アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
シンシュー侵略へとコーシュー地方を追い詰めていた宿痾、「日本住血吸虫」...これもまた、解決の時が近づいている。そして住血吸虫がコーシュー地方へ出現する原因となった「ポケモンのいない世界の可能性」を具現化させる伝説ポケモン、アクジキング(変種)は、神をも超える者として覚醒した言祝アリアによって調伏された。
...すべての中心にいたアイドル、言祝アリア。彼女は、この大団円で姿を消した。
「転生ポケモンアイドル」 真の最終章、開幕。
♪90 一番星すら追い落とせ
ー*ー
コーシン地方最北の秘境、ウコンタウン。
「結論から言えば…
…『凶兆の星』の進行は停止しました。」
このたび講和条約によってフロックス本家継承最上位に躍り出た少女、ハナツメ・“シバザクラ“・コーシー。彼女は、つい3ヶ月前に終わらせた戦乱のその真の目的のその後の経過について、テレビ会議の向こう側へ告げた。
「…危機は去った、という顔ではありませんわね?」
画面の向こうでは、広がるユキコシ地方ワカナエシティの街並みをバックに、偉大な当主アオバがティータイムと洒落込んでいる。
「…私としては、『凶兆の星』の消滅が最善、そして次善は、進行だったのです。」
空から迫る、気づいた者にだけ観える謎の星「凶兆の星」。それが近づき続ければ、やがて世界は滅ぶ…
「次善は進行の継続、その心は何かしら?」
「ご存知の通り、『凶兆の星』とは滅亡の可能性の具現化です。世界は常に無限に等しい可能性の差分に分裂しており…しかし益体もない差分であるがゆえに、EX・GXオーバーラップによって果てしない可能性世界が統合されていました。」
簡単な話だ。サイコロを誰かが振るたびに、出た目の違う6つの世界に枝分かれする。どんなポケモンも可能性世界によって微妙に異なるあり方を持ち、それらを束ねあらゆる可能性を引き出せばより強くなれる…だが現に、サイコロ一つ程度のしょうもない差分をいくつ重ね合わせたところで何かが起きるはずもなく、消費され統合されるのは無限に等しい可能性世界だ。
「可能性世界と言っても、一つ一つは塵芥のような差分、統合されてもさして問題にはならない…けれど、統合を繰り返せばやがて『世界が滅んでいた可能性』が近づいてくる、でしたかしら?」
そうなれば、顕現した「滅亡した可能性」によって世界は滅んでしまう。迫るその一つが「凶兆の星」もとい「ホウエン隕石により滅んでいた世界の可能性」だ。本来それらは現実のものとならないように防がれた可能性のお話であったが、「可能性そのものを現実へと汲み上げる」オーバーラップ技術の下では…
だからこそ、世界を守るためにオーバーラップ技術を封印せんと、ユキコシ地方はコーシン地方に侵攻したのだ。
「…それでも、停止よりは、進行の継続が良かったのです。」
軍事侵攻に至るそもそもの所以を蔑ろにするかのような、ハナツメの発言。
「…『凶兆の星』が消滅しないということは、まだ可能性世界の統合は続いているということです。でなければ、数多に新しく生まれる可能性が旧き可能性を希釈しましょう。」
こうしている間にも、無限の可能性世界が分岐している…例えば今、アオバがティーカップをひっくり返すかもしれない。誰かが部屋に飛び込んでくるかもしれない。回線が不調になるかもしれない…ありとあらゆる可能性の分岐の中では、一度統合されつつあった「滅亡の可能性」も遠ざかっていくであろう。
「そうならないということは、オーバーラップ技術の封印が不充分、あるいは封印だけでは不充分ということかしら?」
「で、あったとしても、『凶兆の星』は緩やかな進行か消滅に向かいましょう。
停止とは均衡です。可能性の分岐と統合が釣り合っているのです。
こんなことは自然には起こりません。」
だから、進行のほうがまだマシなのだ。停止とは、何者かの不気味な意志の介在を示すから。
「オーバーラップ技術を封じ、ネクロズマもアクジキングも鎮めたわ。それに『凶兆の星』を知る者が限られてる。」
だから、もう、黒幕は。
可能性にまつわる力を操り、統合を続けられるのは。
真実を知っているのは。
「/たった一人、アイツ…となると/わたくしが征くしか、なさそうですわね。」
ー*ー
「コトホギさん、何処へ…」
コーシン地方は、未だ復興の途上にある。
シンシュー地方の戦勝で戦乱こそ収めたが、結局コーシュー地方を併合したため、トータルで見ると戦争被害でボロボロになっただけだ。ユキコシ地方と組んで錬金術に等しい財テクを行ったものの、根本的な解決ではない。…しかも旧コーシューは赤貧の極みときている。
コーシュー編入…併合とも言う…とその後の混乱のせいで、臨時政府たるPOINSAすら改組できていない。他の地方のように都市ごとの分権を進めればシンシューは戦前のように分離四散してしまうから論外にせよ、ポケモンリーグの設立によるトレーナー権威と世俗権威の分割は早めにしたいところである…
「だって言うのに…」
POINSA体制のトップである言祝アリアの行方は、コーシュー盆地でアクジキングを倒したあの日から、妖として知れない。もはや現代の神話となった彼女がしばらく公に姿を見せずとも、コーシン地方に対する彼女の求心力は衰えたりしない…が、だから問題が生じないかと言うとそんなわけがない。
「…サーナイト、『いやしのはどう』お願い。」
疲労の回復をポケモンのワザに頼り始めたら人間おしまいである。…それでも、アリア・カナサシは実務的にもそして精神的にも、そうせざるを得ないほど切羽詰まっていた。
「コトホギさんさえ、無事で、戻ってきてくれたら…」
カリカリと書類に走るペンの音。…執務室の静寂を破り、電話が鳴り響く。
「はいもしもし」「委員長代行閣下!ニュースをご覧ください!」
ー*ー
「号外!号外!」
カントー地方、マサラタウン。
「号外だよ!
チャンピオン、ついに敗北!」
道行く人が、いっせいにぎょっと立ち止まる。
「一つくれ!」「オレにも見せろ!」「マジかよ!?」「見て!トレンドにものってる!」
“カントー地方の伝説的チャンピオン、敗北
カントー地方とジョウト地方のトレーナーのトップであり、かのロケット団の野望をくじいたことでも知られる、チャンピオンレッド氏。氏は本日未明、長らく居を構えていたシロガネ山から下山し、報道陣に敗北を伝えた。
レッド氏によれば、氏を打ち負かしたのは(後略)“
レッド、敗北ー
ーそのニュースは、世界中を駆け巡る。そして、ワカナエシティにも、ウコンタウンにも…カナサシ湖畔の歌姫のところにも届いていた。
「レッドを、コトホギさんが…!?」
「アリア・コトホギ…!動きますか…!」
「さあ行くぞアオバちゃん…決着の時間だぜもう一人の転生者!/あらそうね蒼玻くん、アイドルと令嬢なれば…勝負に不足はなくってよ?」
空には、滅亡の可能性を示す「凶兆の星」が迫り。
地には、列島の頂点にて絶世のアイドルが君臨す。
「ハロー、マイワールド…
そして、お別れの時も近そうですね?」
言祝アリアと呼ばれた少女は、3776mの頂に立って唄う。
「さて始めましょうか。
私、大三輪遥の、救世を。」