アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
日本から転生した元アイドル、言祝アリア。数年前戦乱を駆け抜けた元歌姫、アリア・カナサシ。2人はカナサシジムリーダー兼だいぐうじツクバネの命によってジム巡りの旅をしている。
キナリタウンで「野生ポケモンいじめでのレベリング推奨レッスンテキスト」問題を解決しジムバッジを得た言祝アリア。次なる目的地は
♪15 オラこんな修羅地方嫌だ(なお)
ー*ー
「なあ、あんたら、シンシューを出ていってくれたりはしねぇのか?」
ぽつり、レンタライドポケモン屋の店主は、言祝アリアとアリア・カナサシにそう言った。
「なんで、そんなことを。」
2人乗りライドギアの背にまさに乗ろうとする寸前で、アリア・カナサシは、呆然と心外の極みと言わんばかりに聞き返す。
「歌姫様は、シンシューにも自分にも、飽いてるだろ。
客人さんは、シンシューに縛られてるわけでも、こだわらなくちゃならねえわけでも、ねぇだろ。」
ーこんな、的外れのような的を射たような、指摘のような愚痴のような言葉を投げかけられている理由を知るために、少しばかり時を遡らなくてはならないー
ー*ー
「/Output歌姫さん、今度は、どこに向かっているんですか?End」
イーブイとアシマリに加えチルタリスを仲間とし、キナリタウンを旅立った転生元アイドル言祝アリア。彼女は、同行者にして案内人たる元歌姫アリア・カナサシに尋ねた。
「そうね…
…ところで、コトホギさん、体力はある?」
(そうね?)「/Outputあります。1日中歌って踊るのが仕事でしたからEnd」
声を出すのが怖くてできないーあまりに声が美しすぎて厄介を招いたことがあるからだーために用いる端末入力式機械音声で、言祝アリアは回答する。
「そう、じゃあ、山登りはできる?」
「/Output山登り…ですか…?結局一度も出演したことはないですけど、NGは出してないです。できると思います。…どうして?End」
「脳内に地図を思い浮かべてほしいんだけど。
キナリタウンを流れていた川はそのまま南に流れて、もう一度谷が広くなったところで街になる。ウスモエタウンね。」
天竜川が作り出す伊那谷が、伊那市のさらに南で飯田市を作る…そういう話だ。
「キナリタウンのさらに北にはフジナドシティがあって。フジナドシティから見ると南に2つの谷がある。一つはキナリタウンとウスモエタウンの谷で、もう一つはワスレナタウンへと続く谷路。」
フジナドシティは松本に当たるーだからこれは、松本市の南にある伊那谷(伊那市・飯田市)と木曾谷(木曽町)の話だ。
「で、これが問題なのよ。
もしシンシュー10ジムを巡るなら、キナリ、ウスモエ、ワスレナの…つまり2つの谷を両方行かなくちゃいけない。だけど、あんまり繋がりはない。2つの谷の間には山脈を挟むから、フジナドまでいったん戻って…2つの谷を往復することになるの。」
そう言われて、言祝アリアには、アリア・カナサシの言わんとしていることと目指す目的地が理解できた。
「/Output今南に歩いているのはウスモエタウンに向かうつもりで、歌姫さんはその後、山脈越えで道をショートカットして隣り谷のワスレナタウンに行くつもりなんですね?End」
「ええ。話が早くて助かるわ。
正確にはもう少し寄り道したいの。貴女、今のまま、ウスモエジムに挑むつもり?」
(それは…)
キナリジムのジムリーダー、コヒガンは、不届きなジムトレーナーと悪ガキを懲らしめるためのメガピジョットEXの「ぼうふう」で、鉄筋コンクリート築四年のジムを大破させてしまった。シンシューのジムリーダーは戦乱を生き抜きながら豪族の代わりに街の頂点となったポケモントレーナーであり、誰もが軽んじること思いもよらぬ強者なのだ。
「ここで試行錯誤して強くなろうと足掻かせてもいい…けど、それでうまく最短距離を引けたトレーナーが頂点に君臨して、回り道ばかりのトレーナーはババを引く…ってのも嫌な話だし、それになんてったって、乙女の時間は貴重じゃない?」
いろいろと理屈をつけて、アリア・カナサシはズルを勧めているわけである。言祝アリアにしても純粋な子どもではないので、頷く。
「ウスモエタウンのさらに南に、ちょっとした宝の山があるの。というか私が作ったの。それを、これも道をショートカットして掘り起こしに行くわ。」
「/Outputショートカットですか?そこへも山越え?」
「いえ。
せっかくのウスモエタウン、谷間にて水運で栄えた街…ここは、水路で行きましょう。」
かくて、2人はウスモエタウンに到着するや否や、ウスモエジムなど目もくれず、足早に渡船乗り場へ向かい。
渡船を使ってマイナーな目的地に2人っきりで向かうには、船頭を雇い秘密のポイントを教えなければならないと思い至り、ライドポケモンレンタル屋に行き先を変え。
「なあ、あんたら、シンシューを出ていってくれたりはしねぇのか?」ー冒頭の言葉を、レンタル屋の主人に投げかけられた、というわけだった。
ー*ー
「あんたらは、この川を下れる、そして、戻ってこなくたっていい。そうだろ?」
「認めるわ。
私は疲れてしまって、もう一度シンシューを駆け回って統合を試みるつもりはない。英雄なんて言う人もいるけどそんな響きの良いものじゃないし。
コトホギさんはシンシュー地方の人間じゃない。なんの軛もない。
…けどそれは、理由にはならない。
なんで、そんなことを私たちに言おうと思ったの?」
「あんたらなら信頼できるからだ。
そして、俺たちがそうしたいからだ。
せめてこのラプラスだけでも、外に出してやりたいからだ。」
ー*ー
「/Outputあの、すみません。
ラプラスさん、あなたは、本当に、そう思っているの?End」
言祝アリアとアリア・カナサシを乗せて川を流れていくラプラスは、答えることはない。ただ、アリア・カナサシは代わりを務めるかのように口にする。
「…『せめてこのラプラスを外に連れて行ってくれ』って言葉が、嘘とは思えないのよね...
...キナリタウンからウスモエタウンへ川を下って、さらに下ると何処に出るか知ってる?」
「/Outputえ、歌姫さんの宝の山ですよね?End」
「そうじゃなくて。
川はいずれ海へと流れ着くって話。この川を南に下り続けた先に、ジョウト地方がある。」
「歴史的にも経済的にも、ウスモエはワカバタウンとのつながりが深いの。
戦時中は、ウスモエがいまいちまとまりに欠けたり非協力的だったのに苛立っていたけど、でも、今ならわかる。」
ー3年の戦乱を戦い抜いて、心が折れてしまった今ならば
「ウスモエの人たちはシンシュー地方に
誰だって、一度川を下れば、流れに逆らって戻ってきたくはなくなるのでしょうね。」
直截に「歌姫」アリア・カナサシに言うことはできなかったのだろう。シンシューを統合し前に進めるために奔走した彼女を前に、思いのすべてを口にするのはためらわれたのだろう。ただ、匂わせだけでも聡明な彼女は理解してしまう。
「/Outputだから、私たちに対して、出ていけることを羨むような、ラプラスだけでも連れて行ってと頼むような口ぶりだったわけですね…
あれ?あの人たちが連れて行けばいいんじゃ...End」
「すっかり遁世を決め込んだ私や、はなからどこの軛にもない貴女ならそうも言えるけど、彼らが日々の暮らし、代々の街を捨てて自由になれるかと言えば、踏ん切りはつかないのでしょうね。」
けれど、偶然にも、とても信頼できる身の上で、ジョウトまで下ることができる人物がやってきた...となれば、レンタ屋の主人がついつい気まぐれを頼んでしまうのも無理からぬことでもあった。
「でもまあ、ポケモンにはポケモンの考えがあるわ。このラプラスがどう思っているかは...」
「/Outputラプラス、そこのところ、どうなのですか?End」
ラプラスが言葉を返すことはない(当たり前だが)。けれどラプラスは口を少しだけ開き。
「この、歌は...」
どこか寂しいような、遠くを見つめるかのような、そんな歌声を響かせた。