~ソロモンちゃんねる~
アル「どう? オウヒと連絡取れた?」
ムツキ「んー、繋がらないねぇ。ヒーちゃん、忙しいのかな?」
アル「残念ね。偶にはみんなで遊びに行こうと思っていたのだけど」
ムツキ「アルちゃん、ワクワクしてたのにね?」
アル「そ、それはムツキもでしょ!?」
ムツキ「くふふ、それはもちろんだよ。でも、アルちゃん」
アル「……なに?」
ムツキ「遊びたかったね、ヒーちゃんと」
アル「うん……」
ワタシが駆けつけたときには、何もかもが遅かった。
お店は炎上していたし、辺り一面は焦げ臭い匂いが充満しており、惨状を見物しようと野次馬が殺到していた。
しかし、放火犯は捕まり、店長とそのアルバイトで雇っていた店員は無事。
命あっての物種、と人は言うかもしれない。被害があったのは、今も尚燃えているお店だけで、最悪の中の最善な事は人命に関わる事は、一切起きていなかったという事だけ。
人は言う────運が良かった。
世間は言う────計画された放火であった。
放火犯は訴える────自分たちは何も覚えていない。
確かに、それらは真実だったのだろう。
だけどワタシはそれだけではない、と断言できる。
終わりじゃない。
これは明らかに、ワタシを狙っている。
直接ではなく、間接的に、ワタシのみを害するモノ。
あの年増が、どのような方法で、生徒を操っているのかはわからないけれど、どこかで誘拐し洗脳して、ワタシが働き贔屓しているお店────柴関ラーメンを狙ったのだろう。
その効果は絶大であった。
「……………」
ワタシは今も尚、燃えている柴関ラーメンを視る。
文字通り焼き付けるように、この光景を忘れないように、何があっても脳内で思い出せるように、眼を逸らすことなくそれを視る。
何も、出来なかった。
店主であるシヴァさんが呆然と「俺の店が……」って呟いているのを聞いても。
セリカ先輩が慰めるように、付き添っている姿を見ても。
ワタシは、声の一つすら、かけることが出来なかった。
だって、原因は全て、ワタシにあるのだから。
「……………っ」
奥歯を噛み締める。
口の中から鉄の味がある。強く噛みすぎて、血が出ているのだろうけれど、ワタシは気にすることなく噛み締める。
そうだ、全ての原因は明白だ。
何もかも、
──そうですね、原因はお前にある──
二人はここにはいない。
シヴァさんは大事を取って、病院に診てもらいに行き、セリカ先輩もそれに付き添っていってしまった。
ワタシに話しかける者は誰一人として、存在しない。
野次馬の皆が、今も尚燃え続けている柴関ラーメンに目と意識を向けている。
でも確かに。
その声は聞こえてきた。
それも、一番嫌いな声。聞くだけでも精神が鑢で削られるような、不快で不愉快な声が、脳内に響いて止まない。
それは続ける。
ワタシの醜態を嘲笑うように、視る事しか出来ない無力なワタシを見下して。
──お加減はいかがでしょうか?──
その声に、応じる事などない。
その声に、応じる必要もない。
その声に、応じる義理もない。
だけど、その声は、ワタシの反応に愉悦を見出したようだ。
気にすることなく、悪びれもせずに、穿つように。
──被害者ぶるのはよしなさい、小娘──
「────」
オマエに、言われなくても、わかっている。
ワタシは被害者じゃない。
ワタシ達の闘争に巻き込まれてしまった人達こそが、本当の被害者だ。
それはシヴァさんであり、セリカ先輩であり、オマエの実験体となり洗脳された生徒達であり────終わった筈の闘争に駆りだされかけているアリウスのみんな。
ワタシは被害者なんかじゃない。
むしろ、巻き込んでしまった。加害者側の人間。
わかっている、そんなことは、わかっている。
だから、もう、オマエは黙れ。
──ふふっ、嗤わないのですか?──
「…………」
──貴女の大好きな闘争です。私とお前の、闘争ですよ?──
「……………」
──闘争に憎しみや憎悪は不要。ならば嗤いなさい。お前が吐いた言葉ですよ?──
それに、とそれは言葉を区切り。
──
「そ、れは……」
初めて、ワタシは口を開く。
呆然と、聞いたことがある単語を耳にして、ワタシは反応してしまった。
それがいけなかったのか。
それは益々、笑みを深めて、一切嗤わないワタシとは対照的に。
──お前は嗤わないのですか? こんなに、愉しいのに?──
「…………」
──共に、お前の言った言葉です。なのに、それなのに、どうしてお前は──
その声は蠱惑的に嗤い、楽しくて愉しくてたまらない、と言うかのような調子で。
──何故、お前は、嗤っていないのでしょうね?──
胸の奥が掻き乱される。
蟲が這っているかのように、人が抱いてはいけない黒い感情が、ワタシを支配していくのを感じる。
脳が熱で魘される。
ありとあらゆる雑念がワタシの中で生まれて、その熱によって焼却されていくのを認める。
でも、思考は、不気味なほど凍結していた。
発見が一つ。ワタシはある一定のラインを越えると、罵詈雑言を吐き出すのではなく────沈黙するらしい。
ありとあらゆる感情を排斥し、なにもかもの全力をその声に注力する。
弁論の余地はない、口頭の義務などクソ喰らえ。
意味がないのだ。
沈黙するのは、口で言っても意味がないから。
何もいう事はないから、黙る。
もうこれは、その先がないから。もうワタシにとってそれは────。
「もう、いい」
──もういい、とは?──
「これ以上は、意味がない。オマエの下らない遊びに、付き合ってあげる」
──それは、つまり?──
「オマエだけは、絶対に、殺すから」
ワタシが沈黙したのは、つまりはそういうことだろう。
この先がないから。
もう、死ぬしかないから、殺すしかないから、ワタシは沈黙したのだろう。
ラインを越えるとは、そういうことだ。
やったら、やり返される。それが世の常である。ならば、ワタシのやることなど、最初から決まっていた。
その法則に従い、ワタシのみを狙ったのなら、まだ良かった。
でも関係のない人を狙うのは、絶対に違うだろう。
それだけは許さない。許してはならない。許してなるものか。
ワタシではなく、関係のない人達を狙うのなら、もうお前の人生を、終わらせるしかない。
──それは、こちらの台詞ですよ、小娘──
愉しそうだった女の声が、がらり、と変わる。
憎悪に塗れた声で、嫌悪感を隠すことなく、それは続けて言う。
──お前の何もかもを奪う。私の何もかもを奪ったように───
──引き金を引いた末路を辿れ──
──次は、お前だ──
そう言い残し、忌々しい
躊躇いはない。
ワタシの殺意も憎悪も、何もかもが、あの女に向けられている。
このキヴォトスで殺人は大罪であることは、理解している。
元々、ワタシ達は頑丈であり、日常的に怪我をする事はあっても、死ぬほどじゃない。
だから、この世界では、死というものが何よりも縁遠いものであり、殺人は大罪となっていた。
それを、今から、ワタシはやろうとしている。
その結果、ありとあらゆる人達に迷惑をかけるかもしれない。
例えば、ミレニアムの人達。
例えば、柴関ラーメンの二人。
例えば、ヒナと小鳥遊さん。
例えば、アーちゃんとムーちゃん。
例えば、やっと再会できた聖園ミカ。
例えば、アリウスのみんな。
大罪人と関係があると知られたら、世間の眼は厳しくなるのは明白であり、ワタシと一緒に石を投げられるかもしれない。
でも、大丈夫。
そんなことにはならない。
だって、ワタシがあの年増を殺した暁には────ワタシも一緒に死ぬのだから。
そうすれば、何事も丸く収まる。
あの女のことだ。
最悪、ワタシに殺されることも、想定しているに違いない。
アイツを殺したワタシは、世間からしてみたら殺人者でしかなく、ワタシに関わる全ての人を不幸にさせる。それがアイツが想定している物事の終着点なのだろう。
ワタシから何もかもを奪うとアイツは言った。
そんなこと、絶対にさせない。奪わせはしない。アイツの生きた証は残さない。アイツの憎しみは、ワタシで終わらせる。
やったらやり返されるのも、ワタシで最後とする。
「殿下」
「アツコと、サオリ、かな……?」
二つの気配がした。
一方はアッちゃんの声がして、もう一方はサオリの気配がした。
ワタシは振り向かずに、燃え続けている柴関ラーメンを見る。
「柴関ラーメンの現状を聞き、参じました」
思っていた通り。
アッちゃんとサオリが来てくれたようだ。
心配して来てくれるなんて、本当に優しい娘達だ。
アッちゃんは気を使うように、優しい声色で。
「殿下、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。二人とも、よく来てくれたね」
振り返らずに、ワタシは応じる。
いつもの演技はない。演じれるほど、今のワタシに余裕なんてなかった。
それに違和感を覚えたのか。アッちゃんは訝しむ声で。
「殿下?」
ごめん、ごめんなさい。
今のワタシは、貴女達を直視出来る資格はない。
だって、もう決めたから。あの女を必ず殺す、って選択してしまったから。
そんな醜くて、汚い人間が、今を必死に生きる貴女達を見て良いわけがない。
ほっと、したからかな。
少しだけ声が震える。もう二度と会えないことを自覚して、ワタシは少しだけ泣きそうになるのを、堪えて誤魔化すように。
「でも、大丈夫だよ。犯人は捕まったし、全ては解決。何も問題はないんだ」
上辺だけの事実を口にした。
我ながら、何て白々しいのだろうか。
アッちゃんは直ぐに。
「本当に?」
「うん、誓って」
「それじゃ何で、こっちを見てくれないの?」
「それ、は……」
言葉に詰まる。
必死に言い訳を考えるけど、何も浮かばない。
この矮小な頭は、すでにあの女への殺意でいっぱいになっていたから。
「嘘、だね。なにも終わってないんだよね……」
「……直ぐに部隊を編成します」
アッちゃんは予想していたのか、その声に衝撃はなかった。
サオリも迅速に行動に移してくれる。
けどそれは、容認出来ない。
地獄に行くのは一人で良いし、彼女達を巻き込むわけにはいかない。
「アツコ、それにサオリ」
ワタシは続いて、振り返ることなく。
「今回、貴女達は何もしなくて良い。些事は全て、ワタシが何とかするから」
「殿下、それは────!」
アッちゃんは少しだけ、ワタシの言葉に怒ったように、荒い声で詰め寄ろうとする。
でも────。
「殿下」
サオリに遮られて、沈黙する事となった。
アッちゃんとは対照的に、サオリは静か過ぎるほど冷静な声色で。
「一つ、お聞かせ下さい」
「うん、なに?」
「私達では、殿下のお役に立てないから、何もしなくていい、ということでしょうか?」
そうじゃない、そうじゃないんだよ、サオリ。
ワタシは一度だって、貴女達を役に立たないと思ったことなんてない。
貴女たちは、ずっと頑張ってきた。それこそ、ワタシが知らないだけで、ずっとずっと、生まれてきてからずっと。あの女の下で地獄を味わってきた。
なら、そろそろ。
いいや、絶対に。
今度こそ、幸せにならないと嘘だよ。
あの女と関わる必要なんてない。再び地獄を経験する事なんてありえない。だって、貴女達はずっと、頑張って生きてきたのだから。
地獄にいくのは、ワタシ一人で充分だ。
もう、アリウスに、ワタシは必要ない。
あの女は、ワタシが道づれにするから。
貴女達が心配する事なんて、何もない。
そんな言葉を飲み込んで、ワタシは事実だけを口にする。
「うん、そうだね」
「そう、ですか」
サオリは冷静な口調のまま。
「……わかり、ました。殿下のご指示に従います」
────今思えばここが最後だったのだろう。
ワタシがサオリと向き合える機会は、ここで最後だったのだろう────。
△オウヒのマジギレ
本当にブチギレると黙ります。
あぁ、コイツと会話しても意味がないな、ってなります。
もはやレスバすることも不要と断じます。
自分に対してやられて怒るのではなく、自分の周りが理不尽な目に合うと怒る辺り、コイツは本当に自己肯定感が低いのだな、って思ってもらえるとうれしいです。