アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
ウスモエタウン南方、ジョウト地方との境界近く。
ワカバタウンまで流れていく川は、数千万年もこの地域の山々を削り、急峻な渓谷を築いてきた。
ではなぜこの山々を川が抜けていくことになったのか…と言えば、この谷は中央構造線、すなわち断層活動によってできた細長いくぼ地であり、そこを水が抜けていくのは地質的必然であったから…と言えよう。
断層とは地脈の流れが遮断されるポイント(正確には
「/Output本当に、ここが『宝の山』なんですか?End」
一歩ごとにガラガラと崩れる山道、そよ風だけでもどこかから落石音がする山道、荒涼として草木もまばらな山道...異様なまでに「ザ・荒山」な中を必死に進みながら、言祝アリアは先を行くアリア・カナサシに尋ねるーところがすぐには返事がない。
「…そうよ、それにしても、まさか、ここに再び帰って来ようとはね...」
(な、なんだかとても訳ありっぽいんですけど...!?)
ー*ー
「…そうよ、それにしても、まさか、ここに再び帰って来ようとはね...」
柄にもなく「宝の山」だなんてもったいぶってしまうほどのものが、この峠には古くから眠っている。
だから、戦乱の時代に私はここを囮にした。
「ただの荒山に見えるけど、これでも古代から続くシンシューとジョウトの街道よ。
そして、地脈の断絶によってエネルギーがたまって、結晶として地下で析出する場所でもあるわ。」
「/Output宝というのは、その結晶ですか?End」
「ええ。
古代、記録もないころ、ある人がここで見つけた虹色の不思議な宝玉をポケモンと持ち合った。すると宝玉は共鳴し、ポケモンの姿は大きく変じた...まあたまたま条件にぴったりなポケモンを持っていて結晶を拾った、まったくの偶然でしょうけどね。
さてコトホギさん、ここで問題。この宝玉、結晶というのはなんでしょう?」
ガラガラ転がる石の一つをつまみ上げ、指先で弄びながらアリア・カナサシが問う。
(ポケモンの姿を変える、珍しい結晶...
…進化の石?でも、人間とポケモンがわけあったんですよね?Zリング...ではないだろうし…)
「/Outputキーストーンとメガストーン、ですか?End」
「そうそう大正解。
この山の下にはキーストーンとメガストーンの鉱脈があるわ。
貴女のチルタリスを手っ取り早く強化するのにぴったり、そうでしょ?」
コツコツ、登山用のストックで足元を突く。すぐに、カツンという手ごたえがアリア・カナサシの手のひらへ跳ね返ってきた。
「…思ったほど埋まってなかったわね…サーナイト、土砂を。」
【サーナイトの サイコキネシス!】
土砂が吹き散らされ、現れたのは、鉱脈へと続く鉱山の坑道...などではなく。
(扉...?それもとっても頑丈な…)
「/Output鉱山、なのですよね?これが入口ですか?End」
「言い忘れてたけど、鉱山なんてもうないわよ。
私が破壊したから。」
(え...)
むなしく転がる落石の音が、谷間に反響していった。
ー*ー
シンシュー地方、南ウスモエキーストーン鉱山。
ここは古来から知られたキーストーン・メガストーンの鉱脈であり、そして、シンシュー戦乱2年目(今から6年前)にアリア・カナサシがコーシュー四天王マルスに歴史的勝利を収めた戦場でもある。
この年の4月、雪解けの時期、シンシュー北部ではコーシュー四天王ピリュスとコウジタウンは連合して北のジンザモシティに攻め込むも、クーデターで豪族を打倒してジムを設立し士気を挙げていたジンザモ側は雪崩にコーシュー軍を呑み込ませ大勝利する。
北部での「ジンザモ崩れ」に続いて、ウスモエタウンを包囲され南端のジョウト境界まで攻め込まれていたシンシュー南部でも反撃の火の手を上げようと歌姫アリア・カナサシが画策したのが、占領下のキーストーン鉱山の奪還...と、誰もが思っていた。
キーストーンとメガストーンは重要な戦略物資である…例えばリザードン・カメックス・フシギバナはカントー最初の三体の最終進化系である程度強いトレーナーなら持っているものだが、これをメガシンカさせられるトレーナーとなるとガクンと減る。メガシンカ系アイテムの入手難易度は高いのだ...ゆえに、貴重な鉱山を手にできれば、ポケモンをパワーアップするもよし売りさばいて軍資金にするもよし、大きなアドバンテージになるのだ。シンシュー側のカナサシおみやはなんとしても奪還したいだろう...
…だが、アリア・カナサシは予想の裏をかいた。
ー「戦略物資を奪いに来たようだがご苦労だな。ここで決着をつけよう。」
ー「残念だけど、キーストーンもメガストーンもすべて、この手にあるわ。」
ー(そして、貴方の命も。)
ー「ま、まさか、貴様、最初からこのマルス様をおびき出すつもりで…っ!?」
ガラガラ、ガラガラガラ、ガラガラガラガラッ!
ー「殺し尽くしなさい。サーナイト!」
ー【メガサーナイトEX(祝歌)の ディスペアーレイ!】
ー*ー
「少数精鋭で断層に潜入して、じめんタイプ数十体で『じしん』『じわれ』をやったの。
もともと断層で地盤が破断してて不安定な山だったから。あっちこっちが崩れに崩れて、コーシューの兵もポケモンも谷底まで落ちていったか生き埋めになったし、残りは私が葬ったわ。…四天王のマルスだけは逃げられたけど。
ただその時に、坑道も崩壊して埋まっちゃったの。だから鉱山はない」
それほど悪いことでもなかった…山奥の鉱山を守り続けられるほど当時のシンシューに余裕はなかったので、要地が減って良かったまであった。
ただ、アリア・カナサシが予想していなかったことにキーストーン鉱山を掘り返す動きは結局起きなかった。キーストーンやメガストーンを自力で手に入れてこそ一流のトレーナーという風潮が高まって鉱業的採算は取れなくなったし、そもそも流通メガストーンにしても鉱山崩壊前にある程度をコーシュー側が持ち出して外の地方に売っていたので値崩れしている。わざわざ地盤の悪い山に私財を投じて鉱山を開き直す者などいないのだ。
「/Outputでは、私たちは何をしにここへ?End」
「この扉の向こうに、戦乱の落とし子があるのよ。
出荷直前だったり、坑道でトロッコに乗っかってたり、露頭から見えてたり。そういう、すぐ手に入るキーストーン、メガストーンを、鉱山を崩壊させる前に鉱山事務所の大金庫いっぱいに放り込んだ。その扉がこれってわけ。」
それはまさしく、軍事的に崩落させられた鉱山が死の間際に産んだ、最後の宝の山であった。
ー*ー
ニンフィアがリボンを器用に使って大金庫扉をつついている。アシマリが水を吹きかけて錆を落とす。
「/Outputこの金庫を開ければキーストーンとチルタリスメガストーンが手に入るんですよね?End」
「そうだったら大変じゃない。
迂闊に解錠したら、その瞬間に坑道内の爆薬に点火して山ごと吹き飛ぶように作ってるわ。ちなみに大金庫を掘り出して持ち出したり破壊した場合も。」
アシマリがビクッと固まった。ブービートラップにしても殺伐すぎる。
「/Outputでしたら、どうすれば?End」
「少し上流にある砂防ダム制御所で解除コードを入力するの。同時にこっちでも金庫のダイヤルを回す。」
最低2人必要で、もちろん砂防ダムもブービートラップになっている…復讐の修羅と化していた6年前のアリア・カナサシらしい仕組みである。
「だから、貴女は一度制御所まで遡らないといけないわね。
でもその前に錆落としをしないとダイヤルが回りそうもないから、今日は掃除。」
「/Outputわかりました!
アシマリ、優しくバブルこうせんですEnd」
「ワタシラガ出ておいで。コットンを出してちょうだい。」
コットンを手に、アリア・カナサシと言祝アリアは腕を捲った。
泡と水で土砂や錆を洗い落とし、ダイヤルを回さないように細心の注意を払いつつコットンで拭いていく。
シンシュー南端の日は、早くも暮れ落ちようとしていた。
ー*ー
翌日朝。
言祝アリアとアリア・カナサシは、キーストーン鉱山跡に再び登ってきていた。
「/Output今日こそ、大金庫を解錠するんですねEnd」
「ええ。もう一度打ち合わせしてから、私が旧砂防制御所へ…
…コトホギさん、ちょっと静かにしてくれる?」
木の幹の裏にさっと隠れるような仕草。促されて言祝アリアも続く。
「誰か、金庫の前に…」
「隠れても無駄だぜェ、嬢ちゃんら。」
大金庫前から、よく通る野太い声。
「…あら、そう。
じゃあ出るわ。それで、貴方たちは誰?どうしてここを知ったの?」
答えようによってはー混じり気なしの殺気を、アリア・カナサシが放つ。
「おお怖ァ…
…オレらはゴフク屋。いわゆる、ロケット団残党って奴だなァ。」
※本作はどちらかというとアニメ寄りの世界観でロケット団は壊滅していません(他の悪の組織はだいたい伝説ポケモンをゲットされたり計画に失敗したら瓦解だけど、ロケット団はマフィアなのでサカキの心が折れない限り続くからね)。ですのでコイツは正確には「ロケット団支部残党」ですね。
更新しばらく止まります。ストック切れた。