21.拍動
『みんな、おはよう。激動の連続だね。みんなも体調管理には気をつけるように。』
と言った感じですぐに訓示が終わり、訓練に移った。意味が分からない。
訓練メニューは昔より少し優しい。スクワットは回数が減ったし、長距離走も距離が1kmくらい短くなった。
「隊長、中佐、どうしたのかしら……。」
『それが分かったら苦労しないよ……。』
「しっかり休憩したらお昼だよー!」
「はーい!」
昼下がりの食堂。昼ごはんも量が増えた。栄養バランスより味が少し見直された気がする。ただ、どうにも落ち着かない。気がついたら目の前に座る隊長が、手を止める私をじっと見ていた。
「どうしたの?」
『あっ、いえ、何でも……。』
「か……私に話してみなさい。」
怪しい。こんな性格ではなかったはず……とりあえずご飯を食べよう。
「ひゃうっ……!」
あ。隣のビオンの頭を撫でてる。
「しっかり食べなさい。食べられるうちに、ね。」
「アブレック姉さんみたい……。」
アブレック……ビオンの姉……。
「……アブレックさん……ね、私が探しておくから、ビオン、今は食べなさい。」
いつの間にか食べ終わっていた隊長が駆け足で廊下に出ていった。
1時間後。探し回った末に事務室に隊長の姿を見つけた。
「おかえり、レナ少佐。」
「彼女の姉の手がかりが見つからなくてね。」
『アブレックさん……ですか。』
『知らないわね。』
もう一人の私が勝手に喋る。舌がこんがらがるから黙ったほうがよさそう。
「そうだよな……レナ。」
「よいしょっと。ちょっと頭貸して。」
勝手に頭が傾く。
「よーしよーし。」
頭を撫でられる。手つきがいつもより少し優しい。
『何か思いついた?中佐。』
また勝手に口が動く。
「……ええ。」
「2人とも、ちょっと私は基地を留守にする。ビオンの家族を見つけられるかもしれない。」
事務室を出て行く隊長。廊下で追いかける。第3格納庫に着く。そこには爆撃機が止まっていた。
「……レナ、よりすぐりの兵士を4人集めて第1格納庫に連れて来て。」
私は面倒見の良いベルカ、絶望を乗り越えたやや明るい顔をしているアリビナ、キョロキョロと周囲を見渡しているビオン、そしてマルフーシャの妹のスネジンカを選抜して第1格納庫に戻ってきた。
「集まってくれてありがとう。早速で悪いが作戦を説明する。」
「私はロシアの基地に帰らないといけない。が、制空権は敵の手にある。そこで君達に護衛をお願いしたい。」
「質問良いかしら?」
すかさずベルカが質問をする。
「どうぞ。」
「なんで4人だけなの?物量で推してくる敵に少数精鋭では少し無理があるんじゃない?」
「確かにそれはそうだ。しかし、大部隊を動かすのは前線の戦力の減少と、被発見率の上昇を意味する。」
「そうね……。」
「ハイ、ハイ!」
「アリビナちゃん、何か気になった?」
「えっと……あたし達ってロシアに行って何するの……?」
「おっと、それを話してなかったね。」
確かに集めるようにとは言われたけど、詳しい内容は聞いてない。
「うーん……ビオン。」
「ひぇっ!?あっ!はい!」
「君のお姉さん……アブレックさんの件についての作戦だね。」
「アブレック姉さんの……!」
「そう、もしかしたら……彼女の行方の手がかりが掴める……かもしれない。」
「……。」
スネジンカが終始無言で、少し青褪めながら座っている。緊張しているのだろうか。
「スネジンカ、手を貸して欲しい。君が頼りなんだ。」
「作戦を説明する。」
ライカ隊長が太平洋の海図と気流の分布図を開く。皆、椅子に座って食い入るように見ている。落ち着かない私以外は。
「太平洋上のジェット気流に乗ってアメリカ大陸を経由し、ロシアまで向かう。足らない航続距離はコース上の何処かに居る要塞空母並びに空軍基地に着艦、着陸することで補う予定だ。」
作戦計画は荒唐無稽にも程がある、と思う代物だった。勿論立案者本人もそれを認めていたけれど、それでもやるしか無い、という。
『要塞空母……。』
突然現れた要塞空母。前周回では言及すらされなかった海上戦力。もしかしたら……存在しなかったのかもしれない。
「ベルカ、アリビナちゃん、ビオン、スネジンカ、いつものEJ22に乗るように。レナ、私と第3格納庫に来て頂戴。フィドラーで旅に出よう。」
えっ……私、あの爆撃機に乗るの……?
フィドラー
:"fiddler"。バイオリン奏者、もしくは詐欺師を意味する。ライカ中佐の言うフィドラーの機首には白いチョウセンアサガオの花が描かれていた。
作戦名"ペーパークリップ"
目標:技術の回収及び行方不明者の捜索