アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 言祝アリア(本名:大三輪遥)とはなんだったのか?

 いつから、最後の審判への破局は始まっていたのか?
 


♪93.5 あるプロデューサーは語る

ー*ー

 

 「ここには、答え合わせに来たんです、プロデューサー。」

 

 東京都内のタワーマンションの屋上ヘリポート、そこに降り立った長野県警のヘリから降りるなり、元アイドルはそう言った。

 

 「…藤原クンに、物部クンか。

 

 元、プロデューサーだよ。」

 

 星空に輝く甲信隕石を見上げ、男は返す。

 

 「ううーん?だって、今もプロデュース…創り出してるじゃなーい?

 

 偶像を。」

 

 肩の力が思わず抜ける、間延びした口調…常縁紡と呼ばれていたころにそう評された独特なトーンで、物部ユイは刺すように告げた。

 

 「偶像?アイドルのことなら、大三輪クン…言祝アリアで、完成じゃないか。」

 

 とぼけないでください…かつてクール系アイドルの頂点に君臨した山河神流こと、藤原千尋は、元プロデューサーの正面に回り込み言った。

 

 「プロデューサーが欲していたのはただの絶対的アイドルじゃない、その先ですよね?」

 

 元プロデューサーは、大きく息を吸い込み、隕石から都心へと視線を下ろす。

 

 「…そうだとも。ボクは芸能人を作りたかったんじゃない。

 

 …神様を作りたかったんだ。偶像の究極を、人類の答えを、作りたかったんだ。」

 

ー*ー

 

 「なぜ偶像崇拝がいくつかの宗教で禁止されているか、知っているかい?

 

 神をかたどった像を敬う、それは、神の姿が像のそれと誤解されるかもしれないし、神に本来捧げられるべき気持ちが像に向いてしまうかもしれない…開祖たちはそれを恐れたんだ。

 

 じゃあ、かたどる元なき偶像が敬われたら、どうなるんだろうね?誤解の余地なく崇拝され、すべての崇拝が捧げられる偶像…」

 

 仏像やイコンは、多くの場合、崇拝の中継点だ…だが同じ偶像でもアイドルの場合、崇拝はそこで終着点となる。

 

 「なぜアイドルが恋愛禁止か、知っているかい?

 

 アイドルとは崇拝の対象となる偶像だ。神をかたどらない偶像は、それ自体が信者…ファンにとっての神様なんだ。

 

 神様は人ではない、ゆえに三大欲求から解放されているし、生老病死からも解放されている…」

 

 もちろん実際にはそんなことはない。だから芸名によって現実と切り離すということが行われ、またファンの中でイメージを守ることや現実から目をそらすことが暗黙の了解となる…しかし。

 

 「神にいと近くあるべき存在のアイドルは、食欲と密接に結びつく排泄…トイレに行かないし、もちろん性欲などない。そして、老いることなく永遠に17歳であり、死ぬことはなく永遠にファンの記憶の中に生き続ける…

 

 言祝アリア…大三輪遥クンは合格だった。キミらは覚えているだろう?」

 

 言祝アリアは、大三輪遥は違った…イメージが、リアルを超えてしまった。

 

 「…た、確かに私は、はるちゃんってトイレほとんど行かないし1日3時間しか寝ないし病気にもならなければ年も変わらないなーって思ってたし、オ、オナニーだってまったくしてなかったけど…っ…」

 

 うろたえる物部、その隣で、藤原の額に青筋が寄る。

 

 「だからって、そんなことで?

 

 そんなことで、あなたは遥を、人類の答えを出すための代入の変数とやらに仕立て上げたの?

 

 あの子はただ純粋で、がんばりやで、ファンの期待にいつも応えようとしていた、それだけなのに…!」

 

 「いいや、もともと、キミらは信仰の器として適していたよ。

 

 キミらは知らないかもしれないけど、家系図をオーディションの時に調べたんだ。

 

 大三輪、藤原、物部...どれも、日本に於いて古代には神様を祀る氏族だった。もちろんその直系かも何らかの力があるのかも怪しかったけれど…」

 

 2人の元アイドルは、心当たりに息を呑んだ。…物部氏は古代、仏教を導入しようとする蘇我氏に対して古来の信仰を守ろうと争い滅んだ。藤原氏の祖先である中臣氏もまた古代には祭祀の氏族であり伊勢神宮祭主を世襲したことがある。

 

 「大三輪...あるいは大神氏。数々の神々の末裔とされ、一説には、天皇家と並ぶ現人神の家系である大祝諏訪氏の祖先。

 

 アタリだった。しかも言祝...言霊を顕す芸名が巧く作用した。そして本人もファンを魅了するアイドルとしての才能と努力…言い換えれば偶像として信者を集める才能と努力を欠かさなかった。

 

 だから彼女は、アイドルから偶像、偶像から神様へ、信仰対象としての位階が上がったんだ。」

 

 並の人間が聞けば鼻で笑うような発言だが、藤原も物部も口を挟まない。実際、言祝アリアはアイドルとして神がかっていた。

 

 「覚えているかい?2022年ウクライナ危機と2023年パレスチナ危機を。あれこそ彼女の最後の試練でね。

 

 政府と癒着したロシア正教が背後にあった2022年、ユダヤ教とイスラム教の積年の争いがもととなった2023年。宗教が絡むあの2つの危機を彼女が止められたということが、彼女が神格へ昇華したことの証左でね。本当に嬉しかった。

 

 …大三輪クンはずっと気づいていなかったようだけどね。パパラッチやマスコミどころか各国のスパイに追い回されるのも、無意識にしてしまう魅了を抑えようとしても効果がないのも、もはや神様なんだから当然だろう。

 

 この点については大三輪クン自身よりモサドや革命防衛隊、バチカン教皇庁どものほうが理解していたし危機感を抱いていたね。人間としての器に収まらない力が、溢れ出し始めていた。」

 

 「じゃ、じゃあ、さっき、永田町(首相官邸)にいた遥は…!?」

 

 「そう、彼女の人間としての心は苦しみ、死を選び、死体が見つからないことにより…あるいは、死から生き返ることにより、神様の部分が完成した。サナギがチョウになるようにね。

 

 人の心を持たず、神様としての能力を持ち、桁外れの信者に崇拝される…そして、この隕石だ。」

 

 本来うまくいくはずもない。だが、荒唐無稽な計画と、極まりに極まった妄想…それがうっかり成功してしまったことが、この状況を作り上げた。

 

 「賽の河原積んでたらスカイツリーが出来上がったみたいな話ですね。勝算はあったのでしょうが、こんなこと、なんのために?」

 

 「そうだね。最初っからそれを言えばよかったのか。

 

 預言者たちが死んでもう1000年か2000年、最後の審判はまだまだ訪れそうにない。神様なんていないんだ本当は。だから、神様のいないこの世界に、僕は人工の最後の審判を始めたかったんだ。」

 

 そのために言祝アリアを見つけ出し、アイドルにし、信仰を集め、神様に仕立て上げ、そしてついには隕石。

 

 「信じるということ、祈るということには、世界を変える力がある。私は大三輪クンを信じ、世界中のファンが大三輪クンに祈り、さて、神様はどうやって叶えるかな?」

 

 「…遥を、そんなことのために…

 

 私たち2人のことを、どう思っていますか?」

 

 「ハズレくじ、かな」

 

 顔色1つ変えずに、元プロデューサーは言い放つ。

 

 「ハズレくじかもしれませんが、それでも私は遥の元ユニットメンバーなんですよ。

 

 辛くて冷酷な超越存在になんて、させられません。」

 

 「止めるよー?絶対に。はるちゃんはみんなのおほしさまかもしれないけど、都合のいい神様じゃなくて、私のともだちなんだからさー?」

 

 「止める、か…」

 

 元プロデューサーは、ポケットに手を突っ込み、振り返った。

 

 「会いにもいけないのにどうやって?」

 

 「…知ってるんですね、遥がどこにいるか。」

 

 「いや?

 

 でも当てることはできる。大三輪クンはポケモンが好きだった。ポケモンの世界を愛していた。だから、最後の審判の後訪れるユートピアとして、それを選ぶだろう。

 

 この国を俯瞰し、ポケモンの世界を導くに相応しいポイント…ポケモン世界の創世の地たるテンガン山(大雪山)が目的地ならば、先ほどまで永田町にいたのは悠長すぎるからね。」

 

 「標高が高くて、2つの世界にとって象徴的な意味を持つ地点…富士(シロガネ)山ですか。」

 

 「今から会いにはいけないだろう?県警のヘリは夜間飛行に対応していないし、富士山も隕石災害罹災地域だよ。」

 

 「そうだねー。でもそれってさー?

 

 県警のヘリじゃなければ、クリアできるよね?」

 

 元アイドル視線が、ある建物へとずらされる。警察と同じ、いやそれ以上にヘリコプターとその使用技術を保有する組織の建物に。

 

 「市ヶ谷(自衛隊)か…

 

 …もう大三輪クンに魅了されているのではないかな?」

 

 「そうでしょうね。

 

 ですが、私たちはあの遥の元ユニットメンバーですよ?」

 

 「はるちゃんが80億人を魅了できるとしても、私たちだって、そのうち2人か3人くらいはなんとかできるよー。」

 

 元プロデューサーが、ふむと頷き、ポケットから手を引き出す。

 

 「…それが、妨害されながらだとしても?」

 

 2人の元アイドルは、絶句した。…元プロデューサーの手に握られているのは、紛れもなく、本物の、モンスターボールだったから。

 

 「遥の能力は、もうそんなまでに…!」「あわわ、はるちゃんヤバいよーそれ…」

 

 「市ヶ谷まで行かせない…行けたとしても、パイロットを確保して魅了を解除する余裕を持たせない…

 

 …6体はおつりが来る数だね。始めようか。

 

 何が出るかな…?」

 

 【元プロデューサーは ペルシアンを 繰り出した!】

 

 融合し始めた世界。東京都市圏数千万人の夜景をバックに、世界初のポケモンによる攻撃が、始まった。

 

ー*ー

 

 「ちーちゃん、来てる?」

 

 「はい、足音が。」

 

 「困ったねー…」

 

 足早に、しかし音は立てず、2人の元アイドルは廊下を歩く。

 

 「エレベーターを使ったら、追いつかれると思う?」

 

 「無理では…?1階で待ち伏せされたらそこまでですし。それにペルシアンはエレベーターの入口のあたりにいますよ。」

 

 「でも階段を使ったって逃げ切れないよねー…」

 

 「私たちにもポケモンがいれば、押し通れるんですけどね。」

 

 藤原千尋の懊悩声に、物部ユイはうーんと首をひねり、それからポンと手を叩いた。

 

 「それだよちーちゃん!

 

 ちーちゃん、高速回線って持ってるよね?」

 

 「政府からもらってるアレですか?でも、それは魅了された政府を通して遥に筒抜けですよ?」

 

 「ううん、私はただ、ゲームを爆速でダウンロードしたいだけだから。

 

 ほら、あったよね?現実世界で、ポケモンを捕まえるゲーム。」

 

 「…ッ!確かに、ポケモンの世界との融合を目前にしている今なら、やってみる価値はあります…!」

 

 慣れた手つきで、アプリストアからそのゲームをダウンロードし。

 

 慣れない手つきで画面をなぞり、モンスターボールをポケストップから拾い。

 

 「…遥、お願いします。」

 

 ARモードを起動し、タワーマンションの廊下に翳し。

 

 「…はるちゃん、あなたを止めるために、あなたの力を貸して。」

 

 スマホのAR画面の中に、ペルシアンが飛び込んでくる。

 

 ポケモンがいる世界と、ポケモンがいない世界。2つの相反する可能性が重なり合い…

 

 「「いけ、モンスターボール!」」

 

 …スマホの画面から離れた指、その先に、モンスターボールが実体化し、そして2つのモンスターボールが、タワーマンションの廊下に投じられた。

 

 【藤原千尋は モクローを ゲットした!】

 

 【物部ユイは ニャビーを ゲットした!】

 

 「さて…世界初のタッグバトルとしましょうか…!」

 

 「願わくば、世界最後にしておきたいところだよねー…!」

 

 防衛省市ヶ谷駐屯地まで、あと3km。




 富士山頂へ夜間飛行すべく、2人の元アイドルは市ヶ谷駐屯地を目指す。

 一方でポケモンがいる世界でも、もう1人...いや2人、世界を終わらせまいとする者たちがいた。

 転生ポケモンアイドルたる大三輪遥に対するは、転生ポケモン令嬢...そう、蒼玻/アオバ・フロックス。

 次回、転生ポケモンアイドル106話「伏線の意味を繕え」/転生ポケモン令嬢102話「「転生ポケモンアイドル」その真価」

 物語はまだ、終わらない...!
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