相棒を墜とした夜。
私にとって人生の最大の汚点。
私が空軍を辞めたきっかけ。
忘れもしない。
相棒はとてもお喋りとは掛け離れた男だった。お互い口を開くこと自体が少なく、黙ったまま作戦をこなすといったことがずっと続いていた。それが破られたのは某武装国家への制裁作戦の時だったと思う。
私は確かに聞いた。
「国境は俺達に何をくれた?」
彼にしては臭いセリフを吐いたと思った。彼は私にミサイルを一発撃って、私と彼が再び出会ったのは"彼ら"の要塞の上。一匹狼同士の空戦になった。技量も経験も彼の方が上、機体性能も互角かそれ以上……明らかに不利だった。けれど、それでも墜ちたのは彼の方だった。
燃えながら墜落していく機体を追いかけて急降下、ベイルアウトを待っていた。けれど……彼は……。
「ありがとう……じゃあな、相棒。」
とだけ言い残して地面に突き刺さった。
翌朝(おそらく)。
「おはよう、ございます……少佐。」
『おはよう、貴女は?』
「今日付け、で配属になりまし、た。
ソファーで書類を読みながら寝落ちしたらしい私を起こしに来たのは……多分、人間だろうな、うん、黒髪赤眼の少女だった。
『……ちょっとごめんね。』
ハンカチをポケットから取り出して彼女の顔を拭う。
「……何か、私の顔について、いますか?」
『よし、取れた。』
いちごジャムがなぜ顔に……?
「はい、ありがとう、ございます。」
『それで……私に何か用かな?』
「あっ……こちらを、どうぞ。」
手に握っていたファイルを渡される。ほんのり温かい。彼女は見る限りぼんやりした人間だけれど、私の後輩にも居たなと思う。つまり、苦手ではない。
『ありがとう。』
『貴女に渡すものがあるわ。』
「……?何です、か?」
鞄から取り出したるはシャンプーハット。なんでかって?なんとなく、かな。
「ありがとう、ございます。」
私なりのジョークに愛想笑いであっても応えてくれるあたりこの娘は非常に良い子なのだろう。戦場が似合わない程に。
『今日のお仕事は……。』
「武器の修理と、基地の、点検、増員の準備、です。」
『ありがとう。』
彼女の持っていたファイル曰く、ここに来るまでに戦闘の経験があって仲間共に"流れ着いた"という。
『それで……貴女の武器は?』
「壊れて、ます。直さないと。」
『見せてもらえる?』
彼女の自室から武器を持ってきてもらう。もしかしたら直せるかもしれないし、直せなくても合う物が見つけられるかもしれない。
『なるほど……。』
しっかりとしたフルサイズで165cmの彼女には十分な大きさ。元はDShKか……私の知っているDShKとはちょっと違うけれど。
「直ります、か……?」
『サンプルが足らないから、わからない……としか。』
「そ、う……。」
無表情な顔に僅かな陰りが見えた、気がする。ごめん。
分解した軽機関銃をぼーっと眺める彼女。うーん……何か調べている間に代わりに使えるものがあれば……。そういえばファイルに色々書いてあったな。
『どれどれ……うん?』
備考欄を見るに人間……ではない?本人は気づいていない、もしくは忘れていると思われる……ふむ……。戦術人形……未来の技術は凄まじい。進歩が、特に。私……は、どうなんだろうね。
「全部、当たった。次、を、待ちます。」
修理に必要な設備や資料などが集まるまでに使う武器の選定をしないといけない。そこで……どれほどの機材を取り扱えるのかテスト、と言う名目で様々なものを使ってもらっている。どの武器でも彼女の成績は良好で問題があるとしたら、足の遅さから来る低い機動性くらい。
『えーと……次はこれね。』
ラインメタル社のMG13。よくこんな骨董品を残していたものだ。
「……不思議と手に、馴染む。どこかで使ってたような……不思議。」
好感触……のようね。
『気に入ったものはあった?』
静かに頷く彼女。
「これ、使っても良い?」
自己主張があまり得意でなく、ぼーっとしている事が多いと書類には書いてあったが……これは良い兆候なのかもしれない。
『ええ。弾と部品の問題は何とかする。』
最悪、作ってしまおう。この程度なら作ったことがある。
基地の点検、とは言うものの、そんな大した事はしない。見回りして、異常が無いか……。
『君たち何して……!?』
『侵入者!』
廊下に見知らぬロボット兵が2人。メガネのIFFが鉄血工造の"リッパー"と"ヴェスピド"と判定したので彼女に対応させて、その間にハンドガンを準備する。
『隠れて!』
指示内容を少し修正。彼女の反応が鈍かったことを忘れていた。急いで物陰に引き込み、反撃を回避。リロードさせる。落ち着いて。
『3つ数えたら撃つよ!』
「了解。」
『3……2……1……撃て!』
2人で物陰から飛び出して発砲。護身用のハンドガンは大きいわりに軽くて、ちょっとだけ頼りない。
それでも7.92mmの雨と45口径の前に敵は倒れて機能停止する。
『
「気が、付かなかった。」
とりあえず被弾箇所を圧迫。幸いにもファイルで見た致命傷例には見えない。
『立てる?……乗って。』
『よっこい、しょ。』
「ごめん、なさい。私がにぶ、くて。」
『良いのよ。それよりも、無茶はしないでね。』
修復ポッドまで運ぶ。この基地に着いて寝落ちする前に真っ先に準備した機材。私達は自分一人ではない、支え合っている。
修復ポッドに寝かせて治療を受けさせている間に射殺したロボットを拘束して引き摺る。爆弾などは無さそうね。とりあえずデータのしまってある場所……はコンピューターウイルスが入っていて当然よね、私が触るのは辞めておきましょう。とりあえず本部に報告して……メール送信完了。
残りの点検は何事も無く終わったので彼女を起こしに行く。増員の準備を手伝ってくれると楽……ではある。
『おはよう、
「……すぅ。」
『おかしい、スリープは解除したはずだけど……。』
『おーい。』
「すぅ……。」
『まあ……いいか。』
修復ポッドが空かないのは困るので、彼女の私室に割り当てた部屋へ背負って運ぶ。
『そう……貴女にも、仲間、が、居たの。いつか皆、無事に見つかると良いわね。』
少女達の写真と名前らしき文字が書いてある。マルフーシャ、スネジンカ、アリビナ、ストレルカ、フェリセット、ビオン、ライカ……そう……あら、シャンプーハットをそこにかけたのね。良い判断だと思うわ。全員揃ったら宇宙シスターズとでも呼んでみようかしらね。
『よいしょっと、ゆっくり休んで。』
ベッドに寝かせるも、返答は相変わらず無い。事務作業は一人でやろう。
『お休み、エノス。』
「……おやすみ、なさい。」
……起きてるじゃないの。
資材管理など事務作業を一人でこなすこと、2時間。私にしては珍しく時間感覚が生きている。でも、今何時かはよくわかっていない。何月何日なのかも……。
『えーと……明日到着予定の人形は?MG42……機関銃持ちが2人かぁ……火力でゴリ押す作戦運用になるのかしら……。』
『あとは……PzB39?対戦車ライフルか。』
『……うん?Object120?随分と懐かしいものを……。』
なんで試作車がここに送られてくるのだろうか?
Object120
:152mm砲を前線まで運ぶ試作対戦車自走砲。125mm砲の成功により、不要になってしまった。