「ビオン!そっち持って!せーの!」
『目標、5000!いえ、5500!車体を安定させて!』
「レナ!まだか!」
『あと5秒はかかります!』
「急いでくれ!長くは、ストリンガー!前進!ヤツが撃ったぞ!逃げろ!レナ!急げ!長くは持たん!」
「装填完了!」
『発射!』
大きなショックと共に主砲から粘着榴弾が解放される。おかげで本車の周りは夕方なのに一瞬だけ昼のように明るくなった。
『……3、2、1、着弾!』
「シャッターの半壊を確認!前進する!」
私達は今、かつてフランスが存在したエリアに武装勢力の鎮圧作戦で来ている。いや、来ているという設定で動いている。これはあくまでも戦闘シミュレーション。実際のこのエリアに武装勢力は居るかも知れないけれど、私は預かり知らない。
「作戦を開始する。まずはこれから陣地の攻略を始めよう。レナ、車長用のヘルメットだ。これを被ってくれ。皆はこっちを。」
トンボの複眼を思わせる赤いヘルメットを隊長に渡される。ちょっと嫌だけど勿論受け取るしかない。被る。お、おぉ……?
「赤いヘルメットは周囲のカメラやドローン、ヘルメットと接続できる、うまく使ってくれ。」
視点を上空のドローンに切り替える。
『あの……陣地って……あれ、ですか……?』
映像をPDAに共有。見た者からどよめきが走る。
「こ、こんなの!こんなの、陣地じゃなくて要塞じゃない!」
ベルカ、その指摘は正しいと思う。観測ドローンの映像で見る夕暮れに染まった要塞はとても美しかった。私達に砲門を向けていなければ観光だってできただろう……。
『私にとっても要塞にしか見えないのですが……。』
「うん、確かに要塞だ。でもって流石にAFV(装甲戦闘車両)を用意した。流石にな。」
AFV2台が異次元から現れたかのように出現した。一つは砲塔が後ろにあって主砲が長くて太い。もう片方は……陸に揚げられたラジコン戦艦のようにすら見える。もう片方が小さく見えるくらい大き過ぎるけれど。
「レナ、ビオン、ベルカ、エノス、ストレルカ、君達は左の戦車、あー……その重戦車に乗ってくれ。マルフーシャ、スネジンカ、ストリンガー、私と来てくれ。ライカ、アリビナ、フェリセット、君もだ。」
この重戦車には初めて乗る。追加装甲が頼もしい……砲塔正面は甲虫類ぽさがあってちょっとアレだけど……。
砲塔の車長席に私が座り、砲手席にエノス、装填手の位置にビオンとベルカ、操縦手席にストレルカが座ったり立ったりしている。
『どれどれ……取説、取説……えーと、FV215b?』
「レナ、行けるか?」
『少々お待ちを。』
『みんな、大丈夫?』
無言で頷く乗員を見て確信する。
『問題ありません。レナ車、前進します。』
「了解、こちらも移動を開始する。作戦開始。」
「要塞砲の着弾予測をHMDに転送する。レナ車の乗員は車長の指示に従うように。」
『げっ……ストレルカ!1時方向へ!』
「了解……。」
『衝撃備え!』
「総員、どこかに掴まりなさい!揺れるか……!」
『来るぞー!!』
車外を撮影するカメラには遠くからこちらへと爆発が順繰りに迫ってくる様子が見える。
「あわわわ!」
「ビオン!掴まって!」
衝撃に包まれる車内。現段階では直撃はしないはずの位置に居るけれど、大質量が地面に降り注いで運動エネルギーが解放されるからなのかまるでWMD(N6とか)が連続で落ちてきているときのような感覚を覚えてしまう。
『エノス!』
揺れる車内で砲閉鎖機に頭をぶつけそうになったり一次弾薬庫に身体をぶつけそうになっているエノスを頭だけでも支える。
「レナ!先行せよ!目標は敵トーチカの無力化!繰り返す!前進し、敵トーチカを無力化しろ!急げ!」
『は、はい!』
『……少佐、なんで航空戦力が無いんだろうね?』
うわ出た、もう一人の私。隊長を殺しかけるわ、おしっこを漏らすわ、ろくでもない事しかしない。
『分からない。』
『もしかしたらこれはテストなのかも。』
『テスト……。』
「あ、あの……コマンダー……さん?」
『ん?あっ……ご、ごめん。』
ビオン、ごめんね。まだご退出願えてなくて……。
『ストレルカ、前進!次の砲撃までに距離を稼ぐよ!』
30分は走り続けている。たびたび、砲撃が近くに落ちて車体が激しく揺られるけれど……それ以外に問題は無い。
「車長、まだ続くの?」
『そろそろ破壊対象のシャッターが見えてくるはずなんだけど……要塞砲は見えてきた。』
戦艦の主砲を流用した要塞砲と説明されても納得できる砲塔群がこちらを向いている。おや?
『……!』
1時方向に茂みに偽装された特火点(トーチカ)を発見。
『1時方向にAT!』
「了解!」
『エノス、1時方向射距離300!』
「わかった。」
車長席からリモコン機銃でトーチカの銃眼を制圧射撃しながら他のトーチカを探す。どこだ……どこだ……発砲炎!
「うわぁっ!」
強い衝撃が車体ごと砲塔を揺さぶってくる!
『本車被弾!各員、損傷は……!?』
発砲炎が見えたあたりを制圧射撃!
「発射。」
熱線映像が一瞬だけ白飛びしてもとに戻る。
「操縦手、軽く頭を打った。」
夕暮れの空を一層明るくする爆炎。トーチカは爆発によって天井が崩れてしまったらしい。
「砲手、は、問題ありません。」
「わわわ、わたしが囮になります!」
「ビオン!しっかりしなさい!」
『ストレルカ、交代する?』
「作戦を続けて。これも仕事だし。車長、指示を。」
『6時方向に100m後退。もう一度HESH。射距離400。方向は11時。』
「車体弾薬庫より給弾中!もう少し待って頂戴!せーの!」
「装填完了!」
『発射!』
「了解。」
発砲。もう一つのトーチカも破壊する。
「ふぅ……。」
『前進。』
「降ってくる!」
『衝撃に備えて!』
『ターゲットを発見!シャッターまで……6000!』
「敵戦車。11時、距離3000、です。」
「レナ、11時の戦車は任せろ!シャッターを攻撃してくれ!」
『了解。』
周囲を見渡すと後方にいる"戦艦"が主砲から火を吹いていた。
「敵戦車を排除。」
『了解。』
……!シャッター付近から発砲炎が見えた!トーチカだ!
「……!ぐっ……!」
後ろを見れば陸上戦艦が被弾、左履帯が切れていた。
「本車被弾!被害を確認する!」
『HESH!急いで!』
「なんで一次弾薬庫が1発分なのよ!ビオン!そっち持って!せーの!」
『目標、シャッター!距離5000!いえ、5500!車体を安定させて!』
「レナ!まだか!」
『あと5秒はかかります!』
「急いでくれ!長くは、ストリンガー!前進!左に車体をわずかに振れ!レナ!急げ!長くは持たん!」
「装填完了!」
『発射!』
大きなショックと共に主砲から粘着榴弾が解放される。おかげで本車の周りは夕方なのに一瞬だけ昼のように明るくなった。
『……3、2、1、着弾!』
「シャッターの半壊を確認!前進する!」
残りのトーチカを片付けて要塞のシャッターを突き破り、突入したところで全てが光に包まれた。まるで核が落ちたかのように。
─
HMD
:ヘッドマウントディスプレイの略称。レイジングストームに現れる敵特技兵のフルフェイスヘルメットに多少似ているヘルメット(HMD付き)をレナとライカ中佐は装備している。
FV215b
:史実では183mm砲を装備した自走砲……らしいが、今回のFV215bはWoTに登場するFV215b(HT)にスティルブリュー追加装甲を取り付け、エンジン、変速機等駆動系を強化した上で120mm砲を183mm砲に換装したキメラとなっている。砲弾、装薬の大型化により一次弾薬庫(装填手が作業しやすい位置に配置する弾薬庫)が縮小され、配置も変わった。
陸上戦艦
:ライカ中佐の乗する重戦車。戦間期に開発中止となったT-42を元に(姿形が多少似ているだけの可能性が高いが……)EDFの技術でシミュレーション上に再製された超重戦車であり、事実上の多砲塔戦車(装甲、火力、機動性が中途半端になりやすい)ではあるものの装甲と制圧力はEDFの主力戦車ブラッカーや重戦車B651タイタンをも凌駕している。機動性は劣悪で陣地転換するには充分程度だが、動くトーチカ、移動する前線基地と考えれば局地の防衛戦、攻城戦には良いのかもしれない。(コンカラー以下の速力を持つ)
Q:AP(徹甲弾)無いの?
A:実は主砲が決まっていなかった関係でイギリスの183mm"L4"砲(FV4005の主砲)を想定して書いていました。"L4"には粘着榴弾以外用意されていなかったのでHESHだけとなっています……。ソ連の180mm砲を載せる案もありましたが、重量過多で動けなくなるもしくは砲塔内が狭くなりすぎる、と考え辞めました。