アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
前回までの転生ポケモンアイドルは...
日本から転生した元アイドル、言祝アリア。数年前戦乱を駆け抜けた元歌姫、アリア・カナサシ。科学的興味で襲い掛かってきたウルトラマッドサイエンティストの魔の手をはねのけ、ジムリーダー兼だいぐうじツクバネの命によってジム巡りに赴くためエクリプス(旧カナサシ)タウンを旅立った。
次の目的地は
♪10 新米トレーナーのレッスン1「古事曰く、ポケモンは怖い生き物です。人間も怖い生き物です…」
ー*ー
「やれっ、ストライク!」
森の中、男の子の声が響く。
【ストライクの つばさでうつ!】
【ヒメグマは せんとうふのうになった!】
「次だっ!」
ポケモン達の悲痛な叫びの只中、けれどどうやら、彼の辞書に「容赦」の文字はないらしい。
【ストライクの むしくい!】
【クルマユは めのまえがまっくらになった!】
「まだまだ!」
【ストライクの フェイント!】
キャタピーが「まもる」のバリアを破られてのけぞる。
【キャタピーの いとをはく!】
「斬り裂け!」
【ストライクの つるぎのまい!】
ストライクは、己を縛ろうとする糸を、光る剣を出現させることで斬り裂いた。羽を素早く動かし、キャタピーへと迫る。
【ストライクの つばさでうつ!】
【キャタピーは めのまえがまっくらになった!】
「全部さばいた感じだな。そろそろ次行こうぜストライク。」
返り血に染まった鎌を手入れしながらストライクが振り返り、そして、子どもの後ろを指した。
「ん…?ああ、まだ狩り残しがいたか。
まあ適当に狩っとこうぜ。」
【ストライクの つばさでうつ!】
【チルットは めのまえがまっくらになった!】
「今度こそだいたいこの辺は狩りつくしたな…」
ー*ー
言祝アリアがそれに気づいたのは、決して完全なる偶然ではなかったし、運命でもなかった。
小さなクラブからスーパーアリーナ、武道館に至るまであらゆる舞台で歌い踊ってきた彼女は、音を繊細に聞き分け、扱うことにかけてエキスパートである。その才は転生先のこの世界でも鋭敏に発揮されているのだ。
「/Outputごめんなさい!急ぎましょう!End」
「えっ…何か、あるのね?」
「/Outputこの先、ただ事じゃない感じの争いの音がします!End
ポケモンの悲鳴も聞こえるんです!End」
「野生ポケモン同士のいさかい?下手に関わらない方がいいわよ。
まあ私がいればガチグマ同士の乱闘でも問題な」
言祝アリアは、アリア・カナサシの言葉が終わる前に出力ボタンを押した。
「/Outputいえ、人の声もEnd」
「賊、不届き者、不心得者...それは急ぐべきね!」
駆け足で走り出すー手持ちがイーブイとアシマリのみの言祝アリアはもちろんのこと、アリア・カナサシも個人ではライドポケモンを持っていないー2人。距離が近づいてくれば、歌のエキスパートであるアリア・カナサシの耳にも聞き取れるし聞き分けられるようになってきていた。
ー「今度こそだいたいこの辺は狩りつくしたな…」
ー「次行くか…戻れストライク。」
ー「じゃ、飛ぶか、ウォーグル出てこいっ!」
ー「ウォーグル、そらをとぶっ!」
「/Outputあれは、ヒスイウォーグル...!?なんでこんなところに!?End」
白と黒の羽毛も怪しげな大鷲が、前方の森の中から空へと飛び上がる。その背には、良くは見えないが確かに人影があった。
「えっ、あれって絶滅種のヒスイウォーグルなの!?シンシューウォーグルって呼んでたんだけど...
…って、言ってる場合じゃない!逃げちゃう!ああっもう!」
セルフツッコミをしている間にも、シンシューウォーグルもといヒスイウォーグルは上昇気流に乗り硬度を上げていく。
「/Output飛べるポケモンは!?End」
「ワタシラガしかないわ!速さが足りない!」
(じゃあ墜とすしか...でも問答無用で空飛んでるライドポケモン撃墜したら私人殺しになっちゃうかもですよね!?打つ手なしです!?)
「/Output今までどうしてたんですか!?End」
「戦乱の時は友軍から借りれば良かったし
ポケモン世界に於ける空襲というのは言祝アリアの前世とは別ベクトルで危険であるーなにしろレーダーにかかりにくい小型低反射率のポケモンが大挙し、はかいこうせんやらで荒らしまわった挙句に降下してくるので始末に負えないからだーしかもコストはB29など目ではない。だからこそ、戦時中なら対空目標に容赦など要らなかったのだが、もちろん平時にただのトレーナーをいきなり攻撃できるわけがない。
「とりあえず何があったかだけでも...」
飛び去って行くヒスイウォーグルをしぶしぶ見送り、2人は現場へと到着して…
「っ!?」(そんな...!?)
…そして、切れた息のことも忘れ、絶句した。
森のあちこちで、なぎ倒された木々に血痕が付着し、転がっている。
切り刻まれた枝、不自然な土盛り…それらには羽や毛が汚くこびりついている。
漂う異臭、そして木々の向こうから聞こえてくる呻き声、泣き声。
何もかもが異様だった。
「こ、れ、は...」
ポケモン虐待ーその言葉が、喉に引っ掛かって出て来ない。アリア・カナサシはもっと悲惨な状況を作ったことが何度でもあった。とっさに、血だらけの景色が、過去に彼女自身が戦場に生み出した屍山血河の光景に重なって、言葉を失ってしまったのだ。
一方で、義憤を膨らませた者もいるー前世はデジタル社会全盛期、戦争の悲惨な光景ならSNSで散々流れてきたが、それを現場で直視するのは初めてだった元アイドルだ。
「/Output助けないと!回復ワザありますか!?End」
そこら中に転がるボッロボロのポケモンたちを見て、言祝アリアはパニック一歩手前でそう尋ねた。
「っ、そ、そうね!
出てきてワタシラガ!」
ボールから出てきた瞬間、ワタシラガは阿吽の呼吸で、求められていることを理解した。
【ワタシラガの グラスフィールド!】
ー*ー
森の木々が光り輝き、ポケモン達の傷が徐々に癒えていく。
ガーディ、ジグザグマ、ケムッソ、ココドラ、イトマル、エイパム、クヌギダマ、サナギラス...ポケモンたちがおそるおそる逃げていくのを見送りながら、アリア・カナサシは事の異常さにため息をついた。
「…ポケモン達の警戒心が強すぎる...どの子も、治って最初にすることがお礼ではなくて、人間から逃げ出すことだなんて。」
よっぽどトラウマを植え付けるような戦い方...いや、狩り方をしたに違いない。
「でも、これであらかた...」
治っただろうとあたりを見回して...思った通り、周りにもう傷ついたポケモンはいない。一匹を除いて。
「/Outputこの子が…End」
ぐったり、言祝アリアの腕の中に抱かれて息も絶え絶えな、水色の胴体に持つふわふわの白い羽を血に染めたポケモン。
「/Outputチルット…かわいそうに…
歌姫さん!ポケモンセンターへ連れて行きましょう!End」
ああ結局「歌姫」呼びなのねーそんなことを嘆くよりももっと、アリア・カナサシにとって嘆かわしいことが存在した。
「そんなものはないわ。」
(え...!?)
「各街にポケモンセンターがあるとか、そういうオシャレな地方ではないのよ。目的地のキナリタウンにもポケモンセンターはないわ。」
場所によっては未だ、4年前の戦災から復興したばかりなのがシンシュー地方なのだ。7年前の開戦以前にもインフラの脆弱さが問題視されていたくらいなので、エクリプス(旧カナサシ)以外の「タウン」にはポケモンセンターは存在しない…
「/Outputだったら、どうすればいいんですか?...というか、皆さんどうしてるんですか?End」
「フレンドリィショップはなくて適当な商店、預かりシステムは戦時接収を避けるために存在しない…それで、ポケモンの手当ては、自足するか、医院なり薬師なりを探すか、あるいは…
…バトル施設、そう、ジムに行きましょうか。」
「/Outputキナリジムに行けばいいんですよね?
…ところでキナリジムってどこなんですか?
ジムが書いてあるマップを、というかマップアプリを見たことがないんですが…End」
そう言えばずっと、アリア・カナサシが導くままに後をついてきたけれど、シンシュー地方のマップを見たことがないしそれどころかマップアプリすらないー今更に言祝アリアは、旅の初歩の初歩のはずのことに思い至った。
「ああ、カナサシで見せたシンシュー全域地図、写真撮っておくように言ったでしょ?」
「/Outputえと、撮りましたけど、縮尺大きすぎて詳しい道とか全然何もわからないですし、もっと詳しくて、ジムの位置とかも書いてある...End」
「ないわ、それ。
7年でジム以外にもいろいろ変わったし、それをマッピングする人もいないし、下手な立場でそれをしても貴女みたく怪しまれて捕まったりするし…詐欺じゃないマップはもうないわ。」
だから私に付いてきて、大丈夫この辺は戦乱の頃に何度か作戦展開したからーアリア・カナサシの言葉に、言祝アリアはどっと疲れを感じた。
「/Outputなるべく早く、治してあげるから、とりあえず休んでいてくださいねEnd」
チルットをモンスターボールに収容し、言祝アリアはアリア・カナサシの後を追って早歩きに駆け出した。
修羅!シンシュー地方伝説!
人口が少なく、4年前まで荒れていたシンシュー地方にはポケモンセンターが両手で数えられるほどしかないぞ!
雑貨屋は商店が、回復は地元の医院・薬局やバトル施設が担当しているが、預かりシステムを担当する施設は(公式には(※1))地方内に存在しない(※2)ぞ!
さらにデジタルマップも存在しないし、7年間地方全域地図が作られてないぞ!7年以上前の戦前地図はジムすらないから頼りにならないぞ!(※3)
※1:軍用に便利であるため、非公式な軍用預かりシステム、またプライベートに構築された隔離ネットワーク上預かりシステムは存在する。
※2:預かりシステムが存在しないのは「戦時・占領時に引き出され接収される危険があるため、施設に設置できない」「ポケモンをデータ状態でボックスに保存しようと転送完了して牧場に放そうと、預け先のサーバー所在地・牧場所在地が占領されるとすべて略奪される」というもの。従って個人が引き出し端末を所有し、預け先がシンシュー域外にある場合は信用が担保されている。このため
※3:デジタルマップや公式マップが存在しないのは、地理が軍事機密であること、シンシュー10豪をとりまとめて全域地図を作製できる中立な立場の組織が存在しないことによる(実戦経験者であるジムリーダーが強い上に、ジムリーダーの上に立つ人物の出現が政治的に重いため、四天王やチャンピオンが決まらず、シンシューリーグが実体を成していないことが大きい)。
一方で「地方内でマッピングできないしあえてする人もいない」という事態は地方外・人工衛星には関係ないため、衛星データを用いた他地方製アプリケーションに有志wikiのデータを拡張機能で追加したマップアプリが存在する。
ちなみにこの地方、わざマシンの製造と供給も不安定(工業化が遅い&軍需物資だった)です。主人公一行はアリア・カナサシがエクリプスタウン製と外地方製を戦乱中に調達していたので使い放題。