アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 更新遅延しています。論文書かなきゃなので...()


♪21 独りぼっちとアリア

ー*ー

 

 ウスモエジムをクリアしジムバッジを手に入れた言祝アリアとアリア・カナサシは、次なる目的地、ワスレナタウンを目指し、峠を越える山道をゼーハーと歩いていた。

 

 「/Outputまだ、先ですか?End」

 

 「まだまだ先よ。」

 

 こんな会話を、もう何度繰り返したことか。

 

 獣道などでは全然なく、恒常的にライドポケモンが行き来するために整備された砂利道だ...が、それがために人間の足ではかえって歩きづらくなっているフシもある。

 

 「この辺には、高原とかも、少ないし…

 

 …はあ…

 

 …このままだと、日の入りまでに…

 

 …はあ…

 

 …村に止まるのは、無理そうね…」

 

 今日は野宿、ちゃんとしたところには泊まれないらしいと知ると、言祝アリアはいっそう顔色を不機嫌にした。

 

 過酷なレッスンやツアー、ロケで、言祝アリアはかなりの体力を持っている…が、戦場の英雄たるアリア・カナサシと異なり、野宿耐性は無いに等しい。1日の疲れを回復させられないだろうことは多大なストレスを与えていた。…もちろんそのことはアリア・カナサシも気づいていて、故に言祝アリアが「/Outputあれ、村じゃないですか?End」と木々の隙間を指しても、憐憫混じりの返答しかしなかった。

 

 「コトホギさん、蜃気楼でも見てるの?

 

 こんなところに村なんてないわよ。」

 

 「/Outputでも、あれ。End」

 

 言祝アリアは、肩から腕、人差し指までピンと伸ばして、行き先斜め右を指さした。

 

 屋根が見える。ゴシゴシと目を擦る。…電柱も見えた。

 

 「…いや、そんなわけ…道を間違えた?でも、この歩数で村なんて…」

 

 「/Outputとにかく人里です。寝床を借りられないか聞いてみましょう!End」

 

ー*ー

 

 その村は、異様な雰囲気を放っていた。

 

 全ての家が、木造で板屋根かトタン屋根。まるでタイムスリップしたかのようだ。いくつかボロい家もあったが、ほとんどの家は目立った傷もなく、まるで新築のようなピカピカの板壁すらある。

 

 今にも住民が扉を開いて出てきそうな古めかしい家々…けれど、生気のない不気味な雰囲気が、「ここには誰もいない」と2人のアリアに直感させた。

 

 「サーナイト」「/OutputイーブイEnd」

 

 いっそおどろおどろしいまであるただならぬ雰囲気に、2人はポケモンを出して警戒を指示する。

 

 「/Output誰かー!いませんかー!?End」

 

 「いるなら返事してー!...返事がない...」

 

 「/Outputでも歌姫さん、視線、感じませんか?End」

 

 「私は感じないけど...誰もいないみたいだし…」

 

 でも...言祝アリアは出力を躊躇った。パパラッチから某国スパイまでいろいろな人間にストーキングされた世界的アイドルとしての勘は間違いなく監視の存在を告げているが、しかし野生ポケモンに誤反応していない自信まではないのだ。

 

 …と、サーナイトが首をかしげ、つかつかと歩き出し、おもむろに一軒の前で立ち止まって扉を勢いよく引き開けた。

 

 「誰かいたの?」

 

 サーナイトが頷く。並々ならぬサイコパワーを持つサーナイトならば、隠れ潜む何者かを見つけることも可能だ…が。

 

 「/Output人間ですか?End」

 

 サーナイトは首を横に振った。ポケモン、あるいは人ならぬ何者か…

 

 「失礼するわよ!」

 

 「/Output返事ありませんね…End」

 

 アリア・カナサシと言祝アリアは、古めかしい木造家屋の中を進む。

 

 「人気がないのに床も壁も綺麗ね…毎日掃除してるみたい…」

 

 「/Output歌姫さん、でも、ほらEnd」

 

 腕を上へ伸ばして指で壁をこすれば、びっしりと埃がこびりつく。…どうやら人の背より少し低いあたりから上の壁・天井へは掃除が行き届いていないらしい。

 

 「…気づいてたけど、口に出したらなんか不気味じゃない…」

 

 「/Output不気味ついでに余計なことをもう一つ。あれ、神棚ですよねEnd」

 

 壁に取り付けられた質素な祭壇。いかにも遺影が収まっていそうな額の中も外も空っぽだ。

 

 「あれは、龍神様とその依代たる現人神を祀るカナサシおみやの祭壇形式ね…どうしても無視できない点はあるけど。」

 

 「/Output無視できない点?像とかない…みたいなことですか?End」

 

 「像がないなら許せるけど、隅を囲う御柱がないのはダメだわ。結界のない神域なんて地脈も御神力も宿らないし信仰の拠り所にもなれない。あれは信仰の抜け殻だわ。」

 

 生気のない村、不自然に壁の下側だけ綺麗な家、そして神棚の抜け殻…妖しすぎる。

 

 ずんずん進んでいくサーナイトに置いていかれまいと、2人のアリアとイーブイは足早にしかし慎重に屋内を探索していく。

 

 「誰もいない…?」

 

 階段を登り二階の奥。サーナイトは最後に残った押し入れに手をかけた。

 

 誰もが固唾をのむ。

 

 ガタッ!ピシッ!

 

 「…チラチーノ?」

 

 そこには、白いスカーフポケモンが、小さく佇んでいた。

 

 「…いろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえず、一番大切なことを聞くわね。」「/Output一晩、ここで泊まらせていただいてもよろしいでしょうか?End」

 

 チラチーノはふるふると頷いた。

 

ー*ー

 

 「/Outputこの村、他に誰かいるんですか?End」

 

 チラチーノ、首を横に振る。

 

 「/Outputではこの村は、あなたが手入れしているんですか?End」

 

 チラチーノ、またも首を横に振る。そして、山盛りの木の実を差し出した。

 

 「歓迎してもてなしてくれてるのね…家主の代わり?」

 

 チラチーノ、頷く。

 

 「/Output家主さん、トレーナー、なんですよね?どこに?

 

 というか、この村の人間はどこにいるんですか?End」

 

 チラチーノ、首を横に振る。知らないらしかった。

 

 「…捨てられた、とか?」

 

 チラチーノは顔を暗くして俯いた。

 

 「/Output歌姫さん、デリカシーがなさすぎますEnd」

 

 「いえ、そのチラチーノがじゃなくて、この家や、村が…ってことよ。」

 

 「/Outputそんなわけありません。

 

 歌姫さんも見たはずです。こぎれいな家々、この村まで続く明らかに最近も使われている道に、真新しい電柱End」

 

 「でも、だったら…そもそもこの辺に村はないはずなのよ?」

 

 謎に答えは出ないまま、世は更けていった。

 

ー*ー

 

 翌朝。

 

 アリア・カナサシは、朝日の下で何やらコンパス片手に呻いていた。

 

 「/Outputどうしたんですか、歌姫さん、こんな朝早くから。End」

 

 フェイスケアを片手でしながらもう片手で器用にタブレット端末を操り、言祝アリアが尋ねる。

 

 「コトホギさん、やっぱりどこかで迷子になったみたい。」

 

 振り返って、開口一番、アリア・カナサシはへにゃり起き抜けの顔で言う。次の言葉は、言われなくてもなんとなくわかっていた。

 

 「一度、ウスモエに戻りましょう。」

 

 声を出せる身ならアイドルらしからぬブーイングを口に出していた、言祝アリアは標高1000mの山の中でそう思った。

 

ー*ー

 

 「/Outputあの無人集落は、結局、歌姫さんが現在位置を間違えていたから正体不明の村だっただけで、本当は不思議なものじゃない、ってオチですか?End」

 

 「だったらウスモエまで何日も掛けて戻らないわ。

 

 私はちょっと峠道から外れただけ。なんども星月太陽と山で現在位置を調べたけど、あそこにはやっぱり村なんてないわ。」

 

 おそらく、あの謎の村への道が本来の道よりはっきりしていたか、あるいは終戦後に道が変わったかして、幸か不幸か村へと導かれたのだろう…

 

 「/Outputちょっと道を外れたら、本来存在しないはずの村を見つけてしまった…ってことですよね、でも、どうして?隠し里とかでしょうか?End」

 

 「でも、戦時中何度も陸空からあのあたりを調べたけど、空撮にも映ってなかったのよ。」

 

 終戦後4年でできた村という雰囲気ではない。なにしろ電柱以外にコンクリート建造物がないのだ。

 

 「幻の村、じゃないわよね...」

 

 アリア・カナサシは手のひらをつねった。  

 

 痛かった。

 

ー*ー

 

 「ああ、廃村『イロリ村』ですね。」

 

 「えっ」

 

 隠し里か怪異か夢まぼろしか…不思議な村の正体は、ウスモエタウン町役場であっさりと明かされた。

 

 「で、でもそんな村、あるなんて話聞いたことないわよ。」

 

 「とっくの昔に廃村になった自給自足の限界集落なんて、出身者でもなければ気にしませんから。」

 

 住民がいないのは廃村だったから…言われてみれば、怪しいことは何も無い。「出身者でもなければ気にしない」とはつまり裏を返せば出身者は今でもイロリ村を気にしているということで、廃村にしては小綺麗だったのは時折訪れて清掃している者がいるということなのだろう。

 

 「/Output私たち、道を間違えてあの村に入って、一晩屋根を借りてしまったんですけど、よかったんでしょうか?End」

 

 「役場としてはいいとは言えません。

 

 …けど、最近あの村をリングマが荒らしてね、出身者たちが修繕して監視カメラと警報機を付けたんですよ。搬入で旧道をかなり踏みしめて峠道より目立ってしまったことが道迷いの原因だとしたら、出身者側にも非はあります。村を汚さなかったのなら、まあ。」

 

 監視カメラがあると聞いて、それで視線を感じたのかと言祝アリアは納得した。それに、警報機とやらが鳴らなかったなら監視カメラの向こう側の人も許してくれたのだろう。

 

 「で、でも、戦時中にあの峠道を何度か通ったのに…空撮だって…」

 

 「出身者の皆さんだって、先祖代々のお墓を荒らされたくはないですからね。適当に隠してましたよ。」

 

 戦時中、ウスモエタウンからの公式なマップを手に入れていれば、あるいはこの廃村が掲載されていたかもしれない。けれどウスモエタウンはまとまりがない上に非協力的だったし、とっくに廃村になった限界集落の価値など口頭でわざわざ伝える価値もない。

 

 もちろん、住民がいると思い込んだコーシュー軍が占領・略奪のため荒らしに来るリスクはあった。けれどあの時点ではウスモエタウンもコーシュー派やジョウト派がそれなりにいて、友軍であるカナサシおみや軍が敵になるリスクもあったのだから、わざわざ余計なことを言うのも躊躇われた。

 

 もちろん、類推できたとしても、無遠慮にすべて口にする必要はない。教えてもらえなかった理由など一言で充分だ。

 

 「…まあ、重要戦略目標になるはずの峠道のそばにあって過疎で滅んでるんだから、どれだけどうでもいい村かってことよね…

 

 …元住民を除いたら…」

 

 重要戦略目標なのはあくまで峠道だし、峠道沿いの村もいくつもある。少女2人の足でなんとか日没ギリギリに辿り着ける村というのは、ライドポケモンや健脚の人間には近すぎ重載荷した隊ならば遠すぎるということで、本当にこの村は大したことがないのだ。地場産業にしても、もう炭焼きの時代ではない。

 

 「/Outputでも、あの子にとっては…End」

 

 なんと言い表していいかわからず、言祝アリアは書き途中の言葉を出力した。

 

 たまに元住民が帰ってきて掃除するだけの寂しい山村で、夏も冬もただ佇み続けるチラチーノ…その気持ちは計り知れない。

 

 「/Outputあの村のチラチーノについて、何か、知りませんか?End」

 

 何も無い神棚、人なら届くはずの高いところだけ汚れた家…チラチーノの状況は想像するに容易い。

 

 「イロリ村の出身者たちも新天地で新しい生活を始めています。おまけに戦乱で3年も危険地帯になりました。

 

 …村のことを忘れる方、お墓を移して村を捨てる方、戦死とは言わないまでも亡くなられる方…

 

 …決して帰らない主を待つポケモンが一匹くらいいたとしても、仕方ないことではあります。」




 正体不明の存在しないはずの村…怪談系だと思った?残念、廃村です。

 本話のモデルになっている集落は大平宿( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%B9%B3%E5%AE%BF )です。大平峠道はさすがに舗装道路ですがすさまじい道であることは確かです…なお宿泊できるらしい。

 
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