アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
雲1つない、星空。
「やはり、ここまで来たんですね。」
天頂には甲信隕石が輝き、そして山頂では大三輪遥が待ち構える…そんな夜に、蒼と青の瞳を持つ令嬢は礫を踏みしめ辿り着いた。
「貴女が、呼んでいる気がしたもの/随分と好き勝手してくれるじゃないか、言祝アリア。」
蒼玻/アオバ・フロックスの、どこか挑戦的な物言い。それに、大三輪遥もまた、芝居がかった大仰な口調で返す。
「あなたのよく知る『日本』が見えてきましたからね。私に呼んだつもりはありませんでしたが…このステージに私たちが揃ったことは、まさに運命!
…それが、私にとってか、それともあなた方にとってかは…観客のみぞ知るところでしょうが。
ライブも人生も一期一会。ですから…私、言祝アリアと共に踊るに相応しい演目を、魅せてくださいね?」
「…転生者って役柄だけじゃ役不足か?/わたくしのような至宝の令嬢を前にして、試すようなことを言うとは…そちらこそ、わたくしを失望させないでくださるのかしら?」
「ええ、もちろんともですよ。
オンステージです、ネクロズマ、アクジキング!」
【大三輪遥は ネクロズマGXと アクジキングGXを 繰り出した!】
可能性を放出する、ミシャグジ神の同位体。
可能性を捕食する、手長足長の同位体。
眩い閃光の神と昏い呑込の神が、3776メートル、列島最高峰にて並び立つ。
「2体の『可能性の権能』で、世界のすべてを思うがまま、と。
…『主人公』にしては随分姑息で/『神様気取り』にしては大層迂遠ですわね?」
「…神話とはそういうものです。あるいは、ポケモンとはそういうものです。
ゼウスの人間臭さ、アルセウスがバトルであっさり負けること…ですから私は、神様の中の神としては、『世界に望まれたように、世界をより良く導く
「…神に至ったようでいて、それでいて神を演じさせられているみたいだな、おい。/でしたらすぐにでも、その神座から引きずり下ろして差し上げますわ。
肩の荷を下ろす準備はよろしくって?/ディアンシー!」
そして、令嬢は指輪を掲げる。
「直視すること能わざる高貴なる輝きに、ひれ伏すのですわ!/誇り高き俺達の燦然、誰にも超えられはしないさ!」
【デュアルメガディアンシーの ダイヤストーム・アクセラレーション!】
渾身の、時間加速されたダイヤの暴風が吹き。
ネクロズマとアクジキングの姿が吹き飛び。
「デュアルメガシンカ!もうそれは見ましたよ!
『剪定』」
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
…アクジキングGXが大口を開くとともに、ダイヤの旋風は、過去に遡って可能性を捕食され、なかったことになった。
「制限付きの時間操作!そのようなものでは、神話の領域に足を踏み入れることはできても、神話の潮流にはなれませんよ?」
…それは、ギラティナをはじめ幾つもの神格級ポケモンを倒してきた蒼玻/アオバに対し、いっそ舐め腐っているかのような言い草であった。
「それで?」
そしてまた、蒼玻/アオバも、彼我の差など気にもとめていないと言わんばかりの反応を返し…
…そして、懐から、正二十面体の結晶を取り出した。
「…新しい
『剪定』」
【アクジキングGXの プロバビリティバイキング!】
大口が開く…だが、正二十面体の結晶は消えず、煌々と輝きを強め、そして金色のBREAKオーラを放出していく。
「…存在の可能性を消去できない…もしや、アイテムではなく…」
アイテムではなく、むしろルールに近い代物…
デュアルメガディアンシーを、金色のオーラが染め上げていく。…鉄錆が、オーラ結晶からパラパラと零れ落ちる。
「あらお気づきかしら…もう神話の時間は終わりでしてよ?/さあ、主役交代だ…俺たちの物語を始めようぜ。」
輝くピンクダイヤの渦に、森羅万象の景色が映り込む。
歯車仕掛けの音がどこからともなく聞こえてくる。
「…なるほど、なるほど…そうですか…!」
「「さあご覧あそばせ…
…世界を物語として捉え、書き換える、
永遠にして至上なる光翼が、全天へと展開された。
「フィクトマキナ!」
【デュアルメガディアンシー<Copied_Legend(Final).Emulated_”Fict Machina”>の
Emulated_”
その瞬間、世界から、言祝アリアという概念が解体され、散逸した。
ー*ー
「その手に意義がないことは、すでに知っていますよ。」
大三輪遥は、依然、そこにいた。
「フロックス家については調べさせていただきました。『
…転生者が憑依する器となったことで、矜持に覚悟が加わったようですね。さしずめ自認は『世界の安全弁』ですか?」
パルデア沖のサンジェルマン騒動に、「可能性」にまつわるシンシュー侵攻。それらの中にフロックス家がいた理由を、大三輪遥は看破してみせた。…つまり、外界からの転生者を引き受けた者として世界を護る義務感だ。
「ですが少々…手段を選びませんね。
『フィクトマキナ』…ポケモン世界、いえ日本の側の世界もきっと、世界丸ごとを物語と見なし、消しゴムとシャーペンでノートを書き換えるかのようにして容易く世界を改変する、そういう神ですよね。
デウス・エクス・マキナは強烈ですが陳腐、そしてなにより趣味が良いものではありませんよ?」
効かなかった癖して、大三輪遥はそうほざく。
「…あら?もしかして、わたくしを善なる者とお思いで?わたくしは
/ポケモンが実在する世界とポケモンが物語でしかない世界の統合…物語階層理論ってわけじゃないが、むしろフィクトマキナを担ぎ出すのにぴったりな場面じゃないか。これこそ趣ってものだろ?」
「あっさり私を書き消せていれば、なるほどそうかも知れませんね。
そうはならなかった。私という存在は生まれながらのアイドルで、人々の、世界の祈りを一身に集める偶像として、神に至る…そのあり方が変わらない限り、『言祝アリア』という芸名を消してみたところで無意味なんです。
言祝アリアは不滅です。どうしますか?」
「…フィクトマキナがどうやって生まれたのかを、思い出すな。」
もう8年も前のことだ。
「『ダレデモナイ』そう名乗る怪人がいて、そして『虚龍』なるポケモンティラノサウルス映画じみた餓者髑髏が闊歩しだした。
『ダレデモナイ』の目的は何で、『虚龍』はどうして動き出し、そしてどこへ向かっているのか…様々に考えられたけど、そんなの無意味だった/わたくしたちはあの騒動を『現象』と結論づけましたわ。世界を物語として記述することができ、そしてポケモン世界にはそれを物語とする上位物語階層が存在してそこからの転生者が現れた…それらがメタフィクション的な現象を引き起こした、と。
配役がいて舞台があればイベントが発生する…フィクトマキナと同じく、言祝アリアもまた、『現象』『イベント』なのではなくって?」
大三輪遥は、不気味なほど魅力的ににっこりと笑った。
「私たちの世界では、世界はいずれ終わり裁きの時が訪れると…そう信じる人たちがいました。
そうです。ラグナロクでも最後の審判でもなんでもいいでしょう…世界はシステムとして、ユートピアに至る終末を組み込んでいます。人々がそれを求めるからです。そして、その結節点に私がいるのです。」
ゆえに、抵抗は無意味。
今ある2つの世界が統合と剪定によって終わり、新しい世界が生まれることそれは宿命…
「そうやって、この物語の『本編』は終わるわけだ。」
「…なんですって?」
「あら、まだ、お気づきでなくって?
わたくしたちの現在位置はもう『あとがき』でしてよ?」
大三輪遥が、目を丸くし、そして徐々に目を見開く。
「あと、が、き…?…!?」
予定した筋書きは既に崩壊しつつあります。
「解説、余談そして…続きの予告をする、そういう場面なんだよ。アリア・カナサシが負けて、これから訪れる終末が暗示された…その時点で物語としては終わったんだ。
/されど蛇足ではありませんわ。
『少なくとも、文字の上では全てが真実になる。君たちの宇宙の法則はそう決まっている』…とうに決められてしまったデッドエンドのその先で、新しい物語を始められるよう尽力するとしようかしら!
ディアンシー!」
【デュアルメガディアンシー<Copied_Legend(Final).Emulated_”Fict Machina”>の
Emulated_”
そして、無数のダイヤモンドが山々から、街から、海から、星から、剥がれ落ちていく。
言祝アリア、あるいは大三輪遥がどのような力を持とうが関係ない。字面を通じた概念の解体は宇宙を…物語世界そのものを包み込み、ありとあらゆる存在をダイヤモンドに書き換える。
ダイヤモンドへの源理改変は、物質だけに及ばない。紙上の数式の数字からダイヤモンドのダイヤモンド乗やダイヤモンド次方程式が溢れ出し、法案の全文がダイヤモンドと化し、ダイヤモンドすらダイヤモンドに書き換えられる。世界の論理構造そのものが崩壊するが、それよりも早く因果律も帰納法もダイヤモンドに置換される。
「…私と、何が違うんですか、それ。」
大三輪遥は、嘲笑うかのような、怒り狂うかのような、低い声で。
「2つの世界を取捨選択しながら統合するか、それとも概念レベルで解体して…そして
使う道具が『可能性』か『言霊』かの違いしかないじゃないですか。」
「いえ、『統合』と『再創世』でしたら、やはり違いますわよ。
貴女のそれは、独り善がりな前進に過ぎませんわ。貴女にとって存在する価値、意義のあるものを新世界に残し、存在する価値なきものは剪定される…」
/俺たちは信じてる、すべての世界、それぞれにあるすべてに、存在する意味が、意義があるって。人もポケモンも、救世主に導かれるまでもなく前へ進んでいけるって。
これはセーブ&ロードだ。あんたの勝手な改竄チートとは違う。」
あまりにもメタ的なデウス・エクス・マキナを、世界を変えたり良くしたりするのではなく、世界を信じるがゆえに世界を変えないために使う…そんな主張に、貶されたにもかかわらず、大三輪遥から笑みがこぼれる。
「すべてに存在する意味があり、価値がある、ですか…
ならばよりいっそう、意味ある存在、意義ある存在…価値ある存在が、可能性の狭まりゆく中にあるのは嘆かわしいことだと思います。
だから見せてください!あなたがどれだけ、世界に明るい可能性を与えてくれるのか!それは私のプランよりも私を魅せてくれるのか!
ネクロズマ!アクジキング!」
「書き換えろ!/技術を許してはなりませんわ!」
【
【
因果律を遡行して可能性を捕食する一撃と、因果律すら無視して可能性を具現化させる一撃…可能性の枝分かれを幹からむしるような所業と枝なしに虚空に花を咲かせるような所業が、同時に行われ。
【デュアルメガディアンシー<Copied_Legend(Final).Emulated_”Fict Machina”>の…】
直後、世界の外側から、無数のダイヤモンドがすべてを呑み込んだ。
【…Emulated_Over=Write:”転生ポケモンアイドル”!】
ネクロズマGXとアクジキングGXの身体が、ダイヤモンドへと書き換えられていく。けれど…撒き散るダイヤ渦の只中、光と闇が、消えない。
「なぜ、効き目が悪い…?/蒼玻くん、ご覧くださいまし!」
ディアンシーが纏うダイヤモンド、そこに映り込む森羅万象が、文字に解体され、ダイヤモンドに置換されていく…その文字の一部が、文字化けしていた。
「現実強度の、低下…ッ!」
最初にカナサシ湖でミシャグジ神が復活した時、すでに明らかになっていたはずだ。
コインの表と裏、サイコロの1から6…可能性の神が引き出しあるいは消し去る数多の可能性は、往々にしてそれぞれが矛盾する。
多少の矛盾は違和感や記憶違いで済む。だが無作為無秩序無鉄砲にありとあらゆる矛盾した可能性が無理に併存させられている今…現実は不全し破綻していた。
投げられたコインの表裏すら判別できないほどの、ありとあらゆる可能性による現実不全。これでは「世界を物語として記述する」ことにも不都合が生じる。
「…ッ、ディアンシー、ナンセンス文学でいいですわ!これも包括して記述の続きを…!」
「まだ早いですよ。」
「言祝、アリア…ッ!?」
蒼玻/アオバは、動悸が速くなるのを感じていた。だって。
「まだ、『二の矢』がありますから。」
大三輪遥の手の上に踊る、光り輝く矢。それはアオバにとってトラウマであり、そして蒼玻にとっては。
「俺以外に、まさかッ!」
「物語の軸、ストーリーラインとなる『主人公』という概念が実体化する可能性があるのなら、それは世界の方向性を指し示す矢印、一本の矢となるのでは?」
プロット、設定、あらすじ、ストーリーライン、フローチャート…それらの具現化であるこのオブジェクトはかつて、「物語示準矢」と、そう呼ばれていた。
「アイドルとは偶像、偶像の行きつく先は神格、神格のたむろする物語こそ神話であり…」
物語の流れは、結局、主人公の性質と行動によって左右される。
「私の言葉が、ただの言葉じゃない...わかってますよね?
言霊を操る神に、神の言葉を操る私が負けるかと言えば...」
光り輝く矢を、大三輪遥がほいっと投げる。
概念的解体と散逸にさらされつつある世界を、矢は跳び超えて…蒼玻/アオバの掌の上、正二十面体の結晶を貫き。
次の瞬間、世界に渦巻くダイヤモンドが、砕け散り始めた。
「…ッ!?蒼玻くん、主導権が…!/わかってるッ!でもどうすりゃいい!?」
この世界の主人公は、「転生ポケモンアイドル」の物語世界の主人公は自分だと、そう主張するかのように…
…いつの間にか、大三輪遥の手の上に、正二十面体の結晶が輝いていた。
「『主役』として活躍する方法、私のほうが良く知っているようですね。役者が違います。」
「…!
ディアンシー!」
【デュアルメガディアンシー<Copied_Legend(Final).Emulated_”Fict Machina”>の
ダイヤストーム・アクセラレーション!】
世界中を費やした、巨烈な、ダイヤモンドの奔流。しかしそれは、大三輪遥へと殺到しながらも、主人公への叛逆を躊躇うかのように周りで渦巻いている。
大三輪遥が、正二十面体の結晶を掲げ、フィクトマキナのオーラを自らの眷属へと下げ渡す。
【
Emulated_Over=Write:”転生ポケモンアイドル!”】
直後ではなく同時に。
世界を、衝撃が駆け抜けた。
光速などに囚われず、概念として物語世界を襲うその衝撃、それは全宇宙を覆い尽くさんとしていたダイヤモンドを砕けさせ。
そうして、世界は元に戻された。アイドルの掌の上で。
「このフィクトマキナのオーラ結晶は頂いておきますね。物語の行く末は主人公が決めるべきでしょう?」
ー*ー
「大した
9合目の碑を背に、蒼玻/アオバは空に輝く隕石を見上げた。…もうだいぶ近い。
「なあアオバちゃん…
…もし俺たちが、もっと主人公ヅラしてしゃしゃり出ていたら、負けなかったと思うか?
/それは無理な相談ですわよ。天命というものがありましたわ。それに…
…神様のごとく崇められて神がかりした、などと断じるのは早計でしたわね。あれ、神様の上ですわ。」
神格としての強さ、序列の話…ディアルガやパルキアよりアルセウスが上だとか…ではないのだ。大三輪遥は、人やポケモンはおろか神格ポケモンからの願いや祈りを集めることによって、神格より上の格を得てしまっているのだ。
「参ったねこりゃ…詰みか?/わたくしたちに関しては、そう、ですわね…
あら、けれど…」
ヘリコプターのローター音が、麓の方から聞こえてくる。
「ヘリコプター、それもわたくしたちの世界のものではなく/白地に赤い丸…なるほど?夜明けへと諦めなかったのは、俺たちだけじゃないらしいな。」
夜の富士を、まるで朝日のように東から、サーチライトが照らしていた。