こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ~ソロモンちゃんねる~

 アル「どう? オウヒと連絡取れた?」
 ムツキ「んー、繋がらないねぇ。ヒーちゃん、忙しいのかな?」
 アル「残念ね。偶にはみんなで遊びに行こうと思っていたのだけど」
 ムツキ「アルちゃん、ワクワクしてたのにね?」
 アル「そ、それはムツキもでしょ!?」
 ムツキ「くふふ、それはもちろんだよ。でも、アルちゃん」
 アル「……なに?」
 ムツキ「遊びたかったね、ヒーちゃんと」
 アル「うん……」





第17話 やったら、やり返される

 

 ワタシが駆けつけたときには、何もかもが遅かった。

 

 お店は炎上していたし、辺り一面は焦げ臭い匂いが充満しており、惨状を見物しようと野次馬が殺到していた。

 

 しかし、放火犯は捕まり、店長とそのアルバイトで雇っていた店員は無事。

 命あっての物種、と人は言うかもしれない。被害があったのは、今も尚燃えているお店だけで、最悪の中の最善な事は人命に関わる事は、一切起きていなかったという事だけ。

 

 人は言う────運が良かった。

 世間は言う────計画された放火であった。

 放火犯は訴える────自分たちは何も覚えていない。

 

 確かに、それらは真実だったのだろう。

 だけどワタシはそれだけではない、と断言できる。

 

 終わりじゃない。

 

 これは明らかに、ワタシを狙っている。

 直接ではなく、間接的に、ワタシのみを害するモノ。

 

 あの年増が、どのような方法で、生徒を操っているのかはわからないけれど、どこかで誘拐し洗脳して、ワタシが働き贔屓しているお店────柴関ラーメンを狙ったのだろう。

 

 その効果は絶大であった。

 

 

「……………」

 

 

 ワタシは今も尚、燃えている柴関ラーメンを視る。

 

 文字通り焼き付けるように、この光景を忘れないように、何があっても脳内で思い出せるように、眼を逸らすことなくそれを視る。

 

 

 何も、出来なかった。

 店主であるシヴァさんが呆然と「俺の店が……」って呟いているのを聞いても。

 セリカ先輩が慰めるように、付き添っている姿を見ても。

 ワタシは、声の一つすら、かけることが出来なかった。

 

 だって、原因は全て、ワタシにあるのだから。

 

 

 

「……………っ」

 

 

 奥歯を噛み締める。

 

 口の中から鉄の味がある。強く噛みすぎて、血が出ているのだろうけれど、ワタシは気にすることなく噛み締める。

 

 そうだ、全ての原因は明白だ。

 何もかも、ワタシ(オマエ)に原因がある。

 

 

 ──そうですね、原因はお前にある──

 

 

 二人はここにはいない。

 シヴァさんは大事を取って、病院に診てもらいに行き、セリカ先輩もそれに付き添っていってしまった。

 

 ワタシに話しかける者は誰一人として、存在しない。

 

 野次馬の皆が、今も尚燃え続けている柴関ラーメンに目と意識を向けている。

 

 

 でも確かに。

 その声は聞こえてきた。

 

 それも、一番嫌いな声。聞くだけでも精神が鑢で削られるような、不快で不愉快な声が、脳内に響いて止まない。

 

 それは続ける。

 ワタシの醜態を嘲笑うように、視る事しか出来ない無力なワタシを見下して。

 

 

 ──お加減はいかがでしょうか?──

 

 

 その声に、応じる事などない。

 その声に、応じる必要もない。

 その声に、応じる義理もない。

 

 だけど、その声は、ワタシの反応に愉悦を見出したようだ。

 

 気にすることなく、悪びれもせずに、穿つように。

 

 

 ──被害者ぶるのはよしなさい、小娘──

 

「────」

 

 

 オマエに、言われなくても、わかっている。

 

 ワタシは被害者じゃない。

 ワタシ達の闘争に巻き込まれてしまった人達こそが、本当の被害者だ。

 

 それはシヴァさんであり、セリカ先輩であり、オマエの実験体となり洗脳された生徒達であり────終わった筈の闘争に駆りだされかけているアリウスのみんな。

 

 ワタシは被害者なんかじゃない。

 むしろ、巻き込んでしまった。加害者側の人間。

 

 わかっている、そんなことは、わかっている。

 だから、もう、オマエは黙れ。

 

 

 ──ふふっ、嗤わないのですか?──

 

「…………」

 

 ──貴女の大好きな闘争です。私とお前の、闘争ですよ?──

 

「……………」

 

 ──闘争に憎しみや憎悪は不要。ならば嗤いなさい。お前が吐いた言葉ですよ?──

 

 

 それに、とそれは言葉を区切り。

 

 

 ──()()()()()()()()()()のですから──

 

「そ、れは……」

 

 

 初めて、ワタシは口を開く。

 呆然と、聞いたことがある単語を耳にして、ワタシは反応してしまった。

 

 それがいけなかったのか。

 それは益々、笑みを深めて、一切嗤わないワタシとは対照的に。

 

 

 ──お前は嗤わないのですか? こんなに、愉しいのに?──

 

「…………」

 

 ──共に、お前の言った言葉です。なのに、それなのに、どうしてお前は──

 

 

 その声は蠱惑的に嗤い、楽しくて愉しくてたまらない、と言うかのような調子で。

 

 

 ──何故、お前は、嗤っていないのでしょうね?──

 

 

 胸の奥が掻き乱される。

 蟲が這っているかのように、人が抱いてはいけない黒い感情が、ワタシを支配していくのを感じる。

 

 脳が熱で魘される。

 ありとあらゆる雑念がワタシの中で生まれて、その熱によって焼却されていくのを認める。

 

 でも、思考は、不気味なほど凍結していた。

 発見が一つ。ワタシはある一定のラインを越えると、罵詈雑言を吐き出すのではなく────沈黙するらしい。

 

 ありとあらゆる感情を排斥し、なにもかもの全力をその声に注力する。

 

 弁論の余地はない、口頭の義務などクソ喰らえ。

 

 意味がないのだ。

 沈黙するのは、口で言っても意味がないから。

 

 何もいう事はないから、黙る。

 もうこれは、その先がないから。もうワタシにとってそれは────。

 

 

「もう、いい」

 

 ──もういい、とは?──

 

「これ以上は、意味がない。オマエの下らない遊びに、付き合ってあげる」

 

 ──それは、つまり?──

 

「オマエだけは、絶対に、殺すから」

 

 

 ワタシが沈黙したのは、つまりはそういうことだろう。

 

 この先がないから。

 もう、死ぬしかないから、殺すしかないから、ワタシは沈黙したのだろう。

 

 ラインを越えるとは、そういうことだ。

 やったら、やり返される。それが世の常である。ならば、ワタシのやることなど、最初から決まっていた。

 

 その法則に従い、ワタシのみを狙ったのなら、まだ良かった。

 でも関係のない人を狙うのは、絶対に違うだろう。

 

 それだけは許さない。許してはならない。許してなるものか。

 ワタシではなく、関係のない人達を狙うのなら、もうお前の人生を、終わらせるしかない。

 

 

 ──それは、こちらの台詞ですよ、小娘──

 

 

 愉しそうだった女の声が、がらり、と変わる。

 憎悪に塗れた声で、嫌悪感を隠すことなく、それは続けて言う。

 

 

 ──お前の何もかもを奪う。私の何もかもを奪ったように───

 ──引き金を引いた末路を辿れ──

 ──次は、お前だ──

 

 

 そう言い残し、忌々しいあの女(ベアトリーチェ)の声が消えた。

 

 躊躇いはない。

 ワタシの殺意も憎悪も、何もかもが、あの女に向けられている。

 

 このキヴォトスで殺人は大罪であることは、理解している。

 元々、ワタシ達は頑丈であり、日常的に怪我をする事はあっても、死ぬほどじゃない。

 

 だから、この世界では、死というものが何よりも縁遠いものであり、殺人は大罪となっていた。

 

 それを、今から、ワタシはやろうとしている。

 

 その結果、ありとあらゆる人達に迷惑をかけるかもしれない。

 

 例えば、ミレニアムの人達。

 例えば、柴関ラーメンの二人。

 例えば、ヒナと小鳥遊さん。

 例えば、アーちゃんとムーちゃん。

 例えば、やっと再会できた聖園ミカ。

 例えば、アリウスのみんな。

 

 大罪人と関係があると知られたら、世間の眼は厳しくなるのは明白であり、ワタシと一緒に石を投げられるかもしれない。

 

 でも、大丈夫。

 そんなことにはならない。

 

 だって、ワタシがあの年増を殺した暁には────ワタシも一緒に死ぬのだから。

 

 そうすれば、何事も丸く収まる。

 

 あの女のことだ。

 最悪、ワタシに殺されることも、想定しているに違いない。

 

 アイツを殺したワタシは、世間からしてみたら殺人者でしかなく、ワタシに関わる全ての人を不幸にさせる。それがアイツが想定している物事の終着点なのだろう。

 

 ワタシから何もかもを奪うとアイツは言った。

 そんなこと、絶対にさせない。奪わせはしない。アイツの生きた証は残さない。アイツの憎しみは、ワタシで終わらせる。

 

 やったらやり返されるのも、ワタシで最後とする。

 

 

「殿下」

 

「アツコと、サオリ、かな……?」

 

 

 二つの気配がした。

 一方はアッちゃんの声がして、もう一方はサオリの気配がした。

 

 ワタシは振り向かずに、燃え続けている柴関ラーメンを見る。

 

 

「柴関ラーメンの現状を聞き、参じました」

 

 

 思っていた通り。

 アッちゃんとサオリが来てくれたようだ。

 

 心配して来てくれるなんて、本当に優しい娘達だ。

 

 アッちゃんは気を使うように、優しい声色で。

 

 

「殿下、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ。二人とも、よく来てくれたね」

 

 

 振り返らずに、ワタシは応じる。

 いつもの演技はない。演じれるほど、今のワタシに余裕なんてなかった。

 

 それに違和感を覚えたのか。アッちゃんは訝しむ声で。

 

 

「殿下?」

 

 

 ごめん、ごめんなさい。

 

 今のワタシは、貴女達を直視出来る資格はない。

 

 だって、もう決めたから。あの女を必ず殺す、って選択してしまったから。

 そんな醜くて、汚い人間が、今を必死に生きる貴女達を見て良いわけがない。

 

 ほっと、したからかな。

 少しだけ声が震える。もう二度と会えないことを自覚して、ワタシは少しだけ泣きそうになるのを、堪えて誤魔化すように。

 

 

「でも、大丈夫だよ。犯人は捕まったし、全ては解決。何も問題はないんだ」

 

 

 上辺だけの事実を口にした。

 我ながら、何て白々しいのだろうか。

 

 アッちゃんは直ぐに。

 

 

「本当に?」

 

「うん、誓って」

 

「それじゃ何で、こっちを見てくれないの?」

 

「それ、は……」

 

 

 言葉に詰まる。

 必死に言い訳を考えるけど、何も浮かばない。

 

 この矮小な頭は、すでにあの女への殺意でいっぱいになっていたから。

 

 

「嘘、だね。なにも終わってないんだよね……」

 

「……直ぐに部隊を編成します」

 

 

 アッちゃんは予想していたのか、その声に衝撃はなかった。

 サオリも迅速に行動に移してくれる。

 

 けどそれは、容認出来ない。

 

 地獄に行くのは一人で良いし、彼女達を巻き込むわけにはいかない。

 

 

「アツコ、それにサオリ」

 

 

 ワタシは続いて、振り返ることなく。

 

 

「今回、貴女達は何もしなくて良い。些事は全て、ワタシが何とかするから」

 

「殿下、それは────!」

 

 

 アッちゃんは少しだけ、ワタシの言葉に怒ったように、荒い声で詰め寄ろうとする。

 でも────。

 

 

「殿下」

 

 

 サオリに遮られて、沈黙する事となった。

 

 アッちゃんとは対照的に、サオリは静か過ぎるほど冷静な声色で。

 

 

「一つ、お聞かせ下さい」

 

「うん、なに?」

 

「私達では、殿下のお役に立てないから、何もしなくていい、ということでしょうか?」

 

 

 そうじゃない、そうじゃないんだよ、サオリ。

 

 ワタシは一度だって、貴女達を役に立たないと思ったことなんてない。

 

 貴女たちは、ずっと頑張ってきた。それこそ、ワタシが知らないだけで、ずっとずっと、生まれてきてからずっと。あの女の下で地獄を味わってきた。

 

 なら、そろそろ。

 いいや、絶対に。

 今度こそ、幸せにならないと嘘だよ。

 

 あの女と関わる必要なんてない。再び地獄を経験する事なんてありえない。だって、貴女達はずっと、頑張って生きてきたのだから。

 

 地獄にいくのは、ワタシ一人で充分だ。

 

 もう、アリウスに、ワタシは必要ない。

 あの女は、ワタシが道づれにするから。

 貴女達が心配する事なんて、何もない。

 

 

 そんな言葉を飲み込んで、ワタシは事実だけを口にする。

 

 

「うん、そうだね」

 

「そう、ですか」

 

 

 サオリは冷静な口調のまま。

 

 

「……わかり、ました。殿下のご指示に従います」

 

 

 

 

 

 

 ────今思えばここが最後だったのだろう。

        ワタシがサオリと向き合える機会は、ここで最後だったのだろう────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 △オウヒのマジギレ
 本当にブチギレると黙ります。
 あぁ、コイツと会話しても意味がないな、ってなります。
 もはやレスバすることも不要と断じます。
 自分に対してやられて怒るのではなく、自分の周りが理不尽な目に合うと怒る辺り、コイツは本当に自己肯定感が低いのだな、って思ってもらえるとうれしいです。

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