アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
「進化前どうし、戦術でどうにかなる…とでも、思ったか?
オレにはちゃんと、ハッサムに進化させない理由があるんだぜ。」
「/Output進化させない理由…?
好き放題野生ポケモンを痛めつけるあなたが、そこまでして強さのための手段を選ばないあなたが、ポケモンを強くできる進化を、あえてキャンセルする理由がある…のですか?End」
「おいおいおい酷いこと言うじゃんか機械音声のねーちゃん。先生がテキストに書いてたぜ。野生のポケモンをいじめたって誰も損しないんだからいくらでもやっていい…あれは生きたサンドバッグ、歩く経験値だ…って。」
(んな無茶な…)
「バサギリ。機械音声のねーちゃんは知ってるか?」
「/Outputヒスイ地方にかつていた、ストライクの進化系ですよね。
…あなた、それに進化させるつもりなんですか?でもとっくに絶滅したって…End」
バサギリに進化させるために、ハッサムに進化できるレベルに達してもなお進化をキャンセルしている…ならば、ストライクが進化前にしては異常に強いのは納得がいく。しかし、肝心のバサギリへの進化方法が消滅していては皮算用だ。
「いんや、北のユキコシにはまだいるんだ。進化に必要な『くろのきせき』が遺跡から出土するからな。
最近、ユキコシ地方はシンシューに
バサギリなんてほとんど誰も見たことがないはず。対策なんて考えてもないはず。
オレはテメエら雑魚を倒して、賞金でくろのきせきを買って、ジムリーダーを倒して、キナリタウン最強になるんだ!」
ー*ー
ストライクをあえて進化させず鍛え続け、シンシュー初のバサギリにして最強のトレーナーになる…そんなだいそれた野望に、言祝アリアは敵う気がしていない。
「/Output確かに、私ではあなたに手が届かないかもしれません。
新米トレーナーの私では、チルット、あなたを勝たせてあげられないと思いますEnd」
言祝アリアは、声から力を抜き、左手をポケットに突っ込んだ。
「チ、チル...?」
「諦めるんだぜ?オレに負けたって、認めるんだぜ?」
「/OutputいいえEnd」
「チル...?」
「なに...?」
たおやかな指先に挟まれるのは、虹色に輝くディスクーEXエディッションプレート。
「/Output今の私たちに不可能なら、一か八か、可能性に賭けましょう。
あなたが間違っていた方に。
正しいやり方の、正しいあなたが、正しくこの子を拾ってくれた...そんな、今ここには存在しない可能性に!
チルット!EXオーバーラップ!End」
【おや...チルットのようすが…?】
ー*ー
チルタリスに進化するには、少し、ほんの少しだけ時間が足りない。後1日でも特訓していればーひこうタイプエキスパートであるコヒガンはそう言った。
ならば、もし、この悪ガキが悪ガキではなく、チルットに出会った時に標的にしていじめるのではなく仲間に加えてジム戦に向け特訓していたら...?
今頃はチルタリスだったかもしれない。このチルットはそんな可能性を秘めているーもし、この悪ガキが、キナリタウンに蔓延るレッスンテキストが間違っているのなら、そういう強くなり方があっただろうと考えられるのだ。
だから。
「/Outputこれは証明です。
あなたはもっと強くなれる可能性があった。そして、私たちはもっと強くなれる!End」
エネルギーが満ち溢れ。
【チルットは チルタリスEXに 進化した!】
白い羽毛がおおきく翼を開き、水色の肢体が首を伸ばし精悍に育つ。
「/Output歌って!私の分まで!End」
「バカなっ、ストライクつばさでうて!やらすな!」
【チルタリスEXの ハイパーボイス!】
【ストライクの つばさでうつ!】
弾き弾けるような音波は、目前に迫っていたストライクを爆発によって吹き飛ばした。
ー*ー
チルタリスEXのハイパーボイスとストライクのつばさでうつが何度も交錯する。チルタリスにおいかぜが効いているとはいえストライクのほうが俊敏なのだから、そう何度も何度も真正面からハイパーボイスを受けたりはせず、ストライクの翼撃もチルタリスEXにダメージを与えていた。
にもかかわらず、悪ガキは焦りを隠せない。
「なんで、なんでオレが勝てない…!?」
さっきまでチルットとしてひんし一歩手前だったはずのチルタリスEX相手、レベル差が圧倒的なストライクならダメージレースで勝ち目がないこともないはず…なのに、ストライクばかりがどんどん精彩を欠いてゆく。
【チルタリスEX 特性:ハミングヒール
歌うことで少しずつ体力を回復する】
ダメージレースの勝敗など、実はもう決まっていたのだった。
「っ、フェイントをかけてつばさでうつ!」
ならば不意を突けばー悪ガキのその考えもまた、見透かされていた。言祝アリアとは人生経験が違いすぎるし、そもそも言祝アリアは「相手の出方を先読みして指示を入力しておく」しかない以上それを前提にバトルをしているのだ。
「/Output歌って!声の続くかぎり!End」
響き渡る音圧がストライクを張り叩き、張り飛ばし、ねじ伏せた。
ー*ー
3対3シングルバトルも、いよいよ佳境である。
「ありがとな、ドグロッグ。」
ポケモンEXのバトルでの最大の欠点があるー公式戦では2体と換算することだ。
「/Outputゆっくり休んでくださいね、チルタリスEnd」
チルタリスEXは気絶してもチルットへ戻らなかったー連戦の間に充分な経験値が溜まったのだろう。それはそれとして、言祝アリアが使えるポケモンはもはや1体だけ…
「オレの、先生の強さは、絶対間違ってないんだ…!行け、アーマーガア!」
「/Outputいえ、私はあなたを、あなたが受けた教えを否定します。私たちの、全力で。
イーブイ、オンザステージ&オーバーラップ!End」
地脈が震え、エネルギーがみなぎる。
「うっそだろ、まだEXを隠し持ってたのかよ!」
いや、EXではないー言祝アリアが手の内にあるのは、ディスクではなく石板…GXマーカーだ。
【イーブイGXの かくせいDNA!】
(こんなこともあろうかと細心の注意を払ってほのおのいしを持たせて、本当に正解でした…!)
【イーブイGXは ブースターGXに 進化した!】
「また進化!?クソッ!なんで!?
アーマーガア、ブレイブバード!」
【アーマーガアの ブレイブバード!】
巨大な鳥影が、天より落ち下る。
「/Output一撃で終わらせますよ!負けるわけにいきません!」
GX化している間にほのおのいしを手放さないとブースターへの進化が固定されてしまうかもひれないので、戦闘不能によるGX化解除は避けなければならないのである…
【ブースターGXの パワーバーナーGX!】
猛烈な焔の渦に勢いよく突っ込んだアーマーガアは、ブースターGXへの吶喊を果たす前に、全身を燃え上がらせ力尽きた。
「/Output私の、勝ちですねEnd」
「なんで!なんで!なんでなんだよ!」
「/Output…正しい手段を選んでいたらもっと強くなれていたはずだった、だからチルタリスに負けた。
手段を選ばなければもっと手段を選ばない相手に負ける。だからイーブイに負けた。
因果は報いるものですよEnd」
それはどこか、自分に言い聞かせるかのような語調だった。
(ですから私は、可能性をせばめることなく、道を誤ることなく、この世界で、前に進まなければ…!)