『やあ、捕虜ちゃん達。』
「何が捕虜ちゃん達だ!」
『いやいや、悪いねぇ。殺すわけにはいかなかったしさ。』
つい先日に捕らえたM1戦車の乗員達……人間ではなくこれもまた戦術人形なんだとか、に食料を提供しに来た。
『まあ、これでも食べて元気出して。』
「けっ!誰が食うか!なぁ、みん……な……なんでぇ……。」
「だってまあ……。」
「お腹空いてますし。」
「うめ、うめ。」
「コマンダー、食べないんですか?」
『おかわりもあるよ〜。』
一昨日の夜に作ったカレー。あまりにも出来が良かったので個人的に冷蔵庫で保存しておいたものだから、基地の懐はそこまで痛まない。
『コマンダーちゃん、食べないのかい?お腹空いたろ?』
「私は食わんぞ!」
「おかわり、よろしいですか?」
『良いよ〜!た〜んと食え!』
「ドライバー!ガンナー!ローダー!目を覚ませよ!罠かもしれないだろ!」
『罠なんて……ねぇ?私はわざわざそんな物騒なことしないよ。』
「おねぇちゃん……どこ……。」
げっ……エノス、もう起きたの?いや、これは……夢遊病?
「みつけたぁ……ぎゅっ。」
『あっ、こら、こ、腰がっ……!』
32にもなって持病の腰痛がここまで悪化するとは思わなかった……。後ろから妹くらいの人形に抱きつかれたくらいで腰を痛めるなんて、EDFとしても不覚……っ!痛い!
「あわわ……大丈夫ですか!?」
「けっ……自業自得だ。」
「コマンダー、貴女ってそんなに冷たい人だったの?」
「なによ、ガンナー。文句あるの?」
「いいえ?見損なっただけよ。」
「いいか?ガンナー、私達は捕虜なんだぞ?」
「コマンダー……でも、この人、ご飯作ってくれてるじゃない。」
『あはは……しっかり食べて……うぅ……。』
寝てしまったエノスをベッドまで運んで、腰に湿布(痛みを撃沈!と書いてあった)を貼って、食器を回収して……車長席の貴女、結局食べてるじゃない。厨房まで戻ろう。
『しっかり休んで。貴女達には色々語ってもらわないといけないから。』
廊下を一人で歩いているとありとあらゆる事を考えてしまう。
あの夢がもし事実であるなら、私は核ミサイルで吹き飛んだのだろうな。なぜ生きているのかわからないけど……。時系列としてはどうなんだ?あそこで死んだ私はここに来る直前の私では……ないよな?プライマーに殺された私が私であって、守るべき人間に殺された私は私なのか?
「まぁ……人間なんて核の炎かプライマーの浄化作戦で燃え尽きてしまえば良い、でしょう?」
『誰だッ!』
後ろからぼそっと聞こえた。しかし、誰も居ない。
「おやおや……私を忘れたのかい?少佐?」
今度は前。この声……聞いたことがある。
『博士……?』
「覚えているじゃないか、少佐。」
「私と貴女で過去を変えよう。きっとストリンガーは強くなるだろう。君の武装も強くなるだろう。」
『その行為が未来を壊すのでは?』
「創造は破壊無くしてできないものだよ、ライカ少佐。」
『ここは……ハンガーか。』
意識を過去のノヴァヤゼムリャ空軍基地に戻された、と見るべきだろうか。それとも身体ごとの転移だろうか?
「奴らは過去を変えてきた。そうはならなかった世界線を今度はこっちがちょっとずつ作る。」
目の前の白衣の女が言う。
『また覆るとしても?』
「足掻くだけの価値はある。そろそろ準備を。レナが乗ってしまう。」
『……博士、それはまるでレナに出て欲しくないようだ。』
「私は出て欲しくない、そう思っているよ。」
『なぜ?』
「彼女は核シェルターの生存者を纏めて人類の反攻作戦に備えないといけない。貴女が隊長で、彼女はその補佐にふさわしい。」
『なるほど。』
「迎撃には貴女が出て、彼女には物資を集積して貰おう。」
『どうする?機体を壊す訳には……。』
「こうすれば良い。」
博士が言った直後に警報が鳴り響く。
「侵入者発見!侵入者発見!対処要員はレーダーを起動し集合せよ!」
『航空要員は代替が効かないから避難しないといけないわけか。』
「フェンリアはエンジンを温めて待機している。」
『……いつの間に?』
「彼女にも人格がある事はご存知、でしょう?」
『あぁ……妹の声だった。』
「死んだ人間にも声は聞こえているそうで。聞いてますか?貴女のお姉さんが今から乗りますよ。」
愛機の尾翼が動き、コックピットが開く。まるで……ウォーミングアップを終えたあとの軽い跳躍のように。
「さあ、腕を食い千切る時間です、よ。」
「お姉ちゃん……。」
『今は何も言うな。』
「……。」
『話は全て終わってから、だ。』
「……了解。」
『ムーンムース、出撃する。』
「クリアーテイクオフ。」
『了解、飛ぼう。』
「エンゲージ!」
(長くなるので空戦は省く)
戦闘機を爆撃機ごと範囲攻撃で破壊。地上部隊、拠点防衛は頼んだ。お互いの得意分野で仕事をしよう。
「レーダー反応、全て消滅。ミッションコンプリート。」
「少佐!早く!」
『着陸しよう。』
急いで少し雑に、しかしランディングギアや基地、機体にダメージを与えないように着陸。地下シェルターに機体を隠す。
『また、会いましょう。生きていれば。』
これが永遠の別れ、か。
「……?貴女には生き残ってもらわないと。」
「敵襲!敵襲!第三波が来るぞ!」
「隊長!物資の集積及び航空要員等の集合完了です!」
『レナ!』
『基地司令もか!?』
「は、はい!」
『でかした!戦闘要員も基地防衛からシェルターの防衛に割り振るぞ!』
銃声。
銃声。
銃声。
連続した銃声。
連続した銃声。
機関銃が両軍を制圧している。
暗くなった青くて黒い空に流れ星。
『シェルターに隠れろ!走れ!走れ!』
『博士!あんたもだ!』
機関銃を弱く握っていた手を無理矢理引っ剥がしてシェルターに放り込む。
「少佐!話が違うじゃないか!」
『レナ!博士達を頼む!』
「待ってく……!」
シャッターを閉める。
『さようなら、レナ。』
「なっ……おい!空を見ろ!」
「ばかな……!」
「テロリストは自分たちごと侵入者を潰すつもりらしい!」
「基地が占領されたと聞いて来たのに!人質ごとかよ!」
「隠れろ!機関銃がまた生きてる!」
『あはははは!物陰に隠れろ!』
どうやら私たちが戦っているのは同胞たるEDF隊員らしい。着弾まであと僅か。同志、隠れて!
「お姉ちゃん……?お姉ちゃん!ストリンガーさん!ライカ少佐が、起きた!」
「……!少佐、私が見えますか?ストリンガーです。」
『私は……。』
「廊下で倒れていたんです。」
『近いよ、二人共。』
いつもの基地に帰ってきた。
「指揮官様!」
「指揮官。」
「おはようございます、少佐。」
何も変わらない日常。いや、認知できないのか。何にせよ"変わっていなかった"のだから。
「おはよう……ございます、指揮官。なんで私が……。」
「チェリー、何恥ずかしがってるのですか。おはようございます、指揮官様。」
『ルイーズ……。』
私は名前を知っている。一匹狼の車長"チェリー"、お嬢様系装填手の"ルイーズ"、無口な砲手"グウェン"に腹ペコの操縦手"ダイナ"……私は知っている。そうとも……私は知っていたのだから。
『エノス、マルフーシャ、悪いがアリビナ達を起こしてくれ。』
奪われるくらいなら、殺すしか……無いでしょ?
『貴女が望むなら、殺人鬼にでもなろう。』
「アリビナ以下、3名、準備完了、です。」
『私の古巣に行くよ。全員で忘れ物を取りに行く。』
「了解、準備をさせます。」
『奴らに一泡吹かせてやろう。』
窓の外は赤くなっていた。
解説
実は過去は変わっていない。あくまで追体験を彼女はしたに過ぎず、彼女にとっての過去をより正確にしただけである。史実ではレナは核の炎には焼かれず白衣の女も生き残った、妹の分身もである。
少佐を擁護すると彼女がEDF兵士(特戦歩兵,レンジャー)を撃っていたのは錯乱したからではない。核が落ちて来るとわかっていれば、核シェルターに隠れるのが最善である。が、それができなければすぐに物陰に隠れて姿勢を低くするべきである。(←諸説あります→)そして、制圧射撃を受けている時も物陰に隠れるべきである。つまり……?
Q:本当に過去は変わってない?
A:それは……わからない。少佐が倒れる前のバックアップが無いので確認しようがない。ただ、わかるのは……世界が変わっても観測できない、ということ。ストーム1達、生存者がプライマーの時間跳躍艦隊の事故を引き起こさない限り……。