という台詞がある。私がまだ若かった頃のゲームの台詞で、彼女はその特殊な事情から高性能な専用機を最初から割り当てられていた。まあ、うちにもレナはいたがシルバーストーンではないし、第一……乗っていたのはSu-37ではなくSu-33である。
『オケアノスに用があって来たものの、来てみれば……ふむ。参ったな。』
培養槽のような水平のタンクに浮かぶ青年。オケアノス本人であろうな。
「セキュリティが強靭で……ファイアウォールを突破できていないんです。」
鉄血製の人形が鉄血のネットワークに侵入しようとする理由は私にはわからないが、手助けするべきだろうか?
『ハッキングか……。グレムリン(MG42)は大雑把だし……。』
「な、なんでしゅってぇ!」
『そもそも君は電子戦よりも火力支援に向いているだろう?』
「うぐぅ……。」
『イエロージャケット(エノス)は……言うまでもないか。』
こく、と頷くエノス。素直でよろしい。
「元パイロットの、ムーンムース先生しか私には……。」
「スフィルナとのドッキング解除まで30秒です。」
『ハッキングも大変なのね。』
電脳空間に作られた仮想空間侵入支援システムは、私が大昔に作戦で通過したトンネルに似せた侵入口を用意してくれた。作戦機はSu-33M、両手をしっかりと手……じゃなくて装置と繋いで待機。私の任務は出口が閉じる前に最深部まで辿り着くこと。頭の中のクリップボードに留めた。
「解除待機……5……4……3……2……1……ドッキングを解除。」
飛行船から切り離される。戦闘開始。
「お姉ちゃん、久しぶりだね。」
……!どうして、どうしてここに!
「ずっと待ってた。」
「ムーン……ス、聞こ……すか……?」
「ほら、早く行かないと。入口が閉まっちゃう。」
『どう……して……貴女がここに……。』
妹……だった。あの声は妹の声だったんだ。失速警報もミサイル警報も全部、あの日、あの空爆で死んだ妹だったんだ。
『こちらムーンムース、トンネルに突入する。』
「ご……う……を!」
広いトンネルを左右に分ける柱と、壁のように降りてくるシャッター。
「左!」
左のまだ閉まっていないシャッターへ。速度1500……1800……2100!
路面スレスレをマッハ2付近で通過。
『次!』
「右!」
これもスレスレで通過。降りてくるのが記憶よりも早い。
「シャッターが!はっ、レーダー反応……そんな……!ミサイル!」
『回避。』
既に閉じたシャッターとシャッターの間の狭い空間でチャフとフレアを撒きながらバレルロール。機体の上をミサイルが通過していった。
『対空砲か……。』
トンネルそのものが広いのでちょっと小さく見えるけれど、存在しないはずの対空砲が複数見える。
「着弾点が消去されてる……。」
『被弾したら消去されてしまう、と。厄介ね。』
この機体には被弾前提のカスタマイズを施した上で突入した覚えがある。要するにこのトンネルには実のところ向いていない。
『もしかしてこの対空砲を破壊しないと進めない感じか……攻撃開始。』
機関砲射撃を開始。
(右翼基部の仮想30mm機関砲が火を吹く)
「破壊確認。」
『右のシャッターが開いた。』
急に閉まっても困るのでさっさと通り抜け、次のシャッターは……左。
「2つに分かれたトンネル……。」
『左に行く。』
直線的でしかし起伏がある工事中の通路であったはずで……そうだ。速度を上げよう。
「お姉ちゃん……こうして飛ぶの久しぶり、だね。」
『……そうね。』
どこに隠れていた?いったい、どこに居たんだ?いや、今は飛ぶことに集中……。
『……またシャッターか。それも3枚。』
左、中、右。どれが閉まるだろうか。
「左が開いてる!」
『速度を上げる。なっ……ブレイク!』
どうしてF-104がっ!こんなところにッ!
「IFF反応しません!ミサイル!来ます!」
『まずい!近すぎる!』
『ぐっ、ぐっ……ぐっ……!』
フレア、チャフを撒いて急旋回!
「敵ミサイル、まだ来ます!」
『衝撃とハイGに……!』
言い終わる前にピッチアップ。落ち着いて考えてみると……影響を受けるのは私だけだ。
「敵機!来ます!」
『フックでもやるか……よっこいしょ。』
「敵機!前方!」
『墜ちろ!』
30mm。排除完了。ふぅ……。
「右……。」
『……長い。』
もう3枚シャッターだけで10枚は潜った。そろそろあの角柱が飛び出した空間識破壊ゾーン及びその入口のトンネルに到達しても良いはずなのだけど……見えてきた。左へ。
「うわぁ……。」
『酔わないでよ。』
時速2400付近をうろちょろしながら駆け抜けている。とにかく長い。もう数分は飛んでいるのではないか。
「見えてきた!出口!」
"出口"を突き破って身体が自由になった。
「おかえり、なさい……お姉ちゃん。」
『……死んだ妹に会った。』
「そう、ですか……。」
返答を返しにくいよね、ごめんね。
「ネットワークの掌握に成功。これでお兄ちゃんをパージできる!」
かなりよろしくないことをしでかした、というか加担してしまったというか……。
「つまり?」
「鉄血(私たちの故郷)の穏健派は私達の作戦能力評価を承認しました!」
……今のうちに逃げてしまいたい。マルフーシャ達の件があるからそうもいかないけれど。
「私の妹がご迷惑をお掛けしました。」
『いえ……。』
「本題はマルフーシャさんの情報解析、そして義体への意識の転送もしくは同調、でしたよね。」
『ええ。』
「やってみます。今日中にはマルフーシャさんは人形の姿で帰れるようになるかと。」
『ありがとう。』
1時間後。
「お待たせ……しました、少佐。」
『おかえり、いや、ある意味初めまして、かな?マルフーシャ。』
『さて……帰ろうか。マストドン、Object195に乗ってくれ。』
運転手席に座ってもらう。運転はポイントを辿る自動運転に任せてしまい、私が随時更新すれば問題なく帰れるはずだ。
「ご武運を、ムーンムース隊。」
『そちらこそ、お元気で。』
基地が見えてくる。"傘"を畳んで……またか。
『マルフーシャ、エノス、MG42、戦車戦に備えろ。敵戦車、11時。距離……350。』
戦車の戦闘に必要なシステムは意思決定以外は自動化されているからリハビリが必要なマルフーシャに何かをさせる必要は無いけれど……参ったなぁ。
「あれは……M1戦車でしゅね。資料で見たことがありましゅ。」
『まだ生き残っていたのか。車体を撃たれないように……マルフーシャ以外は降車。』
ポイントを指示して遮蔽物でハルダウン。これで被弾面積は無人の砲塔部分だけになる。
『やられる前に砲身を割る!発射!』
APDS-FSで砲閉鎖機を破壊……出来たはず。砲塔上の30mmで12.7mmと同軸機銃も破壊する。ハッチを開けよう。
『どれどーれ……よっこいしょ。大人しく投降しようね〜。』
乗員を武装解除させて降車させる。
あぁ……我が家だ。安心すると眠く……な……る……。あぅ。
Su-33M
:Su-33の近代化改修型。コフィンシステムの採用による装甲コックピットの装備やタイムラグを無くす神経連絡装置により通常戦闘機"としては"最高レベルの性能を持つ。
Object195
:本来ならば砲塔上の武装は30mm機関砲ではないらしいが、この世界のObject195(T-95)は30mm機関砲を砲塔上に載せている。