【地球防衛軍6】2人のライカ   作:イエローケーキ兵器設計局

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「おはよう、ございます。少佐…………少佐?」
「き、緊急……!」




5.平和的強襲計画

 

 目が覚めたら病室のベッドの上だった。第一発見者のエノス曰く、起こしに来たら泡を吹いて事務机に突っ伏していたらしい。もう少し発見が遅かったら死んでいたかもしれない、らしい。ストレスの過剰摂取とも言われた。まだ戦車4人衆の中身については誰にも打ち明けていない。

 

『すまない……今日の指示書を頼む……うぅ……頭痛い。』

「少佐。」

『エノス……頼む。』

 視界が歪む。何も見えない。何も聞こえない。何も……。

 


 

 私は昼の滑走路の上に立っている。

 Su-33が目の前をゆっくりと通っていく。

 今の愛機に乗り換える前に乗っていた機体だから見えなくてもわかる。

 このエンジン音は大好きだ。

 

 目を開いてみれば、確かにSu-33だった。

 

「少佐、おはようございます。」

 背後から声をかけられる。

『貴女は……。』

「お忘れ、ですか?」

 申し訳ないが、名前が全く出てこない。誰だっただろうか……この白衣姿の女性は。

「まあ、大丈夫ですよ。それよりも、もう乗らないんですか?」

『私は……。』

 相棒を墜としたあの日からもう乗っていない。今も格納庫で眠りについているはずだ。

「私の生まれた国では長い事使った道具には魂が宿る、なんて伝承があります。」

『……彼女にも魂がある、と?』

「ええ。大切に乗ってきた愛機なら尚更。」

『魂、ねぇ……。』

「パートナーが寂しくしてますよ、飛行任務が無くなったから。」

『はっ、あいつだけでも飛べるはずだけど。』

 ぼんやりと思い浮かべる。人の名前と顔を覚えるのは、苦手だ。

 

 久々に格納庫に入る。ホコリ一つ被っていないのは誰かが拭いてくれているからなのだろうか。時間が止まったかのようにすら見える。

『オオカミ、か。』

 首脚に登ってオオカミの首を撫でる。おー……よーしよーし……。

 カナード翼、下反角のついた主翼端、浅い上反角の水平尾翼……大型3発機。

「貴女は寂しいと思っている、違いますか?」

『寂しくない、と言うと嘘になるかもしれない。けれど……封印されるべき、そう思っている。』

「グレイプニル、ですか。」

『レージングやドローミのような紐では切れてしまうから。』

「残念です、よ。」

『……残念、ですか。』

「ええ。残念です。」

 白衣の女性は確かにそう言った。

「最後にもう一回乗られては?」

 

 ハンガーから自力で這い出る。あの博士はハンガーの外に居る。コフィンシステムでも確認できた。

ハンチバック(せむし男)より管制塔、聞こえますか?』

「……!ハンチバック、こちら管制塔!まさか英雄さんとお話できるとは思いませんでした!」

 知らない声だった。

『あー……誘導路に進入しても?』

「し、失礼しました!ハンチバック、進入を許可します!滑走路は……ちょっとお待ちを……所属不明機を確認!」

「当該飛行禁止区域を飛行中の所属不明機に告ぐ!こちらは地球防衛軍ノヴァヤゼムリャ空軍基地!すぐに引き返え……ミサイル!皆伏せて!きゃぁぁぁっ!」

 はっきりと見えたし、地面が揺れた。

『滑走路が使用不能になる前に出る!滑走路を開けろ!生きてる管制要員は避難!』

 武装は……良かった、どれもまだ生きてる。

『すぅ……はぁ……ハンチバック、出撃。』

 

 

『レナ、状況は?』

「劣勢も劣勢。数が多すぎます!」

『南を頼む、北と西は担当しよう。』

 レーダーには反応が多数。爆撃機とその護衛機と言ったところだろうか。

『引退するには都合が悪いな。ロングランスを使う。FOX1。』

 爆撃機と護衛機の塊に誘導弾を投射。

「対ショック姿勢!」

『着弾まで3……2……1……着弾!』

 機体が激しく揺れる。青白い光の柱が北の空を一層明るくする。ついでに西の空も明るくした。

 

「隊長、整備中にすいません……。復帰したばかりなのに引退するんですか?」

『うん、私の居場所はもうどこにも無いから。』

 謎の敵対勢力による地球侵攻が始まって数ヶ月。各国が疑心暗鬼に陥っている。噂ではテロリスト達にも武器が渡ってしまったらしい。人間、共通の敵が現れても隣人とは仲良くできないのだろう。

 そんな中、私は里帰りを考えていた。制空権の取れない空軍に価値はない、なんて世論が叫んでいる……とは言わないが、この間は"空軍は何をやっているんだ!"みたいな事を無線越しに聞いてしまった。私から翼を切り落とせば何も残らない、けれど……もうこの空は私の知っている空ではない。

「……見捨てるんですか!?」

『……。』

「地上にいる人達を見捨てて逃げるんですか!?」

 そうだ。そうなんだ。そうなんだよ。

 

「お姉ちゃん……。」

 

 ……!これはレナの声ではない。あの女でもない。とても懐かしくてずっと前に忘れてしまった声。

『……思い出せない。』

 でも、なぜ?

「流れ星……隊長!MIRV(マーヴ)です!そんな……!なんで……!」

『もう間に合わない!伏せろ!身を隠せ!』

 

 レナに覆い被さって、光と熱に包まれるのを背中で感じながら視界が間延びしていく。歪む、回る、抜け落ちる……。

 


 

「……少佐?気が付きましたか?」

『どれくらい眠っていた?』

「30分、です。」

『そうか……。』

「動かないで、ください。」

 抱き着かれると動くに動けないのですが。

「マルフーシャ達のこと、聞きました。」

『……誰から?』

「PzB39から、聞き、ました。」

『そう……。』

 あぁ……こうなったらもうお手上げだ。

「今日の作戦は、強襲作戦、だそう、です。」

『強襲作戦?』

「IOP本社、に、乗り込み、ます。」

『待って。指令書貸して。』

「だめ、です。」

『はぁ……。多分、作ったのはIOP本社とは限らない。』

 鉄血製のパーツも組み込まれていた。少なくともマルフーシャの車体には。

「なら、鉄血の基地に……。」

『発想は、わかる。発想は、ね。でも、そういうわけには行かない。……おいで。』

「です、が……。」

『よしよし……調べてみるわ。指令書を貸して。』

 左手でエノスの頭を撫でながら右手で指令書を掴み読む。MG42にコーヒーをお願いし、PzB39には教えた朝食を身体のある人数分作ってもらう。

『ふむ……。強襲計画に代わりはない、か。』

 指令書は戦車群を用いた正面突破の電撃戦を鉄血陣地に行う計画について書いてあるが、それを行うのは悪手だろう。少なくともマルフーシャ達のことを解決してからだろうね。それよりは……。

『少し電話をしてくるよ……と思ったが脚が動かないな。ノートパソコンを取ってくれ。』

 こんにちは、アトラスさん。ちょっとお時間よろしいかな?

 

 朝食を齧りながら作戦を考える。頭はまだ少し痛いが指揮官たる者、怯んではいられない。

『買収……鹵獲……奪取……どれも問題になるな。』

「メールが、届き、ました。」

『どれ……ふむ。』

 

 

「ちょっと……!本気!?」

『本気でなかったら言わないけど。』

「それで……誰が行くんでしゅか?」

『私と……エノス、マルフーシャ……君たちのどっちか。』

「ええっ!?」

『5分後にまた来るから決めておいてね。』

 

『やあ、お嬢さん、こんにちは。』

「……こんにちは、ライカ少佐。」

『君には"パン"を捏ねてもらう。』

「こんな身体で……パンなんて……。」

『何も、その身体で捏ねろとは言ってないよ。』

『ちょっとした遠足の経由地に"パン工房"があってね。』

『気に入ってくれると嬉しい。』

 

『さて、お嬢様方……その様子だとMG42がついてきてくれるようね。』

「……行きましゅよ、どこまでも。」

『まあ、ちょっとしたピクニックだから。』

 

 小隊全員で鉄血に偽装し、鉄血の拠点に侵入。交渉を持ちかける。過去の作戦から名を借りて……何にしようかな。グライフ作戦は失敗したし……チャリオット作戦……かな?

『PzB39、FCSの反応は?』

「少佐は……不明(unknown)、少なくとも友軍(friendly)では無いわね。あ、今、敵対(Enemy)に変わった。」

『よし、じゃあ……行ってくるよ。』

 

 Object195の砲塔後部に座り、道案内をする。途中、鉄血の部隊に遭遇したが、何事もなかったかのように通過できた。

「おぉ……すごいでしゅねぇ……。」

『目を合わせるな。あくまで私達は傘を被っているに過ぎない。』

「傘、ですか?」

「傘、なんて……雨も降ってないのに。」

『雨は目に見えないけれど、今も降っている。帰るまでが外出だよ、マル……マストドン。』

「普通に呼べば良いのではないでしゅか?」

『名前がバレると後々困るから。』

「はーい、でしゅ。」

ムーンムース()よりグレムリン(MG42)マストドン(マルフーシャ)イエロージャケット(エノス)に再度説明する。私達は基地に"帰る"。』

「あれ?でも、どうやって……IFFは誤魔化せてましゅたけど……。」

『しーっ……私達は鉄血。何にだってなれる。』

 

 

 基地が見えてくる。以前、私を保護してくれたアトラス達の基地……あれ?攻撃受けてない?

「ムーンムース隊!救援を!」

『マストドン、停車。』

「了解、停車する。」

 HMDには明確に未確認の戦車が友軍と表示されているが、自律戦車(アトラス)を体当たりで攻撃しているあたり私達にとっても友好的である可能性は低い。

『未確認突撃戦車、11時の300m。』

「了解。徹甲弾を装填する。」

『イエロージャケット、グレムリンは降車し、私に随伴。』

「イエロージャケット、了解。降車します。」

「グレムリン、了解。降車しましゅね。」

『ムーンムース、降車する。マストドン、射撃開始。』

 充電を開始。バックアップを用意しておく。

「マストドン、射撃開始。」

 大爆音と共に152mmが矢を放った。が、謎の青白い透明な壁に受け止められる。自律戦車の砲撃も防がれてしまった。

『ふむ……。再装填後、待機。』

「了解。」

『目標がこちらに気がついた。』

『ムーンムース、攻撃を開始する。』

 右手で引き金を引き続けている間に左手でM1911を乱射。充填率は85%……フル充填を待つべきか……。

「マストドン、再装填完了。待機する。」

『了解。ムーンムースに合わせろ。』

 充填90%。引き金を戻す。

 稲妻が突撃戦車に走る。

 命中。直後にマストドンが発砲。今度は青白い透明な壁に防がれることもなく命中。目標が沈黙する。

『アトラス、トドメを。』

「ど、どうしても、ですか?」

『嫌なら良い。』

 近づいてみるとハッチがある。無人では無いらしい。

 殴ってみるとハッチが開いた。中には色白の少女型ガイノイドが一人二人……3人目はぐちゃぐちゃになって配線類が露出している。装甲材の破片が当たったのだろう。引きずり出してみるも……どの個体も意識はない。

「うっ……。」

『苦手なら見ない方が良いよ。マストドン、エンジンルーム上を借りるね。』

 3体の義体を乗せて基地まで進んでもらう。




ノヴァヤゼムリャ空軍基地
:後に軍事基地バレンランドと呼ばれるようになる秘匿された基地。

チャリオット作戦
:軍港に爆薬を満載した駆逐艦を突撃させた作戦。作戦目標は達成された。なお、トロイの木馬で良かったのでは?と作者は思っている。
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