~ソロモンちゃんねる~
トキ「大きな声で、なおかつハキハキと堂々とした態度で失敗を報告すると、リオ様が心なしか怯み、有耶無耶に出来そうな空気になるのでオススメです」
オウヒ「なるほど、良いライフハックを聞いた。ありがとう」
ヒマリ(怯むというか、ビックリしているだけだと思いますが、黙っておきましょう。面白いので、という顔)」
ネル(そこは止めてやれよ、という顔)
ワタシはミレニアムタワーのエレベーターに乗っていた。
最上階のセミナー生徒会室から、目指すべき階層に降りていく。
出入り口の上部に設置されている、ディスプレイには現在の階層が示されていた。
視線を感じたわけではない。
単純に、単調な景色に飽きて、ワタシは階層が表示されているディスプレイから、顔を横に向けて視線を外す。
そこからはミレニアムタワーから、キヴォトスが一望できる。
全く揺れがない。そして、静かなもの。
とてもエレベーターに乗っているとは思えないくらい、快適な状況だけど、その景色が教えてくれた。
視点が上から下へと確実に下がっており、間違いなくワタシはエレベーターに乗っている事を、教えてくれた。
その上で。
「凄いな、うちの学校の技術は……」
惜しみなく、賞賛の声を呟いた。
本当に揺れがない。
ここで布団を敷いて、寝ることも出来ると断言できるほど、エレベーターに乗っているとは思えないほど、ヒトに親切な設計だったから。
間違いなくミレニアム産であると、ワタシは信じて疑わなかった。
他の学校、もしくはどこかの企業が造ったエレベーターだと、微塵も思わなかった。
だって、うちの学校は凄いから。
須らく、例外なく、キヴォトスにある電子機器や発明の類は、ミレニアムが造ったものであると、ワタシは断じる。
そこで、ふと気付いた。
自分が、思っているよりも、このミレニアムサイエンススクールという学校に、誇りを持っているということが。
カッコつけずに言うと、だ。
好きなんだ、この学校が。
「ミレニアムが好きといえば」
思い出す。
ワタシ以上に、この学校を好いている人のことを。
「大丈夫かな、会長」
視線を上へと向ける。
エレベーターの天井しか映らないけれど、意識は最上階のセミナー生徒会室へと向けた。
あれからワタシは、会長が目覚めるまで、膝枕をして頭を撫でていた。
どらくらい、時が経ったのかは覚えてない。
それほど穏かな時間だったし、ワタシにとっても心地良いモノであったから。
だけど物事には終わりは必ずやってくる。
少しだけ寝ぼけた声で、うん、と会長は呟いて目を開けた、焦点が定まっていない顔とぼんやりとした眼で、ワタシの頬を撫でてくれたと思ったら。
バッ、と。
眼を見開いたと思ったら、勢いよく飛び上がり、横になっていたソファーから立ち上がると、ワタシに背を向けて固まってしまっていた。
何度も声をかけた。
でも応答はなく、顔を覗こうとしても背を向けてしまう。辛うじて見えた、耳や首、それから頬は真っ赤に。
調子が悪いのか、と聞いても、返答は決まって「大丈夫よ」とか細い声で応じられる。
そんなだから、会長がどんな顔なのか、どんな表情でいるのか、ワタシは見ることが出来なかった。
会長の身に何が起きたのか、どうしてそんなことになっているのか、顔を真っ赤になっている原因はなんなのか。
ワタシはわからないけれど、調子が悪いのなら生徒会室に留まっていても、会長の迷惑になるかもしれない、と判断したワタシは生徒会室から出て行った、というわけだ。
「無理はするな、って言ったけど。うーん……」
心配になる。
ただでさえ、会長は満足に寝ていない。睡眠不足は体調不良の原因だし、何よりも美容の天敵だ。
もしかしたらだけど、あのまま無理矢理寝かしつけるべきだったかもしれない。
そう考えていると。
「うん?」
エレベーターが止まった。
目的の階層に着いたのかな、って思ったけどワタシが目指す階よりも上階で止まっている。
なるほど。
誰かがこの階でエレベーターに乗ってくるみたいだ。
出入り口が開いた。
乗ってきた人物は。
「あん?」
その人物は、ワタシの顔を見るなりリアクションをする。
怪訝な顔で、今にも「何でお前がここにいる?」と言いたげな顔で。
「なんでお前がここにいるんだ?」
言葉にも出していた。
あまりにも不躾な問いだけど、その人らしいとワタシは肩を竦めて。
「何故とは、これまた異なことを問うなネル。余とてミレニアムの生徒。ミレニアムの生徒がミレニアムタワーのエレベーターにいて、なんの不思議があろうか?」
「それもそうだが、お前がいると禄でもないことが起きるからな。警戒しちまった」
「ククッ、酷くない?」
本当に酷いと思う。
ヒトをトラブルメーカーみたいに。泣きそうになっちゃう余。
ネルちゃんこそ、やるからには徹底的に、受けた屈辱には十倍返し。そんな性格の癖に。
禄でもないことになる、という意味ではネルちゃんこそだと、ワタシは思うのです。
「……」
「なんだよ、ジッと見て?」
「いいや、何も?」
ククッ、といつもの笑みを浮かべてワタシは誤魔化した。
言えるわけがない。
だって怖いから。何せ怖いから。怒ると怖いから。
事実を口にしない。ワタシは黙して語るのみなのです。
沈黙は金というしね。
自分で言っておいてなんだけど、使い方間違っているねこれ。
多くを語ろうとせず、さも意味ありげに口元に笑みを浮かべるワタシに対して、ネルちゃんは怪訝な顔で再びワタシを見る。
けど無駄なのです。
ワタシは何も考えてないのです。だからそんな怖い顔をしないで欲しいのです。
そこで、ネルちゃんは気付いた。
自分が下りる階を押していない事に。
ひとまず、ワタシのことよりも、そちらを優先したようだ。
ワタシから視線を外して、下りるべき階を押そうとしたところで。
「ん?」
先に押された階。つまりは、ワタシが下りる階を見て、再びワタシに視線を向けて。
「この階に用があんのか?」
「で、あるな」
「珍しいな。お前が部活階に行くなんて」
ミレニアムタワーの中には、多くの設備、研究室、開発室から生徒会室まで存在する。
それは、部室も例外はなかった。
一つの階層に纏められており、ワタシが下りている階層も、部活階と呼ばれている階層だった。
ちなみに、正式名称ではない。
利便上、ミレニアム生徒の一部がそう呼んでいるだけだ。
ワタシがお世話になっている、エンジニア部の部室も部活階にあるのだけど、主な活動が実習センターのエンジニア部が保有している作業室で行なわれているので、ワタシがエンジニア部の本来ある部室に近付く事はない。
そういう意味では、ネルちゃんの言うとおり、ワタシが部室階に下りるのは珍しかった。
ネルちゃんは、ニヤニヤ、とからかうように。
「んだよ、アリウスの王様もやっと帰宅部を辞めるときがきたのか?」
「何がいいたいのだ?」
「部活に入るつもりじゃないのかよ?」
「違うが?」
確かに、ネルちゃんがそう思うのも無理はない。
だってワタシは帰宅部。
どこの部活にも所属していない根無し草だ。
数多の部室がひしめき合っている部活階に下りるのだから、そう思われるのも無理はない。
ならば何の為に部活階に向かっているのか、と。
腑に落ちない様子のネルちゃんに喜悦に満ちた声で。
「余が不在の間に、面白い生徒が転入してきたと聞いてな。漫遊がてら、足を運んでいる」
転入してきた生徒。
つまりは────天童アリスちゃん。
リオ会長に渡された資料には、あの職人達の巣窟『ゲーム開発部』に入部しているとあった。
ワタシが部活階に下りるのも、アリスちゃんに興味があったから。
リオ会長が調べたことが本当なら、とんでもなく愉しい娘なのは間違いない。
会長がどうするつもりなのか。当事者でもない、ワタシにはわかるわけがない。
どちらにしても、会ってみて損はないだろう。
幸いな事に、先生の時とは違って、接触禁止とは言われていない。
ならば、会っても問題はないという事。
本当に愉しみだ。
強い人達には会った事があるけれど、キヴォトスを滅ぼすかもしれないなんて途方もない力をもった人とは会った事がない。
胸が高鳴るのを自覚する。
逸る気持ちが抑えきれない。
「転入生、って……あぁ、アイツか」
直ぐに誰の事なのか、把握すると。
「ソイツなら部室にいねぇぞ」
「なんと」
えっ、そうなの。
それは想定外だった。
どうしようかな、出直すとしようか。
そう考えていると。
「……案内してやろうか?」
渡りに船とはこのことを言うのかもしれない。
ワタシは疑うことなく、ネルちゃんと転入生の娘が、いつの間に仲が良くなったのか聞くよりも早く。
「案内してもらおうか」
「それで、なんでお前がアリスのことを知ってんだ?」
ミレニアムタワーから出たワタシ達は、ミレニアムの大通りを肩を並べて歩いていた。
この辺りだ。
ワカモと初めて会って闘ったのは。
ぼんやり、と。
少しだけ懐かしむワタシに、唐突にネルちゃんがそんなことを聞いてきた。
「リオに聞いたのだ。面白い転入生がいるとな」
「へぇ、アイツが」
含みのあるように、ネルちゃんは頷き納得すると。
「それ以外のことは言ってなかったのか?」
「それ以外、とは?」
「それ以外はそれ以外だ。アリスが転入生なのはいい、事実だからな。それ以外のことを、お前には言ってなかったのか?」
言った。
思いっきり言ってた。
ワタシ一人で処理出来ない程の、重要な事を告げていた余。
そのことを口にしようとしたけど、違和感を覚えてワタシは口を閉ざす。
ネルちゃんの口ぶりは、探るようなモノだった。
少しでも情報を引き出そうとするモノである、とワタシの直感は告げていた。
アリスちゃんの事、もしかしたら会長は、ネルちゃんにも言ってないのかもしれない。
ワタシは少しだけ考えて。
「特に何も」
多くを語らない事を選択する。
もしワタシの直感が本当なら、きっと会長も考えがあってのことだと思ったから。
ワタシが軽はずみで口にして、二人の関係を壊すのは、どうも違う気がする。
言わないと伝わらない事を、先のやらかしでワタシは学んだけれど、
対してネルちゃんは静かに。
「そうか」
「何故、リオが余に何かを告げたと思った?」
「理由はねぇよ。ただ強いてあげるのなら、アイツはお前を信頼している。だからお前には何かを打ち明けたかもしれない。そう思っただけだ」
どこか拗ねるように、面白くなさそうな声でネルちゃんは言う。
それから直ぐに、神妙な顔と声で。
「お前も会ったならわかるだろ。最近、アイツの様子がおかしい」
「ほう、わかるのか?」
「バカにすんじゃねぇ、って言いたい所だが、アイツが分かりやすくなったのは最近だ。ちょっと前までは無表情で、何を考えてんのか分からなかった」
「ククッ、それは是非もあるまい。リオが表情を変えるなど、珍しき事」
「昔はそうでもなかったけどな。それこそ一年生の頃は、わかりやすかった。そう考えると、変わったってより、
「心当たりは?」
「あん? そんなこと────」
にわかに信じがたい言葉を聞いたと言わんばかりに、ネルちゃんは勢いよくワタシを見る。
戻ったのはわかったよ。
でもどうして、そこでワタシを見るのか分からない。
ついでにいうと、どうしてワタシを見る眼が、正気を疑うような顔で見てくるのかわからない。
「いいや、いい。あたしが口にするのは野暮ってもんだろう」
「野暮とは?」
「聞くなよっ! 空気読めねぇなお前は!」
何故か怒られてしまった。
なんて失礼な。ワタシだって最低限の空気は読めますよ。本当だよ、天上院嘘つかない。
「……本当にわかってねぇのかお前?」
「うむ、皆目検討がつかぬ」
「堂々という事かよ。鈍感というか、何というか。リオも苦労するな……」
心外だ。
会長に苦労をかけることなんて────たくさんあったけど。というか、これからも迷惑をかける未来しか思い浮かばないけれど。
ネルちゃんは呆れるように、ため息を吐いて。
「あたしからは言わない、つーか、言えねぇ」
「……で、あるか」
「ただヒントくらいは教えてやるよ。リオが昔に戻りつつあるのは、余裕が出来たからだろう」
「なるほど」
「その余裕が出来たのは、お前とつるむようになってからだ」
「……それとこれと、余に何の関係があるのか?」
「それ以上はお前が考えろバカ」
それだけ言うと、ネルちゃんは続けて。
「アリウスで拉致されたお前を助けるよう依頼してきたのも、リオだからな。アイツに感謝しろよ?」
「シャーレの先生ではないのか?」
「それは後だよ後、最初はリオだ。血相を変えてな。依頼っていうよりも、アレは懇願だな」
ちゃんと礼をしておけよ、と言うネルちゃんは立ち止まって。
「着いたぞ」
「ここは……」
ワタシ達は立ち止まった。
視線の先には何の変哲もないビルがあった。
出入りするミレニアムの生徒。
ミレニアムの自治区にあるのだから、出入りするのはミレニアムの生徒が多いことに、特に疑問を感じることはない。
でも、出入りするのは、ミレニアムの生徒だけではなかった。
ゲヘナの生徒から、百鬼夜行連合学院の生徒、この辺りで見るのは珍しいレッドウィンター連邦学園の生徒、それに大人の人達。
極めつけは、お忍びで来ているように、他人を眼を気にしながら入っていくトリニティの生徒までいた。
「ネルよ」
「なんだ?」
「この中には何が?」
素直に疑問を口にするワタシに、ネルちゃんは悪戯を成功した子供のように笑い。
「やっぱり、お前には馴染みないか」
馴染みとは、と口にする前にネルちゃんは続けて。
「ゲームセンターだよゲームセンター」
「ゲームセンター……」
確かに、ワタシには馴染みがない単語だ。
別に禁忌していたわけでも、行きたくなかったわけでもない。単純な話、ワタシはゲームセンターという施設に興味がなかった。
「ここに件の転入生がいると?」
「あぁ。これから、その転入生にリベンジマッチだ」
「ゲームセンターでか?」
というか、ネルちゃんも抜け駆けはよくないと思います。
ワタシよりも先に、アリスちゃんと闘っていたなんて。なんて羨ましい────いいや、なんて羨ましい!!
でも前例がいるのだから、ワタシだって気兼ねなく戦闘のお誘いが出来るというもの。
場所がゲームセンターというのが、どこか腑に落ちないけど、ネルちゃんが終わったらワタシも闘ってもらおう。
リベンジマッチということは、あのネルちゃんが負けたという事。
それは愉しみだ。
とても愉しみだ。
なんて愉しみだ。
どれだけ強いのか、想像が出来ない。
もしかしたら、手も足もでない可能性すらある。
かなり素敵だ。望むところだ。胸が高鳴って仕方ない。
「おっ、噂をすれば」
「────────」
ネルちゃんの視線の先を追う。
そこにいたのはミレニアムの生徒が一人。
背丈はワタシよりも少しだけ小さい。長い黒髪に、その背中には大きなナニかを背負っている。彼女の身長くらい大きな物体。きっとアレが、彼女の獲物なのだろうと想像出来る。
嗚呼、我慢が出来ない、辛抱が堪らない。
見ただけでこれだ。声を聞いたら、ワタシはどうなってしまうかワカラナイ。ネルちゃんに言って、ワタシから先に闘わせてもらえないか、と考えていると。
「あっ、チビネル先輩────」
そう言って、笑顔で駆け寄ってきたアリスちゃんは、ある一点を見て固まった。
振り向く。誰も居ない。
前を見る。アリスちゃんは固まっている。
再び振り向く。誰も居ない。
つまりは。
「え?」
ワタシを見て、アリスちゃんは何故か固まっている。
初対面の筈なのに。ワタシ達は初めましての筈なのに。
どこかアリスちゃんの視線が熱を帯びているように感じる。
まるで、どこぞのスポーツ選手を見たかのように、子供のように興奮するように。
ワタシを指差して。
「ほ、」
「ほ?」
ワタシは首を傾げる。
アリスちゃんは遮るように、これまた大きな声で。
「ほ、本物です!! アリス、知ってます! あなたは、王様カノジョの────誰かです!」
はて、王様カノジョ?
なんだろうか、それは。
興奮していたワタシは、どこかに消えてしまっていた。
存在するのは、困惑を極めたワタシ。
だから間抜けな顔で、これまた間抜けな声で、思い切り間抜けに聞き返すのは仕方のないことだとワタシは思うのです。
「────なんて?」
王様カノジョ IS なに?
△昔のリオ会長
今よりももう少し表情が柔らかく、リアクションもあった、という一年生の頃。
それに戻りつつあるのは余裕が出来たから。誰が原因かは言わぬが華。
当の本人は、わかっていない。天上院はクソボケである。
△あの職人達の巣窟『ゲーム開発部』
オウヒの中のゲーム開発部。
どうして、そうなったのかは【第3話 ゲーム開発部という職人集団】を参照。
ゲーム開発部という部を一番評価しているのはオウヒ。会った事ないのにね。
△「あなたは、王様カノジョの────誰かです!」
王様カノジョ
【幕 間 ミドリは激怒した】を参照。
テイルズ・サガ・クロニクルをやったのなら、王様カノジョもやるよね、と。
攻略対象の名前や性格はちがうものの、全員が金髪紅眼。製作者の癖がこれでもかと押し付けた恋愛シュミレーションゲーム。
アリス「全部同じじゃないですか!」
モモイ「全然違うよ。これだから素人はダメだね! よく見てよ!」
講義は五時間以上続いた。
拷問かな?
ゲームの中の人物だと思ってのに、現実にいるもんだからアリスのテンションが上がっている。
キャプテン・アメリカだって現実世界にいて、それを見たらテンションが上がる。そういうものである。
△王様カノジョ IS なに?
オウヒ「聞いたことがあるような、ないような……?」
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