アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
伝説の邪神2体を従え、コーシン地方を救ったアイドル、言祝アリアこと、大三輪遥...しかし彼女はシロガネ山を占拠、その力を用いて「2つの世界の救済」を…ポケモンがいる世界といない世界のそれぞれの良い可能性だけを「選別」し「統合」する計画を、始めていた。
ポケモン世界では「英雄歌姫」アリア・カナサシも、「転生ポケモン令嬢」蒼玻/アオバ・フロックスも敗退する一方、隕石の接近とともに2つの世界の統合は進行し、ポケモンなき世界の日本政府は大三輪遥の魅了下に置かれてしまう。…そんな中、大三輪遥のかつてのユニットメンバー2人が、富士山へと動き出して...
「転生ポケモンアイドル」堂々の最終回はすぐそこだ...!
ー*ー
富士山5合目駐車場にて。
「諦めている場合ですか?もう1人のアリアさん。」
藤原千尋は、着陸と同時にその人物へ問うた。
「はるちゃんと肩を並べたんだよね?あたしたちにだってできないことをしたんだよね?だったら、こんなところで折れていいの?」
その歴史は、ポケモンがいない世界にはないものだ…けれど、大三輪遥と近しい人間である物部ユイには、すでにポケモンがいる世界の記憶が融合し始めている。
「貴女は…
…っ、コトホギさんの仲間、ね。
ならわかるでしょう。もうどうにもならないって。」
アリア・カナサシは、自嘲しながら顔を上げ…そして2人の元アイドルの瞳を見て、固まる。
「…そだねー…
…でも、等身大のはるちゃんを知ってるならさー?」
魅了の域にこそ達していないが、努力だけで言祝アリアに肩を並べようとした者ならではの、燦然と輝く瞳…
「どんな時でも、ステージから降りるなんてありえない…遥ならそう言いましたよ。」
…その瞳の輝きの中に、それすら凌駕して強く輝く瞳、己の瞳が、映っていた。
「…貴女方の言う通りね。
諦めちゃシンシューの歌姫の名がすたるわ。乗せてもらえる?」
ー*ー
「何か勝算があるのよね?」
「…そちらの世界は、戦後すぐの焼け野原、ですよね?
私たちの世界は、閉塞感に満ちていますから。」
「この前の選挙だって、誰も満足してないからねー。…どっちの世界も、暗い話、先行きのおぼつかない話、未来への不安や恐怖が渦巻いてる…そんな時にさー。
今のままの世界を続けるか、
「…2つの世界を融合させようとしている原動力は、コトホギさんじゃないってこと?」
「ううん、はるちゃんは天才だよー。努力も、才能も。…
「でも、ファンがアイドルを信じて、崇めて、祀り上げて…それで、信仰対象としてここまでの力を得た…と、プロデューサーが言っていたとおりなら。
彼女はファンの…言い換えれば全世界のほとんどの人々の、内心での望みを、ファンに祈られ願われる神様として出力しているのでしょう。」
「私も龍神様の依代なんてやってる立場だから言わせてもらうけど…信仰の数が少ない神格ポケモンはただただ凶悪でカタストロフィックな存在だけど、信仰が多い神格は格が違うわよ。」
「…でも、祈りの質はどうかなー?」
「…質…?」
「っと、そろそろ着陸ですよ!」
サーチライトが、富士山頂を照らした。
ー*ー
シロガネ山山頂、大三輪遥の頭上に、ローター音が響く。
「日本国陸上自衛隊…オスプレイとはまた豪儀ですね。」
ティルトローターがゆっくりと回転を止め、東京都内から富士山頂までの最速交通手段が、2つの世界の頂に降り立つ。
アリア・カナサシは、扉を開ける時間すらもどかしいとばかり叫んだ。
「龍神様…もう一度、私とともに!」
オスプレイのローター気流も収まらぬうちに、乱気流が吹き荒れ、天空から白いレックウザが降臨する。
【レックウザ(アルビノ)は デュアルメガシンカしている…!】
藤の香りが匂いたち、氷の剣が無数に浮かび上がる。
「同じセトリで、勝てるとでも?
ネクロズマ、オンステージ&オーバーラップ!」
「リュウジンブレード!」「『剪定』!」
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)(祝歌)の リュウジンブレード!】
【
世界が明滅し、無数の氷剣は存在の可能性を消し去られていく。
隕石がさらに引き寄せられ、月よりも輝く。
「ごめんねはるちゃん…」「及ばずながら、できることはしますよ。」
【ジュナイパーの かげうち!】
【ガオガエンの ふいうち!】
懐に潜り込むような連撃。それすら…
「ユイ、千尋、覚えているはずですよね?」
【アクジキングGX(祈声)の プロバビリティバイキング!】
「アイドルたるもの、背後まで気を配れ…って!」
「気を配ってもどうにもならなければ?」「今だよーっ!」
「射撃許可確認。隕石災害特別措置法に基づく緊急防衛行動、撃ち方始め!」
【Vー22オスプレイ(第一ヘリコプター団)の M60ドアガン連続射撃!】
夜の闇を曳光弾が裂く。銃声がローター音に混ざり響く。公害とまで称された風を起こしつつそれが飛ぶとともに、銃撃はその来たるところを変えながら大三輪遥めがけ放たれ、そのたびに山頂3776メートルの礫が弾け飛び、砕け散る。
「ッ…プロバビリティゲイザーッ!」
大三輪遥は…オスプレイを攻撃させるという判断が、咄嗟には取れなかった。それをすれば…「可能性」の攻撃であっても光か闇を伴う以上、視界を失ったオスプレイは落ちてしまうから。
【
大三輪遥の身体を、銃撃が刻む…刹那、全身を光芒が包み、「撃たれていない可能性」を引き出すことによって大三輪遥を無事たらしめる。
「龍神様!やるわよ…!」
デュアルメガレックウザの髭の揺蕩いが、宇宙の、大自然の運行を捉える。人間には手の出せない領域たる自然を司る「
「ジュナイパー、いけるよねー?」「ガオガエン、手はず通り!」
【ジュナイパーの ハードプラント!】
【ガオガエンの ブラストバーン!】
アクジキングGXへと、巨叢の氾濫と業火の噴出が殺到し…しかしこれはもちろん「プロバビリティバイキング」によってなかったことにされ。
【デュアルメガレックウザ(アルビノ)(祝歌)の ナチュラル・サーキュレーション!】
直後、地球の自転公転の「流れ」そのものの運動エネルギーが、アクジキングGXへとぶつけられた。
可能性などという及びもつかない権能を持つ神格と言えども、感覚と思考はポケモンのそれ…ハードプラントとブラストバーンに気を取られていたアクジキングGXには、想像の埒外にある「自然界の流れ」による不可視の攻撃に対応できなかった。
【アクジキングGX(祈声)の プロバビリティバイキング!】
この神格は、例え理解のしようがない攻撃にやられても対処する方法を持っている…つまり、「自分が倒されたという可能性そのものを捕食」すればいいのだ。後出しじゃんけんが可能なのである…
…けれど、後出しじゃんけんをできたから状況が改善されるわけではない。地球の自転公転に始まり、窒素循環、宇宙太陽風、マントル対流、人的交流、海洋深層流…ありとあらゆる「自然界の流れ」のエネルギーが、かわるがわるかつ休みなしににアクジキングGXへとぶつけられる。
倒された可能性を後出しじゃんけんで捕食してみせたところで、常に倒され続けていては意味がない。攻撃の正体を把握しなければ「攻撃の可能性」の捕食はできないし、そもそも攻撃を知覚する間もないほど圧倒的なエネルギーをぶつけ続けられている。アクジキングGXは完全なハメ状態へと陥った。
「遥が何かしらの力を手に入れたと気づいた時から考えていました。正面から遥に勝てるわけがない…なら、想像の外側にあるような攻撃で飽和させるか、遥にとっての禁忌をつくしかないって。」
「はるちゃんの本質は変わらないって信じてたよー。
それをすれば人を殺すことになるってわかってて、攻撃できないでしょ?」
だから、アクジキングGXは飽和攻撃で機能不全にある。
だから、ネクロズマGXはオスプレイを撃墜できず、大三輪遥は自衛以外に手が出ない。
「一本取られましたね。
…けど、それだけでは私を、言祝アリアを、甘く見ていますよ。」
光芒に身を包むアイドルは、ローター音と銃声の中でもよく通る涼やかな声で。
「1つ、隕石の衝突を引き金にした世界の融合へのカウントダウンは、私たちを忙殺しても止まりはしない。
そしてもう1つ…私はあいにく、修羅場には慣れていますよ。戦争は、シンシューが初めてではないのです。」
M60ドアガンの連射速度は毎分550発…一般的なベルトリンク給弾用弾薬箱では20秒ちょいしか保たず、いくらオスプレイが輸送機だからといってそう何十箱も弾薬を積んでいるわけもない。
銃声が止まる、その瞬間…大三輪遥は、コーシン地方禁制品とされもはや世界唯一となったGXマーカーを放り投げ。
「いいものを、見せてあげましょう。」
【ネクロズマと アクジキングが 共鳴している…!】
「まさか…タッグチームGX…!?」
「この世界最後の、GXオーバーラップです!
さあ放ってください、新世界への幕開けを!」
閃光と暗黒、矛盾した2つの可能性が、シロガネ山/富士山を基点に、2つの世界へと拡がっていく。
夜空に輝く巨大隕石が、急速に動き、赤熱しながらカナサシ湖/諏訪湖めがけ墜落していく。
【ネクロズマ&アクジキングTagteamGXの…】
可能性の捕食と放出、それらによる、無数の可能性世界の剪定、そして2つの世界の統合…ついにその〆が、始まったのだ。
「ガオガエン!止めてッ!」「ジュナイパー、矢を!」
かえんほうしゃとリーフストーム、そのいずれも、放つそばから「剪定」され、ネクロズマとアクジキングには届かない。
「龍神様!エメラルドブレイク!」
亜光速に達しようかという限界速度で、白き龍神が突っ込む…それすらも、可能性を操られ、なかったことになる。
「まだまだ!リュウジンブレード!」
無数の氷剣が、星々の煌めきを映しながら、雨のように降り注ぐ。
「通りませんよ、それしき…!」
閃光と暗黒が明滅し、氷剣を世界から剪定していく。
大三輪遥が、誰もが目を奪われるような、そんなように笑った。
アリア・カナサシは笑い返した、挑戦的に。
「ぐっ…はっ…!?」
大三輪遥の口から、地が溢れ出す。
白いアイドル衣装が、胸元から赤く染まっていく。
「な、にが…!?」
透明な、冷たい、氷の、剣。その剣先が、胸の谷間の間から飛び出していた。
「ありえ、な、い…」
だって、氷剣は、メガレックウザ(アルビノ)の「リュウジンブレード」は、存在の可能性から剪定したはず。
「だから、こんな、ことは…」
剣の持ち手側ー背中を、大三輪遥は、血を吐きながら振り返り。
「こんなことはありえない、そう思ったんですよね?」
そして、それを目にして、痛みも忘れ言葉を失った。
「この言祝アリア、いえ大三輪遥を傷つける可能性など、残っているはずがないのに、と。」
返り血すらも鮮やかに彼女を彩る…絶世のアイドル、言祝アリアは、氷剣を両手で押し込んだ。
「可能性を捕食するアクジキングと、可能性を放出するネクロズマ…
迂闊でしたね?
それは、大三輪遥という人物の、言祝アリアというアイドルの、もう1つの可能性。
「バカ、な…ッ!
だか、ら、私は、ファンの…世界の…ッ、人々の、正しく幸せで美しい、そんな、世界への願いに、応えて、ここに、ここに、いるはず、です…ッ!」
途切れ途切れに血を吐くアイドルと、凍りつく返り血ごと氷剣を握りしめ穏やかに反駁を並べるアイドル…まったく同一人物ながら、まったく正反対の存在が、そこには両立していた。
「でも、そうじゃない人もいる...
歌姫さん、そうですよね?」
「…そうね。私は、戦乱の中でも良い方へ良い方へと足掻く今のシンシューが、嫌いじゃないわ。」
「世界を根こそぎ変えたい、盤面を何もかもひっくり返したい人もいれば、今のまま苦しみあがきながらそれでもいい方へ一歩ずつ進んでいきたい人だっていた。
人々の願い、祈りを集める偶像、そしてそれに応える偶像、それがアイドルだというのですから…
…ですから私は、歌姫さんのためのアイドルです!」
言祝アリアは、大三輪遥のポケットに手を突っ込み…
…そして、6つのモンスターボールを抜き取った。
「返してもらいますよ、私の旅の仲間たち。」
大三輪遥は、やっと、背後から胸に突き刺さった氷剣を押し返し、そして前へと離れる。
「…あなたなんて、『言祝アリア』、なんて…ポケモン世界を取り込むための抜け殻…
もはや、大三輪遥の傷は、血は、どこにも見当たらなかった。そして、そのかわり。
「あなたが、私と同じ舞台に立つのなら。
言祝アリアは、至高のアイドルは2人も要らない。だから…」
正二十面体の、神々しくも禍々しい、結晶ーフィクトマキナのオーラ結晶。
「裁定してもらいましょうか。どちらが、言祝アリアという神話に相応しいのか。」
【アイドルの
【アイドルの
【【勝負を 挑んできた!】】
復活した言祝アリア、そして取り返されたポケモンたち。
大三輪遥は、もうひとりの自分との戦いに、ネクロズマとアクジキングの全力で挑む。一方で言祝アリアもまた、アリア・カナサシと力をあわせ...
2つの世界、2人のアイドル。その行方は、如何に...次回、「転生ポケモンアイドル」最終回後編「夜明けへ」
「みんなもポケモン、ゲットできるようにしますよ!」
「みんなはポケモンに、会えなくてもいいですよね?」