、ゴルコンダへと氷の言葉を投げる。

 

 あまり気持ちのいいモノではない。

 何せ、無視されるように、問いを投げ返されたのだから。

 

 それを証拠に、ゴルコンダは思うところがあるのか、坦々とした口調で事実のみを口にする。

 

 

「協力はしません。私は貴方に、技術を提供するだけです」 

 

「よろしい」

 

 

 邪魔をしないのならそれでいい、とベアトリーチェは語る。

 

 そして彼女は────。

 

 

「やっと、やっと、整いました」

 

 

 歓喜するように、辛抱堪らないように、打ち震えるように、彼女は────笑っていた。

 

 口元を引き裂くように、眼を爛々と輝かせて、異常なまでに高揚が彼女を包んでいる。

 

 その状態のまま。

 

 

「アレを殺す算段は付いている。実験も滞りなく順調、全く以て順調。その過程で使い物にならなくなった生徒もいますが、瑣末な事」

 

 

 最早彼女の意識に、ゴルコンダやデカルコマニーの存在はない。

 

 あるのは例の生徒。

 ベアトリーチェが不倶戴天の存在と定義した、生徒のみに意識が向けられている。

 

 

「アリウスからの忠誠心などその程度。アレの何もかもを簒奪し、何もかもを踏みにじり、思い知らせてやる……!」

 

「────────っ」

 

 

 対するゴルコンダは言葉を失った。

 

 気品に満ち、作法も上品であり、自分達が一目置いていたマダムと称された者と同一存在であるとは思えなかった。

 

 屈辱と恥辱、更には汚辱に塗れた彼女の成れの果て。

 その姿はまるで、獲物が罠に掛かるのを待っている蜘蛛のよう。

 

 ただひたすらに待ち、何重にも策謀を巡らせて、陥れるために己の全身全霊を懸けることのみに、注力している。

 

 その意識は、意志は、件の生徒を汚し陵辱し、摘み取ることのみに専心されている。

 

 正にそれは執念であった。

 

 

 

 ゴルコンダは背筋が凍るのを感じる。

 

 彼が恐怖をしているのは、変わり果ててしまったベアトリーチェにではない。

 

 これほどまでに、人を変貌させてしまう、件の生徒の影響力に恐れ慄いた。

 

 そして、一抹の興味も抱いたのも事実。

 

 ベアトリーチェの策謀が事を為すのか。

 それとも、件の生徒がそれすらも捻じ伏せるのか。

 

 天秤はどちらに傾くのか、ゴルコンダは興味を持つ。

 

 そんな彼の心に呼応するように、身体は正直に告げる。

 

 

「────そういうこった!」

 

 

 

 

 

 




 更新を開けてしまい申し訳ないです。
 スタレどハマリしていたのです。
 これから頑張りますので、どうかよろしくお願いします!


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