アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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~前回までの転生ポケモンアイドルは~

 現代日本で一世を風靡したアイドル、言祝アリア。ポケモン世界に転生した彼女は、元英雄歌姫たるアリア・カナサシとともにポケモンを集めて旅をし、シンシュー地方10のジムを回っている。

 ウスモエタウンからワスレナタウンへ抜ける峠道のはずれで、2人のアリアは林内にあるはずのない村を発見した。それはとっくに廃村となった「イロリ村」であり、そして、誰もが去っていった故郷をひとり守り続けるチラチーノの姿がそこにはあった...


♪22 あなたと私のハーモニー

ー*ー

  

 チラチーノは星空を仰ぐ。

 

 思い浮かべるのは、あたたかく優しい家族がいたあの頃。

 

 ー「チラちゃん、こっちおいで!」

 

 ー「チラちゃん、ふわっふわだねぇ…」

 

 ー「ママ!チラちゃんがかわいくなった!」

 

 ー「いつかこの子と旅をしてくれるかい?」

 

 ずっといっしょだと、この家とこの子を守るんだと、そう信じていた。

 

 ー「また雪崩か…旅人も寄らんようになってきたし、道路の維持もな…儲けも高く売れなきゃ輸送費とトントンだ…」「お隣も引っ越すってさ…こんな山ん中じゃおばあちゃんもすぐ病院に連れて行ってあげられないし…」

 

 ー「アンタ、都会にマンション買ったって、お墓も土地もこの家も、どうするってんだい?まさかほったらかしてくってんじゃないだろうね?」

 

 だけど…いっしょにいられなくても、みんなの背中を押せるなら、みんながいつか帰ってくる家を守れるのなら、それでいいって。

 

 ー「チラちゃん、いいの?ほんとうに、いいの…?」

 

 ー「チラちゃん、忘れたりしないから。できるだけ、帰ってくるから!」

 

 十年、二十年、ずっとそれが続くと思っていた。

 

 ー「チラちゃん、査定の人だよ。」

 

 ー「チラちゃんが家と土地をきれいにしていてくれたから、ここを担保に会社を興せた。」

 

 ー「チラちゃん、これが我が社。もっともっと儲けて、ウスモエからワスレナまで、この村を通る舗装道路を通すのが、今の目標なんだ。

 

 そうしたら、この村に戻れる。またいっしょに暮らそう、チラちゃん。」

 

 またいつか、昔みたいに。そう、信じていた。

 

 ー「チラちゃん、麓じゃ戦争だってさ、物騒だよね…」

 

 ー「この戦争が終われば、アスファルト代も燃料代もいっきに値下がりする。やっと、道路を敷けるんだ。」

 

 …なのに、急に、帰ってこなくなってしまった。

 

 ー「工場のソカイ準備中にクウシュウで一家全滅だってさ。かわいそうに」

 

 本当はわかってる。けれど…

 

 電灯が照らす林内、月輪模様が浮かび上がる。

 

 【リングマの とっしん!】

 

 この村まで失ったら、家族が帰ってくる「はず」のところまで失ったら、いよいよもう、一人ぼっちになってしまう気がしたから。

 

 【チラチーノの すてみタックル!】

 

ー*ー

 

 再び廃村イロリ村に戻ってきたアリア・カナサシは、村の入り口に差し掛かるなり眉をひそめた。

 

 「/Outputどうしました?End」

 

 「足元、そして匂い。」

 

 乱れた地面。そして、かすかな獣臭さと血の匂い。言祝アリアもまた、それに気づくなり顔を強張らせ、イーブイを出しながら村へと駆け込む。

 

 入り口からほど近い、荒らされた人気の影。

 

 血まみれのチラチーノが、倒れていた。

 

ー*ー

 

 「/Outputどうして、そんなになるまで戦ったんですか…End」

 

 チラチーノは答えない。

 

 「/Output役場で調べました。この家の住民の方は…もういないって。

 

 そんな、命がけで戦わなくてもいいんですよ?End」

 

 チラチーノ、答えない。

 

 「/Outputあなたがボロボロになることを、この家の方だって、望んでいなかったと思いますよ?End」

 

 チラチーノは、耳を塞いだ。

 

 「コトホギさん、静かにしておいてあげなさい。」

 

ー*ー

 

 「…ひとり取り残されたことを認められない…戦災遺族、特にポケモンに時々あることよ。」

 

 もう主は死んだのだといくら伝えても、ずっと駅前で主の帰りを待っているガーディーだとか。

 

 「ポケモンは…もちろん種類によるけど、人間と同じくらい賢い。だけど、人間ほど感情を制御できるかと言ったら…心が、事実を受け止めきれないのよ。」

 

 焚き火を見つめながら、言祝アリアは頷く。

 

 「/Outputあのチラチーノは、まだ、無意味と頭で理解しながらも、あそこで帰りを待ち続けている…End」

 

 焼いたマシュマロを串から抜いて、言祝アリアは目を閉じた。

 

 「/Output歌姫さん、私の話、聞いてもらえますか?End」 

 

ー*ー

 

 東京の街中。

 

 「大三輪さん、いえ、言祝さん。

 

 彼女たちが、あなたのユニットメンバーよ。」

 

 期待の大型新人トリオとして近くデビューさせるのだと、そう伝えられた。

 

 「はるちゃん声きれー!胸おっきー!」「こら、やめなさいユイ。」「だってだってー、ユニットメンバーって家族みたいなものでしょ?いっしょに過ごして、がんばっていくわけじゃん?家族ならブラのサイズくらい」「…何を言ってるのユイは。…遥、私はCよ。」「あっ、ちーちゃんツンデレだー!」

 

 ユニットメンバーは、家族…胸を揉まれながら自然と言われたその言葉を、まだ言祝アリアは忘れられないでいる。

 

 「はるちゃんちーちゃん、あたしたちの初めての全国ツアー、頑張ろうね!」「遥、ユイ、2人のおかげで、私はここまで来られたわ。」

 

 あの頃が、一番輝いていた。世間はそうは思わないようだけれど、言祝アリアの輝きの始まりだと思うようだけれど、でも、白熱電球のほうがLEDより熱く光量が多いように、外から見た栄光と自分たちの心が一致するとは限らない。

 

 「ユイ、遅くまで残りすぎよ。体調管理も大切なしご」「だって、無理でもしないとはるちゃんの隣に立てないよー。」

 

 高転びに転んだと言うべきか、それとも…

 

 「プロデューサー、しばらく私をセンターから外すことってできませんか?私が一番売れているから…って言うのはわかりますが、ユイと千尋がかわいそうです。」「…大三輪さん、一ヶ月前なら検討の余地があったわ。今それをしたら、大三輪さんのファンの不満が2人のファンの鬱屈に衝突するわよ。」(でも、このままでは2人が潰れてしまいます…!)

 

 大三輪遥という個人のアイドルとしての才能、魅力、研鑽、そしてファンからの支持…その集大成たる「言祝アリア」はすでに大きく羽を広げ舞い上がり、大三輪遥自身にも制御できなくなっていた、そして。

 

 「はるちゃん、ごめん…あたしたち、もう無理だよ…」「(はるか)、あなたは、言祝アリアは、私たちには眩しすぎるわ。」

 

 隣りにいたら眩しすぎて前が見えないのだと、2人はそう言った。彼女を全世界ツアーへ送り出すために。

 

ー*ー

 

 「それは貴女の被害妄想よ。

 

 貴女が1人取り残されたんじゃないわ。貴女が2人取り残したの。」

 

 「/Outputわかっています。理屈ではわかっています。

 

 それでも私は、かつてのユニットメンバーを忘れられないんです。重荷を背負ったまま一人残されて、ステージに立ち続ける辛い心を、わかる気がするんですEnd」

 

 「…そう。

 

 あなたは、チラチーノを仲間にしたいのね。」

 

 「/Output長丁場になるかもしれません。ですが、お願いします。End」

 

 「わかったわ。…そうはならない予感もするけど。」

 

ー*ー

 

 果たしてアリア・カナサシは正しかった…戦いの気配に鋭敏な彼女は、すぐにこうなると心のどこかでさとっていたのかもしれない。

 

 夜中、ぐっすりと眠りに沈む言祝アリアに、デコピンがひとつ。

 

 眠そうな目をこすり、額をさすり、抗議の細い目を向けようとして。

 

 「コトホギさん、スタンピードよ」

 

 アリア・カナサシの低い声に、言祝アリアは一気に脳を覚醒させ、タブレット端末を手元へ引き寄せた。

 

 「/Outputスタンピード?End」

 

 「ほら、耳をすませて。」

 

 木々がへし折れる音、雑多な叫び声が、かすかに聞こえてくる。

 

 「強力なポケモン…例えばぬしが率いる群れとかが本気で大暴れしたら、森の中で暮らしてるすべてのポケモンたちが、パニックになって逃げ惑うことになるわ。

 

 村を轢き潰されるわよ。」

 

 言祝アリアは、秒で冴えてポケモンたちを叩き起こし、家を飛び出した。

 

 闇夜の森を爆走する破砕音と土煙は、もう村の目の前へと迫っている。

 

 「/Outputチルタリス、EXオーバーラップ&メガシンカ!

 

 イーブイ、GXオーバーラップ&かくせいDNA『リーフィア』!End」

 

 「コトホギさんは村に来る群れを迎え撃って!私は原因になっているぬしポケモンを…

 

 …しまった、そう言えば、チラチーノがいなかったわ。」

 

 あんなケガなのに!?言祝アリアは絶句した。

 

ー*ー

 

 身体のあちこちから包帯を引きずり、白いスカーフを赤く染め、それでもチラチーノは夜の庭先に立つ。

 

 この身に替えても村を、家を守りたいー前提が破綻した妄念だけが、チラチーノを駆動させていた。

 

 【チラチーノの ハイパーボイス!】

 

 村へと、雪崩のような大群が殺到する。木々をなぎ倒し土煙を巻き上げるそれへ、チラチーノは大音声を響き渡らせた。

 

 大群の勢いが少し弱まる。

 

 チラチーノの肩が大きく上下する。

 

 【チラチーノの ハイパーボイス!】

 

 木々が倒れる音が弱まる。

 

 チラチーノの声がかすれる。

 

 【チラチーノの ハイパーボイス!】

 

 大群の勢いが弱まり、少し左右へばらける。

 

 チラチーノの包帯に新たな血がにじむ。

 

 【チラチーノの ハイパーボイス!】

 

 大群はもはや指呼の先、そして、未だ止まらず。

 

 チラチーノはもはやこれまでと覚悟を決めた。

 

 【チラチーノの すてみタックル!】

 

 包帯を振りほどき、山をかけ下るポケモンの大群めがけ突進…

 

 【М(メガ)チルタリスEXの コットンガード!】

 

 チラチーノの身体を、柔らかい綿毛が包みこんだ。

 

ー*ー

 

 「/Output独りで自ら突っ込みながらも孤独を感じているというのも、親近感ですねEnd」

 

 【イーブイ(リーフィア)GXの リーフストーム!】

 

 【ラプラスの ふぶき!】

 

 【オシャマリの チャームボイス!】

 

 チラチーノは、肩で息をしながら言祝アリアの手を見つめる。

 

 「/Output私の手を取ってください。

 

 大丈夫、私はあなたを一人にはしません。私は、一人にされる方なのでEnd」 

 

 ー拒絶したのだから、見捨てられたと思っていたのに

 

 「/Output本当はわかっているはずです。いつかは受け入れて、先に進まなきゃいけないって。End」

 

 言葉の刃は、チラチーノの心に突き刺さった。

 

 「/Outputあなたは、一人にされたことを認めていないんじゃなくて、認められないだけなんですEnd」

 

 チラチーノが、真っ暗な顔でうつむく。

 

 「/Outputどうしてそんな酷いことに向き合わせるんだ...って表情ですね。

 

 それは、私があなたに、今を受け入れて、その先の未来、前を向いてほしいと思っているからです。

 

 私、あなたに沼ってしまったんですよEnd」

 

 一人になってなお、信じ貫き続けるチラチーノの寂しい姿。それは、言祝アリアにとって、かつての己と被るものであり、そしてそれ以上に、惹きつけられるものだった。

 

 (私を見るなり口説き落としてアイドルデビューさせたあの所長のことを思い出しますね…)

 

 「/Output待っても待っても、あなたのかつての仲間はもう、戻ってきません。それが、現実です。End」

 

 (これではまるで『俺だったらそんな思いさせないのになぁ』構文ですね…)

 

 「/Outputかつての私もそうでした。End」

 

 チラチーノは、少しだけ顔を上げた。ー目が合う。

 

 「/Output私の仲間(ユニットメンバー)も、私も、お互いのために、お互いを置き去りにし、一人にすることされることを選んだ…そのはずでもなお、私は別れの時を忘れられませんし、二度とあのような機会は作るまいと思っていますEnd」

 

 すべて自分のエゴだ、言祝アリアはそう思う。故に、神秘的なその声帯を震わせることを厭わない。

 

 「私の、ユニットメンバーになってください。

 

 孤独を知る者どうし、共に前に進みましょう。

 

 今度は、あなたを一人とり残したりはしません。ですから…私を、一人にしないでくださいね?」

 

 チラチーノは、言祝アリアの手を取った。

 

 【М(メガ)チルタリスEXの ミストパージ!】

 

 視界の先、度重なる迎撃を受けたポケモンの大群が、向きを村から逸らして山裾へ駆け下りて行くのが見えた。

 

ー*ー

 

 「コトホギさん、疲れたわよ。」

 

 獣爪で切り倒されたばかりの生々しい切り株に腰掛け、アリア・カナサシは開口一番そう告げた。

 

 「/Output保たないわよとは言わないところが、歌姫さんらしいですねEnd」

 

 アリア・カナサシの周り、輪を描くように、数十体のリングマが伸びている。その只中にあって疲労のほかにこれといったダメージがなさそうなあたり、この少女は歌がなくとも英雄の器と言えた。

 

 「あとはあのボスを倒して終わり…だけど、ボス戦くらいはやりたいわよね?」

 

 言祝アリアは、そして彼女の腕の中のチラチーノも、強く頷く。

 

 「/Outputみなさん、ラスト一曲、気を引き締めていきましょう!End」

 

 イーブイ、オシャマリ、チルタリス、ラプラスが応え、リングマたちのボスを睨む。

 

 リングマよりもさらにデカい巨体、身体中の古傷、細い三白眼、ナイフのように鋭利な爪…すべてが、このボスの手ごわさを示唆していた。

 

 (…さすがシンシュー(長野県)、絶滅危惧種が生き残っているというわけですね…)

 

 手下のリングマをチラチーノに返り討ちにされ、怒って手下の群れで襲撃してみればたった一人相手に壊滅。ボスは怒り狂っている。

 

 【ぬしポケモンの ガチグマが しょうぶを しかけてきた!】

 

 「/Outputチルタリス、ムーンフォース。ラプラス、ふぶき。End」

 

 フェアリーとこおりのエネルギーが吹き荒れる。しかし、ガチグマはそれをものともせず、腕を地面につけ四足歩行で突進した。

 

 「/Outputオシャマリ、バブルこうせん。チラチーノ、コットンガードEnd」

 

 泡と綿が膨れ上がり、ガチグマを受け止める。そこへ、跳び上がったイーブイからのスピードスターが命中する。…突進を受け止めることには成功したが、ガチグマに痛痒を感じた様子はない。

 

 「/Outputチラチーノ、チルタリス、コットンガードで押さえつけて。集中攻撃!End」

 

 分厚いコットンがガチグマを拘束し、スピードスターとふぶきとみずでっぽうがガチグマの背に降り注ぐ。

 

 ガチグマはそのすべてを、羽虫を振り払うかのように払い飛ばして見せた。

 

 【ガチグマの 10万ばりき!】

 

 イーブイとオシャマリが宙を飛び、立木に叩きつけられる。

 

 (なんて威力…!それに防御力も…!

 

 強い、強すぎる…!)

 

 GXマーカーは黒ずんで効果を失っている。すぐ使えるとすればEXだが、5体で袋叩きにして効かない相手に対し1体を2倍強いポケモンEXにして6体分の力を手に入れたところで…

 

 そんな考えを浮かべたその時、言祝アリアの肩を、アリア・カナサシが叩いた。

 

 「これ、使って。

 

 貴女たちにふさわしい、でしょ?」

 

 スクロール(巻物)型の、装置。側面には文字が書かれている…わざマシン76,と。

 

 そうしている間にも、ガチグマは大きく地面を踏み込んでいる。

 

 【ガチグマの ぶちかまし!】

 

 「/Outputコットンガード、まもる!End」

 

 チラチーノとチルタリスがコットンでガチグマの勢いを弱め、イーブイとオシャマリとラプラスがバリアを張る。…ガチグマはバリアを2枚破砕し、、3枚目のバリアでギリギリ停止した。

 

 渾身の一撃を阻止され、ガチグマの額に青筋が浮かぶ。それは徐々に煌々と赤い光を放ち…

 

 (な…!?まさか、キタカミのガチグマよろしく特殊個体化しているとでも!?)

 

 これには言祝アリアだけでなくアリア・カナサシもたまげたーなにしろこのガチグマの攻撃力は並々ならぬものであり、加えてアカツキガチグマの能力も持っているならば物理攻撃・特殊攻撃両方に強いトンデモ個体ということになってしまうからだ。

 

 (けど、さいわい準備は終わっています…!)

 

 ワザが記録されたスクロールをアリア・カナサシに返しながら、言祝アリアはタッチペンでタブレット端末を叩く。

 

 【ガチグマの ブラッドムーン!】

 

 赫月の光がきらめき、ビームよろしく宙を薙ぐ。

 

 「/Outputりんしょう!End」

 

 逃げ回りながらも、言祝アリアのポケモン達は口を開き、声の限りに唄い出す。

 

 【イーブイの りんしょう!】

 

 【オシャマリの りんしょう!】

 

 【チルタリスの りんしょう!】

 

 【ラプラスの りんしょう!】

 

 【チラチーノの りんしょう!】

 

 逃げ回りながらも歌を奏で続けるポケモン達の姿は、どこか、踊り歌うかのようでー

 

 (お願い、避け続けて…!)

 

 未だ歌うことができない元アイドルは、両手を合わせただ祈る。その視界の中、赫いビームがなんども横切っていった。背後から、木々がなぎ倒される音がひっきりなしに聞こえてくる。

 

 イーブイが跳ね、チルタリスが舞う。言祝アリア自身、腕中にチラチーノを抱きながらも、かつて鍛えたダンスステップを駆使してガチグマの攻撃から逃げ回る。

 

 ーちょうど一曲。それと同時に、ガチグマは攻撃を止めた。

 

 つかの間の静寂。次の攻撃を繰り出すことが躊躇われる微妙な緊張。

 

 ガチグマが眦を上げ、チラチーノを睨む。

 

 言祝アリアが身構える。

 

 果たして...

 

 …ガチグマは、白目を剥いて前のめりに転倒したのだった。

 

 廃村に、ハイタッチの音が響き渡った。

 

ー*ー

 

 「/Outputこの村は、旅には持っていけませんね…End」

 

 物悲しい雰囲気を放つチラチーノを腕に抱え、言祝アリアは村を歩いて回っていた。

 

 「持っていけるわよ。」

 

 え?と、言祝アリアと腕の中のチラチーノが、まったく同時にアリア・カナサシを見つめる。

 

 「…いつかこの村の出身者も年を取って、記憶は薄れ人は寿命を迎える。もう役場で聞かないとこの村のことはわからなくなっていたように...

 

 …けどそれは、語り伝えられない限りね。

 

 あなたたちがこの村の思い出を持っていけば、あなたたちの物語が語り伝えられれば、この村はきっと、いつまでも人々の心の中にあれるわよ。」

 

ー*ー

 

 これは私がコトホギさんにかける呪い。

 

 語り伝えられる大きな存在、未来のシンシュー史に欠かせない伝記存在になってほしいという願いの呪い。

 

 アリア・コトホギ、貴女は私の未来に、どれほどの可能性をくれるのかしら?

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