アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
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カントーリーグを制覇しチャンピオンとなったレッドは、長い間シロガネ山に籠もっていた。
幾人かの挑戦者が意見を顧みずシロガネ山を訪れ、そしてレッドは声一つ発さず挑戦者に勝利してきた。
オカルト界隈では「実はレッドはもう死んでおり、ポケモンバトルの神様となったのだ…」などと胡乱なことを言って、アローラで彼が目撃されたことで大恥をかくなどしたが…
…周辺情勢を考えると、別の意味が見えてくる。「安全弁」だ。
危険なポケモンが徘徊するシロガネ山、そしてその北側にはカントーやジョウトへの侵略企図を公言するコーシュー地方、さらに向こうには四分五裂どころか10分裂して不安定なシンシュー地方…誰か、抑えが必要だったのだ。
もともと、カントーリーグとしては、コーシュー地方から侵略目標として名指しされているトキワシティに最強クラスのジムリーダーであるサカキを配置していた…が、彼は私兵もろとも失脚したーロケット団のことである。代わりとしてグリーンをジムリーダーに置いたが、不安定化は隠しようもなく、よりコーシューに近いシロガネ山に伝説的なチャンピオンを置くのが最適解だった。
レッドはカントーとジョウトを守るため何度も戦いーきっと歴史の表に出ないコーシュー側からの挑戦もあったのだろう、敵に余計な情報を渡さないために無言が最善であったーその過程でコーシュー=シンシューとウルトラビーストとの関連に気が付き、アローラまで行きすらした。
それでも…しょせん本質が人の子なれば、神様を従えて神様以上の位階に立つ偶像は、荷が重かったのだろう。
シンシュー地方の統合、コーシュー地方の侵略挫折と崩壊、そしてコーシン地方の成立…それらすべてを南端の列島最高峰から見届け、肩の荷を下ろそうとしていたまさにその時、レッドは言祝アリアの強襲を受けた。
「負けた。負けた負けた。
格が違うね。僕ら常人の出る幕じゃない。」
レッドにそこまで言わしめたのが何であるか…言祝アリアとは何であるか…常人ではない人物ー例えばカナサシ湖畔の現人神や、ウコンタウンの預言者や、ワカナエシティの転生令嬢ーだけが、知っていた。
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シロガネ山、山頂。
「やっぱり、一番最初に来ましたね、アリア・カナサシ。」
「もう、歌姫さんとは、呼んでくれないのね。
私、最初に元歌姫って呼ぶように頼んだのにずっと歌姫って呼んでくるの、嫌いじゃなかったのよ。」
「…どうしてそう呼ばなかったのか、昔はわからなかったんですけど、今はわかります。
アイドルを止めに来るのに、元歌姫では役不足だからですよ。」
皮肉なものだ…アリア・カナサシは、言祝アリアを”英雄歌姫”の隣に、そして上に立たせてシンシューの中核にしようとしてきた。その終着点として、神様より上に至った言祝アリアが、チャレンジャーとして”英湯歌姫”を求めている。
「まさか、コトホギさん、貴女がラスボスになるだなんてね。」
寂しそうな表情…アイドルは応えない。
「知っていますか?
『凶兆の星』が停止しているのは、可能性の統合と分岐が釣り合っているからじゃないんですよ。」
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「おかしいと思いませんでしたか?
どうして、転生令嬢と転生アイドルにトドメをさしたのがカラシニコフだったのか。
『ポケモン世界の滅び』とは、本当に隕石やウルトラビーストや神格ポケモンや悪の組織ぽっちだけなのか。」
モンスターボールを6つ、ポケットから取り出してテーブルに並べる。そして大三輪遥は、ボールを一瞬だけ掌で隠した。
アリア・カナサシが、目をこするー掌をどけても、ボールが見つからない。
「目の錯覚、そう思いましたか?
…この世界の真の滅びとは、『ポケモンが存在しない可能性』ですよ。
例えばそう、あのカラシニコフだとか。」
カツン!踵の音が響き。
「そろそろ、枝は剪定すべきですね。」
6つのモンスターボールが、ふっと出現する。同時に、青空高く輝く「凶兆の星」が、尾を引いて動き始めた。
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「トクサネ宇宙センターより緊急電!超大質量隕石が突如出現とのこと!
このままでは1日で地上に落下します!」
(え!?「凶兆の星」は観測論的で、予備知識無しには見つからないはずなのに…!)
「カグヤ様、アローラからも!」「ガラル、シンオウからも同様の報告が!」
「…っ、ユキコシ全域に戒厳発令!パニックを抑えて!
私はお姉ちゃんに伝えてくる!」
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「総理!JAXAから緊急で報告が!
隕石の反応が弱まったそうです!」
「何…?分裂とかか?」
「いえ、それが、体積、質量ともに変化はないのですが、レーダー輻射や可視光が半減…半分透き通っている、とのことです…」
「透き通る?隕石が??」
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「ポケモンがいない世界…言い換えれば、私たちの世界です。
観えるようになったと思いますよ、『凶兆の星』。アレは今や、可能性の中に消え去ったこの世界の隕石ではなく、切迫しつつある私たちの世界の隕石ですから。」
アリア・カナサシの脳内に、警報が鳴り響く。大三輪遥の言葉の一つ一つが、点と線を結びながら、像を描いていく。
「2つの世界にまたがる巫女…
…コトホギさん、何を」
「もう、1.9くらいですよ。」
そして、大三輪遥は、北の方角を指さした。
「あの隕石が
寂しそうに、アイドルは告げた。
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「世界が融合したら、どうなるの?」
たっぷり5分の沈黙ののち、アリア・カナサシはおそるおそる尋ねる。
「2つの世界の様々な可能性のうち、選ばれたものだけが新たな1つの世界となりますよ。
例えば、こんなふうに…『剪定』」
カツン!踵音。
とたん、大三輪遥の背後に、コンクリート造りの建物と白いレドームが出現した。
「なっ、何を」
「『富士山気象観測所』、簡単なことですよ。
ポケモン世界には設立されない可能性でしたし、私たちにとっても20年以上前に廃止される可能性でしたから、それらは『剪定』させてもらいました。」
ポケモン世界とポケモンがいない世界、それぞれに存在するものごとから、新世界に残れるほうを決める能力。
ポケモン世界とポケモンがいない世界それぞれで今まで起きてきたイベントの中から、可能性の枝分かれのうち1つだけを選択し生き残せらせる能力。
「
可能性の引き出しと捕食。位階が下位の神格と言えど、権能はなかなか勝手の効くもので良かったです。」
対立していたはずの2体の神格ウルトラビースト。その力が今ひとまとめとなり、2つの世界に取捨選択と融合を強いている…
「…コトホギさん、なぜ。」
それはほとんど、両方の世界にとって、ある種の終末に等しかった。いや、むしろ…
「この、
私にフリーハンドを与えたら、紐が切れたヘリウム風船のようにどこまでも高く昇ってしまうこと、まさか危うさを感じなかったわけでもないですよね?」
「…そうだとしても、悪いことにはならないって信じたから…だって、コトホギさんはあんなに綺麗で輝いてて、私に希望をくれた!」
「輝いてて、綺麗で、希望、ですか。
だから、ですよ。
1つ、ほんの少しだけ、昔話をすることにしましょう。」
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「ほら、私の世界にもSNSってあって...だから、例えば私が今から言うような抽象化に、心当たり、ありませんか?
誰かを見下し、自分は誰かの上にいると安心しないと生きていけない人類の本性と...差別は良くない偏見は良くないと言うきれいごと。
誰かの快と誰かの不快のコンフリクトを、闘争とヒエラルキーで解決する。
幸福を求めたり正義を求めたりするだけのことが、お互いにどうしても噛み合わなくて戦争にまで。
目立つ言葉やデマばかりが広がり、すべてを焼け野原にする。」
「…何が言いたいの」
「私はアイドル、みんなを照らす希望の光で、偶像で、きれいごとで...
…だから言います。私は、きれいごとがきれいごとでしかないようなあの世界が、とっても嫌いでした。」
「っ、もしかして貴女の転生って…」
「半分は事故です。『半分は』。
…私自身、私がこれほどポケモンが好きだとは…ポケモンの世界にあこがれているとは思いませんでした。
けど。
このポケモン世界に転生してきて…せっかく転生して見たものは、変わらない。もちろんシンシューとコーシューが特別悪いのはわかってます。それでも...
…私は希望の光になれたかもしれません。でも、それじゃ足りないんです。私にとって不足なんです。だから。だから。
これが皆さんの、2つにまたがるすべての可能性世界の、ファイナルライブです。」
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「…そう。
なら、私の答えも一つね。
これを最期になんかさせない。
始めましょう、私たちのファイナルバトルを!
いくわよ、ニンフィア!」
【現人神の アリア・カナサシが 勝負を挑んできた!】
「そうなると思っていました。
神使たれよ、アシレーヌ!」
【アイドルの 大三輪遥は アシレーヌGXをくりだした!】