アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
「ここが、ウスモエジム...」
複雑な心を隠し切れない声色で、アリア・カナサシはリンゴ並木の間を通り抜け、ウスモエ市街を見下ろす丘の上、新築4年のジムの前に立っていた。
「ジム戦、用意はできてる?」
「/Outputはい。
メガシンカも何度も練習しましたし、イーブイもオシャマリもラプラスもいっぱい特訓しました。
今の私の全力で、挑めますEnd」
ジムのドアを両手で開き、受付を探そうと…して、言祝アリアとアリア・カナサシは、目の前に立ちふさがる偉丈夫によって歩みを妨げられた。
「…あの、チャレンジャー?ジムトレーナー?どちらでもいいけれど、私、今からこの子をジム戦申し込みに行かせるからどいてほしいんだけど。」
腰に手を当て、きっぱりと主張するが、偉丈夫は微動だにしない。
「/Output私たちに、何か…?もしかして、バトルしないとどいてくれない感じですか?End」
「そうだな。」
重たく低い声で、偉丈夫が答える。
「俺はジムリーダー、ホンミツ。
君たちの探し人だ。」
これには、言祝アリアもアリア・カナサシも、目を丸くした。
「ジムトレーナーバトルなど興ざめなだけだ。俺と勝負しろ。
俺に、心の温度を見せて見ろ。」
ー*ー
ウスモエジムジムリーダー、ホンミツ。
…私の記憶にはない人物ね。…なにしろウスモエタウンの記憶が薄いから。
戦乱中、ウスモエはまとまりが悪くて、地域としても個戦力としてもさしたる働きを見せなかった。川を下ってジョウトに逃げればいいと腰が引けていたり、コーシューに内通していたり、雪が来れば停戦してなんとかなると考えていたり…とにかく大したことなかった。
情報の共有すらできなかったし、するのも怖かったから、ウスモエタウンを巡る戦いの主体は私たちカナサシおみや…キーストーン鉱山の戦いなんて特にそうだしウスモエタウン籠城戦ですらそう。そして、講和交渉の席でも、通るはずない賠償要求を出すだけ出して放置、何がしたいのかどころか何かしたいことがあるのかすらわからなかった。
ジムリーダーだって、旧豪がそのまま就任してる…誰も戦前の体制を覆してジムを設立できる実力者はいなかったってことね。
もっともこの物騒な地方で実力者としてジムリーダーをしていることに違いはないわ。コトホギさんに勝ち目があるかは未知数...
「歌姫アリア様、何を他人事みたいに見てるんだ?
君もバトルに付き合ってくれ。」
はい?
「はい?」
「俺が試したいのは、アリア・コトホギだけじゃない。
歌姫アリア様。バトルを、しようじゃないか。」
…私に勝負を仕掛けるだけじゃなくて、コトホギさんの名前を調べている…自信も能力もあるようね…
「まさか、私を驚かせようとは、本当に予想外だったわ。
いいでしょう、ダブルバトルと行こうじゃない。」
【ウスモエジムジムリーダーの ホンミツが しょうぶを しかけてきた!】
ー*ー
「ルールは6体6、ただしオーバーラップによる換算数超過が発生した場合これを無視しよう。
俺が2体、歌姫アリア様とチャレンジャーコトホギは1体ずつポケモンを出す。先にポケモンが尽きたほうの敗北だ。」
ポケモンEXは通常ポケモン2体分として換算されるため、例えばアリア・カナサシと言祝アリアが2体ずつ倒された時点で残りの1体を2人ともEXオーバーラップさせたなら換算上4体ずつ出したのに等しいことになるが、これは気にしない…ということである。そして、事実上には6対3+3というわけだ。
「いいわ。」「/Output交代はどうします?End」
「俺はめんどくさいからやらん。好きにしろ。」
ホンミツが、アリア・カナサシが、言祝アリアが、モンスターボールを掲げる。
「来い、ニョロトノ、グレイシア。」
「/Outputオシャマリ、行きましょう!End」
「悪いけど、最初から本気で行くわよ。
メロエッタ、オーバーラップ!」
【ニョロトノの あめふらし!】【あめが ふりはじめた!】
【メロエッタは メロエッタEXに オーバーラップした!】
「メロエッタ、シャイニーボイス!」「/Outputオシャマリ、アクアジェットです!End」
「シャワーズ、いやしのすずだ。」
【メロエッタEXの シャイニーボイス!】【オシャマリの アクアジェット!】
【ニョロトノは ねむりになった!】【シャワーズは こんらんした!】
【シャワーズの いやしのすず!】
よし!-ホンミツはこぶしを握った。
メロエッタEXのEXワザ「シャイニーボイス」は、命中時に相手をねむりないしこんらんにする音ワザ...シンシュー地方でそれなりの地位にあって戦乱を経験している者なら誰でも知っている。だから彼は、この致命的なワザに対して、「ニョロトノが避けるかこんらん後ワザ成功」あるいは「ニョロトノはねむるがグレイシアが避けるかこんらん後ワザ成功していやしのすずによりニョロトノ回復」かどちらかになるほうに賭けたのだ。
そしてホンミツは賭けに勝った。仕込んでいた致命の一手を打つための、賭けに。
【ニョロトノの ほろびのうた!】【シャワーズの うずしお!】
「何っ!?」(うそっ!?)
メロエッタEXとオシャマリは、にっちもさっちもいかない状態になってしまったのである。
ー*ー
「/Output歌姫さん、回復の手段は!?End」
「…ないわ。ちょっとした詰みね。
少しでも取り返すわよ。メロエッタ、ハイパーボイス!」
「/Outputはい、オシャマリ、ハイパーボイス!End」
メロエッタEXのシャイニーボイスの時点で相当なダメージがすでに蓄積していたのだ。耐えられるはずもなくニョロトノとシャワーズは気絶に追い込まれる。
「来い、オニゴーリ、キングドラ。」
「もう一度ハイパーボイス!」「/ハイパーボイスを繰り返してください!End」
「まもれ。」
これにはアリア・カナサシは閉口するほかなかった。オニゴーリもキングドラもバリアによってハイパーボイスを完全に防ぎ...そして「まもる」が連続して成功する可能性は低く普段ならば時間稼ぎにしかならないが、ほろびのうたの影響下にあるメロエッタEXとオシャマリにとってはその時間こそもっともかけがえないものだ。
「さあ...
凝華せよ、俺たちの真価!」
ホンミツは、ディスクをオニゴーリへと放り投げた。ただのEXエディッションプレートのディスクではなく、
【オニゴーリは
冷気が爆発的に膨れ上がる。水蒸気が氷結して空気が真っ白になる。
「キングドラ、りゅうのまい!」
「ハイパーボイスっ!」「/Outputアクアジェット!End」
いかなメロエッタEXでも、
大気を満たした氷霧は吹きはらわれたものの、
メロエッタEXとオシャマリがガクリと倒れ伏し、メロエッタEXからはエネルギーが抜けだしていく。
「…一番の切り札を、無為にしたわ...」
バトルコートに降りしきる雨に肩を濡らし、アリア・カナサシは呟きながら、早くも最後となるポケモンを取り出した。
「キュウコン、奏でなさい!」
しとしと降る雨の下、白い吹雪を纏い、アローラ、ユキコシ、シンシューの高山にのみ住まう雪狐が、姿を現した。
ー*ー
「キュウコン、奏でなさい!」
…歌姫さんは、元気そうな声を上げているけど、ピンチなはず。
「/Outputラプラス、オンザステージ!End」
ポケモンEXは2体分、まぼろしでもあるメロエッタEXが必殺ワザでやられてしまって、もうこのシンシューキュウコンしか使えない…私はラプラス含めて残り2体だけど、歌姫さんのシンシューキュウコンがやられたらルール上1体しか同時に出せないからホンミツさんの2体に袋叩きにされて終わる…
…一か八か、私が一手、譲らないといけませんね。
「/Output歌姫さん、ぶっつけ本番で、いけますか?End」
「…貴女、EXなら連続で使えるわよ?何もそれは...
…いえ、わかったわ。力を借りるわね。」
…私以外がそれを使う実績も、そろそろ必要でしたからね。なんて、時々黒いことを考えてしまうのは私のいけないところかもしれませんが。
「キュウコン、GXオーバーラップ!」
大地から力が湧きあがるのを、シンシューキュウコンからエネルギーがあふれ出すのを、肌で感じます。これが…
【キュウコン(シンシューのすがた)は シンシューキュウコンGXに オーバーラップした!】
「行くわよキュウコン!まずは慣らしに、ふぶき!」
「/Output私たちはキングドラのほうを!ラプラス、フリーズドライ!End」
このバトルをメガチルタリスの公式戦デビューにしたいので、弱点を突いてくるメガオニゴーリは歌姫さんにさばいてほしいところですが…
ー*ー
「オニゴーリ、ふぶき。
キングドラ、ぼうふう。」
雨雲の下、
バトルを行う3人のトレーナーの感情は一つだったーバトルが良く見えない。ただでさえダブルのふぶきをぼうふうで吹き回していてはロクな景色にならなくて当然であるのに、ニョロトノのあめふらしの効果も切れていないのだから。
(今ならゆきなだれのほうが威力が高いし、これだけ雪に満ちてるなら確実に命中するわ。だけど、メガオニゴーリの場所によってはこちらもふぶきの被弾を避けられない…GXワザの性能の確認も必要ね…)
(キングドラの特性はたぶん「すいすい」...ラプラスの至近にすぐにでもこれるでしょう...けどそれは雨の間だけ。
雨が止む前に突撃?でもそれをしてフリーズドライを避け切れなければ二重弱点で一撃されます。どのタイミングでキングドラは来るのでしょうか…?)
(目隠しして将棋やってるようなもんだが、歌姫様もコトホギとやらもさてどう動くかね。
…専用ワザのことを考えればそろそろメガオニゴーリを動かしていい頃合いか。)
「オニゴーリ、クライオマウス!」
氷霧を裂いて、
【
とっさにシンシューキュウコンGXはふぶきの放出方向を変え、
巨大な氷の顎が、シンシューキュウコンGXの背に、莫大な凍気とともに喰らいつく。
シンシューキュウコンGXが大きく身もだえし、ぐったりと倒れる。
雨雲の下、すいすいによる高速移動で旋回し、ラプラスからのフリーズドライを華麗に避けて、ラプラスの死角となる真後ろに回り込み。
【キングドラの スケイルショット!】
鱗の銃撃が、ラプラスの尻尾の付け根を襲った。
ラプラスが啼いて怒り、フリーズドライを乱射しながら大ぶりな身体を旋回させるも、キングドラはすいすいと避け回って鱗を撃ち放ち続けている。
一方的に攻撃され続けるラプラスに、倒れ伏して今にも気を失いそうなシンシューキュウコンGX。もはや2人のアリアは追い詰められ切っていた。
「ふふっ…これは悩ましいわね…
キュウコン、GXワザを!」
【シンシューキュウコンGXの クリアゲートGX!】
瞬間、フェアリーオーラでできた扉のようなものが、シンシューキュウコンGXの身体から開いて、
GXワザはZワザ同様、一度しか使えない代わりに必中。
【クリアゲートGX:このポケモンが受けているダメージをすべて相手のポケモンに移す(GXワザはバトル中一度しか使えない)】
ー*ー
「コトホギさん、思った以上にホンミツは強いわよ。」
そんなアリア・カナサシのアドバイスめいた呟きを、ホンミツの耳はしっかりとバトルコートの反対側で拾っていた。
「やっぱり、君は、俺を舐めていただろう?
旧豪族ジムリーダーなんて血統と運が良かっただけ、戦時中に誰もウスモエをまとめなかったのだからウスモエに大した人間はいない…
…ジムバトルが何か、勘違いしているだろ。
バッジの重さにふさわしいか試すのは、君じゃない、俺だ。」
ホンミツが、ポケットからモンスターボールを取り出す。
【ホンミツは ゲッコウガを くりだした!】
モンスターボールをポケットへしまい、そのままごそごそと手をうごめかす。
「歌姫アリア様、君の覚悟を見せてくれ。俺の試練に応えてくれ。」
空のモンスターボールをポケットにしまったその代わりとでも言うかのようにホンミツがポケットから取り出したのは、見覚えがとてもあるーそれどころか先ほど言祝アリアがアリア・カナサシに貸したばかりの、黒光りする石板で。
2人のアリアが、目を剥く。
「さあゲッコウガ、オーバーラップ!」
「は!?」(え!?)
【ゲッコウガは ゲッコウガGXに オーバーラップした!】
【ラプラスは せんとうふのうになった!】
「は!?!?」(えっ!!?)
メガシンカをM進化と表記するのはポケカならではですね…なおポケカに完全準拠するとМオニゴーリEXのクライオマウスは250ダメージでアローラキュウコンGXのHP210を超えるのですが(アローラキュウコンとユキコシ・シンシューキュウコンは収斂進化です)、英雄歌姫アリア・カナサシの個体だけあって踏ん張ったということで…
ホンミツ(ウスモエジムジムリーダー)
ウスモエタウンを代々治める豪族の当主。みず・こおりタイプのスペシャリスト。自らも筋骨隆々に鍛えた偉丈夫であり、「常に流れカタチを変える水の摂理」と「凍てつき強固な氷の摂理」を使いこなすバトルをしている。また水運の街ウスモエの長として、下流のジョウト地方とのビジネスやワカバタウンからの産物に並々ならぬ興味を抱いている。主力は
名前は飯田市の花ミツバツツジに提案されている新和名「ホンミツバツツジ」から。
シンシューキュウコンGX
ステータスはユキコシ・シンシューキュウコンEXのそれと同様だが、GXワザとして「クリアゲートGX」を持つ。このGXワザは「自分の被ダメージをすべて相手へ転嫁する」という反則級のもので、Zワザ同様に一度しか使えないGXワザの面目躍如と言えよう。
なおアリア・カナサシのシンシューキュウコンは隠れ特性「ゆきふらし」ではなく通常のゆきがくれ個体です。