こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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第16話 空は小鳥と戯れる

 

 アビドス自治区。

 

 かつては、カイザーコーポレーションが力で統治しようとした場所。

 あれから劇的に変化はしてないものの、微かに活気が出てきた事が見て取れていた。

 

 恐らくだが、市民の意識の変化が原因なのだろう。

 

 一つの大きな力、つまりはキヴォトスを牛耳る大企業の力の前では、個人の力などあまりにも無力であることを、先の一件でアビドスに住まう住民はわからされてしまった。

 

 頼りにしていた、アビドス高等学校の生徒の力にも限界があり、それに甘えていたことを、彼らは痛感した。

 

 ならば、これから自分達が取るべき行動は二つ。

 

 アビドスを捨ててどこかへ移住するか、ここに留まり今の生活を守るかの二択しかない────筈だった。

 彼らが選んだのは三つ目の選択────終わったと見なされたアビドスを盛りたてる、という選択。

 

 それはあまりにも、無謀であり未来がないモノだった。

 

 だけど彼らはそれ以上に、自分達が産まれ育った土地が、知らぬ間に好き勝手されていたのが我慢出来なかった。

 

 それもこれも、アビドス高等学校に任せてばかりだった自分たちに原因があると、彼らは結論付ける。

 

 ともすれば、やる事は決まっていた。

 

 カイザーコーポレーションの武力制圧の一件から、機能し始めたアビドス高等学校と連携し、地域活性化のために尽力を尽くし、二度と好き勝手させないように奮闘する。

 

 だが物事は劇的に変わる事はない。1が急に100になることなどありえない。1の次は2であるように、少しずつ時間は掛かるけれど積み重ねていく。

 

 それでも変化はしていくことは、変わりなく。

 

 

「この辺りも、人の往来が増えてきたわね」

 

「まぁね。カイザーの連中が幅を利かせなくなったのもあるのかもしれないねぇ~」

 

 

 アビドス自治区にあるオープンカフェにて。 

 その様子を見て、空崎ヒナは座りながら感想を漏らし、小鳥遊ホシノは対面するような形で座り誇らしそうに笑みを零し応じる。

 

 彼女達がこうして、顔を合わせて談笑するのは珍しい事ではない。

 

 カイザーとの一件以来、繋がりが出来た彼女達は、時間が出来ては連絡をし合い、オウヒを交えて遊びに出掛けていた。

 

 

「アレからカイザーに動きは?」

 

「今のところないかな。あっちもアビドス云々どころじゃないみたいだよ?」

 

 

 ヒナの問いに、ホシノは自分が調べた限りの情報を提示する。

 

 

「カイザーコーポレーションの社運を賭けた────っていうのは大げさかもだけど、それくらい意気込んでアビドス砂漠で何かを発掘しようとしていたみたいでね」

 

「なるほど。そのための前哨基地が、貴女が囚われていた基地だったということね」

 

「そういうこと~」

 

 

 正直な話、ホシノはカイザーコーポレーションがアビドスという土地に、執着していた理由までは掴めなかった。

 

 加えて、彼女が“黒服”と呼んでいた大人の目的もわからない。彼の言葉を真実とするのなら、ホシノの身柄を確保するために、カイザーコーポレーションと手を組んでいたこととなる。

 しかし、シャーレの先生が言うには、ホシノの捕まっていた場所をリークしたのも黒服であった。

 

 何がしたかったのか、ホシノには理解が出来ない。

 

 本当に手を組んでいたというのなら、どうして土壇場で裏切ったのか。

 

 タイミングも絶妙だった。後一歩で、カイザーの目的が達せられるというところで、黒服は情報を洩らした。まるでそれは図ったかのように、カイザーが一番傷を負うタイミングを、見計らったかのように────。

 

 そこまで考えて、ホシノは首を横に振った。

 

 黒服と呼んでいた大人との繋がりは切れているし、それを確かめる気は彼女にはない。

 

 そんな事よりも、今を楽しまないと。

 アビドスの後輩達以外で出来た折角の繋がりを、彼女は大事にすることを優先する。

 

 

「カイザーも踏んだり蹴ったりだよね。私一人を捕まえていたはずが、大群で攻め入られるし、ビナーとかいう化物に襲われるしでさ~」

 

「……反省してる?」

 

 

 まるで他人事のように言うホシノに、ヒナは少しだけ咎める口調で尋ねた。

 

 周囲に相談せずに、勝手に交渉し、勝手に決断し、勝手に出奔したホシノに、ヒナも思うところがあるのだろう。

 

 それを察知したホシノは慌てながら、身振り手振りで。

 

 

「も、もちろんだよぉ。みんなにお説教されたばかりだし、もうやらないよぉ~」

 

「ならいいけど……」

 

 

 その姿を見てヒナは小さく笑みを零し。

 

 

「貴女は一人じゃない。アビドスの後輩たちもいる。私だって力になるし、それはきっとオウヒも同じ。それを忘れないで」

 

「……うん」

 

 

 対して、ホシノも小さく頷いた。

 

 カイザーとの一件は、ホシノにとっても苦い失敗だった。だが悪いことばかりじゃない。

 

 アビドスの後輩達は頼りになることを再認識する事が出来たし、信用できなかったシャーレの先生だって彼女が思っているような汚い大人ではないことが分かった。

 

 か細い縁であるにも関わらずトリニティのティーパーティーを説得し、助けに来てくれた阿慈谷ヒフミには頭が上がらないし、何よりも────。

 

 

「カイザーはアビドス砂漠で何を探してたの?」

 

「それがわからないんだよねぇ。探ろうにも基地は砂漠に埋もれちゃったし、推し進めていたカイザーPMC理事はクビにされちゃったみたいだし」

 

 

 怖いよね、大人って、とホシノは呟いた。

 

 正しくは、トカゲの尻尾切り。

 

 アビドスに行なった件についてカイザーコーポーレーションは、カイザーPMC理事が勝手に動き暴走した結果であると、キヴォトスに公表。責任を取らせるとし、PMC理事を解雇する事で、今回の件の火消しに努めていた。

 

 共に責任を取るのではなく、一人に全ての負債を背負わせて切り捨てる。これも大人のやり方の一つなのかと思うと、ホシノもPMC理事に同情する。

 

 当事者が切り捨てられた現状において、彼らが何を探索していたのかを知る術はなかった。

 

 だが、気にならないといえば嘘になる。故にホシノは、自分以外の視点からは、何が見えているのか気になり、ヒナの見解を尋ねた。

 

 

「ヒナちゃんはカイザーの連中が何を探していたと思う?」

 

「……ごめんなさい、見当もつかない。カイザーほどの大企業が血眼になるのだから、相応のモノだとは思うけど」

 

「だよね~。おじさんの手に余りそうで困るなぁ~」

 

 

 前途多難だよぉ、と億劫そうに洩らし、それを見てヒナは真っ直ぐにホシノを見つめて。

 

 

 

「その時は……」

 

「ん?」

 

「その時は、私に声をかけて。必ず手を貸すから」

 

「うん、ありがとね。ヒナちゃん」

 

 

 そう、何よりも────空崎ヒナと天上院オウヒという、心強い繋がりを得た。

 

 自分は思っていたよりも、独りじゃなかった。その事実だけで、ホシノは救われたような気がしていた。

 

 あの場で、短時間だけれど確かな共闘を経て三人が認め合うのは、必定といえるだろう。

 

 自分ならこう立ち回ると考え、寸分違わず連携してみせた、実力が伯仲している者同士、ホシノにとってヒナが今何を考えているかを読むことなど造作もなかった。

 

 

「それで、そんなヒナちゃんは何を悩んでるのかな~?」

 

「……それは」

 

「ヒナちゃんがおじさんを助けてくれたように、おじさんだってヒナちゃんの力になりたいんだよ?」

 

 

 それは真実である。

 

 借りを返す、と他人行儀に振舞うつもりはないが、やはり世話になったのだから何らかの形で返したいとは、人として当たり前の感情だろう。

 

 ヒナもそんなホシノの気持ちを無下にするつもりはないようで、少しだけ考えて。

 

 

「どうして、わかったの?」

 

「なにが?」

 

「私が悩んでる、って」

 

「おじさんくらい、人生経験を積めばわかるもんだよ」

 

 

 うへへ、と冗談気味に笑い直ぐに訂正する形で。

 

 

「嘘、冗談。思ってるよりも、わかりやすいよ。ヒナちゃんって」

 

 

 そう、彼女は思っているよりも、顔に出やすい人であるとホシノは断じる。

 

 大半の者が、空崎ヒナのことを、ゲヘナの風紀委員長というフィルターをかけて見て、冷徹な人であるかのように考える。

 

 しかし事実はそうではなく、ヒナは周りが思っているよりも冷徹でもなく、頑張りすぎてしまう人物である。少しでも休む事を覚えるべきであるとホシノは思うが、きっとこれは本人に言った所で、簡単には治らない悪癖なのだろう。

 

 だからこそ、定期的なガス抜きが必要であり、この場に居ない人物────オウヒがヒナに構うのもそんな理由なのだろうと、ホシノは分析する。

 

 本当に不思議な娘だと思う。

 

 ヒナに対して真っ当に気遣えるのに、どうしてあんな奇天烈な言動をしているのだろう、と。

 

 いいや、と。

 ホシノは首を横に振る。今はオウヒのことではなく、ヒナの事に注力すべきだと定めて。

 

 

「まぁ、話してみてよ。話すだけでも気が楽になるかもしれないしさ」

 

「うん、実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、ヒナの現状を聞く。

 

 最初は、うんうん、と頷いて聞いていたホシノだが、段々と訝しむような表情に変わり、最終的には眉間に皺を寄せて、腕を組んで難しい顔で。

 

 

「うーん」

 

 

 唸って、一拍をおいて。

 

 

「ヒナちゃん」

 

「はい」

 

「行き当たりばったりすぎない?」

 

「自覚しているわ」

 

 

 本当に恥ずかしいのか、ヒナは玉のような白い肌を赤らめて、そっぽを向いて目を泳がせている。

 

 考えなしと言うしかない。

 

 ホシノも()()()で、少しだけ耳にしたことがあるものの、カイザーとの問題もあったことから深くは調べずに放置していた事を思い出す。

 

 他校の情勢はそこまで詳しくはないものの、ヒナが悩んでいる原因、つまりは────()()()()()()()()なる者に、てんで心当たりがなかったから。

 

 なるほど、そういう話になっていたのなら、突如として生えてきた生徒にもホシノは納得をする。

 

 

「どこかの誰かさんみたいだよ? 勢いで押し通して、後々になって後悔する所とかね」

 

「うぅ……」

 

「どうしてそういうところ似ちゃうのかな~?」

 

「そんなに似てる?」

 

「うん。っていうか、なんでちょっと嬉しそうなの?」

 

「べ、別にそんなんじゃ……!」

 

 

 どこぞの()()()()()()()()を彷彿とさせる、今のヒナに苦笑を禁じえない。

 

 半分は羞恥、もう半分は満悦か。

 ヒナはどこか、年頃の少女のような、複雑な感情のまま百面相。

 

 それをホシノは、どこか微笑ましい表情に変えて、ヒナの悩みを要約してみせた。

 

 

「話をまとめると、『ソロモン』って生徒は実在しないけど、その場しのぎで天上院ちゃんが『ソロモン』って名乗っちゃって、それが原因でゲヘナは大変なことになっている、と」

 

 

 うんうん、と頷いて呆れる口調で。

 

 

「なんでそんなことになってるの?」

 

 

 どこをどう立ち回ったら、そんな面白い────訂正。

 どこをどう立ち回ったら、そんなはた迷惑なことになるのか、ホシノには理解が出来なかった。

 

 

「話を膨らませたのは私と鬼方カヨコなのだけど、事の発端はオウヒの持っていたコンサバティブちゃんって人工AIで……」

 

「あの子かぁ……」

 

 

 思い出すのは奇天烈な生首。もとい、ハイセンスなデザインのフルフェイスアーマーを自称するAI。

 

 ときにオウヒを振り回し、偶にオウヒを振り回し、更にはオウヒを振り回す。あれこそが真の自由人と言えるのかもしれない。あれを人であると定義していいものなのかどうかは、また深い話になるので置いておくとして。

 

 

「偶に、変なことを言うんだよねあの子」

 

「なんていうの?」

 

「今日はシュウって男とは一緒じゃないんですか、とか。誰なのか聞こうとする前に、違うホシノさんでした、って言って一人で納得するし」

 

「心当たりはないの?」

 

「んー、引っかかるんだけどね。少なくとも、私はわからないかな」

 

 

 とはいえ、気にならないといえば嘘になる。

 

 初めて聞く名前なのに、何かが引っかかる名前。聞いていると、放っておけない名であり、決して無視できない直感が、ホシノにはあった。

 

 コンサバティブちゃんなる者には、傍迷惑にも程がある。

 天上院ちゃんもよく一緒にいられるね、とホシノは心の中で同情しつつ。

 

 

「話を戻そうか」

 

「えぇ」

 

 

 そもそもの話、とホシノは言葉を区切って。

 

 

「あまり聞いたことがないけど、雷帝ってどんな生徒だったの?」

 

「ゲヘナを牛耳っていた独裁者、っていえばわかる?」

 

「あのゲヘナを牛耳るかぁ~」

 

 

 自由奔放で、規則に縛られない。

 それがホシノから見たゲヘナの生徒である。

 

 しかしその見立ては間違いではない。ヒナのような秩序側に立っている生徒こそ、例外中の例外。誰にも縛られず、好き勝手に行動するのがゲヘナ学園の校風なのだから。

 

 そんな混沌極めるゲヘナ学園で、頂点に君臨していた存在。

 

 それだけでも、その生徒がどれほどの規格外なのか、想像しやすいというものだ。

 

 

「よりにもよって、そんな人と争っていたって設定にしちゃったんだ……」

 

「うん……」

 

 

 正しく、よりにもよって。

 

 しかも、ソロモンの設定といえば、雷帝と並び立つほどの存在であり、その存在を恐れた雷帝が歴史の闇に葬った────という設定まで盛り込まれていた。

 

 事情を知らない生徒からしてみたら、十分な脅威であり、第二の雷帝が誕生してしまうかもしれない瀬戸際。

 

 嫌が応にも、存在しない生徒であるソロモンを警戒し、乗り気でなかったエデン条約にも合意するというものだ。

 

 

「……まぁ、結果オーライなんじゃない? エデン条約だっけ? その『ソロモン』のおかげで、ゲヘナの生徒会長さんも条約締結に前向きみたいだし」

 

「それは……」

 

 

 楽観するように、冗談のようにホシノは言うものの、渦中にいたヒナにとっては笑えない冗談でもあった。

 

 ヒナにとっては嘘をついてしまっている手前、ゲヘナの生徒会長────万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)議長でもある羽沼マコトにも罪悪感が────。

 

 

「…………」

 

 

 いいや、不思議と罪悪感は感じなかった。

 

 これが日頃の行い、というやつなのかもしれない、とヒナは結論付けて。

 

 

「その件でオウヒとも、一度話をしたかったのだけど……」

 

「連絡がつかない?」

 

「えぇ」

 

 

 ヒナは頷いて、ホシノは難しい顔で。

 

 

「ヒナちゃんもかぁ。おじさんも、モモトークで連絡してるんだけど、返信がなくてさぁ……」

 

 

 まぁ、あの子の事だから大丈夫だとは思うけど、とホシノは口では言うもののその表情は晴れやかなものではない。大丈夫とは口では言っているが、その実はむしろ逆。

 

 大丈夫とは思ってないことは、その暗い表情が物語っている。

 

 それはヒナも同じであった。

 何か口には出来ない、得体の知れない不安感が、その心を支配している。

 

 居ても立ってもいられない。何かオウヒは問題に巻き込まれているかもしれない、だけれど何も情報がないのだから、行動にすら移せない。そんなやるせない状況に陥っている、と。

 

 

「ん?」

 

 

 突然の着信音。

 

 それはホシノの懐から鳴っていた。

 懐から取り出すと、画面には『セリカちゃん』という文字。

 

 ホシノは妙な胸騒ぎを覚える。

 この時間帯、セリカはまだバイトであることをホシノは思い出す。何故なら、張り切ってアビドス高等学校から一緒に出て行ったのだから。

 

 加えて、セリカは真面目な生徒だ。

 バイトの最中に、携帯を弄る事なんて決してしない。

 

 もしかしたら、休憩時間中に火急の用件で電話してきたのかもしれない。

 

 

「……ごめん、ヒナちゃん」

 

「大丈夫よ」

 

 

 ホシノの意図を汲み取って、出るようにヒナは促す。

 

 ごめんね、とホシノは口にして通話ボタンを押して耳に当てる。

 

 

「どうしたの、セリカちゃん。珍しいねぇ、バイト中に────」

 

『ホシノ先輩!!』

 

 

 泣きそうになりながら、悲鳴にも似た声で、電話越しのセリカは叫んでいた。

 

 尋常な様子ではないことを直ぐに理解したホシノは、柔和な声色から冷静な声で応じる。

 

 

「落ち着いて。どうしたの、何かあった?」

 

『大変、大変なの!! 柴関ラーメンが……!』

 

 

 何があったのか問う前に、セリカは遮るようにして。

 

 

『柴関ラーメンが────燃えているの!!』

 

 

 

 

 

 





 △「今日はシュウって男とは一緒じゃないんですか、とか。誰なのか聞こうとする前に、違うホシノさんでした、って言って一人で納得するし」
 コンサバティブちゃんは並行世界を認識している。



 以前は、匂わせにてお借りしていましたが、今回ガッツリお名前を拝借いたしましたので、僭越ながらご紹介させていただきます。

 コンサバティブちゃんが観測した並行世界、シュウという人物は『ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」』の主人公でございます。

 この作品を紹介するのなら、他のブルアカ二次と一味も二味も違うのです。
 そこにいたる過程が、丁寧に描写されておりまして、新章も突入したこともあり、要チェックでございます。
 改めまして群缶さま。今回はお名前の使用許可をいただきまして、ありがとうございました!

群缶さまの作品『ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」』(ハーメルン)
https://syosetu.org/novel/343197/
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