こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 ソロモンちっぷす

 コンサバティブちゃんが別行動を取らず、オウヒと一緒に行動していたらVol.2は秒でおわっていた


第19話 out of control

 アリウス生徒会室にて、柔らかく心地よい涼風が吹いた。

 

 見てみれば窓が開いており、そこからはアリウス分校のグランドが一望できる。

 

 喧騒とは言い難い、活気のある声。

 それはアリウスの生徒達のモノであり、訓練に勤しんでいることがわかる。

 

 自治区内でも穏やかな時間が流れていた。

 廃墟に等しかった自治区も今や、人が住める程度には繁栄していた。

 

 しかし、まだインフラの整備が終わってないのもあってか、重機が稼働する際に聞こえるエンジン音が響き、今もなお作業が続いていていた。

 

 自治区で生活している者の顔も明るい。

 誰もが希望に満ち、誰もが明日に意識を向けて、されど今を懸命に生きていた。

 

 天上院オウヒがアリウス分校に君臨してから、はや数ヶ月。

 驚異的な速度で復興は進んでいる。それだけ、アリウスの生徒達の士気は高いのだろう。

 

 だがそれでも、気合だけではどうしても埋めようがない、現実が彼女達の前に立ちふさがる。

 例えば、資金。例えば、人員。例えば、アリウスを取り巻く勢力。

 

 問題は山積みであり、一朝一夕で片付く問題ではなかった。

 

 アリウスが完全に復興する道は険しく、いばらの道と言っても差し支えないだろう。

 

 それだけ、以前の独裁者がもたらした爪痕は大きく、そして深い。

 

 

 

 

 活気に満ちている自治区とは対照的に、アリウス生徒会室は静まり返っていた。

 

 物音一つ聞こえない。

 それもあってか、やけに自治区の喧騒が耳に入るようで。

 

 アリウスが衰退する原因である以前の独裁者────ベアトリーチェは不快そうに顔を歪めて。

 

 

「煩いですね」

 

 

 一言だけ呟いて、意識と視線を彼女達に戻す。

 

 彼女達とは、ベアトリーチェと対峙していているアリウス生徒達。

 それは、秤アツコであり、戒野ミサキであり、槌永ヒヨリであり、そして────、

 

 

「────っ」

 

 

 ────錠前サオリ、であった。

 

 サオリは三人の前に守るように立ち、ベアトリーチェに愛銃の銃口を向けている。

 

 下手な行動をしたものなら撃つ。

 サオリの愛銃の適正距離の範囲内。引き金に指をかけて、いつでも発砲することが可能である。

 

 サオリの圧倒的有利は変わりない。

 それなのに、どういうわけか今のサオリの表情に余裕がなかった。

 

 あまりに必死な表情で、怯えるように、ベアトリーチェに銃口を向けていた。

 

 対するベアトリーチェに焦りの表情はない。

 むしろ、サオリの状態が正常であると言わんばかりに、脅威として認識しておらず。

 

 

「さて……」

 

 

 涼しい顔のまま、かつての君臨者は続けて。

 

 

「久しぶりですね」

 

 

 その口調は気軽であり、連絡をしなかった旧友に声をかけるくらい、軽いもの。

 

 しかし、纏う雰囲気は重苦しいそれ。

 まるで威圧するように、有無を言わせずに、反論する事すら許さないと言わんばかり。

 

 加えて、アリウスの生徒達は、ベアトリーチェに精神的にも、肉体的にも、苦痛と苦渋を強いられていた。

 

 それはある種の虐待。

 彼女達が萎縮してしまうのも、仕方ない事。

 

 だが────。

 

 

「今更、何の用なの? ……ううん、訂正するね」

 

 

 口元を薄く、切り裂くような笑みを浮かべて。

 されど、眼は笑っていない調子で────アツコは続けて言う。

 

 

「────どの面を下げて、私達の前に現れたの?」

 

 

 毅然とした態度で、あまりにも堂々と。更には口調は冷たく、斬って捨てるかのような切れ味で。

 

 かつての恐怖の象徴に、眼を逸らすことなく。アツコは真っ直ぐと、ベアトリーチェを見る。

 

 対して、思わず。

 ベアトリーチェは感心するように、ほう、と声を洩らして。

 

 

「何も出来なかった貴女が、この私に敵意を向けますか」

 

「癪に障った?」

 

「いいえ、貴女程度に歯向かわれても、痛くも痒くもありませんので」

 

 

 だけどそうですね、と言葉を区切りベアトリーチェは如何にも退屈そうな口調で。

 

 

「少し見ないうちに、大きな口を叩くようになりましたね。()()の威を借る小動物、といったところでしょうか?」

 

「否定はしないよ。私達は殿下のおかげで、強くなったから」

 

 

 皮肉に対して、アツコは歯牙にもかけない。

 

 むしろ、ベアトリーチェの反応が滑稽と言わんばかりに、クスクス、と鈴が鳴ったような笑みを浮かべて。

 

 

「視野も広くなったし、貴女の器の狭さも知れた。ホント、大人気ない人だったんだね貴女は」

 

 

 これ見よがしに、ため息を吐いたアツコは続けて。

 

 

「もう一度聞くんだけど────殿下からコソコソ逃げ回ってたくせに、今更アリウスに何の用なの?」

 

 

 あまりにも攻撃的な口調だった。

 

 普段のアツコからは想像が出来ない厳しい言葉の数々。

 

 それに衝撃を受けたのは、サオリだけではない。ヒヨリも、ミサキも、彼女の普段を知る人間であればあるほど、今のアツコを見て驚愕する事だろう。

 

 外面は儚げであり、内面は少しだけ悪戯好きであり、仲間思いの気品のある少女。

 

 だが今は違う。

 アツコは既に、ベアトリーチェを外敵として定めており、静かな怒りで以て応じている。

 

 そもそもの話、アツコに驚きはなかった。

 突然のベアトリーチェの来訪に、意外なほどアツコは冷静に受け止めている。

 

 しかしそれは、アツコ以外もそうであるか、といわれると違う。

 

 サオリは銃口を向けているものの、未だに混乱の極みにあり、ミサキとヒヨリは同じ事。

 

 それを証拠に。

 

 

「ど、どうしてこの人が、ここにいるんですか!?」

 

 

 耐え切れず、ヒヨリは慌てた調子で口を開く。

 

 その様子は明らかに狼狽しており、その反応も無理はなかった。

 

 何せ、ベアトリーチェは突然現れた。

 かつての恐怖の対象が、気配もなく、匂いもなく、突如としてその姿を現したのだ。

 

 それに答えたのは、冷静で応じていたアツコ。

 彼女は敵を見据えたまま、一挙手一投足を見流さないよう観察しながら。

 

 

「……殿下は私達を信頼してくれている」

 

 

 それは確信に満ちた声だった。

 

 しかし現に、それは事実である。

 

 アリウスの経営と運営を任せ、生徒会長をアツコに定め、天上院オウヒという生徒は裏方に徹していた。表舞台に出た時────先のシャーレの要請もアリウスを立て個人では動かず、あくまでアリウスを率いて参陣している。

 

 それこそが、アリウスの戦力や力量を信頼している証左と言えるだろう。

 

 その上で、アツコは続けて言う。

 

 

「そんな殿下が、今回は私達に動くなって言った。それはきっと、()()()()()()()()()()()()()()なんだと思ったんだ」

 

 

 だって、と言葉を区切り。

 

 

「殿下は優しいから、私達が()()()に関わって欲しくなかったんだ。だから自分一人で処理しようとしていた」

 

「つまりは、姫はさ────」

 

 

 もはや困惑している様子はない。

 

 ミサキは苛立ちを隠さず、アツコと同じくかつての恐怖の対象に、憎悪にも似た感情を乗せて、ベアトリーチェに視線を向けながら。

 

 

「───コイツが、私達と殿下の邪魔をしようとしてる、ってこと?」

 

「うん。柴関ラーメンの火事も、きっとこの人の仕業」

 

 

 そうでしょう、と問いかけられるも、ベアトリーチェは無言を貫く。

 

 口元には笑みを浮かべて、小馬鹿にするように。

 それが答えだった、それが全てだった。オウヒが独りで行動する原因も、自分が原因であると彼女は暗に語る。

 

 

「許せません」

 

 

 対して声を上げたのは、ヒヨリだった。

 

 彼女は静かに、されど確かな声色で、不快感を露にしながら。

 

 

「やっと幸せになれたのに。殿下と一緒に笑って、美味しいものを分け合って、たくさん食べて、また笑って。その繰り返しだけど、でも楽しかった。それだけで幸せだったのに、それだけでよかったのに。どうして、どうして! 貴女は邪魔をするんですか!」

 

 

 それは感情を爆発させるだけの、言葉だった。

 けれど、それがヒヨリにとっての全てでもあった。

 

 やっと、幸せになれるかもしれないのに。ひもじい思いをせずに、満腹になるほど食べる事ができて、それを美味しいと笑い合える人と出会えたのに、どうして邪魔をするのか、と。

 

 子供のような癇癪であるかもしれないが、槌永ヒヨリにとっては、それが全て。

 

 それに同調するかのように、ミサキはヒヨリの肩に手を置いて。

 

 

「もう、さ。やることは決まってるじゃん」

 

 

 直ぐに話して、ミサキは腰に差してあった拳銃を抜いて構える。

 

 照準を定めて、外さないように両手で握り締めて。

 発砲したものなら確実に。ベアトリーチェの命を終わらせる事を、誓うように殺意に満ちた眼で、険しい表情のままミサキは続けて。

 

 

「コイツが殿下の敵だったのなら、最初から問答なんて必要なかった。撃って終わり。それだけの話でしょ?」

 

 

 それに同意するように、アツコは無言で己の愛銃を取り出して、ヒヨリは怒りから双眸に涙を溜めながら力強く頷いた。

 

 そうして自然と。

 サオリに守られていた三人は、己の意志で一歩前に踏み出して、今度はサオリを守るように敵と定めた者の前に立つ。

 

 思わず、それをサオリは呆然と見る。

 

 

「────────」

 

 

 そして────見惚れていた。

 

 幼い頃から、物心付く頃から、サオリは彼女達を、アリウスの生徒達を守ってきた。

 

 ベアトリーチェの魔の手から守り、ベアトリーチェの理不尽な怒りの矛先を自分に向くように庇い、ベアトリーチェからの叱責からもサオリは自分が犠牲になることで被害を最小限にしてきた。

 

 今回、サオリが三人を守るように立ち塞がったのは、反射的なもの。

 長年身に着いてきてしまった癖と呼べるモノが、考える前に肉体が反応をしてしまっただけのこと。

 

 サオリにとってそれは、苦痛なものではなかった。

 

 他人に強要されることがない自己犠牲。

 自分が犠牲になることで、皆を守れるのなら、それでよかった。

 

 だが今は違う。

 

 三人が意図的にしているものなのか、それとも無意識なのか。

 

 今度は、サオリを守るように、ベアトリーチェに彼女達は対峙していた。

 

 最早守られるだけの存在ではない。

 自らの意志で、かつての恐怖の対象と、闘おうとする姿を見て、サオリが誇らしくなるのも無理はない。

 

 ならば自分も、と。

 

 彼女達に恥じないように、自身が忠誠を誓う者の敵と、真正面から堂々と向き直ろうと。

 

 

「…………?」

 

 

 違和感。

 

 天上院オウヒの敵となったかつての恐怖の対象────ベアトリーチェはサオリをジッと見ていた。

 

 まるで観察するように、サオリの状態を診察する医者のように。

 口元には笑みを張り付かせて、彼女は()()()()()を見つめていた。

 

 ゾッ、と。

 サオリは己の肌が粟立つのを認める。

 頭の天辺から足の爪先まで、悪寒が走る。

 

 何を考えているのか、わからない。何故自分を見つめているのか、考えているサオリに。

 

 

「────安心しました」

 

 

 対峙する三人を歯牙にもかけず、その無数の眼はサオリだけを見て、ベアトリーチェは喜悦に満ちた声で。

 

 

「貴女は何も変わっていませんねサオリ」

 

「なに、を……」

 

「えぇ、何も変わってません。アレに誓う忠誠心以上に、私に恐怖しているその姿。えぇ、安心しました。故にこそ────貴女は良い駒になる」

 

「────────」

 

 

 今度こそ、サオリは言葉を失った。

 

 あの女は、何を言った、と。

 

 思考が真っ白になり、直ぐにある感情に支配されていく。

 

 それは、怒り。

 今のサオリを見れば、周りの空間が歪んでいるように錯覚してしまうほどの強い怒り。

 

 空間すら支配するほどの、微かに残った理性で抑え込み圧縮し、今も構えている愛銃を握る手に伝わる。

 

 銃口がぶれるのは震えているから。

 震えているのは怒りによるものから。

 怒れているのはありえない侮辱を受けたから。

 

 何といった。

 あの女は何と言った。

 自分の忠誠心が、あの女に向けている恐怖心以下だと言ったのか。

 

 壊れた蓄音機のように、先ほど吐かれた言葉を反芻しながら、サオリはやっと口を開く。

 

 

「ミサキの言うとおり、問答など不要だった」

 

 

 怒りを感じさせない、穏かな声。

 

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

 

 聞き返すベアトリーチェの声色も同様。

 彼女もまた、サオリと同じく穏かな声。

 

 サオリに変化はない。

 表情は能面のように無表情で、されど不気味なほど平静な声で、その言葉を口にする。

 

 

「────さよならだ、マダム。貴女と話す言葉は何もない。脅威と見なしたアリウスに、土足で踏み込んだ末路を辿るがいい」

 

 

 誰が引き金を引いてもおかしくないほど、アリウスの生徒会室は殺意に満ちていた。

 

 これから壮絶な殺し合い、もしくは虐殺が始まる。

 物音一つあったものなら、直ぐにでも銃声が鳴り響く。そんな極限な状態に置いても。

 

 

「クッ、」

 

 

 ベアトリーチェに変化はない。

 いいや。

 

 

「クッ、ハハッ……」

 

 

 むしろ、彼女は。

 

 

「アッハハハハハハハッ!!」

 

 

 哄笑。

 もう、堪らない抑え切れない、と言わんばかりに腹部を押さえて、身体をくの字に曲げて嗤う。

 

 嘲笑うといっても差しつかない。

 限りなく下品に、ありとあらゆる尊厳を足蹴にするかのような、遠慮も戸惑いもない笑い。

 

 サオリは眉を潜めて、不快感を隠さずに問う。

 

 

「……何が可笑しい?」

 

「なにって……」

 

 

 自分が絶体絶命である事も意に返さず、彼女達のかつての恐怖の対象は笑いながら息切れしながら、途切れ途切れ言葉を洩らす。

 

 

「貴女があまりにも……っ的外れなことを言うのでっ。思わず笑わずにはいられませんでした……っ」

 

 

 なにを、とサオリが言う前にベアトリーチェは事実だけを口にする。

 

 

「第一に、私が貴女達如きを脅威と見なした事等、一度足りともありません」

 

「……ならば何故ここに来た」

 

 

 サオリの問いに、ベアトリーチェは簡潔に述べる。

 

 

()()を殺すための駒が欲しかったからですが───()()は先ほど見つけました」

 

 

 ────サオリを見ながら、彼女は続けて言う。

 

 

「あとはそうですね────」

 

 

 言葉を区切り、ベアトリーチェの目の色が変わる。

 

 もうまともではないそれは、狂気に満ちたものであり、口元を引き裂くような笑みをで。

 

 

()()に私は告げました。お前の何もかもを奪う、と」

 

 

 歌うように、謳うように、謡うように。

 軽い口調で、羽の生えたかのように心を躍らせて、ベアトリーチェは言葉を吐く。

 

 そして身体がぶれた。

 まるで蜃気楼のように、その場から最初からいなかったように、彼女は自身の身体を半透明にさせて。

 

 

「貴女達は生贄です。()()を殺すための、()()を呼ぶための、()()への報復のための、生贄でしかない」

 

 

 ベアトリーチェは消えながら。

 

 

「良い声で鳴いてくださいね。貴女達が鳴けば鳴くほど、()()は善い顔になるというものですから────」

 

 

 瞬間、ゾッ、と。

 サオリの背筋が凍りつく。

 

 説明なんて出来ない。彼女の長年の経験則から、この後何かが起きると、告げていた。

 

 

「みんな、速く逃げ────!」

 

 

 サオリの声が続く事はなかった。

 

 物理的に防がれたから。

 衝撃となり、爆音となり、爆炎となり、ソレが炸裂した頃のにはサオリの視界は暗転する。

 

 爆発が起きた。

 衝撃が走った。

 何もかもが崩れ去った。

 

 建物が爆発し、上を見上げれば何かが飛来するのを、アリウス生徒達は見た。

 

 しかし何も出来ない。

 キヴォトスの技術では再現できない武器が、アリウス分校の空を覆い付くし、容赦なく殺到する。

 

 再現できない兵器、つまりはオーパーツ。

 それこそが────巡航ミサイルと呼ばれる代物。

 

 ソレに対して、彼女達は何も出来ない。

 何が起きたのかもわからないまま、いとも簡単に崩壊する。

 

 そうだ。

 いとも簡単に。

 奇跡的な復興をなしかけたアリウス分校は、ここで崩壊する。

 

 まるで、今までの奇跡が、うたかたの夢であるかのように────。

 

 

 

 

 

  





 本編でやったことが、因果を巡って自分達に返ってきました。
 そんな19話です。

 
 コレジャナイ、コレジャナイ、と難産してやっと完成しました。
 
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