アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪92 神の言霊、言祝ぎ、寿げば

ー*ー

 

 ーポケモントレーナーとしての言祝アリア(大三輪遥)を育てたのは、紛れもなくアリア・カナサシである。

 

 「アシレーヌ、なみのりです。」

 

 ーそれに、大三輪遥はGXオーバーラップを躊躇なく使っているが、アリア・カナサシの「祝歌」バフ・「呪歌」デバフと大三輪の「祈声」バフを合算するとスペック的にはだいたい釣り合う。

 

 「ニンフィア、ようせいのかぜで巻き上げて。」

 

 風に煽られた高波が、水の壁となってむしろニンフィアを守る…

 

 「うたかたのアリアです。」

 

 …水壁から、音波とともに幾条ものビーム。

 

 ーそれでも、弟子が師匠に劣るとは限らない。いや、序盤から大三輪遥はバトルの流れをつかんでいた。

 

 「ハイパーボイスよ。」

 

 うたかたのアリアが音を弱めていく。

 

 「逆位相周波(ノイズキャンセリング)、なるほど?

 

 そう来てくれて助かりました。アクアジェット。」

 

 四方に「うたかたのアリア」の音波をまき散らしながら、アシレーヌGXは水流をまとい空を飛ぶ。

 

 「ハイパーボイスで打ち消して!」「蛇行してください。」

 

 徐々に、うたかたのアリアの音が復活していた。ハイパーボイスで打ち消そうとしているにも関わらず、音の高低を小刻みに変えながら響いて…いや、ハイパーボイスと和音してすらいる。

 

 「完璧な逆位相なら音のエネルギーは相殺されますが…アクアジェットの移動によるドップラー効果まで計算して発振できる者などいませんからね。」

 

 倒れるニンフィア。アシレーヌGXがゆっくりと地に降り立つ。

 

 「…ニンフィア、おつかれ。

 

 ワタシラガ、行くわよ、コットンガード!」

 

 次なる一手だと、綿毛が膨れ上がり。

 

 「ソーラービームよ!」「アクアジェットです!」

 

 水を噴き空へ舞い上がるアシレーヌGX、そして、ワタシラガが光線を空へ乱れ撃つ。

 

 「ソーラービームにしてはリチャージが早すぎる…なるほど?

 

 アシレーヌ、あまごいです!」

 

 列島最高峰のシロガネ山山頂なのだ、太陽は近く、陽光を遮る大気は薄い。低地での「ひでり」時よりも太陽エネルギーを素早く得られていた。

 

 「気づいたところで遅いわよ。」

 

 先制ワザに劣らないほどのリチャージ時間となったソーラービームが、アシレーヌGXを仕留める。…が、同時に雨雲が山頂を覆っていく。もうソーラービームは使えない。

 

 「ラプラス、オンステージ!」「戻ってワタシラガ!そしておいでなさいな、キュウコン!」

 

 天候は「あめ」、みずタイプのラプラスのほうがやや有利…

 

 「「ふぶきっ!」」

 

 山頂のただでさえ低い気温に冷気が混じることによって、雨雲は瞬時に雪雲と化し…そして天候「ゆき」で必中かつ強力な猛吹雪が、お互いを襲った。

 

 (ポケモンについては怪しくても、シンシューの山々については私の方が良く知っているわ…ソーラービームを止めるために天候を変えるとすればコトホギさんは「あめ」か「ゆき」…高標高を利用すれば「あめ」でも「ゆき」に塗り替えれるし、こおりタイプで相打ちになってもこちらにはもう1体アマルルガがいる…!)

 

 ほどなくして、ラプラスGXとシンシューキュウコンが倒れる。

 

 「アマルルガ、オーロラベールッ!」

 

 シロガネ山の山頂には、未だ雪、いや吹雪が吹き荒れ、視界を朧にしている…大三輪遥はそんな中で、モンスターボールを握りしめ。

 

 「メガシンカです、チルタリス!」

 

 なんですって!?ーアリア・カナサシは仰天した。チルタリスはメガシンカでドラゴンタイプを得る…状況に対する相性が最悪だ。

 

 「なんだかわからないけど、ふぶき!」

 

 山頂を、猛吹雪が満たしていく。伸ばした腕の先すら見えないこの雪撃は、もちろんドラゴンタイプにとって致命的。

 

 そして、ポケモンが倒れる音がした。落ちる、ではなく、倒れる音が。

 

 「ア、アマルルガ!?」

 

 猛吹雪が、晴れていく。視界のはるか先には、悠々と飛ぶМ(メガ)チルタリスGX。

 

 「…最初から射程外にいれば、ふぶきと言えど当たらないし、ふぶきが厚くてこちらからは見えない。けど、アマルルガは鈍重だから見えてなくても最初の座標で当てられる…ってところ?」

 

 「御名答です。ちなみにワザはなんでしょう?」

 

 アリア・カナサシは、舌打ち1つ、ボールをかまえ。

 

 「さしずめ、ハイパーボイスあたりよね。

 

 セコい真似をしてくれるわね…!

 

 サーナイト、メガシンカッ!」

 

 「GXどころかEXでもなく、EX専用ワザも捨て、それでメガシンカ同士のバトルとして互角だと?

 

 失笑ですね。ハイパーボイス!」

 

 メガサーナイトめがけ、音波の砲撃が放たれる。

 

 地面を滑るように避けたメガサーナイトのすぐ横、腰ほどまである大岩が砕け散り、噴火口に転がり落ちていく。

 

 「ふっ…」

 

 「何を、不敵に…」

 

 再びのハイパーボイス。これも回避…しかし吹き飛んだ土砂がメガサーナイトを襲う。ジリ貧だ。

 

 「オーバーラップ技術は確かに『ありうるかもしれない可能性』を引き出していた…けれどつまりそれは、専用ワザと呼ばれたものの正体は別に専用ではなく、どこかのパラレルワールドではスペックさえ足りれば使える攻撃にすぎないってことよ!」

 

 メガサーナイトの胸元。フェアリーオーラの矢(ブリリアントアロー)サイコパワーの極光(ディスペアーレイ)が、不安定に揺らぎながら現出する。

 

 「サーナイト、今持ち得るすべてを束ねてのせなさい!」

 

 メガサーナイトが口を開く。不安定だったフェアリーオーラとサイコパワーが、口元に移動しながら重奏していく。

 

 「ッ、チルタリス、こちらも専用ワザです!」

 

 М(メガ)チルタリスGXもまた、フェアリーオーラをミスト状に纏って羽から散らし、ドラゴンとしての出力と迫力で山頂へと突っ込む。

 

 М(メガ)チルタリスGX(祈声)(呪歌)の ミストパージ!】

 

 正面から突撃してきた、狂鳥としか見えないそれに対して、メガサーナイトは己の持つすべてのパワーを声に乗せ。

 

 【メガサーナイト(祝歌)の メガシンフォニア!】 

 

 空の雲が吹き飛ぶほどの、爆発。

 

 崩れやすい富士の石が、雪崩を打って数百と崩落していく。

 

 「「…引き分け、か…」」

 

 あまりにも、お互い、攻撃力が過大に過ぎていた。何しろ爆風により薄い大気が吹き払われ、再び山頂に直射日光が差し込むほどである。

 

 「ワタシラガ、もう一度お願い!」

 

 高標高を活かした速射・高威力ソーラービームが、またやれる…

 

 「オンステージ、チラチーノ!

 

 無理に迎え撃たないでください!トリプルアクセル!」

 

 大気を切り裂き乱れ撃たれるソーラービームを、チラチーノGXが踊り舞いながら間一髪避けていく。山肌の傾斜や噴火口の傾斜をも活かし、己の半分しかすばやさのないワタシラガを翻弄する。

 

 …もしソーラービームが、薙ぐように掃射状に撃てたら、いかなチラチーノGXとて逃れられなかったかもしれない。チラチーノという種族は空を飛べない、平面空間でしか逃げられないから、360度ぐるりと回転しながら撃たれてはどこかで当たってしまう。

 

 けれど現実には、ソーラービームは高標高の日差しを活かし速射しているだけであり、溜め時間を短縮できてもそれはゼロではない…

 

 …チラチーノGXは、地表を滑るようにして、大胆かつ着実に、ワタシラガへと迫っていた。幾度となくソーラービームがその体表の毛を焦がすが、しかしダメージを与えるには至らず、効果抜群のトリプルアクセルを継続しながらワタシラガへと近寄っていく。

 

 「コットンガード!」

 

 …まるで、吸い込まれるかのようだった。

 

 瞬時に膨らんだワタシラガの綿毛は、至近に迫るチラチーノGXを捉え、その片腕を絡め取って収縮した。

 

 トリプルアクセルがくさタイプに効果抜群なのは、こおりワザだからだ…つまり冷気をまとっていて、それはコットンの一部を凍りつかせる。

 

 「捕まえたッ、ソーラービーム!」

 

 チラチーノGXは、凍りついた綿毛によってワタシラガに繋がれ、今度こそ回避の手段は…

 

 「なげつける!」

 

 …いや、綿毛そしてワタシラガ本体を「自らに結わえ付けられた『どうぐ』」と擬似的に見なせば、チラチーノGXは綿毛を振り払いワタシラガを火口へ叩き落とすことができた。

 

 ワタシラガが火口斜面を転がり落ち…アリア・カナサシとワタシラガの想定よりは一拍遅れてソーラービームがチラチーノGXを直撃し…

 

 …戦闘不能になるまでの時間をわずかに引き延ばせたことで、チラチーノGXは最後っぺに「バトンタッチ」を発動でき…

 

 【シンシューイワパレスGX(祈声)(呪歌)の シザークロス!】

 

 火口へ滑落していくワタシラガへ、効果抜群のむしワザに重量を上乗せしたそれが、クリティカルに決まった。

 

 「…ワタシラガ、お疲れ様。

 

 …さて、泣けど笑えど6体目、トレーナーとして、全てを出すわよ…踊りなさいメロエッタ!」

 

 【メロエッタ(祝歌)の いにしえのうた!】

 

 シンシューイワパレスは鈍重であり、メロエッタに先手は取れない…そして、メロエッタがステップフォルムへのフォルムチェンジでエスパータイプからかくとうタイプになることにより、タイプ有利すらも失われた。

 

 「インファイト!」

 

 先程は、機敏なチラチーノGXにワタシラガが対応できなかった。今度は、鈍重なシンシューイワパレスGXをメロエッタが翻弄することとなった。

 

 「いわなだれです!」

 

 命中させないまでもひるませられればいい…シンシューイワパレスGXはメロエッタの周囲へと岩塊を降り注がせる。けれどメロエッタは、降り注ぐ岩へ飛び乗り、あるいは拳で砕き、シンシューイワパレスGXへ迫っていく。

 

 インファイトは防御力が下がるワザとして知られる…けれど、アリア・カナサシの歌声が持つ「祝歌」バフは常に能力を最大とするので、メロエッタは一切のデメリットなく拳のラッシュを繰り返し繰り出せた。

 

 大三輪遥は、ワタシラガ戦で取られた作戦をやりかえす…つまり、接近を阻止できないのなら、引きつけて攻撃し返そうと考えた…すなわち。

 

 「…今!」

 

 メロエッタが、まさにシンシューイワパレスGXの背負う岩を殴ろうというそのタイミングで。

 

 【シンシューイワパレスGX(祈声)(呪歌)の ハイパーボイス!】

 

 シンシューイワパレスGXはからをやぶってメロエッタへ正対、至近距離からのハイパーボイスを浴びせかけた。

 

 まったく同時に。

 

 【メロエッタ(祝歌)の ハイパーボイス!】

 

 撃ち返した、というわけではない。最初から、接近したらそうする、と決めていたのだろう…メロエッタもまたハイパーボイスを発し、2つの音波が数十センチの至近で激突した。

 

 音波の余波が周囲の岩礫を破砕し、砂埃があたり一帯を満たす。…そして、すばやさでも特効種族値でも勝っている上に音楽系ポケモンであるメロエッタが、この音ワザ勝負に負ける理由などなかった。

 

 砂煙の内情を確認すらせず、大三輪遥はモンスターボールの回収ビームでイワパレスを戻す。

 

 「至近距離からのハイパーボイスでの奇襲…お互い同じことを考えていたのが私の敗因とは。」

 

 「似た者同士だから一緒に旅をして、似た者同士なのにこうして最後に争う、数奇なものよね。」

 

 「そうですね…ですが、それもそろそろケリでしょう。

 

 オンステージ&オーバーラップ、イーブイ!」

 

ー*ー

 

 イーブイというポケモンは、しばしば対比されるピカチュウと異なり、進化前「というだけの」ポケモンであり貧弱なステータスでしかない。メロエッタがほぼ倍の合計種族値を設定上持つことを、ポケモンオタクの大三輪遥はよく知っている。

 

 ゆえに、選択肢は最初から一つしかなく。

 

 「イーブイ!ここが勝負です!あなたのすべてを解き放って!」

 

 ブースター、シャワーズ、サンダース、リーフィア、グレイシア、ブラッキー、エーフィ、ニンフィア…8つの虚像が、イーブイGXの背後に出現する。

 

 それは、イーブイというポケモンが持ちうる進化の可能性…けれど、虚像の出現は8で止まらなかった。

 

 「…メロエッタ!手に負えなくなる前に止めて!インファイト!」

 

 駆け足で懐に入り込むやいなや、両手でラッシュを繰り出し、さらには足蹴りも…だが、5つの虚像が、ラッシュを受け止める。

 

 「エーフィ、ニンフィアそれに…!」

 

 「まだ私の知る限り『実装されて』いませんが、ブイズにはゴースト、どく、ひこうの可能性もなきにしもあらずですからね。」

 

 将来的に登場するかもしれない新たなイーブイの進化系を含めた、18の虚像…イーブイGXが侍らせているのは、それだった。

 

 「…範囲攻撃なら、タイプ役割は通らないわよね?

 

 ハイパーボイス!全部吹き飛ばして!」

 

 【メロエッタの ハイパーボイス!】

 

 「こちらもハイパーボイスです!」

 

 【イーブイGXの ハイパーボイス!】

 

 19の音源が、重なり合いながらメロエッタの声量を迎え撃つ。一つ一つの虚像はか弱いがーなにしろ分身、文体、「可能性の揺らぎ」に過ぎないので本物のブイズに比べて出力が出ないのだー音波が的確に重なり合うことによってメロエッタの声量を包み込むことができた。

 

 ((埒が明かない…っ!))

 

 周りの岩礫が、音波の振動によって弾けながら転げ落ちまくっている。富士山にしろシロガネ山にせよー可能性世界の同位存在だからそっくりだがー火山噴出物が積層しただけの山であり、非常に落石しやすい脆い構造で、度重なる戦闘の衝撃に加えてこの強大な音エネルギーを浴びせ続ければ尾根が保たない。

 

 「これ以上ゲインは上げられない…ですが…ッ!」

 

 だからといってハイパーボイスは終えられない。相手のハイパーボイスを抑制しているからだ。しかしだから継続し続けるのは足場である不安定な尾根を自ら崩そうとするに等しい。

 

 「チキンレース…ってそっちの世界では言うんだったかしらね…?」

 

 斜面を転がっていく石片を視界に収め、アリア・カナサシは冷や汗をかきつつ。

 

 「地面に向かってにどげりッ!」

 

 -自滅への引き金を引かせた。

 

 大音量でぶつかりあうエネルギー、音波に従って激震し破砕される岩礫、今にも崩落しそうな足元…そのすべてを蹴り飛ばし、メロエッタが跳ぶ。

 

 ガラガラと崩れる足場、後ずさるアリア・カナサシ、そして。

 

 「…ッ、こらえる!」

 

 砂塵で朧げな中から跳び込んでくるメロエッタ…その足を避けることは、できそうにもなかった。

 

 (先にハイパーボイスを止めて、ダメージを受けたはず…それに足場をかなり崩しているから、短期決戦のつもりでしょう…!)

 

 大三輪遥の予想通りに、なった。

 

 「インファイト!」

 

 目にも留まらぬラッシュが、ブイズの虚像たちを消し去っていく。自分の別の可能性に過ぎない以上、虚像が消えればイーブイGX本体にもダメージがフィードバックされる。

 

 …それでも、耐えた。こらえているイーブイGX本体、そしてエーフィとニンフィアを筆頭にしてゴースト、ひこう、どくタイプのブイズなら、インファイトの猛撃を耐えられた。

 

 「がむしゃら、サイコキネシス、ムーンフォース、ゴーストダイブ、ブレイブバード、ベノムショック!」

 

 目と鼻の先にいるメロエッタへ、虚像たちが効果抜群の最大威力をぶつける。

 

 ボロ切れのように、メロエッタが吹き飛んだ。

 

 (勝負あり…いえ、まさか…!)

 

 砂を払って、メロエッタが、ゆっくりと起き上がる。

 

 「まだ、いけるわね?」

 

 頷くメロエッタ。その緩慢な動きを見つめ、大三輪遥は理解したーどうしてメロエッタが耐えられたのかも、そして次こそ正真正銘の決着となることも。

 

 「きあいの、タスキ…!」

 

 「オーバーラップを捨てれば捨てたなりに、やりようはある…ということよ。

 

 チャームボイス!」

 

 メロエッタが、口を開く。

 

 (しまった、ハイパーボイスでは周波数が高音すぎて打ち消せません…!)

 

 音ワザの拡散や収束、重ね合わせといった、歌姫・アイドルならでは覚えされられるテクニック…それにも限度というものがある。そしてイーブイGXも「こらえる」でぎりぎりなんとかした程度の体力しかなく、チャームボイスを耐えられない…

 

 「突っ込んで!とっておきッ!」

 

 それしかない、と。

 

 残り5体の虚像とともに、イーブイGXはチャームボイスの音源めがけて特攻した。

 

 強まる音波の中、本来ならわずかのダメージも耐えられないはずのイーブイGXらは、尽きた体力を気力で補い、虚像を爆散させながらメロエッタへと迫る。

 

 「…っち、インファイトに切り替えて!」

 

 倒せるはずなのに、しぶとい…アリア・カナサシは歯噛みしながら、最後に唯一残ったイーブイGX本体を張り飛ばすように伝え。

 

 イーブイGXの額と、メロエッタの手がぶつかり。

 

 そして、両者の動きが、完全に止まる。

 

 (お互いの力が)(釣り合った…!?)

 

 1秒。

 

 2秒。

 

 3秒。

 

 イーブイとメロエッタが、同時に、崩れ落ちた。

 

ー*ー

 

 トレーナーとして、6対6のフルバトル…それは、相打ちに終わった。

 

 彼女らがただのポケモントレーナーなら、じゃんけんでもしたところだろう。幸か不幸か、彼女らはただのポケモントレーナーではなく…ゆえに、バトルは終わらず、神の領域へと踏み込んだ。

 

 「…7体目、そういう決着の付け方に、なるわね。

 

 龍神様、お出ましあれ。」

 

 勢いよくそれでいて厳かに、3776メートルのその上へと白き龍神が舞い降りる。

 

 「どちらのラッキーセブンになるか、といったところですか?」

 

 大三輪遥は、パチパチとまばたきをし、それからポケットからウルトラボールを取り出す。

 

 「ネクロズマ…」

 

 「そちらは祭神、こちらは眷属というわけです。お互い、力を授けるのが本領ですし…こういうのもまた、悪くない…

 

 …少し、話をしませんか?」

 

 「話?」

 

 ウルトラボールを掌でもてあそびながら、大三輪遥は嘯く。

 

 「前口上の、ようなものですよ。龍神様も、どうですか?」

 

 白いレックウザが頷く…より少し早く、大三輪遥は再び口を開いていた。

 

 「ねぇ歌姫さん、世界は、良くなると思いますか?それとも、悪くなると思いますか?」

 

 「ざっくりした話ね?

 

 それは、10年後の景気とかの話ではなくて…もっとマクロな話であってる?」

 

 「はい。

 

 私たちの社会が、明るくどこまでも拓けていくのか、それともどこかで行き詰まるのか、という話です。」

 

 「世界の可能性の総量、ということ?」

 

 「可能性の総量…いい言い方ですね。

 

 それで言うのなら…私は、世界の可能性の総量は負だと思います…未来は悪くなる可能性に溢れていて、明るく啓ける可能性を失い徐々に行き詰まっていく…

 

 ポケモンがいない世界は残酷なまでの現実に満ちていて、人権…人々の自由という可能性と、文明の発展…人々の奉仕が人口と生産量を増やす可能性は互いに反発しながら、環境…限りある地上の資源という人類種にとっての未来の可能性の下地を食いつぶしています。そして足下では、同胞を重んじ扶けあい、他者を蔑み踏み台にすることを厭わない…そんな人間の動物的本性が犯罪や戦争のようなあまたの失望的事態を引き起こし、あまねく他者に敬意を自者に誇りを抱く文明的理性…ノブレス・オブリージュは未来にほとんど希望的可能性をもたらしていません。

 

 このポケモンがいる世界はファンタジーに満ちていて、多少のコンフリクトをものともしません…けれどこの世界の未来への可能性は、あまりにも不安定です。個人がポケモンを所有し、神たる伝説ポケモンすら文字通り手のひらに収まる…それを背景にあまたの思想が、陰謀が、日々世界を滅亡の崖縁へ導いています。」

 

 現実という有限性の中で奪い合うか、ファンタジーという無限性を持て余すか…ポケモンなき世界とポケモンのいる世界の差はそれに尽きると、世界を俯瞰するアイドルは言う。

 

 「ゆえに私は望むのです…すべてがひとつになり、暗い可能性を排し、明るい可能性を遺せたなら…と。

 

 そのために私は選びます、2つの世界から、良いもの、優れたもの、綺麗なものだけを。そして、明るい世界を作るんです。」

 

 可能性の選別、それにともなう剪定…そして、可能性世界の統合。

 

 ポケモンがいる可能性の世界と、ポケモンがいない可能性の世界の、いいとこどり。

 

 「止めるわ。

 

 そんな理屈が、今あるこの世界を滅ぼしていい理由にはならない!

 

 呼応して、レックウザッ!」

 

 白き龍神の身体が、透き通っていく。

 

 藤花の香りが辺りに満ち、そして氷の剣が無数に浮かび上がる。

 

 デュアルメガレックウザ…その神秘に、しかし大三輪は視線を向けすらしなかった。

 

  「私を止める?

 

 笑止!誰にその権が?

 

 私は、民衆に選ばれたことで神の力にまで至った偶像です。

 

 2つの世界の人々に…世界に選ばれた私こそ、世界にとっての神である資格があるはずです。世界を選ぶ神をしてよい唯一の存在なんです。」

 

 世界のすべてを魅了するアイドルは、2つの全世界の祈りと願いのすべてを惹き寄せる笑顔…凄絶なまでの笑顔で。

 

 「私は言祝アリア!可能性を司る神ミシャグジネクロズマを従える巫女であり、世界の可能性の裁定神!」

 

 そして大三輪遥は、最後の審判の開幕を告げた。

 

 【大三輪遥は UB00 LEFT(ミシャグジ神)を 繰り出した!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*ー

 

 決着は、一瞬だった。

 

  UB00 LEFT_GX(ミシャグジ神)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 金色の光が、宇宙の外側からシロガネ山を射す。

 

 【デュアルメガレックウザ(アルビノ)GX(祝歌)の リュウジンブレード!】

 

 白き龍神は、無数の氷剣を光の前へ翳す。

 

 眩い閃光が、氷剣の群れごと山頂を呑み。

 

 空に輝く巨大隕石が、さらに接近し。

 

 そして大三輪遥の名の下に、敗北の可能性は剪定された。

 

 ただ強いだけの龍神では、世界のあり方を選べる存在には敵わない…

 

 「勝負、あったようで、す、ね…?」

 

 …けれど、龍神は確かに大三輪遥に本気を出させたし、だから、目眩ましを発させるだけなら役者として充分だった。

 

 「忘れ物だし、忘れ事よ。」

 

 ミシャグジ神による金色の光が収まって、視界が復活していく。

 

 「な、るほど…言祝アリアとしたことが、ぬかってましたか…」

 

 いや、金色の光は、収まっていくのではない…どこまでも続くかのような深い闇の中に、吸い込まれていた。

 

 「本当は、コレをしたくはなかったわ。

 

 8体目、なんて、出したくなかったわ。

 

 今だけは、力を貸して、アクジキング!」

 

 ブラックホールに形容される捕食の大口が、世界そのものにかじりつく。

 

 【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】

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