アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪26.5 少女たちは迷い往く

ー*ー

 

 日本、静岡県富士宮市富士宮駅。

 

 甲信地方巨大隕石特別警報の発令によって富士・静岡方面への緊急避難民が殺到する上りホームを眺めながら、元アイドル、藤原千尋は、ぼそっと尋ねた。

 

 「…ユイ、私たちの…大三輪遥、いえ、言祝アリアって、何だったと思います?」

 

 隣に立つ藤原千尋、そして話題の人物大三輪遥とかつてアイドルユニット「フューチャー・トリニティ」で活動していた少女、物部ユイは、「なんでそんなこと聞くの?」と首を傾げた。

 

 「ユイは、あの投稿を見たでしょう?」

 

 「あー…はるちゃんとあたしたちの、初ステージ映像?」

 

 スマホで動画サイトを開き、日本トップ再生数に瞬く間に上り詰めたその映像を、ユイは音を消して流し始めた。

 

 ”@Ytilissop_Erutuf

 

 幻の、伝説のアイドルの初ステージ映像見つけた!

 

 MP4_Future_Trinity

 

 #言祝アリア #フューチャー・トリニティ #甲信隕石非常事態宣言 #星に願いを”

 

 「…なんで、どうして、誰が、この投稿をしたんだろーね…?

 

 はるちゃんの名前(言祝アリア)を載せて、あたしたちの名前は伏せて、何の関係もない隕石事件のタグをつけて、あらゆるSNSに投下して…」

 

 「…私とユイの名前を並べなかったのは、わかります。

 

 言祝アリアの横に並べるのに、山河(やまかわ)神流(カンナ)も、常縁(とこしえ)(つむぎ)も、役不足すぎた。それだけです。

 

 今、たくさんの人が、言祝アリアに願いを託しています。所長は私たちのユニットにトリニティ(三位一体)と名付けて神のごとく崇められるアイドルを目指させたけど、奇しくも言祝アリアは唯一神みたいになってしまったのです。」

 

 閑散とした下りホームから、向かいのホームの雑踏を見つめる。…人々は、あと1日少しで人類史上屈指の災禍に見舞われる甲府方面へ向かう2人の元アイドルなど気にも留めず、不安に駆られた表情でスマホの画面を見つめていた。

 

 「…トリニティ・プロジェクトのそもそもの目的、覚えてますか?私は選考で言われました。」

 

 「…あたしはスカウトの時に言われたっけ。

 

 今の女性アイドルは二極化してて、カワイイ系か、クール系...だから、そのどっちでもない新たなアイドルを生み出したいって。」

 

 「ええ。

 

 Kawaiiでもガルクラでもなく、ついでにセクシーでもない。それらはあるターゲット層に対して訴えかけるために魅力を磨くものだけれど、原初の偶像としてのアイドルには程遠い。…ですから、所長は、世の中を照らす法灯であり祈り願いを託される巫女としてのアイドル、偶像としてのアイドル、神にいと近きものとしてのアイドルとして、私たちをプロデュースしようとしました。」

 

 まあ神ならぬ人の身である私たちには無理なことでしたが…藤原千尋は笑った。大三輪遥だけがそれを成し得て、この巨大隕石という天災の時に人々の希望を集めていることへの自嘲でもあった。

 

 「…はるちゃん、死んじゃったんだよね?」

 

 「はい。まず確実だと聞いています。最近はもうどうしようもなかったみたいですからね…」

 

 だから日本政府はSPを出すべきだったとあれほど...とため息。おっかけ、ストーカー、パパラッチ、メディアスクラム、果ては他国の工作員...ありとあらゆる厄介が言祝アリアこと大三輪遥の公私を追いかけ回して彼女を憔悴させていて、そして最強のアイドルは力尽きた...けれど、巨大隕石衝突という難事にあって言祝アリアの死を伝えては日本どころか世界が大パニックに陥るという理由で、このことは一部関係筋以外には極秘にされていた。

 

 言祝アリアが死んだ地に向かう元ユニットメンバーの2人...もし甲信地方脱出が間に合わなければ隕石衝突で死ぬことを承知で、少女たちはそれでも、届かぬ光となってしまったかつての仲間の最期をたどりに、甲府行き特急へと飛び乗った。

 

 「…それにしても、初ステージの映像、誰が投稿したんだろー...?」

 

ー*ー

 

 ユキコシ地方、ワカナエシティ。

 

 摩天楼そびえたつ中心市街、その中央に、ねじれた巨塔が真新しい外壁を輝かせている。再建なったこのビルこそ、この地方を中心として世界中にその影響力を及ぼす巨大企業グループ、フロックス・グループの中枢拠点であった。

 

 その最上階で、フロックス・グループの象徴的リーダーであるフロックス家当主アオバ・フロックスは、イーブイを袴の膝にのせて撫でながら、来客を待っている。

 

 「…わたくしがここに来なければならないことはもうそうそうないと思っていましたわ。」

 

 8年前のワカナエ大乱の責任を取って、今も彼女はフロックス・グループに明文化された実権を持たず、あくまでグループ各社と政財界に推戴されている体裁である…だから、まさか儀礼的場面以外で呼び出しがかかろうとは思っていなかった。

 

 「対外的にも、お姉ちゃんを通すことはもうないってことになってるのにね。」

 

 妹のカグヤも一緒になって不思議がりつつ、来客に席を勧め。

 

 「吾ら、偉大にして由緒正しきウコンタウンが長、ウコンジムジムリーダーのカタクリ様が、御当主閣下にお伝えしたき儀ありて吾を使者として遣わされました。」

 

 「ウコンタウン…何の用かしら?それに、フロックス家としての家裁はここセンタービルではなく本邸で受け付けていますわよ?」

 

 「あなや、それは知らず。フロックスが家業を手放し形骸のものとしていたとはよもや。」

 

 かすかな嘲りを、カグヤは使者の顔に見る。

 

 (時代の遅れたシンシュー=コーシュー地方の中でも、ウコンタウンの周りは秘境を極めていたはずですわ…まだフロックス家の窓口がここだと思っていたのかしら…/いやアオバちゃん、もしかして、わかっててわざと、フロックス家がホールディングス会長職を手放したことをあげつらいにきたんじゃ…)

 

 「用件は、カタクリ様から直々にお聞きいただければ。」

 

 「…それはお姉ちゃんに、シンシュー地方まで来いってこと?」

 

 「いいえ。

 

 妹君のカグヤ様も来ていただければ。

 

 最近、吾らシンシューのことをお調べでしょう?ちょうどいいのでは?」

 

 アオバ・フロックスから、魂が彼女に同居している転生青年中橋蒼玻が1日だけ分離した事件…あれ以来、確かにフロックス姉妹はシンシュー地方エクリプスタウンを調査している。

 

 「…わたくし、ウコンタウンは局外中立、外部の介入を求めないと把握しておりましたわよ?

 

 シンシュー戦乱中、わたくしたちが戦乱をおさめようとした時に、わたくしたちユキコシ介入軍の領内通過をあれほど拒まれた方々が、どうして今になってわたくしたちを求めるのかしら?」

 

 「おひいさまが、そうせよと仰せられましたので。」

 

 「…そう。

 

 わたくしたちの都合のいい時でもいいかしら?突然押しかけてきて来いと求めるのなら、無理は言わないですわよね?」

 

 「もちろんでございます。なれど、おひいさまは仰られました。

 

 『余らに、そう猶予は残されていないでしょう。

 

 彼の者らもまたフロックスの名を誇る者なれば、天下の静謐を乱すこの災禍、そう長く見逃していられましょうか?』…」

 

ー*ー

 

 ウコンジムからの使者が去ったのち、アオバ・フロックスは、先ほどの令嬢然としたお淑やかな声色とはすっかり雰囲気の違う声で口を開いた。

 

 「…アオバちゃん。」

 

 アオバ・フロックスと身体を共有する恋人、中橋蒼玻。彼が言わんとしていることを、言葉に出されるまでもなくアオバは理解している。

 

 

 「/ええ、わかっておりますわ。

 

 カグヤ、今の使者、後を尾けさせて。

 

 /ヒスイ分家の方にも連絡が必要だな。」

 

 使者が告げた、ウコンジムジムリーダーの言葉「彼の者らも『また』フロックスの名を誇る者」...とても、軽々にとらえられるものではなかった。なにしろフロックス家の血筋はもはや数えるほどしか生き残っていないのだから。

 

 「私たちフロックス家ユキコシ本家は私とお姉ちゃんだけ。ヒスイ分家も没落して、名を誇っているような人はあの姉弟だけ。

 

 …他に苗字を誇れるような分家もないはず。ってことは、騙ってるよね、アレ。」

 

 ましてシンシュー=コーシュー地方はユキコシ地方にとって長らく「南方山岳地帯」としてホープ団のようなゲリラ・山賊跋扈する信用ならない土地として知られてきた地方。その秘境から「『また』フロックスの名を」などと、自分たちもまたフロックスを名乗っているかのようなメッセージを出されては、当主として黙っているわけにはいかない。

 

 「…これを野放しにしては、沽券にかかわりますわね。やはりウコンタウンへ行かなければならないかしら。/俺たちがそう考えることを読んで、わざとこんなメッセージを…そうは考えられないか?」

 

 掌の上で踊らされているような、どうしようもない流れに押し流されているような…嫌な感覚に鳥肌を立て、蒼玻/アオバ・フロックスは、妹を連れ静かに自らの御座所たる本邸へと帰っていった。

 

 

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