アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
最後の切り札、アクジキング。世界が終わりつつある中、富士山頂での決戦が決着する...!
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
可能性の放出と吸収…コーシン地方に巣食っていた2体の神格級ウルトラビースト変種の権能は、一見して真逆の同値である。他の地方の2大伝説と同じだ。
…しかし、実際にはそうではないのではないか?2人のアリアは、この未知の脅威にそんな疑いを抱いていた。
現在存在しない可能性を世界へと現出させるネクロズマと、既に存在してしまった可能性を消し去るアクジキング...原種のネクロズマがアローラの第三伝説でありアクジキングがただのウルトラビーストであるように、あるいはポケモンなき世界での同位体たるミシャグジが諏訪の土着神であり手長足長が半ば妖怪であるように、実は格に微妙な差があるのでは...?
「っ、ネクロズマ!」
【
再び、閃光と暗黒が激突する。
数多の可能性が、存在したかもしれない那由多の分岐ルートが、具現化と同時に貪られる。
世界がひしゃげる、どうしようもない違和感、不吉感、不快感。
片手間で、ネクロズマは腕を振り上げる。
【ネクロズマGXの りゅうせいぐん!】
あらゆるベクトルの可能性ーつまりは四方八方全方向から流星が飛来し、アクジキングをまるで爆縮させんとするかのように。
【アクジキングの かみくだく!】
巨大な顎の幻影ーウルトラビーストのオーラで作られたそれが、アクジキング本体を呑み込むように出現する。流星たちは衝突寸前て破砕された。
ネクロズマGXとアクジキングが、動きを止めて睨み合う。
放光、暗黒。
ーお互い、「勝利する可能性」を掴み取れば済む話ではある。しかし実際にはそれは、将棋の百手先のようなもの。膨大な可能性を、お互いに奪い合いながら捌き切れるわけがない。
一手先の「勝利への可能性」を勝ち取り積み上げる。そのために数多の可能性の分岐を生み出し、あるいは摘み取る。賽の河原の石積みもかくやという勝負が、人には感知し得ぬところで行われていた。
先に、トレーナーのほうがしびれを切らした。というより、世界を揺さぶり合うこの暗闘に、身体が耐えきれなかった。
「ッ、ネクロズマ、GXワザですッ!」
【
「させるなッ!」
させるなと言ってもしようがない...EX・GXオーバーラップの手段を、アリア・カナサシは...コーシン地方は放棄してしまっている。世界の安寧のために必要なオーバーラップ技術封印処置だったが、今この時に限っては裏目に出てしまっていた。
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
束の間、アクジキングの口が光を吸い込み、闇を拡げ。
直後、どこまでも出力の上がる光が、闇を圧して世界を染め上げた。
ー*ー
光が、引いていく。
富士山、あるいはシロガネやま…2つの世界が重なりつつある山は、静かに秋の風に晒されていた。
「…?」
いや、おかしい。
静かであってはならないのだ。バトルで不安定化した今の地盤で、山の強い風に吹かれて、アクジキングの巨体が倒されて、それで転がり落ちないはずはない。
いや、それを言うならばそもそも…
ふっと、山が闇夜に閉ざされた。光量の減少が止まらなかったのだ。そして。
ネクロズマが、足元へ落下する。落石の雪崩れる音、そして徐々に大三輪遥ごと地面を崩落させようと…
「アクジキングは、常に飢えているポケモンよ。
ネクロズマは、常に飽いているポケモンよ。
あなたは...
揺れる尾根の上で、なんとか姿勢を保ちながらネクロズマをボールへ戻し、大三輪遥はため息をついた。
「そうでしたね。正の可能性の象徴たるネクロズマが負の可能性たるアクジキングに勝てるのなら、こんなことになっていませんね。」
してやられましたね…と、大三輪遥は大仰に両腕を広げ。
「…コトホギさん、もうこんなことはやめて。おしまいよ。
そのまま足場が崩れたら、貴女自身だって無事ではすまないわ。」
「うーん、”原作”で、サカキのような悪の組織のボスも、ポケモンバトルに敗北すればそれで終わりでしたからね。」
潮時か?神に至ったこの稀代のアイドルにも、潮時というものがあるのか?
...いや?
「けれど、ああ、私にもまだ、成功の可能性が残されているみたいです。」
石が転がり落ちていく音に混じり、どこからか、バラバラと、けたたましい音が近づいてくる。
「…でも、もうポケモンは...生身じゃ山崩れから助からな…
...まさか」
戦慄ー大三輪遥は、何をもたらそうとしていた?
「お見せしましょう...
ポケモンのいない世界、その可能性の一端を...!」
【大三輪遥は にほんこくりくじょうじえいたい AH-64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリを 繰り出した!】
空飛ぶ戦車ーそんな異名を持つ黒い怪鳥が、サーチライトで山頂を明るく照らす。
「こ、れ、は...ヘリコプター...?」
アリア・カナサシの知るヘリコプターとは、それはあまりに違い過ぎる。無骨な胴体、そして両翼のパイロンの下にぶら下がったミサイルポッド...
「あー…こちら大三輪
総理、やってください。」
-「こちら内閣隕石災害対策本部。
自衛隊特務機に告ぐ。交戦を開始。目標を排除せよ。」
そして、アパッチは2つの世界が混ざり合う狭間にて、けたたましい音を機首から奏でた。
【AH-64Dの チェーンガン!】
M230チェーンガンが30ミリ砲弾を吐き出し、シロガネ山の岩を砕く。
「な、な、な…!?」
どうすればよいかさえ、アリア・カナサシにはわからない。ポケモン世界にヘリコプターはあっても、攻撃ヘリも機関砲も存在しないからだ。それに、撃ち落としていいものか…
「大三輪より陸自、富士山頂の目標をすべて排除せよ。」
なんの変哲もないスマートフォンからの声が、遠く市ヶ谷の人々の脳を震わせ、魂の根源を攻略し、そして。
【AH-64Dの ハイドラ70ロケット弾!】
「っ!?アクジキング、プロバビリティバイキング!」
例え自分がそのロケットで死んでも、アクジキングにロールバックさせればなんとかなる…そうアリア・カナサシは思ったのだろう。ロケット弾が炸裂する直前に叫び。
直後、アクジキングも、アリア・カナサシも、それどころか大三輪遥すらも巻き込み、山頂の一角が爆発、崩壊した。ロケット弾の直撃を受けない…そんな可能性をアクジキングが引き当てたのなら、それはつまり、ロケット弾が外れて山肌を打ち砕くということになるからだ。
足場ごと山を滑り落ちていく大三輪遥へ、アパッチの隊員がロープで降下し、救い上げる…ついでに、アリア・カナサシの掌を転がり落ちたウルトラボールを拾い。
「
回収されるアクジキング、そのすぐ横を、土砂ごと、アリア・カナサシが滑落していった。
ポケモンの世界の頂点でありポケモンがいない日本の頂点である、シロガネ山/富士山。その山頂で、大三輪遥は2つの世界が隕石によって統合されるのを待っている。
アリア・カナサシは脱落、一方そのころ、ポケモンがいない世界の日本では...
次回、第93.5話「あるプロデューサーは語る」
すべての由緒が、明らかに...!