アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪89 完璧で救世の女神

ー*ー

 

 日本、長野県下諏訪町。

 

 大三輪遥が飛び降りた断崖は電波が繋がらなかったため、物部ユイと藤原千尋は市街まで戻り、然るべきところに電話をかけていた。

 

 「総理、ですから、遥は生きています。」

 

 「何を言うんだね藪から棒に。

 

 大三輪くんの死亡は確認された。遺体こそ見つかっていないが、着ていた服、持っていたスマホを海外の工作員が手に入れ、先ほど公安により回収された。充分だろう。なあ。

 

 この隕石災害、言祝アリアさえいてくれれば、一言でもテレビで告げてくれれば、パニックに収拾が付くが…もう大三輪くんはいないんだ。なあ。」

 

 「ですから総理、そういう、遥の『お告げ』で世界が一喜一憂してるから遥は…

 

 …いやもういいです。とにかく、よしんば遥の身体は死んでるかもしれませんが、魂はまだ死んでませんし、どこかに隠れてます。」

 

 「何を言うんだね藤原くん。私は忙しいんだ。この国難に、死んだアイドルに頼る方法を夢想している場合ではないのだよ。なあ。」

 

 「いえ、ですから!

 

 …遥の死と隕石災害が連続したのは、もしかしたら、この隕石災害にはウラが」

 

 「そんなものはない。切っていいよな。なあ。」

 

 「総理、もう少し話を…総理は遥を甘く見て…

 

 …なあ?」

 

 総理は、誰に同意を求めながら電話に応えている?

 

 「甘く見ているわけではないよ。大三輪くんは稀代の、かみさまみたいなアイドルだ。だけど、人類はともかく私たち日本のためになるわけではないし、それにもう死んだ。

 

 なあ、大三輪くん。…大三輪くんが、そう言っているんだ。」

 

 千尋とユイが、同時に凍りつく。…総理は何を言っている?大三輪遥が死んだと、大三輪遥が言っているだって?

 

 「いけない、てっきり私は、転生だと…全部、勘違いして…!」

 

 違う。言祝アリアが、大三輪遥が異世界転生しただなんてブラフもいいところだ。彼女は生きていて、それどころか魅了を振りかざしている。

 

 「はるちゃん!そこにいるんでしょッ!何をしてるの!?」

 

 ガチャン、ツー、ツー…

 

 「切られ、た…

 

 …ちーちゃん!ここから一番近い、自衛隊の基地は!?本気のはるちゃんなんて、軍用機がないと勝てない!」

 

 姿を見ても声を聞いても魅了され、洗脳される…それが、言祝アリアという超絶アイドルだ。現に総理大臣…おそらくは内閣が陥ちている。この上は、外からの映像画像音声のすべてを遮断できる電子戦部隊がなければ何をしても無駄と言えた。

 

 「えっと確かたぶん富士火力演習場…

 

 …富士!?」

 

 諏訪湖から南に望める、日本のシンボル、3776メートル。そのさらに向こうの空、かすかに、地球へと迫り甲信地方を吹き飛ばそうとする隕石が輝いていた。

 

 「はるちゃん、あのさ…

 

 もし、さ?

 

 神様、というか、神様よりすごい神様が、日本のシンボルに隕石を落としたら…それって、どうなると思う?」

 

 ー物理的な意味ではなく、オカルト的な意味が、その現象には発生してしまう。

 

 「…甲信地方だけですまないことだけは、わかります。

 

 遥を、止めないと。」

 

ー*ー

 

 コーシン地方、コブシタウンにて。

 

 コーシュー盆地低地域の底が抜けたことで、ナデシコシティとその郊外を呑み込んだ大穴…その中に鎮座するアクジキングへ、ウルトラネクロズマもどきことミシャグジ神が神罰を振り下ろす。

 

 UB00 LEFT_GX(ミシャグジ神)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 傍目で見ていた人々は…龍神レックウザの力の依代たれるアリア・カナサシですら、思わず跪いていた。

 

 アクジキングはそれでも、向けられる攻撃を、攻撃が命中する可能性を、攻撃がダメージとなる可能性を、ダメージで自分が倒れる可能性を、捕食していく。

 

 「抵抗するんですね、わかりますよ。」

 

 だから言祝アリアは、語りかけた…数kmは距離があろうと、今の自分なら届くと信じて。

 

 UB00 LEFT_GX(ミシャグジ神)の プロバビリティゲイザー!】

 

 果たして、ミシャグジ神の「可能性」の権能が、声を届けるためだけに振るわれる。

 

 「このおひだりさまがもともとネクロズマ未満だったように、あなたも、ただのアクジキングだったんですよね?」

 

 【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】

 

 言祝アリアとミシャグジ神の、存在の可能性、成功の可能性、そう言ったものすべてを、必死でアクジキングが捕食しようとする。

 

 UB00 LEFT_GX(ミシャグジ神)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 アクジキングをして捕食を飽和させるほどの数多の「世界の可能性」が降り注ぎ、その余波現象で大穴が埋まり「肥沃な大地である可能性」に上書きされていく。

 

 「生まれ持っての才能と、見えてしまった目標への努力…それを重ねたら自分が自分でなくなってしまう、至ってしまう…そう考えても、新たな力また新たな力と、前へと進んでしまいますよね?」

 

 【アクジキングGXの…】

 

 ジリ貧を、アクジキングは判断した。したがゆえに、可能性の捕食に振り切ってやろうとしなかったこと…可能性を集束させ放出する秘技、GXワザを繰り出す。

 

 「私が、そうでしたから。」

 

 あり得たかもしれない可能性を捕食する…すなわち並行世界を喰らうアクジキングにとって、今あるすべてすら相対的な可能性の話でしかない。…だから、今たしかに、アクジキングは世界の中にいながらも、世界を口の中に喰わえていた。

 

 「でもごめんなさい、そしておめでとうございます。

 

 あなたは、そこより先には至れないんです。なぜなら、ここに、上に私がいるから。」

 

 【アクジキングGXの クラッシュパスト・ワールドゼロGX!】

 

 そうして、アクジキングは、都合の悪いすべてを呑み殺し、この世界の可能性を破棄した。

 

ー*ー

 

 コーシューもシンシューも軒並み滅ぼすような、巨大な隕石ー束の間、誰もが破局を幻視して。

 

 「あなたは、そこより先には至れないんです。なぜなら、ここに、上に私がいるから。」

 

 アクジキングすらも狼狽した。…敗北のパラレルワールドをすべて捕食した先に、どうして、こんな可能性世界が存在する?

 

 気がつけば、ロールバックは失敗していた。アクジキングは、喰いきれず吐き出すしかなかったのだ。

 

 ミシャグジ神が、「プロバビリティゲイザー」を乱射し、ついには直径10km超え大穴の存在の可能性を上書きする。…アクジキングは、花畑の中央で右往左往させられていた。

 

 「あなたは、可能性という能力の絶対神の片割れにまで至ったのでしょうけど…

 

 …私は、神様に対してすら、アイドルなんです。すべての祈り願い崇める者(ファン)にとっての、神様(アイドル)なんです。」

 

 ミシャグジ神が与える、極彩の漆黒、矛盾する無限の可能性でできた光爆…それが言祝アリアを照らす様は、まるで、あらゆるファンの欲望を一身に受け止めるアイドル、あるいはあらゆる信者の祈りを聞く神のようで…

 

 「聞いてください、言祝アリアで、『Pray to me(みんなのかみさま)』」

 

ー*ー

 

 言祝アリアは、この曲を忌避していた。

 

 「ユアマジェスティ 空に届かせるから」

 

 伝説のアイドルユニット「フューチャー・トリニティ」、その最後にして最高の曲…三位一体のアイドルを、ファンの神様として立てる曲。

 

 「ユアマジェスティ きっと輝くよ」

 

 ミシャグジ神の光爆が、温かな後光へと転換されていく。まるで言祝アリアに傅くかのように。

 

 「天の先 みんなが仰ぐように」

 

 ー結局、あのアイドルユニットが続く可能性というのはありえなかったのだ。皆に仰がれる神様の器、それにふさわしいのはどの可能性世界でも言祝アリアただひとり…

 

 「ユアマジェスティ 明日の答えなら」

 

 一度は逃げた、神様という末路。その答えを受け入れたと満天下に示すかのように、彼女は高らかに歌う。

 

 「ユアマジェスティ 授けてあげるから」

 

 人々の信仰の力で、土着の神を鎮める…いや捻じ曲げるかのように、言祝アリアは、ミシャグジの光を掌の上に集めていく。

 

 「信じていて 私のすべてを」

 

 アクジキングに、抵抗は赦されなかった。そんな図の高いことは。

 

 ビーム、咆哮、光弾、流星、そして不可視の「可能性の捕食」…いずれも、言祝アリアが背負う後光によってかき消される。

 

 …あえて理論をつけて説明するのなら、後光の主であるミシャグジ神が「可能性の放出」によってアクジキングの攻撃を打ち消していたのだろう。もっとも、そのような野暮な事象では断じてなく…ただ言祝アリアが圧倒的な存在であった、真理はそれに尽きていた。

 

 歌が終わる。2つの世界の祈りと願いの焦点となった歌が終わる。

 

 UB00 LEFT_GX(ミシャグジ神)の てんこがす…】

 

 そうして、言祝アリアは、祈りを大切に掬い取るかのように掌を持ち上げ、世の中に何かを授けるかのように掌を裏返し…

 

 …掌に集められていた、ミシャグジ神からの光。それが、静かに炸裂した。

 

 【言祝アリアの よをてらすきゅうせいのひかり!】

 

ー*ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花畑の中央でぐてりと横たわる、手長足長あるいはアクジキング。それに、アリア・カナサシはそっとウルトラボールを押し付けた。

 

 「…アクジキング…ゲットよ。」

 

 ボールの点滅が収まる…コーシューの貧病とシンシューの戦乱に至る因果の大本は討伐され、ーシン地方の「可能性の邪神」は2体ともに封じられたのだ。

 

 だが、わからないことがある。

 

 「コトホギさん、一体どこへ消えたの…?」

 

 ミシャグジ神の力を我がものとし、アクジキングめがけ振り下ろす…人間業ではない、神話そのものの光景を人々に見せた言祝アリアは、その攻撃の圧倒的光量が収まった時には既にどこにもいなかった。

 

 「まさか、神様になったから天界に消えたとかじゃないだろうな…?/あるとしてもウルトラスペース…と言いたいところですけれど、完全にネクロズマの上位存在に至ってましたわね。」

 

 冷や汗が、アリア・カナサシとフロックス姉妹から流れる。

 

 そこへ、ツクバネ・モリヤが駆け込んできた。

 

 「おひだりさまのウルトラボールに付けた発信機が、道端に落ちておった!

 

 こりゃ、やられたぞえな。」




 姿を消した、言祝アリアとミシャグジ神。

 首相官邸を魅了した、大三輪遥。

 ポケモンがいる世界といない世界に、同一人物が存在する...そして、「凶兆の星」「甲信隕石」が2つの世界の甲信地方を滅ぼそうとしている…

 ここに迫るは、最後の審判。

 ~転生ポケモンアイドル真の最終章「アイドル、世界を歌う」~

 ー「ハロー、マイワールド…

 そして、お別れの時も近そうですね?」
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