アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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〜前回までの転生ポケモンアイドルは〜

 ポケモン世界に転生せし、絶世のアイドル、言祝アリア。「シンシュー地方」に転生した彼女は、シンシュー戦乱の英雄たる”現人神”歌姫アリア・カナサシとともに、シンシュー10のジムを巡る旅に出ていた。

 イーブイ、オシャマリ、チルタリス、ラプラス、チラチーノ…順調に仲間を増やし、エクリプス(旧カナサシ)タウン(諏訪広域連合諏訪市)キナリタウン(下伊那広域連合下伊那市)ウスモエタウン(南信広域連合飯田市)を通過した2人のアリアは、険しい山道と謎の廃村を超え、次なるジムがあるワスレナタウン(木曽広域連合木曽町)へと到達したのだが…


4祝 争乱の根、枯れることなく
♪23 一触暴発!ワスレナタウン


ー*ー

 

 「/Outputなんだか、やけに騒がしいですね…End」

 

 わざわざ音声出力端末で言祝アリアに伝えられなくとも、アリア・カナサシもワスレナタウンの異常な雰囲気に気が付いていたし、眉をひそめてさえいた。

 

 街角には喧騒、人々はなんだか浮ついた雰囲気で、しかし祭りだとかそういう浮つきでもない。

 

 ー「ドサイドン、がんせきふうじ!」「ムクホーク、かぜおこし!」「マタドガス、ヘドロばくだん!」

 

 あちこちからポケモンバトルの練習をしているらしき声が聞こえてくるが、これも別にワスレナタウン市民の尚武の気風を表しているわけでもないだろう。

 

 だがなによりもアリア・カナサシが見逃せなかったのは、家々の玄関から翻る朝日の旗と笹竜胆(ササリンドウ)の旗。

 

 「/Outputあの旗は、街の旗的なものですか…?End」

 

 アリア・カナサシは首を横に振る。

 

 「ササリンドウはジムリーダーのリンダウが代々使ってきた家紋…けどそれ以上に問題なのは朝日の旗ね。

 

 リンダウの祖先…本当かどうか知らないけど...祖先とされている人が、ワスレナタウンのトレーナーたちを率いてジョウト地方に遠征、エンジュシティを占拠した...って伝説があるのよ。朝日は、その時の彼の異名であり、シンボルよ。」

 

 その伝説的人物を、言祝アリアは、このシンシュー地方の歴史など全然知らない日本からの転生者の癖に、知っていた。なぜなら、ポケモン世界に於けるシンシュー地方ワスレナタウンとは、日本に於ける長野県木曽町、すなわち…

 

 「/Output朝日将軍木曽義仲…End」

 

 「…ポケモンがいない世界とやらでも、あの一族は天下をうかがったことがあるのね…

 

 まあそれはいいわ。問題は今。

 

 今、ワスレナの市民感情は、900年以上前の伝説を引っ張り出すほどにナショナリズムと反ジョウト感情を高まらせている…」

 

 このただならぬ雰囲気の正体を、戦乱の英雄たるアリア・カナサシは知っている。

 

 「紛争が近いわ。」

 

ー*ー

 

 ワスレナジム。ここもまた、アリア・カナサシにとってきな臭いの極みであった。人々の目がギラギラしすぎているのである。それに窓から見えるいくつものバトルコートはどれも抉れていて、本気のポケモンバトルを特訓しているのが伺えた。

 

 「カナサシおみやよ。事態の説明を求めるわ!」

 

 受付に出向くまでもない…アリア・カナサシはエントランスで声を張り上げる。喧騒が一段上がる。

 

 ー「カナサシ?助太刀か?」「いや仲介だろう」「いまさら口を挟まれても困るぞ」「とにかく殿…あいや、ジムリーダーを呼べ!」

 

 「…外面はポケモンジムとして取り繕っても、ひとたび有事になると隠しようもなく豪族の城ね…」

 

 しばらくして、ジムの奥から、数人の家臣団もといジムトレーナーを引き連れ、ワスレナジムジムリーダーのリンダウは姿を現した。

 

 「あら、講和パーティー以来ね、子ニャルマーちゃん?」

 

 着物を雑に着流し、腰に刀をいくつも差した妖艶な美女は、小馬鹿にする雰囲気を込め言い放つ。

 

 「ああリンダウ。いくら何も戦功がないからって、私の名前も覚えてくれないのはどうなの?」

 

 いきなりの軽いジャブ。ワスレナのジムトレーナーたちも言祝アリアも動揺してキョロキョロ見つめ合う中、アリア・カナサシとリンダウはひとしきり睨み合い、それから同時に口を開き…

 

 「「…あっはっは!」」

 

 呵呵、大笑しながらお互いの肩を勢いよく叩いた。

 

 「元気みたいね子ニャルマーちゃん!」「そっちこそ!そう言えば婿探しはまだやってるの?」「まだまだ!どっかにアタシより強い男落ちてない?」「もう!貴女の仕事は強い男を作ることよ!?」「あっはっは、それもそうね!」

 

 なあにこれ…全員の意見が一致した瞬間であった。

 

ー*ー

 

 「で、聞きたいのは、この街の現状についてよね?」

 

 「相変わらず話が早くて助かるわ...動きが遅いのも相変わらずってのは困るんだけど。」

 

 「まさか。人聞きが悪いことを言わないでちょうだい。」

 

 煙草の煙をキセルから吹きつつ、リンダウはワスレナタウン周辺の地図を机に広げた。

 

 「アタシはあえて放置してるだけよ。文句がある者どうし殴り合って決めるべきよね。」

 

 ええ...と言祝アリアがドン引きする。

 

 「この女、クーデターが起きても自分に火の粉がかかってくるまでほったらかしてたくらい放任主義で実力主義なのよ…」

 

 アリア・カナサシの耳打ちに、言祝アリアはますますドン引きした。…どうやらリンダウがやたらとアリア・カナサシと仲がいいのも、単にアリア・カナサシが強いからであるのかもしれない。

 

 「…で、今度はどことどこの争いを眺めてるわけ?」

 

 ワスレナタウン周辺の地図…ワスレナタウンを中央に川に沿って谷が続き、東には山を越えてウスモエタウン、北にはフジナドシティ、西にはジョウト地方(岐阜県)が広がる一帯の地図を見ながら、アリア・カナサシが尋ねる。

 

 「…戦時中のこの街、覚えてる?」

 

 言祝アリアが首を横に振る。転生者が7年前のことを知るはずもない。

 

 「コーシューからの侵攻でシンシュー地方が揺れる中、私たちワスレナタウンは早期和平を図った。ジョウト地方に仲介を依頼してね。」

 

 木曽地方は歴史的にも経済的にも名古屋都市圏とのつながりが深い…このポケモン世界でもそうだったのだろう。より強い経済力と多くのポケモントレーナーを擁する上にリーグ等でカントー地方とも深くつながるジョウト地方は、和平の仲介にちょうどいい…彼女らは7年前、そう考えた。

 

 そして、失敗した。

 

 「子ニャルマーちゃんたち(カナサシおみや)も反対したけど、それ以上に北のフジナドシティが怒った。

 

 講和に際して領土的妥協が図られるのなら、それは占領下のロクショウ・コウジタウンとそしてジョウトに地理も心情も近いワスレナタウンだってね。」

 

 ジョウト地方にしてみれば下衆の勘ぐりで、他所の地方を分割し併合するつもりなど微塵もない…が、ワスレナタウンには確かにジョウト地方を頼りに思う人が多く、そして当時のフジナドシティを治めていたのが学生自治会であり判断力に難があったことも想像力に拍車をかけた。

 

 「それでワスレナタウンは、和平仲介どころか自分たちが親ジョウトと親フジナドに分裂して隣村隣町隣家で睨み合いだしたのよ。それをこの雌フォクスライは愉しげに観戦してたわけだけど。」

 

 くすくす、リンダウは笑った。そして、地図上の一点…シンシュー地方とジョウト地方の境目と街道の境界線にピンを立てる。

 

 「ムラサキ村…昔ながらの宿場町ね。ここはとりわけジョウト地方への帰属意識が強い。もうシンシューにはうんざりしたらしくって。

 

 それで、この街の人たちはこう言うわけ。

 

 『奴らがシンシューに愛想をつかしてジョウトに出て行こうとしてるのはわかる。けどな、このワスレナタウンを抜けて、ふるさとの看板を掛け変えようとしてやがることは許せねぇ。』」

 

 かくて、ワスレナタウン市街は、シンシュー地方からの離脱を試みる生意気なムラサキ村へ、懲罰の挙兵をしようとしているわけである。

 

 アリア・カナサシは、そこまで聞いて、納得できないと唸った。

 

 「うーん…

 

 でも、戦時中、市街で分裂するくらいシンシュー派とジョウト派はワスレナタウンで拮抗していたはずよ。どうして地方境の寒村に対してマジギレするほどにも、シンシューナショナリズム、ワスレナナショナリズムが高まっているの?」

 

 その問いに、リンダウは腕をピンと伸ばし、アリア・カナサシを指さした。

 

 「アンタだよ。アンタがシンシューを侵略から守り、統合を掲げ、神の力を宿してこの地方を回った。だから、このワスレナタウンはシンシューの旗の下に落ち着いたのよ。

 

 あっはっは!全部、全部子ニャルマーちゃんの奮闘のおかげね!」

 

 いや、笑い事じゃないわよ…アリア・カナサシはため息をつき。

 

 「…カナサシおみやの代弁者、そして、あの講和会議の主催者として言わせてもらうわ。

 

 境界争いで紛争を起こすなんて認められない。豪族時代ならともかく、ジムが紛争を静観しているなんてのも認められない。決起を中止させなさい。」

 

 「それは、カナサシの龍神様の依代たる現人神として、かな?

 

 ううん、子ニャルマーちゃんにその覚悟はないはずよ。あのころの、勝利と統合に飢えていた子ニャルマーちゃんなら、龍神様の御神力を込めた歌声のバフデバフを振りかざし、ムラサキ村の分離独立も我がワスレナタウンの蜂起も、有無を言わせず押し止めたはず。

 

 けれどもう子ニャルマーちゃんは龍神様の代行者でもなく、最強英雄歌姫でもない…そして、ただの超歴戦のトレーナーが、アタシを変えられるはず、ないわよね?」

 

 ワスレナジムは、ワスレナタウン市民がムラサキ村懲罰のため立ち上がっても、静観を続ける。カナサシおみやの静止など知ったことではない…それが、リンダウの回答だった。

 

 「…そう。

 

 無理みたいね。」

 

 アリア・カナサシの消沈を、言祝アリアには理解できなかった。

 

 「/Outputそんな!

 

 どうして、話し合って戦争を止めようとしないんですか!?End」

 

 前世なら、仕方なかったかもしれない。わかりあえない主義や長い歴史の因縁や対立するしかない利害が戦争を招く…そんなことはまれによくあるからだ。けれど、一つの村の地方鞍替え騒動…言祝アリアには、この紛争は話し合いで回避できそうに見えた。

 

 けれどそんな問いに、リンダウは嘲笑で応える。

 

 「あっはっは!

 

 話し合い?

 

 この街の市民なんて、話し合えるほど大した脳のある連中じゃないわよ。一度もいっしょに戦ってない英雄歌姫のニュースで、シンシューナショナリズムを高揚させて裏切り者を許さなくなる、そんな程度の薄っぺらさ。

 

 そんなことで考えを変えるような奴らに口論させても仕方ないわ。

 

 言葉、主義、思想…そんなの手のひらに収まる破壊力(ポケットモンスター)を持ってるのに滑稽で無意味なだけ。  

 

 力こそジャスティスってわけよ。」

 

 議論なんてそんな野蛮な、ここは穏便に暴力で…リンダウは圧倒的な「力」の信奉者だった。

 

 「…リンダウはこういうジムリーダーよ。世の中は結局力が全て、だから誰が一番強いか決めて、強い奴が我を通せばいい、そういうね。」

  

 言祝アリア、絶句。

 

 「/Outputそれじゃあ、とんでもない乱暴者が勝ち残ったら、思い通りってことじゃないですか?End」

 

 「甘い。マホイップくらい甘いわアリア・コトホギ(トークマシンガール)

 

 力ある者に逆らいたければ、もっと力を持てばいい。拳に収まるほどのモンスターボールの中に、山をも破壊する不思議な力を持てるのなら…弱きは怠惰であり、正義のためには強さが必要よ。」

 

 かつてその強さで、ワスレナタウンの人々はジョウト地方のすべてをねじ伏せ、エンジュシティに侵攻した…偉大な朝日将軍の子孫はだから、今も力の下での正義を信奉している。

 

 「…ここで喋ってても埒が明かないわ。

 

 コトホギさん。」

 

 諦めるわけじゃないですよね?言祝アリアが視線で訴えかける。

 

 「ムラサキ村に急ぐわよ!」




 シンシュー地方を出ていこうとしているムラサキ村のモデルは、岐阜県中津川市旧山口村(長野県から越県合併)です。馬籠宿があるところですね。

 ちなみに、実際の山口村合併でも、長野県を離脱されることに長野側は相当頭に据えかねたようです。岐阜県側に比べて長野県側の道路が未だに手抜き…



Q:なんで籠城までしたウスモエタウンがシンシュー意識薄くて、あんまり戦ってないって言ってるワスレナタウンのほうがナショナリズム拗らせてるの?

A:ウスモエの方にはすでに「川とともに自由に生きる」というアイデンティティがあったので…
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