アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ポケモン世界に転生せし、絶世のアイドル、言祝アリア。「シンシュー地方」に転生した彼女は、シンシュー戦乱の英雄たる”現人神”歌姫アリア・カナサシとともに、シンシュー10のジムを巡る旅に出ていた。
2人のアリアがたどり着いた街、ワスレナタウンでは、市民たちがシンシュー地方からジョウト地方への鞍替えを図るムラサキ村に怒り、挙兵しようとしている。ワスレナジムのジムリーダーであるリンダウ女史は、「叶えたい正義やねじ伏せたい理不尽があるのなら、強くなって力で押し通せ」という類の力の信奉者で、進んで紛争を止めようとはせず、ワスレナタウン市民とムラサキ村のどちらが勝つか静観しようとしていた。そしてムラサキ村は、流血してでもシンシュー地方を離脱しようとしている。
…武力衝突待ったなしの中、言祝アリアは、アリア・カナサシを連れて村民・市民両者へと介入の攻撃を始める...!
ー*ー
突如として山中から発せられた攻撃に、ワスレナ市民もムラサキ村民も一瞬だけ「どらかの援軍か!?」と思った。両者ともに先遣隊だったのだから、本隊が来るのを待っていたのだ。
けれど、そうではない。りゅうせいぐんもようせいのかぜも、両者に等しく襲いかかった。
「誰がこんなこと!?」「ココドラ、左だっ!」「危ないウツドン!」「ぐわっ!」「まもれ、マスキッパ!」
ようせいのかぜのダメージを受けながら、市民も村民もポケモンとともに、りゅうせいぐんから逃げ惑う。
その様子を見ながら、言祝アリアは、頭の中で閃きが言語化されていくのを感じていた。
「/Outputオシャマリ、バブルこうせん!イーブイ、スピードスター!ラプラス、れいとうビーム!チラチーノ、End」
矢継ぎ早に繰り出される、無差別な攻撃。これにはアリア・カナサシもびっくりして声を掛ける。
「ちょっとコトホギさん!?そんな手当たり次第に攻撃してどうするの!?」
争うどころではなく逃げ惑う市民たちと村民たちに走りよりながら、言祝アリアはタブレット端末を叩く。
「/Output争いを止めて、禍根も残さないで、それでいて両方に納得してもらう方法。
…どちらの手勢にも負けてもらう、これしかありません!End」
山肌を駆け下り、荒らされたばかりの街道に降り立つーそして同時に、最後の台詞を、今度は市民と村民に向けて出力する。
「/Output街道はこの私、アリア・コトホギとアリア・カナサシが塞がせていただきました!
ムラサキ村に白黒つけたいのなら、私たちに勝ってからにしていただきましょうかッ!End」
「ちょっ…コトホギさん!?」
「んだと!?」「なんですと!?」「乱入!?」「部外者が…」「どいてもらおうかっ!」「やっちまえっ!」
もはや流れは止められまい…アリア・カナサシは髪をかきむしった。
「ああ、もう!
ニンフィア、キュウコン、アマルルガ、ワタシラガ…舞い踊りなさいっ!」
【カナサシおみやの 2人のアリアが しょうぶを しかけてきた!】
「/Outputりんしょう!End」「りんしょう!」
ー*ー
結論から言って、2人のアリアに負ける理由などなかった。なにしろ相手は十数人ずつの先遣隊でしかないし、その上に乱入されて連携もペースもあったものではない。10体からなるりんしょうの威力はとてつもないシロモノで、数分もすれば立っていられるポケモンなど尽きていた。
市民たちと村民たちが、本隊を呼びに街道を戻っていく。
「/Output少し、時間の余裕がありそうですEnd」
「作戦会議?」
ムラサキ村側はともかく、ワスレナタウン市民本隊は数百人は出てくるだろうし、そのポケモンの規模は数千体に膨れ上がりうる。2人で勝利するには並大抵の作戦ではいくまい…
ところが言祝アリアの話したいことは、それではなかった。
「/Outputそれほどたいそうなことではないです。ただひとつお願いがあるというだけで…
…歌姫さん。市民の皆さんを迎え撃つのは、あなたにお願いしますEnd」
「…1人で?
「/Outputだって歌姫さん、そうしないときっと、そんな顔してちゃきっと、満足できませんし、前に進めませんよ?End」
「顔…?」
「/Output悔いを残してる人の顔をしてます。
歌姫さん、自分がこの争いの遠因だって思っていますよね?きっとEnd」
「…私、あの頃のようには戦わないわよ?龍神の力振りかざして、争いのタネになったんだから。」
「/Outputそのことを含めての罪悪感ですよね?だったらそれでいいと思いますEnd」
アリア・カナサシは、深く息をついて、それから最後の1ボールを取り出した。
「英雄として歌姫としてじゃなくて、ただの歴戦のトレーナーとして、大隊規模のトレーナーを迎え撃つ…か。
難しいけれど、できないことはないし、私にはやらされる理由があるわね。
メロエッタ、舞台に上るわよ!」
ー*ー
ほぼ同時に、ワスレナ市民とムラサキ村民はそれぞれ大勢で、街道の両側から現れた。
「/Output手はず通り、ワスレナ側をお願いします!End」
「ええ!」
ワスレナ側はさすが市街から襲来しただけあって、奥が見通せないほどの大人数が迫ってきている。言祝アリアは、あまりにも多勢をアリア・カナサシ一人に押し付けてしまったことに申し訳無さを感じながら、村民らに正対した。
…とはいえムラサキ村側の迎撃も楽ではない。100人に迫ろうかと見える村人がライドポケモンに乗って殺到してくる。
これが戦争であれば、突っ込んでくるライドポケモンたちを吹き飛ばし、乗っている人間もろとも巻き込み事故らせるのが定石だろう…が、紛争を止めるために街道に立ちふさがっているのだから、とてもそういうわけにはいかない。
「/Outputイーブイ、オーバーラップ&かくせいDNA!End」
たいようのかけらとGXマーカーを当てられ、イーブイの身体がエーフィに進化しながらサイコパワーを溢れさせる。周囲からは地脈のエネルギーが満ちていく。
【イーブイは イーブイGXに オーバーラップした!】
【イーブイGXは エーフィGXに かくせいした!】
「/Outputイーブイ、サイコキネシス!
チラチーノはメロメロ、ラプラスはこごえるかぜ!End」
「/Outputさあ…ここからずっと、私たちがセンターです!End」
【チルタリスは チルタリスEXへ オーバーラップした!】
【チルタリスEXは
【
【オシャマリの みずのはどう!】
ー*ー
「…どうしても、どかないと?」
アリア・カナサシは、メロエッタの「いにしえのうた」をBGMに聞き返した。
「ええ。
貴方達こそ、そんなにもムラサキ村への懲罰とやらを、したいの?」
市民たちは口々に返事を返す。騒がしくてとても聞き取れないとアリア・カナサシが肩をすくめる。
市民のうちの1人が、大声で人々を制し、それから進み出た。
「そうせねば、勝手を許してはまた、ますます、シンシューはバラバラになってしまいます。」
「それでも、こんなところで傷つけ合うのは合理でも道理でもないわ。誰も得をしないし遺恨が残るだけよ。」
「いつどこでやっても同じことです。いつか必ずやらなければならないことです。
だから、火種がシンシュー中に広まった7年前、歌姫様はシンシューを駆け回って、ひとつにするために戦ったのでしょう?」
「その歌姫自身が、あの3年は結局あまりためにならなかったと言っても?」
「その志は、ふるさとシンシューをひとつにするあの志は、我々市民の胸の中にある!
行け、クレッフィ、きんぞくおん!」
「行け、ムウマ、うそなき!」「やっちまえ!」「ドゴーム、とおぼえ!」「ハッサム、いやなおとだ!」
結局こうなるのかという思い、そしてそれ以上に、歌姫として名をはせた自分がまるで何かの報いかのように音ワザに苦しめられる皮肉に、アリア・カナサシはわずかに嗤うーああ、そうだ。あの戦争を激化させたのがこの身に宿す龍神の力と自らのカリスマだというのなら、これくらいの因果応報はなんてことはない。
「…こんな程度の、試練とも言えない試練、私の罪を雪ぐには、私はまだ強すぎるわよ。」
そんなナチュラル強者の戯れ言を漏らしながら、アリア・カナサシは指先をタクトにしてリズムをと…ろうとして止めた。そんな小さな音ワザへの干渉ですら、気分が高まっている今、龍神の力を宿してワザへと伝えかねないと思ったからである。
「メロエッタ、オーバーラップ。」
茶色っぽいステップフォルムでリズムを刻んでいたメロエッタから、闘気に混じってサイコパワーが溢れ出す。ボイスフォルムとステップフォルム、2つのフォルムの可能性が混じり合っていき…
「いかんっ!勢いづかせる前に仕留めろっ!」
数えきれない光線が、膨大なエネルギーが、メロエッタへと殺到する。けれどそれよりも
「な!?」「メロエッタの姿はどこだ!?」「探せっ!」
「メロエッタ、シャイニーボイス!」
【メロエッタEXの こうそくいどう!】【メロエッタEXの シャイニーボイス!】
圧倒的なすばやさによる、残像も残らないほどの高速移動ーその最中に、メロエッタEXは聞いたポケモンすべてを眠りかこんらんに陥れる専用音ワザを発動した。
「ポケモンたちに聞かせるなっ!」
「無駄よっ、ニンフィア、ワタシラガっ!」
【ニンフィアの スピードスター!】【ワタシラガの たねマシンガン!】
耳をふさごうとするポケモンたちを、星屑と種の猛爆撃が襲う。もちろんそれで耳から手を離すポケモンは限られているが、しかし決して少なくもない。そしてその少なくない数のポケモンの半分がねむり、半分がこんらんするだけでも充分だった。
数百人の市民が繰り出した数百体のポケモン。うち数十体がねむり、数十体が混乱で味方を攻撃し始めれば、軍勢はどうなるか?
「おい!攻撃を止めさせろ!」「状態異常の解除は!?」「くそ、戻れキマワリ!」「ゴロンダ、言うことを聞きなさい!」「なんでもなおしを使え!早く!」
「さあ、踊り明かすわよ。
アマルルガ、ふぶき!」
喧騒と混沌に支配された市民軍を、猛吹雪が覆って、視界を奪い去る。
数百倍の数の市民との戦いはまだ、始まったばかりだ。
ー*ー
「ルクシオ、かみなりや!」「タマタマ、めざめるパワー!」「のしちまえ、カビゴン!」「ヨノワール…ゥゥゥ」「メガヤンマ、シザークロスよ!」「いけっ、バクフーン!」
村人たちが次々に繰り出す数十体のポケモン。言祝アリアは木を切り倒したバリケードを盾に、防戦を続けていた。
「/Outputイーブイ、右から来ます。かえんほうしゃ。
チルタリス、ルクシオへミストパージですEnd」
【
【
バリケードを飛び越え突進してきたメガヤンマが、かえんほうしゃで丸焦げになって撃ち落とされる。
【オシャマリの りんしょう!】【ラプラスの りんしょう!】【チラチーノの りんしょう!】
バックコーラスとして響き渡るのは、互いに威力を補完しあう三重奏だ。バリケードを回折し、敵陣へと染み渡ってダメージを与え続ける。
(けれど、もう喉が…)
特性「ぼうおん」持ちは出てきたら
(道理で、歌姫さんが英雄なわけです…普通はいくら個の力が強くても圧倒的な戦力に勝てませんから…)
攻守三倍則、ランチェスターの法則…ポケモンとトレーナーによる争乱ではそれ以外にいやそれ以上に、純粋な体力と気力もまた数的有利を助長する。いかに強力なポケモンが強力な範囲攻撃を繰り出そうと、いつまでも隙もなく戦い続けられるものではない。…だが、神の恩寵としてバフとデバフ、それに士気を授け続ける歌声があるとすれば?それはまさしく英雄の所業だろう。そして英雄が存在するがゆえに、人々は夢を見たーその英雄が制御しきれないほどに彼女に夢を見て、結果、争いを激しくそして終わらなくした。
(問題は、どうも歌姫さんが、私を同じような立場に祭り上げたがってるっぽいことですが…
…自分を旗印にしたら暴走されたから、他人を旗印にしてコントロールしよう...なんて、そううまくいくとは私自身が思えないのですが…アイドルとしての
いえ、そんなことを考えている場合ではないですね。)
「/Outputいったんみんなで『ほえる』をお願いします!その間にこっちへ!End」
のどスプレーを3本ずつ両手に構え、言祝アリアは気合いを入れなおした。
ー*ー
初動の混沌を立て直した市民らだったが、それでガラッと形勢を逆転できたわけではない。
「アリア・カナサシ本人を敵に回すとはな…」
市民たちの士気は、決して高いわけではない。”英雄””現人神””歌姫”アリア・カナサシがそれだけ重い存在ということもさることながら、実際問題として、目の前に立ちはだかるアリア・カナサシのポケモンたちがありえないほど強いのだ。
「しかしひるむなよ。負けるわけはない!」
いくら英雄であろうと無理なものは無理だ。数百人VS1人、ポケモンにして数千体VS6、いかに手こずらせようと、最後には数の力でアリア・カナサシは圧殺される。まして市民らは本格紛争のつもりできずぐすり等回復グッズを持参しているのだ。
遠巻きにビームやエネルギー弾をひっきりなしに射かけ、音響攻撃は音技と回復で相殺、タンク役が突撃を受け止める…こうしていれば、アリア・カナサシの時間切れはいずれ来る。少なくとも、そう信じるに足る。
リーダーの男自身、そう考え、2体ほど自らのポケモンを力尽きさせながらも、臨時の指揮を振るい続けていた。
(ハイパーボイスの声がかすれてきたか…?ニンフィアもそろそろ終わりだな…?)
アリア・カナサシの足元には、空ののどスプレーがこんもり転がっている。主火力メロエッタEX、ニンフィア、アマルルガ、ワタシラガ、シンシューキュウコン、そして
ワタシラガが、顔を顰める。
アリア・カナサシが、ポーチに再び手を突っ込み、まさぐる。そして表情を歪めながらのどスプレーを1本取り出し…そしてしかめっ面でポーチを森へと投げ捨てた。
「奴はスプレー切れだ!総攻撃、かかれっ!」
「っ、下がるわよみんな!」
ー*ー
(スプレー切れがこんなに早いなんて…)
歌姫さんと打ち合わせていたとおり、山道を一目散に後退して、関所跡で合流します。…よかった、タイミングは合った。
でも、この関所跡もちょっとした柵があった程度。たいしたバリケードにはなりませんでした。ですから…もう私たちには、後がありません。
「/Output歌姫さん、大丈夫でしたか?End」
「ええ、なんとか。そっちは…」
ポーチはすっからかん、服は砂埃まみれ…苦笑で応えるしかないですね。「げんきのかけら」の破片とかポケットに乱雑に突っ込んだまま見えているでしょうし。
「…そう。
コトホギさん、次はどうするの?」
「/Outputまだ、そんなものじゃありませんよね?End」
「…え?」
大河ドラマに出演した時のことを思い出します。…戦国時代という時代に強いこだわりを持っていたあの脚本家が、出演者を集めて、「歴史において、英雄とは何か」について長広舌を振るった時のことを。
「/Output個々の力、作戦の稚拙さや準備不足…それらをすべて圧倒し、戦術を飛び越えて戦略的な存在となる…それが『英雄』というものだと、私は教わりましたEnd」
「そうであったとしてもなかったとしても、その役回りを演じることはもうないわ。私は、英雄にしたって強すぎる。」
「/Output中身を見たくないからと引き出しを封印したところで、そこにタンスがあるという事実は変わりませんよ?End」
数百人のトレーナーを1人でさばけるポケモントレーナーが、本当に「一騎当千」の枠に収まる存在なのかなんて...
「何が、言いたいの?」
「/Outputただの歴戦のトレーナーだとしても、特別な力、神様の力なんか使わないとしても、やっぱりあなたはアリア・カナサシだって話です。
禁止カードを山札から取り除いたとしたって、すべての手札をオープンにしたわけじゃないでしょう?End」
「強すぎるライトが濃すぎる影を生ずるのだから、もう蛍光しかしないとしても、自らの光の影響を自覚して自省することは悪いことではないわよね?」
ああ、もう...私は禅問答など柄ではないと言いますのに。
「/Outputあなたが私になにがしかの期待をしているのは知っています。それはかまいません。旧時代に自分に向けられた期待が失敗に終わったので、
アイドルとは、欲してもいない期待、夢を持たせてしまうものですから。
「…っ...そう...」
「/Outputですが。
だからと言って、旧時代の遺物のふりに徹しているのは、慎重ではなく、臆病でもなく、単なる卑怯ですよ?End」
「…そこまで言うのなら。
私に後悔させないって、誓える?」
首を横に振ることにしておきます、私は正直なので。
「/Output自分が担いでいる神輿の性能くらい、自分で信じてくれませんか?
…あの、面白いことを言った覚えはないんですけれど、歌姫さん、そんなに笑うこともないですよね...?
ー*ー
爆笑しながら、アリア・カナサシはポケットに手を突っ込んだ。
「最後の一段、音程上げるわよ、みんな。
オール・オーバーラップ!」
4枚のディスクが放り投げられ、そして、ポケモン達の可能性が解放される。
【ワタシラガは ワタシラガEXへ オーバーラップした!】
【キュウコン(シンシューのすがた)は シンシューキュウコンEXへ オーバーラップした!】
【アマルルガは アマルルガEXへ オーバーラップした!】
【ニンフィアは ニンフィアEXへ オーバーラップした!】
西から村民が、東から市民が、無数のポケモンの軍勢で土ぼこりを上げ木々をなぎ倒し迫ってくる。
「コトホギさんも、使って。」
さらに3枚のディスク。アリア・カナサシも言祝アリアも、
【ラプラスは ラプラスEXへ オーバーラップした!】
【チラチーノは チラチーノEXへ オーバーラップした!】
【オシャマリは オシャマリEXへ オーバーラップした!】
アリア・カナサシ自身の龍神の力を除く、あらゆる秘めた可能性。それがポケモン達からエネルギーとしてあふれ出す。
ー戦乱の間、カナサシおみやがシンシュー随一の戦力として3年間駆けずり回れたのは、アリア・カナサシという神の依代を戴き龍神のバフの恩寵を受けていたからというだけではない。エクリプス(旧カナサシ)タウンが古来から持ってきた宗教的権威と現代に得た科学力、それらが与えた資金力が、良質な軍備と兵站を維持させ続けた...だから、EXエディッションプレートのようなエンドコンテンツ級のアイテムを手持ちの数だけいきわたらせることができたのだ。
メガシンカですら、6体中1体の種族値を+1するだけ。しかしEXオーバーラップは種族値2倍…それをすべてのポケモンに行うという事が、どれほど破格か。
「遠からん者は音にも聞け!
近くば寄って目にも見よ!」
アリア・カナサシは、迫りくる両軍へ声を張り上げた。それも演出のうちかと言祝アリアはうんうん頷いていたが、次の台詞に血相を変える。
「私こそは、新時代に現れた奇跡の新星アリア・コトホギが一の友、歌姫のアリア!」
(ちょ、ちょっと!?)
歌姫は、この紛争だけではなく以後も、もう隠しもせず本格的に「言祝アリア」を前面に押し出してシンシュー地方にはたらきかけていくつもりだ...焚きつけ過ぎたかなと言祝アリアは少し慌てたが、もはや吐いた唾は呑めないし呑ませられないこともわかっていた。
「いざ尋常に勝負…これを見てなお、腕に覚えがあるならばね!」
アリア・カナサシが、腕を振り上げる。
そして、多重奏が響き渡った。
【
【メロエッタEXの エコーボイス!】
【ニンフィアEXの エコーボイス!】
【シンシューキュウコンEXの エコーボイス!】
【ワタシラガEXの エコーボイス!】
【アマルルガの エコーボイス!】
【
【
【ラプラスEXの エコーボイス!】
【オシャマリEXの エコーボイス!】
【チラチーノEXの エコーボイス!】
音波が重なり、限界まで低周波に絞られた11の歌声が、ポケモンEXの強大な種族値が発揮する多大なエネルギーを乗せて山嶺に満ちる。
そして…
…向かいの山々からの地響きが、エコーボイスの音響に混じった。
(山の、固有周波数!?)
「「「「「な...」」」」」
村民も市民も呆気にとられる中で、いくつもの山々の山肌が、噴煙と見まごうような土煙を上げて、崩れていく。
「もう一度聞くわ。
私と勝負したい人、いる?」
悪魔のような笑みを見せながら、アリア・カナサシが指を振る…11体のポケモンは、まさに街道のすぐ横にそびえる山へと口を向けた。
ヒュッと喉から息を漏らし、人々は両手を上げた。
ー*ー
龍神の歌声など使わなくても、充分にあなたは英雄ですよ、歌姫さん。
大河ドラマに出た時、脚本家はこうも語りました…「天の時、地の利、人の和…孟子は、天運がほほ笑まなくとも地の利を活かせれば戦いに勝て、地の利があったとしても人心が団結している者には敵わないと言った。
けれど本当にどうしようもない存在とは、人の和を引きはがして自分のものとし、地の利を大地ごと破壊し、
地元愛のあまり暴走し団結した人々の熱狂を、一撃で醒まさせる。
ポケモンのワザがその気になれば地形を変えられることは考えてみれば当然だけれど、ポケモンバトルという固定観念から離れて
…神の力は、天の時を味方にもたらすものだったんだと思います。けれどそれをいくら渋っても、あなたはやっぱり、英雄です。
…なんで私は、アイドルとして歌って踊ったわけじゃないのに、この人に担がれているんでしょう...はぁ…
ー*ー
シンシュー中央新聞朝刊一面
「ワスレナタウン領境紛争、終結。カナサシおみやが介入か?」
武力衝突へのエスカレーションが確実視されていた、ワスレナタウン傘下ムラサキ村のシンシュー地方離脱是非を巡る紛争が、昨日終結したもよう。
経済的、文化的にジョウト地方との結びつきが強く、非公式にジョウトリーグでトレーナーデビューをさせてきたムラサキ村は、先年よりシンシュー地方離脱ジョウト地方編入を画策していた。これに対して、戦中は自らもシンシュー派とジョウト派に分裂していたワスレナタウンでは、戦後にシンシュー統合主義へと民意が移り、ムラサキ村の分離に懲罰出兵を決行するに至った。
小規模な武力衝突の発生は避けられないものと識者は見ていたが、昨日夕刻、居合わせたトレーナーに歌姫アリア・カナサシが協力。両者の一騎当千の奮戦によってワスレナタウン・ムラサキ村は双方が撤兵し、軍事衝突は回避された。
ワスレナタウン市民義勇軍とムラサキ村村長は、ムラサキ村がシンシュー地方帰属を受け入れる代わりにワスレナタウンがムラサキ村のデ・ファクトな両地方両属を黙認することで合意した。
関連:3面「ワスレナ領境紛争、識者は語る『結果的に現状の追認、情勢への影響は限定的か』」7面社説「旗印なきシンシューは何処へ?」19面「紛争解決の一報を受け、ワスレナ市民の反応は」
~次回の転生ポケモンアイドルは...
「このシンシューで、力なきは罪よ。」
ワスレナジムジムリーダー、かつてのワスレナタウンの豪族、リンダウ女史。紛争の解決を聞いた彼女は、とっておきを以て言祝アリアの挑戦を待ち受けていた。
「アタシも伊達に力の信奉者やってないわよ。
強くなるためなら、なんだってやる。」
「足りない!強さへの研鑽が!自分の意志を貫くための手段を磨く、当然の探求が!」
立ちはだかるのは、伝説ポケモンをも凌駕するとんでもないバケモノ。
「さあ、使えるもんは全部使って、この怪物を倒してみせな。」
「アタシの前に立つ資格もないと思い知らせるのよ。」
喋れないアイドル言祝アリアの、真価が問われる…!
【おや…オシャマリのようすが…?】
次回「♪26 功を認められるには力がない」 お楽しみに!