────我ながら、なんて嫌な子なんだろう、って思う。
彼女達だって、心配だったから、ここまで来た事はわかっている。
至聖所を守護していた
アレらに自己意思はないものの、共通の命令系統があり、それを守るために全力を尽くしていた。それこそ、自分のみがどうなろうと、ベアトリーチェを守るという命令を絶対とし、それを侵す者を排除する。
あまりにも単純な命令。
でも、それが
個体としての強さもさることながら、全体としての強さも眼を見張るものだった。
それも当たり前なのかもしれない。
意志が統一されて、そのために各々全力を尽くす。己の意志がない。それこそ、不死の軍団といえる。
本当に嫌になるよ。
一体倒しても、次から次に湧いてくる。一体倒しても二体に増えているし、二体倒しても今度は四対に増えている。
一匹見たら何とやら。
軍体というよりも、性質的に考えると
だからこそのレギオンなのだろう。
彼らないし彼女らは、大勢であるが故に。
アレらの包囲網を崩すのは、私でも梃子摺った。
パテル派の皆が頑張ってくれて、今も時間を稼いでてくれている彼女達が協力してくれたから、私はここまで辿り着けた。
一人ならもっと、時間が掛かったに違いない。
それをたった二人で突破して来た。
無理なまま、無茶を通して、道理を捻じ曲げたここまで辿り着いたゲヘナの二人────陸八魔アルと浅黄ムツキ。
「はぁ、はぁ……っ!」
最初の威勢はどこへやら。
陸八魔アルの疲労の色が濃い。それは浅黄ムツキも同じ。
二人とも、余裕なんてなかった。
ここへ辿り着くのに、全力だったに違いない。
先生に呼び出されたアビドス三年生を見て、あの子達の幼馴染に何かあったのだと思い、無我夢中でここまでやって来たのだろう。
辿り着くまでに力尽きる可能性が高かった。
数の暴力の前に屈するかもしれなかった。
彼女達自身、無謀なのは百も承知だった。
それでも、だとしても、それがなんだと。
そんなことよりも張らなきゃならない意地があったんだろう。
それだけ幼馴染が────天上院オウヒが心配だったってこと。
「っ……」
本当に嫌になる。
あぁ、わかっているよ。
私が彼女達と同じ立場なら、同じ選択肢を取る。
大事な人が捕まって、どうなっているかも分からない状況で、事態が動いたのなら、余力なんて残している場合じゃない。
壁があるんなら打ち砕き、障害があるのなら叩き潰して、なんとしても辿り着くと足掻く。
それは同じだった。
私も彼女達と同じ事をする。
大切な人を守る為に、力の限り、足掻き続けるに違いない。
私が嫌になったのは、彼女達に対してじゃない。
私の子供っぽくて、悪い子で、明らかに面倒臭い、こんな性格が嫌になっていた。
同じ人を想っている者同士、サオリやアリウスの皆とも協力出来た。
きっとだけど、他の人とも力を合わせることは出来たと思う。
でもあの二人とだけはダメだ。
絶対に無理。死んでも無理。協力するくらいなら舌を噛み切る。これくらい嫌だし無理。
だってそうだろう。
私の方が先だったのに。あの娘と知り合って、喧嘩して、その綺麗な両目で見られたのは、私が先なのに。
それなのに、後から出てきた癖に。
あの娘の事なら何でも知っている、みたいな顔をしちゃって、おまけに『私達のオウヒ』なんて勝手に宣言して。
「もうっ、ウネウネ! 気持ち悪いわねっ!」
「アルちゃんアルちゃん。しかもコイツ、再生するよ? 本当に生物なの?」
「知らないわよ、そんなこと! ほらムツキ、爆破! ドッカンドッカンやっちゃいなさい!」
はーい、なんて軽い口調で、浅黄ムツキは黒い鞄からパイナップル型の手榴弾を取り出すと、慣れた手付きでピンを抜いて、躊躇いなくベアトリーチェに放り投げた。
周囲には爆音が鳴り響き、待機の壁を叩き、衝撃となって私達の身体へと奔って行く。
おかしいな。
市販で売っている手榴弾でも、ここまでの威力はない。となるとアレは、浅黄ムツキが自作したモノなのかな?
キヴォトスで生活する生徒がまともに受けたら、ここで終わっていたかもしれない威力。
でも敵は、只人ではなくなった怪物。
この程度の爆発物で、処理できるわけもなく。
「き、効いてない!?」
「んー、しかも耐性ついてない? 最初よりも効き目が薄いような……」
なんでよーっ!? と慌てる陸八魔アルと、冷静に分析し私見を述べる浅黄ムツキ。
あまりにも対照的な二人を見て、私は思わずため息出る。
なんて呑気な。
アレは私やあの娘でも、手を焼いていた怪物だ。たかが爆発物でどうにか出来る筈がない。
そう。
あの娘は、心強い援軍といったけど、明らかに力不足だ。
彼女達が戦闘に参加したところで、何の影響もない一飛沫に過ぎない。
大切な人を守りたい。そんな尊く綺麗な信念も、あの汚濁の前には無力でしかなく、いずれは飲み込まれる淡い光でしかない。
それを証拠に。
「────あ」
「え……?」
鬱陶しいといわんばかりに、その無数の触手が陸八魔アルと浅黄ムツキに奔る。
一人は呆然と、もう一人は信じられないと、眼を丸くする。
これが彼女達の執着だ。
当然だ。
力がないのだから、実力が伴っていないのだから。
ベアトリーチェが抱く圧倒的憎悪の前には、想いだけでは何も成せない。
捌いても、迎え撃っても、爆ぜても、尽きない悪意の豪雨。その前には、ただ綺麗な想いなんて何の意味もない。
本当に嫌になる。
自分自身が嫌になる。
あれだけ、二人を貶しておきながら────。
「────させないよ?」
────余計な世話を焼く自分自身が嫌になる。
アレだけ二人が嫌なら、嫌いなら、気に入らないのなら、見捨ててしまえばいいのに。
でもソレすらも出来ない。
だって、彼女達があの娘に抱いている想いは本物だから。
本当に嫌いだからこそわかってしまう。
彼女達は本当の意味で、自分たちの幼馴染を大切に想っているのだと。
それを見捨てる事なんて出来ない。
見捨てたものなら、私の恋も、否定する事になるから。
私は『Quis ut Deus』の引き金を引いた。
連続して乾いた銃声が鳴り響き、彼女達に迫る触手の悉くを撃ち落す。
最初はぽかん、と。
次に涙目になりながら、陸八魔アルは私に向かって。
「あ、ありがとう。助かったわ……」
「……お礼はいいよ。それより、次が来るよ?」
「次って────きゃあ!? またウネウネしてる!?」
「ちなみに、触れたら最後。多分だけど、違うナニかになると思うから気をつけて?」
「ななな、なんですってー!?」
明らかに狼狽しながらも、一本一本、迫り来る触手を撃ち落していく陸八魔アル。
火事場の馬鹿力というやつなのかな。
最初の頃よりも格段に、動きが良くなっているのは気のせいじゃないと思う。
「でもさ、今更どうして私達を助けようとしたの?」
そう口にしていたのは浅黄ムツキだった。
彼女は、マシンガンを片手に、爆発物を投擲しながら続けて言う。
「あなた、聖園ミカでしょ? 私達をトリニティ自治区から出禁にした」
「へぇ~。知ってたんだ?」
「まぁね~。カヨコちゃんにも協力してもらったからね、調べるの。理由も、まぁ、何となくわかるけど」
「そっかそっか」
私は思わず笑みが零れるのを自覚する。
良かった。
私の気持ち、浅黄ムツキには伝わっているみたい。
彼女達も私に言いたい事はあると思うけど、私だって彼女達に長年の恨み節がある。
けれどここはグッ、と我慢。私だって空気は読めるんだもん。
「あの娘が一撃で、あの化物を吹き飛ばす。それまで私達は時間稼ぎってことで。私のことは気に入らないと思うけど、ここは─────」
「時間稼ぎねっ! わかったわっ!」
「────協力して、って……」
思わず肩透かし。
きょとん、と。頭の中で考えていた事が、何もかもを吹き飛ばされた感覚に陥る。
陸八魔アルが即答、してくるとは思わなかったから。
考えなし、というわけじゃないだろう。だがその答えは直ぐに、陸八魔アル本人から聞くこととなる。
「オウヒは貴女の事を信頼してて、任されたのでしょう。だったら私達も信じるし、貴女に協力する。それだけよっ!」
「────────」
当たり前のように、さも当然のように、あまりにも堂々と。陸八魔アルはそう言った。
大切な人が信じているからこそ、自分たちも信じる。
それが出来る人間が、どれほどいるだろうか。私も彼女のように、信じる事ができるだろうか。
答えは、わからない。
そのときの状況にならないと、私は出来ると断じる事ができない。
誰にでも出来る事じゃない。
それなのに、陸八魔アルは難なくと、背中を預けるという選択をした。
浅黄ムツキは彼女を見て、やれやれ、と困ったように首を横に振った。まるで慣れているかのように、いつもの光景と言わんばかりに、日常の風景であるかのように、浅黄ムツキは何も言わなかった。
あまりにも眩しい善性。
それはまるで────。
「はぁ、本当に嫌になるよ」
否定するように、私は首を横に振る。
本当に眩しい。ゲヘナの癖に。角付きの癖に。私がゲヘナを嫌いになった原因の癖に。
あぁ、本当に。眩しくて、自分の嫌なところが浮き彫りになるから、嫌になる。
告げる。
ニッコリと満面の笑みで。清々しい気持ちで、私は彼女達に告げる。
「折るのは勘弁してあげる。でも絶対に許さないよ陸八魔アル、覚えておいてね浅黄ムツキ」
「えっ、本当に何でなのよ────っ!?」
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
──本当に魅せてくれる。
──あの輪の中に、いないのが悔しいくらい。
──ワタシも、一緒に、闘いたかったな。
あぁ、それは出来ない。
彼女達が頑張ってくれているように、アリウスの皆とシャーレの先生が戦線を維持してくれているように、外周にはワタシなんかを助けてくれようと集まってくれた人達のように。
ワタシも、やるべきことを、果さなければならないから。
ワタシがやるべき事なんて、簡単なことだった。
一撃で、何もかもを消し飛ばして、ぐうの音も出ないくらいの完全勝利、文句をつけようのない大団円。
それこそが、ワタシがやるべきことであり、これまで迷惑をかけた罪滅ぼしでもある。
「――――限定解除開始。神秘、解放――――」
自分の中で、寝ていた回路を叩き起こす。
『アサ改』の銃口を年増に定めて――――稲妻が奔る。
それも一度ではない。何度も、何度も。バチ、と連続で音が鳴り、閃光のように発光する。
ビナーに放ったソレの非じゃない。
大きく、確かに、光が奔り、熱が走る。
告げる。
「――――神経接続――――神秘圧縮――――神秘順転――――生存本能、
この言葉に意味はない。
要領が悪いから、ワタシは確かめるように、その言葉を紡いでいく。
銃口が、銃が、ソレを握る手が。次第にワタシの身体から、膨大な熱が帯びていく。
そうして、ベアトリーチェは漸く気付いた。
今まで三人を襲っていた触手が停止し、赤黒い双眸はワタシをジッと見つめて。
「──────────!!!!」
悲鳴にも似た絶叫を吼える。
三人を相手にしていた触手が全て、ワタシへと奔らせる。
心臓が昂ぶり、痛みでどうにかなりそうな身体だけれど、焦りはなかった。
銃口は依然として、敵を狙い。
放電は依然として、銃を奔る。
闘志は依然として、陰ることは無く――――。
「じゃあね、年増。オマエの顔なんて、もう二度と、見たくない────っ!」
神秘装填、魔砲砲撃。
心の中で、短く、小さく、自身に命じて――――引き金を引いた。
瞬間、轟音が鳴り響く。
ワタシ自身が砕かれそうになる衝撃、それでもと放たれるは膨大な一射。
それは流星のように、熱を伴って、紅く黒い蜘蛛を穿つ。それを防ぐ術を、蜘蛛には持ち合わせていなかった────。
そうして、ここに、勝敗は決した。
ワタシ達はここにいて、蜘蛛の如き女は消え果てる。
「────ぁ」
ここでワタシの限界が来た。
意識が暗転する、意志が遠のいていく、ワタシが立っている意味はここで消える。
「……っと」
ふわり、と。
何かがワタシを包み込んで離さなかった。
気絶する寸前で、ワタシは抱き抱えられていた。
それが誰なのか。問うまでもなかった。
「大丈夫?」
「ありがとう、ワタシの運命……」
朦朧とする意識で、ワタシを抱き抱えてくれた人に────聖園ミカにお礼を述べた。
もう、眼も開けてられない。ワタシはぼんやりとした口調で質問した。
「とし、ま、は……?」
「いないよ。本当に消し飛ばしたの?」
「ううん。まだアイツは生きているよ」
「えっ、それじゃ────」
「だいじょうぶ。あとは、おとう────黒いのが任せろ、って言ったから」
「それ、って誰────」
その質問には答えられない。
意識が遠のいていく。
本当に限界だったみたいで、今度こそ、意識を手放し、視界が暗転した――――。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼
まるで、月明かりだけが、生きているようだった。
あれから、どれほどの時間が経過したのか、彼女には知る術がない。そんなことに、気を回せる余裕もなかった。
「──っ、はぁ……ぐっ……っ!」
苦悶な声が口から洩れる。
何かが這う音が聞こえるが、それは比喩でも何でもなかった。
彼女は一心不乱に、立つこともままならない身を引き摺って、この場を後にしようと必死にもがき苦しんでいた。
その者の名は────ベアトリーチェ。
先程まで、オウヒ達と闘っていた者であり、絶対の有利性を誇っていた者であり、その全てを吹き飛ばされた者である。
ズリズリ、と。
月明かりが照らす地で、周りを見渡せば誰も住んでいない廃墟が彼女の無数の眼に移りこんだ。
ここがどこなのか、自分の五体はどうなっているのか、アレから何が起きたのか、自分は何をされたのか。
全く把握出来ないまま、べトリーチェは逃げるように這い続けていた。
しかし、一体ナニから逃げるのか。
それは、一目瞭然だった。
「あの女っ……! よくも、よくも私をこのような……っ! 一度死んだ癖に、死にぞこないの癖に! なんて、なんて生き汚い……っ!」
忌々しげに呟く怨嗟の声。
あの女、つまりは天上院オウヒに他ならず、ベアトリーチェが逃走し続けている原因でもある。
計画は完璧だった。
彼女の特性、性格、行動原理、何を善しとし、何を悪しとするのか、全てを把握し追い詰めた。
だというのに────。
「何もかもを打ち砕かれた……っ! 何なんですか、あの力はッ……」
彼女の脳裏に焼きつくのは、先程の光景。
あまりにも規格外な一撃だった。
光の束が収束され、神秘を込められた砲撃。自身の飲み込み、何もかもを吹き飛ばし、極光に包まれた光景が、ベアトリーチェの脳裏で焼きついて離れない。
余りある憎悪と嫌悪、それが吹き飛ばされて恐怖に震える。
それほどまでに、オウヒの放った砲撃は規格外なものだった。
「くそ、くそっ、くそ……っ!」
故に、這い続ける。
身体に激痛が奔り、立つこともままらないが、止まれば光がやって来るという、恐怖心からベアトリーチェは這い続けていた。
重ねて言うが、計画は完璧だった。
オウヒの神秘を取り込み、不測の事態に備えて対処できるよう
今となっては、取り込んだ神秘も搾りカス程度しか手元にはなく、
ベアトリーチェの逆転の目は、最早ない。
「……いいえ、まだです。まだ、あの小娘を、叩き落す手段は、まだ、ある」
否。
か細く、逆転と言い難いが、まだ手はあった。
これまで、他者を洗脳する手段として、多くの生徒を実験し、使い潰してきた。文字通りの意味で、使い潰してきたのだ。
アリウスで、ミレニアムで、気ままに生活している裏では、数多の者達が犠牲になってきたと、告げたらあの小娘はどんな顔をするだろうか、と。
きっと、悲観するに違いない。
きっと、絶望するに違いない。
きっと、後悔するに違いない。
きっと────自分を責めるに違いない。
その思考は、既に勝敗など気にしていなかった。ありとあらゆる手を使って、天上院オウヒが己に失望する姿が見たい。ただそれだけの欲求でしかない。
もうベアトリーチェの思考は曇っている。
正常な判断が出来ない者が、どれほどの緻密な計画を練ったとしても、破綻するのは明らかだ。
そういう意味では、
時間をかければ良かった。
徐々に、首を絞めるように、オウヒを追い詰めれば良かった。
そうすれば、何もする事も出来ず、オウヒは詰んでいたことだろう。
焦ったからこそ。
オウヒの背景にいる存在。手を出したものなら、誰が邪魔をするのか。
わかっているからこそ、ベアトリーチェは事を急いでしまい、強行とも呼べる手段に出ざるを得なかった。
「ごきげんよう、マダム」
「────っ!」
思考が凍結した。
何故なら、それは唐突に現れたから。
まるで散歩帰りのような足取りで、彼女のかつての同志とも呼べる存在が、オウヒに手を出した者なら出張ってくる存在が、声をかけてきた。
見下ろすように、罪人を見る判事のように、黒いスーツに見を包んだ人影────黒服と呼ばれる怪人は退屈そうに口を開く。
「酷い姿ですね。誰にやられた、など聞くつもりはありません。見ていましたので」
クックック、と。
喉を鳴らすように、彼は笑みを浮かべていた。
いいや、笑みなどではない。
その言葉の節々には殺意があった。笑ってなどいなかった。彼の言動は怒りに満ちている。
「貴女の魂胆は把握しています。どうせ、これまで廃人となった生徒を使おうとしているのでしょう?」
見透かされた。
それに衝撃はない。むしろ次の黒服の言葉に、彼女は凍りつくこととなる。
「それは叶いません。貴女には申し訳ありませんが、こちらで処置致しましたので」
「────は?」
彼女の無数の眼が見開く。
対して、黒服は取るに足らない、と言わんばかりに事実だけを、淡々と告げた。
「無論、処置といっても、貴女のように非人道的な意味ではありませんよ? ちゃんと治療し、今では社会復帰しておりますとも」
「どう、やって……」
「今までの研究成果を応用して……っと、すみません。今の貴女に言っても無意味でした」
何故なら、と言葉を区切り。
「────貴女は既に、我々の同志ではないのですから」
「なん、ですって……?」
「我々ゲマトリアは探求者。狂気こそが、我々が打倒するモノであり、憎悪に呑まれた貴女にゲマトリアとしての資格はない」
「口を慎みなさいっ! お前の独断で、私をゲマトリア追放など出来るわけが────」
「……あぁ、何か誤解があるようですね。貴女の追放は、私の独断ではありませんよ。マエストロ、デカルコマニー、それにゴルコンダ。三名の同意の上です」
「なっ……!?」
信じられないと言わんばかりに、黒服を見上げるベアトリーチェだが、黒服はさも当然と言わんばかりの口調で。
「貴女は勝手が過ぎた。我々の研究結果を無断で転用するどころか、我々が打倒すべき
「
「ここでシラを切りますか。それは
そこまで言うと、黒服はいいえ、と首を横に振る。
これ以上の問答は不要であり、無用であり、無意味と言うかのように。
「それでは、ベアトリーチェ。最後にこちらを」
「なにを────」
黒服が彼女の前に何かを置いた。
それは物体であるが、どういった形をしているのか、明かりが月明かりしかない現状では、分かるわけがない。
それが何なのか。
ベアトリーチェが把握する前に。
「あ、ああ、あぁ……っ!」
それが起動する。
同時にどういう原理なのか。
「ああぁぁぁあああっ!?」
ベアトリーチェだけを飲み込んでいった。
ありとあらゆる方向から、身体が捻じ切られるのを感じる。身体が分解していくのを理解する。視界が擦り切れていくのを把握する。
必死に黒服に手を伸ばすも、彼が応じることなどない。
ただ見下ろし、彼女の有様を見物し、見届けていた。
「い、嫌だ! まだっ! 私には、次が、ここが最後なんで……っ!」
「いいえ、いいえ。貴女に次などない。ここが終着です、ベアトリーチェ」
意識が遠のく。
万力で囚われているかのように、ベアトリーチェは何も出来ない。何す術もない。
ならば、と。
己の内にある、微かな『万能の神秘』を起動してどうにかしようとするが。
「無駄です」
「────っ!?」
「貴女を呑む込んでいるモノは、貴女が接触した
「お前ガ、動カナかっタのは、私をコウスル為に……っ!」
「それこそ誤解ですよ。私が今まで見に回っていたのは、貴女如きがあの子を害することなど出来ないと思っていたからですよ」
もう用はないと言わんばかりに、黒服は踵を返す。
会話する意味もない。言葉を交わす理由もない。だからこそ、ベアトリーチェの末路など既に興味がなかった。
「貴女の末路は自業自得。我々を利用し尽くし、
「────────」
聞いたことがある言葉だった。
何故なら、それは、かつて彼女が黒服に投げた言葉だから。
だが、ベアトリーチェに応対する力はない。
何故なら、口の部位にだった部分は既に呑み込まれている。
喰らいつくように、離さないソレは、容赦なくベアトリーチェを掴んで離さない。
それでも、ベアトリーチェは手を伸ばすのは、生存本能故なのだろう。
それも直ぐに終わる。
ゴキッ、と。何かが砕ける音と共に、ベアトリーチェの伸ばしていた手は虚空へと消えて、ソレも消えることとなった。
残されたのは静寂。
見届ける者すらもいない。
ベアトリーチェの末路は、ただ静寂が、知っている。
次回でVol.2最終回です。
長かったようで短かったVol.2ですが、最後までどうかよろしくお願いします!
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