アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 これは、存在しない幕間劇。


♪0 煌めく星墜ちる時

ー*-

 

 少女の黒い長髪が、風にたなびいている。

 

 「疲れました。」

 

 諏訪湖を見下ろす、名もなき滝の上、断崖のふち。

 

 「疲れた?」

 

 髪もボサボサ服もよれよれな男が、少女の言葉を問う。

 

 「あるいは、憑かれた、のかもしれませんね。」

 

 「…何に?」

 

 「…アイドルなんて、因果なおしごとですよ。

 

 少々、疲れました。

 

 少々、考えに憑かれました。

 

 ねえ、世の中って、なんでこんなに醜くて、こんなに美しいんでしょう?」

 

 「醜くて、美しい…?

 

 アリアちゃん、僕にはわからない…時々、ずっとアリアちゃんを追いかけてきたはずなのに、わからないよ…」

 

 「いろんなものを見てきました。

 

 耐えられないほど醜いもの。絶えてしまう尊いもの。

 

 業界のことでもあるし、業界の外、メディアのことだったり、あるいは同い年の皆さんより一足早く見ることになった世の中の事だったり。

 

 富裕と、貧困。それをよそ眼に、あるいは感動ポルノにして、銭ゲバを繰り広げる業界。

 

 強欲、傲慢、他人をリスペクトすることができない心。

 

 被害者と、被害者の顔をしたタカリ。

 

 差別と、反差別の顔をした差別。

 

 捏造とゴシップと正義面に紙面を費やすマスメディア。

 

 理解できない人、理解を拒む人、分かり合えないことだってある。

 

 終わらない争い、決して交わり合えないお互いの正義あるいは狂気。

 

 病、事故、不幸、非もなく降りかかる運命。

 

 ゴミみたいな人間が、素朴な優しさを見せたりもする。ずっと尊敬していた仲間が、豹変したことだってある。

 

 …きっと、もう少しゆっくり、大人になっていたら、こんなこと割切れたのかもしれない。まとまらない言葉をわざわざまとめなくていいと知れたのかもしれない。

 

 でも私はそうはなれなかった。」

 

 「それは、アリアちゃんが、アイドルの才能に恵まれてたから…」

 

 「アイドルの才能...ですか…

 

 アイドルって、最初は何だったと思います?

 

 アイドルファンを、ずっとアイドルの追っかけをやってたあなたなら、わかりませんか?ほら、オタクって意味もない雑学を覚えて語りたがる生物って言うじゃないですか。」

 

 「アイドルは、えっと、1840年代に...」

 

 「いいえ。

 

 アイドル(偶像)は、女性が持つと考えられたある種の霊力によって生み出された原始的な崇拝の延長線上にある…私はそう、考えています。

 

 例えば卑弥呼、あるいは神功皇后...彼女らはまじないという芸で身を起こし、人々に幸福を感じさせ、熱狂的なファンを率い...私は彼女らが、原初のアイドル(偶像)だったように思います。

 

 ただの美しさを超え、自分より一段上の尊い存在に昇華され、神性を帯びた存在と感じられることになった偶像...それを原始の人々は崇拝しました。時を経て宗教性が消えてもなお、推し(崇拝)というスタイルはアイドルという概念とともにあります。

 

 私はね、きっと、逆があるように思うのです。」

 

 「…ぎゃ、逆?」

 

 「あなたたちファンが、私、大三輪遥を、言祝アリアというアイドル(偶像)として崇拝し続けて、私はこんなにも大きな存在に昇華されました。

 

 なら、生まれながらのアイドルの才能があった私が、神聖な存在と信じられたことが、実際に私をそうしてくれたって…

 

 …私が巫女でないとしても、私が巫女であるという夢想が許されないわけではないと思うのです。」

 

 「アリアちゃん?」

 

 「聞いてください。私の、言祝アリアの卒業ソングを。」

 

 あの星、本当に、綺麗だと思いませんか?ー遺された言葉の意味をファンの男が必死に考察している間に、大三輪遥は、日本から姿を消していた。

 

 「星なんて、何処にも...

 

 …あれ!?アリアちゃん!?」

 

ー*ー

 

 記者「5分前行われた気象庁の隕石についての緊急発表が波紋を呼び、早くも各地でパニックが発生する中、内閣官房長官の緊急記者会見が始まろうとしています。

 

 あ!官房長官です!官房長官が、ただいま、会見場に姿を表しました!」

 

 官房長官「先ほど気象庁から、不明隕石『20××QB2』衝突と、それによる甚大な被害は避けられないとの発表がありました。

 

 これについて、内閣として被害予測と、国民の皆様への発表・要請をさせていただきます。

 

 気象庁から発表がありました通り、不明隕石の大きさは直径400mの鉄質隕石で、突如天文観測に反応したため来歴は不明です。そして、地球への予想到達時刻は2日後、4日午後6時となります。

 

 気象庁及び各研究機関の試算を検討した結果、この隕石は長野県諏訪地方に衝突し、周囲およそ100㎞に破滅的な熱量及び衝撃波を放出するとの結論に至りました。

 

 こののち閣議決定を行い正式に総理から発表されますが、私の方から、ほぼ決定したこととして、国民の皆様へのメッセージを伝えます。

 

 不明隕石『20××QB2』の衝突による被害を防ぐため、長野県・山梨県全域・美濃西部を除く岐阜県全域、富山県東部、埼玉県西部、群馬県西部、東京都奥多摩地方、静岡県浜松市天竜区に至急避難指示が発令される予定です。

 

 以上の域内では即死級の熱波・衝撃波が確実となっており、住民の皆さんには域外への迅速な避難を要請します。また中部・関東地方のほぼ全域にマグニチュード5クラスの地震と木がなぎ倒される程度の爆風が予想されています。住民の皆さんには、コンクリート等堅牢な構造物の内部あるいは域外への避難を要請します。

 

 中部・西関東地方の皆様。命を守るための行動を、とってください。」

 

ー*ー

 

 「NASAからは、なんと?」

 

 「JAXAと同じ回答でした。数週間前、せめて数か月前に発見されたのならまだしも、数日前に発見された地球近傍天体の衝突阻止迎撃は...核兵器を集中的に投入することで破壊することは不可能ではないが、どのように破片と核物質が散乱するか予測不可能でありかえって被害が拡大するだろう、と...」

 

 「…8.1㎞のクレーターと、甲信地方の消滅…避難さえ完遂すれば、なんとか許容できる...か…」

 

 「隕石が分裂しなければ...いえ、強固な鉄隕石、とのことでしたね、総理。」

 

 「うっかり破片が全国に降り注ぐ心配をしなくて良いのは不幸中の幸いだが…

 

 やはり国内外の混乱は避けられないか。」

 

 「はい。中露はさかんに領空領海を侵犯し、また外国為替市場では円の大暴落が起きています。また国内では、2日間の間に全住民の避難が可能であるにもかかわらず、避難を急ぐ人々によるパニックが…また自殺者も相次いでいます。」

 

 「…なぜ、なぜ、隕石が突然無から湧きだしてきたりするのだ...!

 

 いや、愚痴っても仕方がないのはわかっている。だがせめて、こんな時に言祝くんがいてくれれば、言祝くんがよびかけてくれれば、国民ももう少し…

 

 …どうして失踪などしてしまったのだ...!こんな国難の直前に...!

 

 …いや、これも愚痴か。」

 

 「…そう言えば総理。」

 

 「なんだね、官房長官。」

 

 「…言祝アリア、いえ大三輪遥さんの姿が最後に確認されたのも、長野県諏訪郡下諏訪町、でしたよね...それも、隕石発見と同日...」

 

 「…やめたまえ官房長官!

 

 それでは、それでは彼女はまるで...

 

 …偶像(アイドル)はあくまでただの偶像(アイドル)だ。偶像崇拝などあってはならない!

 

 …例え、例え彼女に、我々大人が、怨み呪われるほどの泥を見せてしまってきたとしても…」  




 「20××QB2」などという地球近傍天体は存在しない。今まで観測に引っ掛かったことがないという意味ではなく、あのような隕石が存在すべきではないという意味でもなく、字義通り、存在しない。(ある天文台職員の殴り書き)
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