こちら、世界征服推進部ソロモンである   作:兵隊

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 これは、違う世界の記憶。


Vol.3
事二至ルマデ


 

 

 人の価値観は平等ではない。

 他人から見たら些細なモノでも、本人からしたらそれは、譲れない何かになり得るモノだ。

 

 そういう意味で、人の思考には、必ず差異が生まれる。

 

 何かが許されると、他人が許さないと決心するように。

 何かを悪と断じて、それを善と定める者が必ず存在する。

 

 つまりは、優先順位の問題でもある。

 己の定めた指針と言っても良い。

 

 何を是とし、何を否とするのか。

 

 それこそ千差万別。

 十人いれば十人。千人いれば千人。万人いれば万人。

 

 考えは違ってくるというモノ。

 

 

 

 ────それは、ワタシにも、勿論当て嵌まる。

 

 

「………………」

 

 

 酷い有様だった。

 

 空は血のように紅く、眼下に広がる大地も血の色のようだった。

 大小の瓦礫が転がり、その下には数百の、物言わぬ躯が転がっている。

 

 自分に言い聞かせる。

 この者達は、キヴォトスを、この世界を崩壊させようとした者達────テロリストであると。

 

 事実、その通りだった。

 

 ()()()()()()()()によって、()()()()()()()()()()()()()()()()、キヴォトスという世界は混沌となり、いとも簡単に連邦生徒会が崩壊し、秩序は崩壊した。

 

 今のこの世界は、幸福に満ちた学校生活などなく、誰が味方で誰が敵なのかわからない。疑心に満ちた生徒達は、友人同士で争い、戦闘の火種は各地で燻り、燃え広がっている。

 

 転がっている連中もそんな類の連中だった。

 

 かつて、ゲヘナに存在した『雷帝』と呼ばれた生徒がいた。

 その生徒が開発したという、兵器を連中が手に入れ、この世界を支配しようと考えた。

 

 それをワタシが、いいや、ワタシ達が止めた。

 

 作業のように、何の感情もなく、警告なんてある筈もなく。

 ワタシ達は、連中を止めて、世界を救った。

 

 こういったことは、初めてではない。

 

 生徒の暴走で、あるいは大人の狂奔で、もしくは人ですらない存在の手によって。

 このキヴォトスは、何度も何度も危機に瀕し、その度にワタシ達が争いの種を摘み取ってきた。

 

 

 

 連中とは対話なんてしない。

 だって、無駄だから。話したところで、何も変わらない。連中の凶行は止められない。

 

 何せ、試した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ワタシが持つ神秘の力で、何度も何度も繰り返して、数えるのもバカらしくなるくらいやり直した。

 

 でも結果は変わらなかった。

 言葉を選び、手段を変えて、結末を変えようと足掻いた。でも変わらない。()()()()()では何も変わらない。

 

 悲劇なんてどこにでも転がっていた。

 全てを救う事なんて出来ない。ワタシに出来るのは、物事の優先順位を定めて、一番大切なものを守る事くらいしか出来ない。

 

 

 そのためなら、ありとあらゆる存在を犠牲にしてきた。

 

 それは、大切だった幼馴染達であったり。

 それは、ワタシの面倒を見てくれた先輩達であったり。

 それは、ワタシという存在を変えた唯一無二の存在であったり。

 それは、ワタシの────父親のような存在であったり。

 

 ありとあらゆる存在を犠牲に、ワタシは存在している。

 世界を守り、大切な人達を守る為に、生き汚く存在している。

 

 

オウヒ

 

 

 声が聞こえた。

 ワタシの彩る、人の声。ワタシが守ると誓った二人のうちの一人の声。

 

 振り返ると、その人がいた。

 

 片目の怪我を隠すように、包帯が巻かれている。

 無事である、もう片方の眼には生気がなく、濁っているようにも見える。

 

 酷い顔だった。

 とはいえ、人のことなんて言えない。ワタシもきっと、同じような眼なのだろうから。

 

 

「終わった?」

 

「はい、お姉様の方は?」

 

「ん、終わったよ。何もかも」

 

 

 それ以上は言わない。

 言葉通りの意味だと思うから。

 

 そうして、ワタシ達は静かに、肩を並べて立っていた。

 

 間違いなくワタシ達は、世界を救った。何度目かは覚えてないけれど、キヴォトスを守った。

 まるで作業のように。壊れた機械が同じ行動を繰り返すように、争いが起きるとワタシ達は稼動を初めて無感情に動く。

 

 そこに、達成感などある筈もない。

 漠然とした、事実だけが残る。世界を救ったという事実だけが残った。

 

 

「お姉様」

 

「なに?」

 

「先生は?」

 

「寝ているよ、今も。何も変わらない」

 

 

 あぁ、知っている。

 知っているのに、ワタシは聞いている。

 

 彼はずっと寝ている。

 先の()()()()()()()()()()()()()()()()()()。死んではいない、生きている。ただ意識を取り戻さないだけ。

 

 いつか。

 必ず、いつか。

 こうして世界を守っていれば、必ずいつか。

 

 起きてくれると。

 おはよう、って呑気に言ってくれるものだと。

 どうして危ないことをしているんだ、って叱ってくれると思っていた。

 

 でもそんなハッピーエンドは訪れない。

 ワタシ達が何度も世界を守っても、先生は目覚めない。

 

 救う度に、心が欠けそうになる。

 

 それでもこうして戦うのは、ワタシ達が銃を手にするのは、もう一度先生に会いたいからなのだろう。

 

 お姉様以外の大切な存在。

 二人のうちの一人に、もう一度会いたいから、ワタシはこうして戦っているのだろう。

 

 

「ねぇ、オウヒ

 

「はい」

 

「疲れたね」

 

「そう、ですね」

 

「ねぇ、オウヒ

 

「何でしょう、お姉様」

 

「どうして私達は、生きてるんだろうね」

 

 

 ワタシには答えられなかった。何も、言えなかった。

 何もかもを犠牲にして、何もかもを捨てて、二人を選んだワタシには何も言えなかった。

 

 終わらない罰を己に課し。

 償いきれない罪に怯える。

 

 そして、ワタシは何度も繰り返すのだろう。

 

 性懲りもなく、馬鹿の一つ覚えのように、作業のように。

 争いが起きたら介入に、機械のように効率よく、速やかに火種を排除するのだろう。

 

 それは、あぁ、なんて────。

 

 

「醜いのでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 





 △『ワタシ』
 世界を救う為に奔走している生徒の一人。
 その行為は決して、善意ではなく、義心に駆られたからではない。何よりも大切な二人を守りたいから。それこそ、何を犠牲にしようとも。その程度の理由でしかない。
 愉しい思い出も、過去の記憶も、何もかもが既に磨耗している。作業のように闘う。まるで機械のように。

 △『お姉様』
 『ワタシ』が慕う人物の一人。
 
 △『先生』
 『ワタシ』が慕う人物の一人。
 今はこん睡状態にある。

 
 
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