アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 もう!メタネタは!やらねぇ!

 お久しぶり、十二の子です。転生ポケモン令嬢のユキコシ地方で北陸を討伐し、中国地方は偉大なる先駆者様がいらっしゃり、四国地方はどこまで原作に登場するのかよくわからないので、甲信地方を埋めます。

 ※いよいよ大学院生活が忙しいので亀更新です。週一更新できればいいなぁ…


1祝 新たな可能性を導く湖畔
♪1 アイドル、ポケモン世界にデビューする


 

 信濃の国は十州に 境連ぬる国にして

 

 聳ゆる山はいや高く 流るる川はいや遠し

 

 松本伊那佐久善光寺 四つの平は肥沃の地

 

 海こそなけれ物さわに 万足らわぬ事ぞなき

 

 (浅井洌(1899).信濃の国.長野県師範学校附属小学校郷土唱歌.JASRAC:039-2595-1)

 

ー*-

 

 「はぁ、はぁ…」

 

 一人の少女が、山中、獣道を息を切らせ走っている。

 

 (なんで、こんな、面倒な、ことに…!)

 

 後を追うように、複数の鳴き声。そして厄介なことに、人の罵声まで聞こえる。

 

 「見つけたか!?」「いいや、まだだ…!だがこっちにいる!」

 

 (パパラッチよりもっとずっとしつこい…!)

 

 「マッスグマ、かぎわけろ。」「オオタチ、(するどいめ)は効いてるか?」

 

 (…ポケモン、敵に回すと恐ろしく怖い生き物ですね…)

 

 もし少女が一体でもポケモンを持っていれば、違ったかもしれない。

 

 自らを探し回る賊に立ち向かう、助けを呼ぶ、そんなこともできたかもしれない。

 

 ーもっとも、彼女にそれは不可能だ。

 

 (ゲームならモンスターボールが落ちてたりしたものですが…こんな森の中にあるはずもないですか…)

 

 「まだ見つからないのか?」「不味い、俺たちを見られた以上、生きて帰すわけには…」

 

 (転生したというのに2度も死ぬのはごめんですが…

 

 …どこか、隠れる場所は…?

 

 いえ、まずは匂いを断たなければ。)

 

 ガサガサ、藪を漕ぎ進む音が近づいてきている。

 

 (匂いを断つ…確か前にクイズバラエティ番組に出た時に…

 

 …そう、風下、それに水!)

 

 指先を舐め…ようとして、白手袋の存在に思い至り、手袋を外して人差し指の指先をぺろりと舐め、空へと立てる。

 

 風上は進行方向、風下は、追手の音声がしてくるほう…

 

 (…引き返す?それで出くわしたら元も子もないけど…

 

 …ううん、むしろ裏をかけるかもしれない。

 

 一か八か、やるしかないですね!)

 

 心を決めるや否や、少女は獣道を外れ、走りにくい編み上げブーツで笹薮に突っ込んでいく。

 

 「どうする!?いつまでも捜索しちゃいられねえぞ!ひこうポケモンを出したほうが…!」

 

 「それでシンシュー者に見つかったらどうする?内通者と言えど限度があろうに。」

 

 「その時はその時だ。どのみち奴を逃がしてはアジトも内通者も見つかってしまう。」

 

 (あまり長くは逃げ続けられないようですね…)

 

 少女の鍛えられた聴覚は、賊の声を正確に聞き分けていた。そのおかげもあって、両側からポケモンの鳴き声がや人の叫び声が聞こえる只中を逆走し、沢を見つけて飛び越え、風に逆らいながらひたすら森を走っていく。

 

 (レッスンで体力をつけてきたことをこんなに感謝したことはないですね。

 

 …転生してもフィジカルが同じなのは不思議なものですが…)

 

 少女はなおも走る。いずれ空から探されることがわかっているのだから、森の木々では心もとない。早く屋根のあるところか洞窟に隠れる必要がある。

 

 (…

 

 …見つけた!)

 

 小さなお堂。寺と呼ぶにはあまりにも寂しいが、石垣が組まれ、4隅には木の柱が立っている。

 

 (お邪魔します…)

 

 少女はあたりを見回し、お堂の中に飛び込んだ。

 

 お堂の中は薄暗く、中央に注連縄でくくられた石が突き出ている。

 

 「ブ、ブイ…?」

 

 か細い、鳴き声。それが、お堂の隅から聞こえてくる。

 

 (…イーブイ?)

 

 ピカチュウに次ぐ、ポケモンというコンテンツが誇るアイドル。哺乳類型の、かわいらしいポケモン。それが、お堂の隅でガラスケースに閉じ込められ、か細く鳴いていた。

 

 (…これは、誰かの…?)

 

 ガラスケースの下には何やら怪しい操作パネルが置かれ、そのコードはお堂の中央の注連縄までつながり…

 

 …注連縄にくくられた石柱には、明らかに似つかわしくない、インクジェットカラープリント画像の印刷されたコピー用紙があった。

 

 (印刷されているのは…黒い、鋭角の…

 

 …ネクロズマ?)

 

 ついつい、少女はコピー用紙をなぞるー

 

 -落ちた。はらりと。

 

 (あっ…)

 

 ピー、ピー、ピー…警告音が鳴り響く。

 

 「侵入者、侵入者。総員之ヲ撃退セヨ。

 

 繰リ返ス。侵入者、侵入者。総員之ヲ撃退セヨ。」

 

 (…や、やばいです…!

 

 と、とりあえずロクな目的でここにいさせられたわけではなさそうだし…

 

 このイーブイを、仲間にできれば、なんとか…!)

 

 イーブイの出し方自体はわかっていた。これ見よがしに取り出しボタンがパネルにある。押す。

 

 開いていくガラスケースを見ながら、胸に手を当てる。大きく息を吸う。

 

 (大丈夫、大丈夫…ここは私の世界じゃないし、まだ誰にも聞こえない…大丈夫!)

 

 イーブイが、こちらを不安そうに見ている…少女は、心を込めて、その願いを口にした。

 

 「あ、あの!

 

 私の、仲間になって、くれませんか!」

 

 これが、転生アイドル言祝(コトホギ)アリアが、新たな生涯で一番のユニットメンバーを手にした瞬間だった。

 

ー*-

 

 「追いかけていたつもりが、アジトを見つけられるとは、なかなかやるな貴様。」

 

 (な、なんで、異世界転生したばかりの山の中でちょっと目が合っただけで、こんなことに…!?)

 

 「…なんも言わねえのか。まあ死人に口なしだから、これから死人になるなら喋らなくていいな。

 

 行け、デンチュラ。」

 

 【デンチュラの エレキネット!】

 

 電気流れる投網が、少女とイーブイに覆いかぶさる。

 

 (しびれ…っ)

 

 【デンチュラの むしのさざめき!】

 

 賊の電気蜘蛛は執拗に怪音を発し、動くことができない少女とイーブイはただ苛まれ続ける。

 

 (このままじゃ、やられ…!

 

 何か、何かありませんか…!?)

 

 「ブ、ブイ…」

 

 ガサガサ、必死に動かす手先が、何かに触れた。

 

 硬くて、メタリックカラーの…板?

 

 「…GXマーカー!?すでに実験は成功していたのか!

 

 おい貴様!早くその石板をよこせっ!」

 

 お堂の中央、注連縄で縛られた石柱に貼られたネクロズマの画像…そのコピー用紙と石柱本体の間に挟まっていたその石板は、コピー用紙とともに落下して、そして今、少女の掌の中にあった。

 

 (これは、もしかして…この男たちが目的としていた、そして何かの、カギになるもの…?)

 

 「バ、バカッ、やめろっ!」

 

 (やめない…イーブイ、一か八か、あなたに賭ける!)

 

 感電してしびれた手で、GXマーカーと呼ばれたメタリックな石板を、イーブイへとぶつける。

 

 コツン。

 

 亀裂音が、どこかから聞こえた。

 

 石柱が輝く。地脈のエネルギーがあふれ出る。

 

 【イーブイは イーブイGXへ オーバーラップした!】

 

 【イーブイGXの かくせいDNA!】

 

 「ちっ、デンチュラ、備えろ。

 

 イーブイのGX特性は確か進化できるやつだ。来るぞ!」

 

 エレキネットが伝える電流が、イーブイGXのDNAを刺激する。あふれる地脈のエネルギーと相乗して、身体を作り変えていく。

 

 【イーブイGXは サンダースGXへ 進化した!】

 

 (サンダース…?進化…した…?)

 

 逆立つ全身の毛から稲妻を迸らせ、サンダースGXはエレキネットをはねのけて立ち上がる。

 

 サンダースGXは、背中を少し下げて、少女の方を振り向き、コクコク頭を動かす。

 

 (…乗れって、言ってる…?のでしょうか…)

 

 違うとしても損はないだろうと、ひょいっとサンダースGXの背に飛び乗る。バチバチ体毛からはじけている電気火花は、不思議なことに背中の少女にだけは電圧を与えていないらしい。

 

 少女を乗せても、サンダースGXは姿勢を低く保ったまま、電気エネルギーを迸らせ続けている。

 

 「…デンチュラ、まごまごしてられんぞ!かみなり!」

 

 【デンチュラの かみなり!】

 

 雷雲が渦巻き、お堂めがけて落ちる。

 

 茅葺屋根が吹き飛び、石柱が割れ、木造のお堂から火の手が勢いよく上がる。

 

 男とデンチュラは、燃え盛るお堂から慌てて逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【サンダースGXの スピードランGX!】

 

 電光が矢のごとく、林内を走り去っていく。男はただ、見送るしかなかった。

 

 「ちっ...逃げられたか…!

 

 追え!奴を止めろ!」

 

 トランシーバーへと叫ぶ。

 

 -「無理です!あれはただのこうそくいどうじゃない!」

 

 -「ワザが通りません!」

 

 「クソっ…シンシュー人の癖にGXワザ使えやがったか…!

 

 撤収だ!機密を破棄し、全隊撤収!」

 

ー*-

 

 (…逃げられました…

 

 イーブイ、ありがとう…なんで退化してるのかわかんないですけど…)

 

 林道の脇、オドシシ跳び出し注意の標識にもたれかかり、イーブイの背を撫でる。あふれ出していたエネルギーはもはや感じられず、GXマーカーなる石板は黒くくすんでいた。

 

 (これから、どうしましょう…?)

 

 気持ちよさそうに身震いしつつも、イーブイも不安げな表情である。

 

 (とりあえず、街まで…そうしたら、ここがポケモンの世界なら、ポケモンセンターがあるはず…)

 

 「いたぞ!」

 

 えっ…少女とイーブイはあたりを見回す…囲まれていた。

 

 「お堂を焼いた賊はお前だな!

 

 神妙にお縄につけい!

 

 ワナイダー、いとをはく!」




 「信濃の国」歌詞・旋律の著作権保護期間は既に失効しています。
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