アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪2 歌わない歌姫、歌えないアイドルを拾う

ー*-

 

 (な、なんでです…)

 

 シンシュー=コーシュー地方、エクリプスタウン。

 

 美しい湖畔に立つ、銀色に光輝く近未来的なビル群…そのビルの一室で、転生アイドル言祝(コトホギ)アリアは、片手を手錠で柱と結びつけられ虜囚に甘んじていた。

 

 「…『なんでです』…か…

 

 読心に失敗してるとは思えんのだよなあ...でもコイツが言ってることそのまま直訳で報告したら俺が粛清されちまうし…」

 

 白い仮面で顔を覆い隠した男が、タブレット片手に牢屋の床に座り込み、言祝アリアと向き合いながら首をひねって呟く。

 

 (な、なんだか物騒な地方に来ちゃったみたいです…ここはどこなの!?)

 

 数秒のタイムラグ後に、男の脇に浮かぶムシャーナのヘッドセットが点滅し、言祝アリアの思考をタブレット画面に映し出した。男はため息を一つ。

 

 「ああ、ここが何処か?お前スパイらしくないこと聞くなぁ…

 

 ここはシンシュー=コーシュー地方。半ば忘れられた、クソみたいな山の上…

 

 …コーシューの連中、こんな初歩的な義務教育すら破綻してるのか?いやしかしいくらなんだって…」

 

 (…ええ...?ポケモンが怖い生き物にしても、ポケモン世界がこんな怖いところだなんて…よりにもよって紛争地帯みたいなところに転生してしまったのですね…)

 

 「…まーた異世界とかいうたわごと…

 

 …はあ。もしかして本当にお前さんが異世界人だったら気の毒だから教えてやる。

 

 ここは科学未来都市エクリプスタウン、公安統監局第4処。俺たちみたいな日陰者が、スパイをいびるところだよ。」

 

 (…本っ当に物騒極まるところに連れて来られてしまいました…!)

 

 言祝アリアの顔は、もはや真っ青を通り越し真っ白だった。

 

ー*-

 

 パソコンが並ぶ、エクリプスタウン公安統監局第4処。その殺風景でデジタルな部屋に見合わぬ巫女服の少女が、おもむろに局員の向き合うスクリーンを覗き込む。

 

 「歌姫様、どうなさいました?」

 

 局員は少女を咎めず、あまつさえ、敬いのしるしに白い仮面をとって素顔を晒し姿勢を正した。

 

 「いえ、貴方方が新たなスパイを捕縛したと聞いたので、珍しいなと。」

 

 重要機密のはずの報告書を、歌姫様と呼ばれた少女はマウスを奪いスクロールしてふむふむ眺める。

 

 「は、申し訳ございません。」

 

 「いえ、コーシューの賊は簡単に逃げるか自決してしまうから、吐かせるのが難しいのはわかっているわ。そのことを責めるつもりはない。

 

 で、吐いたの?」

 

 「いえ、何もしゃべる様子がなく、とりあえずムシャーナのテレパシーとさいみんじゅつを試みていますが、どうやら支離滅裂な内容で信憑性もなく…」

 

 「支離滅裂…?そう書いてあるわね…

 

 …心を壊している、とかではなく?」

 

 「なんでも、コーシュー地方じゃなくて、異世界、ニホンとかいうところから来たらしいですよ。正式な報告書にはなってませんがね。」

 

 附記事項、そう書かれた長すぎる補遺項目を、局員は指先で突ついてみせた。なるほど言祝アリアの読心をいかに報告するか、ちょっとしゃべり過ぎなムシャーナのトレーナーは頭をひねったらしい。

 

 「…ニホン…?聞いたことがない地方ね。

 

 …ねえ、もしかして、それ本当にコーシューのスパイ?」

 

 「それは間違いありません。

 

 歌姫様もご存じでしょう?GXマーカー。」

 

 「ああ、EXエディッションの強化版のアレね?

 

 コーシューで最近確認されたって言う。」

 

 「それを、この少女は持っていたらしいですよ。」

 

 「…は?」

 

 アルトどころかテノールの声を出してしまう歌姫。

 

 「待って。GXマーカーって、本物?」

 

 「科学技術部はそう報告してきましたね。贋作、ハリボテじゃなくて、ポケモンの可能性を引き出すEXエディッションプレートのシステムに、不明な手段でそれを一撃に込めるシステムが付加されてる、正真正銘のGXマーカーだったらしいです。

 

 今リバースエンジニアリング局の連中が三徹してますよ。どうも神学的なシステムらしくて科学じゃ解決できないだとか。」

 

 「私から、カナサシおみやのほうへ問い合わせてみるわ。神学システムなら私たちの方が向いてるし。」

 

 「…歌姫様には、野蛮なコーシューの邪道など解析せずとも不要では?」

 

 歌姫は、顔をしかめた。

 

 「私はもう、誰のために、歌うつもりはないわ。

 

 話は変わるけど、この報告書をダウンロードさせてもらってもいい?後、アリア・コトホギのポケモンと、本人との面会申請も。」

 

 「はっ、歌姫様の、仰せとあらば。」

 

ー*-

 

 牢屋の扉が勢いよく引き開けられる。

 

 (…誰…?)

 

 無機質な壁面にもたれかかる少しやせた少女を、フリル付き巫女服の少女が見下ろした。

 

 「災難だったわね。

 

 …貴女、やっぱり喋らないのね…

 

 はい、紙と鉛筆。」

 

 ”ごめんなさい。怖いんです。”

 

 「それは、私たちが?それとも…」

 

 ”あなたがたも怖いけど、声を出すのが、怖い。”

 

 「そう。

 

 サーナイト、一応、お願いできる?」

 

 美しい白と翠のポケモンは、登場するなり手をあわせ、その間をサイコパワーで圧縮し始めた。

 

 「…重力曲率に異常…

 

 …サーナイト、テレパシーのほうは?」

 

 サーナイトが首を振る。

 

 「はあ…

 

 …もういいわ。ブラックホールは処理しといて。」

 

 (ひえっ、ブラックホール…?あの手の間のズモモッ…ってやつ…?おっかないです…)

 

 「さてと、貴女の話を、聞かせてもらえる?

 

 どういう世界から来たのか、どうして来たのか、なんで手持ちがイーブイだけだったのか…

 

 そして、どうしてコーシューの最新兵器のはずのGXマーカーを、貴女が持っていたのか。

 

 洗いざらい、正直に、話してもらうわよ。」

 

 (…あの…)

 

 言祝アリアは、手錠されていない右手で再び鉛筆を手に取り、紙へと書きつけた。

 

 ”どうして私の、異世界転生の話、信じてくれるんですか?”

 

 「ああ、気味悪いわよね、荒唐無稽な話を信じられたら。

 

 サーナイトのテレパシーはムシャーナ同様、貴女自身にもあのイーブイにも嘘はないと示した。そして、サーナイトのマイクロブラックホールは重力曲率にわずかなひずみを見せていて、その変異値は貴女が4日前異次元から現れた場合の人間一人分の実体出現余波理論値を示している。

 

 神学の観点も科学の観点も、ついでに私の直感も、貴女の可能性を一つに収束させているわ。シンシュー最強の歌姫たる私の結論を覆せる者は…いないわね。」

 

 (は、はあ…)

 

 どうやら目の前のフリル付き巫女服の少女は、オカルトとサイエンス、両方を統べるらしかった。

 

 ”あと、もう一つ…なんて、呼べばいいですか?”

 

 「ああ、私のことを知らない。そうよね…

 

 『歌姫』そう呼ばれているわ。『様』はつけなくていいから。」

 

 歌姫は、あんまりない胸を張りながら、言祝アリアの手錠を外した。

 

ー*-

 

 私はこれでも、日本一のアイドル、空前絶後史上最大のアイドル、そう呼ばれたこともありました。

 

 ニューシングルが出れば首相官邸が官邸を開きましたし、「オリンピックでも休戦にならない御時世だが、言祝アリアが武道館配信する日には地球の裏側の前線の兵士が銃をスマホに持ち変える」なんて言われたこともあります。文字通り、世界を魅了するアイドルだったんです。

 

 …けれど、だからこそ、ストーカーやパパラッチには事欠きませんでした。もちろん、SPが付けられましたが、SPすらも魅了してしまってストーカーに変わる事件があり、私はうんざりしていました。

 

 後進も育てたし、もうそろそろ、いいかな…と思って、引退したんです。…日経平均が3000くらい下がってドン引きしましたけど。

 

 でも、全然収まりませんでした。むしろひどくなったかな。だから…ってわけでもないですけど、病んで。

 

 それで、私は死を選んだんです。私は全てを自分の手で終わらせるって。

 

 …そのはずだったんですけどね…気づいたら、このポケモン世界に転生していました。

 

 ゲームやアニメで知っていても、本当にポケモンが生きてる世界に来るなんて...驚いていたら、怪しげな男たちを目撃して、逃げていたら、男たちのアジトに辿り着いたんです。イーブイとあのGXマーカーは、そこで拾いました。男たちから逃げ出して、今に至ります。

 

 私はもはや、歌うつもりはないし、それどころか、声を出すのも、聞かせるのも怖いです。だから、こうして筆談させてもらっています。

 

ー*-

 

 「…情報量が、多い…!

 

 貴女、いっそ嘘ついていて欲しかったんだけど?」

 

 ・異世界の一億人プラスアルファのアイドルで、ストーカーに病んで死んだつもりがなぜか転生していた。

 

 ・この世界のことをフィクションでは知っていたが、戸惑っていたら賊に出くわした。賊に捕まっていたと思しきイーブイと賊のGXマーカーを奪い遁走。賊はおそらくコーシューのスパイで、だからコーシューにしかないはずのGXマーカーを奪えたがそれがために自身がコーシュースパイと思われ公安統監局に捕まった。

 

 ・歌で魅了してしまうのが怖く、もはや声を出すのすら怖い。

 

 以上のことをまとめ、歌姫は顔を心なしかげっそりさせる。

 

 ”す、すみません…”

 

 「まあ、いいわ。

 

 それで、貴女、行く当てはあるの?この世界をフィクションとは言え知ってるなら、なんか攻略法を知ってるのかもしれないけど…」

 

 ”いえ、わからないです、何も…”

 

 「…さっき書いたわよね、フィクションでなら知ってるみたいなこと。」

 

 ”ポケモンの世界は知っています。でも、エクリプスタウンなんて...

 

 地図、見せていただけますか?”

 

 「はい。衛星地図。」

 

 手錠をはめられ続けて痛んでいた左手首をさすりながら、言祝アリアは、歌姫が手にする端末の画面を舐めるように見つめ…首を振る。

 

 ”ポケモンのゲームマップは、途中までだいたい現実の日本をモデルにしていました。

 

 ここ、右下がカントー地方。私たちの世界の関東地方です。

 

 ここ、下と左下がジョウト地方。近畿・東海地方と呼ばれていました。

 

 カントーの上、私たちの世界で東北と呼ばれていたあたりが、この地図のキタカミの里です。キタカミの上の島、北海道を元にしているのがシンオウ地方でした。

 

 ずっと西、この大きな島、ホウエン地方のモデルは九州・沖縄です。”

 

 「下とか上とか…南北よねふつう…いや気持ちはわかるけど。

 

 そう、それで、この、シンシュー=コーシュー地方は?」

 

 ”ありません…”

 

 「…は?」

 

 再びのテノール。言祝アリアの肩が震える。

 

 ”ジョウトとホウエンの間、中国地方。

 

 ジョウトの北の甲信越・北陸地方。

 

 この2つは、ゲームの舞台になっていない空白地帯なんです。”

 

 「空白地帯?...あることにはあるけどゲームに登場しなかった、ということね?」

 

 ”このユキコシ?って地方が北陸で、シンシュー=コーシュー地方っていうのは、長野県・山梨県のことなんだと思います。古い名前そのままですし。けど、私はこの地方は何も知らないんです。原作に登場しないから。それにまさかこんなにおっかない地方だなんて…”

 

 「ま、そうよね。北のユキコシですらたいがい修羅だけど、ロクに団結も統一もできてない山奥のド田舎、シンシュー=コーシューはそのさらに斜め下、とても子供向けゲームにはできないわね。せいぜい二次創作がいいところ…

 

 …ってことは貴女、これから生きる術がないのね?」

 

 ”というか私、ここを生きて出られるんですか?”

 

 「この私が言えば一発だって、さっき言ったじゃないの。これでも私は偉大な歌姫で…

 

 …そんなことはいいわ。

 

 貴女、行き場がないのなら、私に付いてきてくれる?

 

 イーブイは返す。GXマーカーも貴女の戦利品だし返させる。その代わり、付いてきなさい。」

 

 ”どうして?”

 

 「私は、生き場を失くしたから、死に場を探しているの。」




 言祝アリアの設定盛り過ぎたンゴ。これで歌姫の設定も盛ってるからやり過ぎた感はあるがもう知らん!今作アルセウスもフィクトマキナも関係ないからストーリー側でナーフ入ってるし!
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