アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
♪27 彼の音色、未だ
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シンシュー地方、フジナドシティ。ジンザモコミューンシティに続くシンシュー第二の大都市であり、フジナド大学を中心に築かれた学問と芸術の街である。
市街の真ん中に建つ巨大で美麗なフジナド城を囲み、街路樹やオブジェやビルが前衛芸術をなし、なんだかわからない音色がどこからか流れてくる…そんな混沌とした街の一角に、フジナド大学屋外演習場はあった。
「民意のジンザモ、学芸のフジナド、神威と科学技術のカナサシ・エクリプス…シンシューの三大都市圏にも色があるって言われるのよ。」
アリア・カナサシはそんなことを語りながら、屋外演習場の観客席に着席する。
そんな堂々と大学構内に進入して我が物顔で席についていいものなのかと、言祝アリアはびくびくとしながらもアリア・カナサシの隣へ座った。
ー「…さて、ここまでこの授業で皆さんにお伝えしてきましたように、『ポケモンと音』という分野において、世間ではいくつかの勘違いがなされています。
私たち音楽家は、その常識の乖離を元に観客の思考を誘導することができますし、実際そうすることによって聴衆観衆に新鮮な驚きを与えるテクニックを学ばれてきたはずです。」
ふむふむ…アイドルとして音楽の分野に深くかかわってきた言祝アリアは、ポケモン世界ならではの音の扱いを語る演台の上の男性の言葉を頷きながら聞いていた。
「コトホギさん、まさか彼をただの音楽教授と思っていやしないでしょうね?」
「え?」
「フジナド大学学長、音楽研究科教授...それは表向きの肩書。
フジナドジムジムリーダー、レンゲ。それが彼の本当の肩書よ。」
ジムリーダー…それはただポケモンジムのトップトレーナーということを意味しない。街一番の名士であり、街の顔...そして豪族をジムリーダーにすげ替えたシンシューにおいては、街一番の権力者でもある。
実力を証明するかのように、レンゲ教授は次にこう述べた。
ー「さて、このようなポケモンと音のテクニックは、実戦でも用いることができます。
では、実際に私とバトルして、本効果を確かめてみましょう。」
「学生自治会がクーデターで豪族を打ち倒した街、フジナド。レンゲ教授は、学生たちが新たなリーダーに推した、フジナドで最も頭脳と人格とポケモンバトルに優れた人物よ。」
ー*ー
賢くて強くて性格よくておまけに支持者がたくさんいるなんて、とんだチート教授じゃないですか…言祝アリアがそんなことを呟いているのを聞き流しながら、アリア・カナサシはレンゲ教授の授業を眺めている。
「行け、コロトック!」
「参りましょうか、マリルリ。」
「コロトック、かげぶんしん!」
バッバッバッ…コロトックの姿が幾つにも増えていく。
「さて…
ポケモンバトルの理論では、ワザにはワザ範囲というものがある…ことになっています。しかしそれがおままごとであることは、生徒諸君はすでにご存知でしょう。」
例えばソーラービーム。一体攻撃とされているが、現実的には射線上のポケモンすべてを薙ぎ払う。
「ワザ範囲とは、指向性を持つ攻撃かマップ攻撃かという違いに過ぎません。そして音響は、ベクトル、オールベクトル、ノンベクトルいずれにもなり得ます。
マリルリ、チャームボイス。」
範囲攻撃とされているはずのそれは、音符のエフェクトとともに放たれるや、一方向のみへ声音として響いた。コロトックの分身が正確に一体だけ消える。
「続けてハイパーボイス。」
指示とともに、レンゲが大きく指揮棒を振る。
初めは一体だけだった。けれど、すぐにその両隣のコロトックの分身が倒れる。その隣も、その隣も…
コロトックの分身がバタバタと消え、それに伴って揺さぶるような大声が耳に届いてくる。じきに椅子も小刻みに震え始め…
…レンゲが指揮棒を下ろした。大音声がピタリと止む。
「このように、音ワザのワザ範囲というのは鍛錬によって調整できるわけです。
さらに、音の物理現象としての特質も、音ワザを理解するために欠かせません。なぜなら、これはバトルにも、総合芸術に音を組み込むのにも有用であるからです。
マリルリ、アクアリング。」
ハイパーボイスを受けてフラフラのコロトックを、水の輪が囲む。ふよふよ回る水の輪によって、コロトックは体力を回復した。
「さて…
…ご覧の学生諸君。
このアクアリングを、もっともエレガントに破壊した者に1単位を与えます。」
学生たちが色めきだつ。…ただ、いくらフジナド大学がシンシューの誇る英才の集まりと言えど、すぐには解法が思いつくわけではない。まさかやたらめったらにワザを投げつけてアクアリングを消せばよしというわけではないのだ。
客席の一角、言祝アリアも、うんうんと頭を悩ませる。
「コトホギさんは、わかるわよね?私が前にムラサキ村で見た時、タネを見抜いていたし。」
11体のポケモン、それがたとえすべてポケモンEXとしても、ハイパーボイスで次々に向かいの山を崩せるわけがない。アリア・カナサシが紛争解決のためになしてみせたその暴虐のトリックに、確かにあの時既に言祝アリアは気づいていた。
「/Output固有周波数、ですよね?End」
山が、あるいは山肌の木々が共鳴する固有周波数で、音波のエネルギーを投射する…今回もまた、同じトリックで客席からエレガントにアクアリングを壊せるとわかってはいる。
「/Outputでも、それはどうやって…End」
アクアリングの固有周波数がわからない。水の輪が崩れるまで闇雲にいろんな周波数の音ワザをぶつけるのはエレガントとは言わないだろう。
「先生!」
生徒の一人が、声にビブラートをつけながら手を挙げて立ち上がる。
「おや、なんですか?」
レンゲが応えるのと同時に、生徒は前の席の影に隠れていたオンバットの背を叩いた。
【オンバットの ばくおんぱ!】
衝撃を伴う音波が着弾し、バトルコートに土煙が舞い上がる…前に、マリルリが腕を振る。
アクアリングのサイズが、大きく広がった。崩れることはない。
「自分の声で固有周波数を探る。…有効な試みですね。相手が気づかなければですが。」
と、その時、元のサイズへ縮んでいく水の輪を見て、言祝アリアがほくそ笑んだ。
「/Outputうたかたのアリア!End」
【アシレーヌの うたかたのアリア!】
アクアリングが、収縮しながら震え、まもなく千々にちぎれて弾け飛ぶ。
(サイズが変わる途中なら、こちらのデフォルト周波数と一致する瞬間があると思っていました…!)
「…コトホギさん、注目されてるんだけど?」
あっ…言祝アリアは、学生たちの視線を一身に受けてへにゃり眉を曲げる。
こういういまいち抜けたところが、前世でストーカーに悩まされた原因じゃないの…?アリア・カナサシは呆れながらバトルコートに視線を戻し、そしてレンゲ教授と目が合った。
「…あっ…」
「おや、歌姫さんの連れでしたか…」
生徒たちの視線が、言祝アリアからアリア・カナサシへと移っていく。自分の顔を鮮明に覚えている人物がいたことを失念していたことに、歌姫は臍を噛んだ。
「ちょうどよいところです。
それでは生徒諸君、課題を発表します。
シンシューにふさわしい歌を、作ってください。
質問は、あちらの、シンシューが誇る歌姫さんに対応いただきましょうか。」
「嘘でしょ…?」
「アリアくん、師の言葉は聞いておくものですよ。」
ー*ー
フジナド大学西部食堂。
のんびりとシンシュー蕎麦をすすっていたレンゲは、向かいに相席した少女を見て、目を細めた。
「おや、これは歌姫さんのお連れ様。どうしました?」
右手に箸、左手にタッチペンを持ち、言祝アリアは問う。
「/Outputどうして、歌姫さんに学生たちを押し付けたのですか?End」
「音楽の才能、実績に溢れているから…ではいけませんか?」
言祝アリアは蕎麦をひとすすり、首を振った。
「/Output旅の途中のトレーナーを、理由も聞かずに1週間呼び止めるのは、自分勝手すぎますEnd」
「…なるほど?」
黙して、レンゲも蕎麦をひとすすり。
「私はアリア・カナサシという人物を認めています。彼女は歌姫として完璧です。
人々に心、志を伝える英雄。
神の力を載せ天上の歌声を実現する依代、依代になるに足る自らの才…それを併せた神才。
音の力を使いこなす、強力なトレーナー。
…トレーナーとしての彼女、音楽家としての彼女、指導者としての彼女、現人神としての彼女…それらすべてが一部の狂いもなく和音となるよう調律したのは私です。」
荒削りのままに龍神を背負わされたアリア・カナサシを、戦時指導者として依代様として歌姫としてトレーナーとして隙なく調整したのは、他ならぬ自分だ…音楽教授としてレンゲは胸を張って見せる。けれどすぐに、意気は老音楽家の双肩から消えた。
「人を魅了してこそ芸術家です。その天性、神性のプロとして、人を魅了する方法を生徒たちにも伝えてほしい。」
「/Outputそれだけではありませんよね?
教授はこう思ったのでしょう?
生徒たちに伝える過程で、自分にもそれを思い出してほしいEnd」
「…コトホギさん、でしたか。
なかなか見どころがあるお連れ様と思っていましたが間違いでした。あなた、かなり見どころがありますね。」