アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
「先ほど、学生たちから課題提出を受理しました。」
食堂ですれ違いざまに、レンゲ教授は言祝アリアに声をかけた。隣ではアリア・カナサシがシンシュー蕎麦を一心不乱にすすっている。
「シンシュー地方のすべてを包接するための、そして最新技術という新風を示してみせる音楽、それでいて、特別な才能はおろか技能を必要としない合唱曲…認めましょう。『優』です。
…ただ、私があなたがたに求めていたものは、違います。」
言祝アリアの向かいに座り、茶を一杯飲むレンゲ教授。アリア・カナサシは眉一つ動かさない。
「/Output歌姫さんの刺激になるように期待していた…なんて話ですか?
最初から露見していたみたいですよEnd」
アリア・カナサシは、タブレット端末を叩く言祝アリアの隣で、黙々と天ぷらを頬張っている。
「いえ、私が見たかったのは、アリア・コトホギ、あなたです。」
アリア・カナサシは、そこで初めて、わずかにだが目を細めた。
「あなたは勘違いしている。アリアくんは…あなたもアリアでしたね…歌姫アリアくんは、こんなものではない。
私が刺激を与えようと与えまいと、世の中も、歌姫アリアくん自身も、いつかはアリアくんの才能を放っておかないでしょう。
アリア・コトホギ…あなたはその時、歌姫アリアくんに並び立つことができますか?」
「ちょっとレンゲ教授、私がコトホギさんに望んでいるのはそんなことじゃないわよ。」
「それはアリアくん、人生という作品に於ける芸術感の相違というやつだよ。
…アリア・コトホギ、私が調律した歌姫の、隣に立つ資格を証明していただきましょう。
タッグバトルで、かかってきなさい。」
【フジナドジムジムリーダーの レンゲ教授が しょうぶをいどんできた!】
ー*ー
10歳の時の歌姫アリアくんは、ポケモントレーナーとしても、スポンジが水を吸うがごとく、みるみる成長していきました。
神の力を宿すあの歌声を使わないとしても、私では劣勢もいいところでしょう。…ですが、私は勝ち負けを見たいわけではありません。
アリア・カナサシという人物の心の旋律は、もうどうしようもなく…ですから、彼女に並び立ち、支えることができる人間が、並び立つことのできる神才が、そばに必要なのです。私ではそれになれない。
「はじめましょうか。ペラップ、ゴリランダー!」
【ゴリランダーの グラスメイカー!】
【フィールドが グラスフィールド状態に なった!】
「加減はできなさそうね。ニンフィア!」
「/Outputチラチーノ、オンステージ!End」
まずは小手調べ…向こうも同じことを考えているでしょうね。
「ペラップ、おしゃべり。
ゴリランダー、ドラムアタック。」
「ニンフィア、ミストフィールド。」
「/Outputチラチーノ、避けておかたづけEnd」
…ふむ、フィールドの張り替えとこんらんの防止ときましたか。これは搦め手が通じなさそうです。
「ペラップ、ばくおんぱ。ゴリランダー、グラススライダー。」
「ニンフィア、ハイパーボイス。」
「/Outputトリプルアクセル!End」
ふむ…ペラップはともかく、ゴリランダーが押し負けますか…
「
ラウドボーン、歌え、望むがままに!」
ー*ー
2つのボールを投げながら一つのポケモンの名前しか呼ばないとはこれいかなること…言祝アリアは、訝しむ間もなく、その意味を知った。
2体の、ラウドボーン。ご丁寧に片方は色違いである。
「数十年前、パルデアに留学していたころに手に入れたこれ…
…私も、さらなる最新へとアップデートすべきなのでしょう。アリア・コトホギ、あなたがこの地方をそうしようとするように。」
ポケモンバトルに新たな風を吹かせるのだと。自分の体系とシンシューの体系を混ぜ合わせるのだと。レンゲ教授はそう言って、キラキラ輝く結晶を掲げた。
「ラウドボーン『フォルテッシモ』、テラスタル!
さらに、2体同時オーバーラップ!」
【ラウドボーンは はがねに テラスタルした!】
【ラウドボーン(テラスタル:はがね)は ラウドボーンEX(テラスタル:はがね)に オーバーラップした!】
【ラウドボーンは ラウドボーンEXに オーバーラップした!】
通常のラウドボーンEXと、テラスタルのラウドボーンEX。よく見ると仕草が微妙に異なるのは、特性の差だろうか。
「『フォルテッシモ』、おにび。『ピアニッシモ』、フレアソング!」
音波で波打つ焔と、旋回しながら迫る火球。それらが複雑に入り混じりながらバトルコートを呑み込んでいく。
「っ、ニンフィアようせいのかぜ!」
「/Outputチラチーノ、ハイパーボイスで対抗!End」
強風と爆音が、業火を吹き飛ばすべく発される。…けれど、それはおにびの進行を数秒遅らせるだけに過ぎず。
バトルコートが、赤熱に染まった。
ー*ー
「反則よ…」
ついでに言えば論外でもある、アリア・カナサシはニンフィアをボールに戻しながらそう口にした。
「先生、フェアリータイプのタイプエキスパートとしてジムリーダーになっていたと記憶しているんだけど?」
何を当たり前みたいな顔でほのお/ゴーストのラウドボーンEX2体出しなんてして、テラスタルは弱点のはずのはがねでやっているのか?なんならこのバトルでレンゲ教授はフェアリータイプポケモンを1体も出していない…顰蹙ものであった。
【アリア・カナサシは サーナイトを くりだした!】
「それはポケモンリーグに於ける職責として、でしょう?」
【言祝アリアは アシレーヌを くりだした!】
「/Output今は、ジムリーダーとしての務めよりも大事なことがある…と?End」
「一人のトレーナーとして、音楽家として、私はあなたがた2人のハーモニーが知りたいのです。
『フォルテッシモ』、特性を。」
【ラウドボーンEX(テラスタル:はがね)の ばくねつソング!】
バトルコートを満たす熱気を、はがねにテラスタルしたほうのラウドボーンEXが勢い良く吸い込み、吐き出す。
高く響き渡りリズムを刻む、金管の音。
【ラウドボーンEX(テラスタル:はがね)は こうげきととくこうが ぐぐーんと あがった!】
【ラウドボーンEXは こうげきととくこうが ぐぐーんと あがった!】
「…まさか。うまくいったものね。
『
歌声によって味方に大きなバフを与え敵に大きなデバフを与える…味方限定でかつダウングレードではあるが、テラスタルとEXオーバーラップの重ねがけは確かに、現人神としてのアリア・カナサシに近い専用特性の獲得に成功していたのだ。
「/Outputレンゲ教授、あなたの狙いは…私と歌姫さんが、
「ええ、ですから…まだ、歌声だけでは足りない。
『フォルテッシモ』、ブラストバーン!『ピアニッシモ』、ハイパーボイス!」
【ラウドボーンEX(テラスタル:はがね)の ラスターバーン!】
【ラウドボーンEXの バーニングボイス!】
地面を破壊して迸りながら迫る、はがねエネルギーの奔流。
すべてをつんざくような爆音を彩るのは、植栽を瞬時に燃え上がらせる熱波だ。
地上にも空中にも、もはや一隅の逃げ場も、残されてはいなかった。
「/Outputうたかたのアリア!End」
「っ、ミストバースト!」
【アシレーヌの うたかたのアリア!】
熱波を含んだ爆音が、水冷された歌声で弱められ…それでも、アシレーヌとサーナイトは火炎に包まれる。
火炎の中から、ミストフィールドによって威力1.5倍となったフェアリーエネルギーの大爆発が、すべてを吹き飛ばす。
直後、地中から炸裂したはがねエネルギーの奔流が、噴火よろしくバトルコートに噴き上がった。
ー*ー
ミストフィールドが消え、爆煙が晴れた時、すでにサーナイトもアシレーヌもいなかった。まあミストバーストで自爆したりそれを至近距離でくらえば無理もない。
代わりに2人のアリアが出していたのは、イーブイと、メロエッタ。
「/Output死に物狂いの一撃だったのに、あまり効いてなさそうですね…End」
「それだけあちらの相殺力が高かったってことでしょうね。さすが劣化版私の歌!」
かつての英雄歌姫は、そう言ってラウドボーンEX(テラスタル:はがね)の専用特性を褒めた。しかしアリア・カナサシの歌声はもっとバフの倍率が高くてデバフも入るというのだから、英雄にもなれようというものだ。
「/Outputですがもう退けません。歌姫さん、これで決めましょう!End」
「そうね。
メロエッタ、高らかに歌い踊るわよ!」
虹色のディスクが、しなやかな指先からメロエッタへと放り投げられる。
【メロエッタは メロエッタEXへ オーバーラップした!】
「/Outputイーブイ、私たちのラスサビ、最高のものにしましょう!End」
高々と掲げられたメタリックな石板に共鳴し、地脈からオーラが溢れ出す。
【イーブイは イーブイGXへ オーバーラップした!】
パラレルな可能性が、イーブイGXの上に併存し、その進化のDNAを覚醒させる。
【イーブイGXのいでんしが 熱波に 反応している…!】
【イーブイGXは ブースターGXに 進化した!】
(シャワーズにはなれませんか…!)
叶うならば、テラスタルしていないラウドボーンEXの弱点を突きたかったのが言祝アリアの本音…だが仕方がない。ことここに至っては小細工抜きのタイマンをするしかないだろう。…ミストフィールドが消えていなければ、問答無用でニンフィアにさせられてはがねテラスタルに弱点を突かれる可能性もあったのだし。
「メロエッタ、シャイニーボイス!」
【メロエッタEXの シャイニーボイス!】
必中&確定でねむりまたはこんらんに陥れる脅威の音色が、かわいらしく紡がれる。
「させません!ラウドボーン、ハイパーボイスで打ち消しなさい!」
【ラウドボーンEXの バーニングボイス!】
【ラウドボーンEX(テラスタル:はがね)の ハイパーボイス!】
骨管と金管から、熱波を伴う高音が響き合う。メロエッタの可憐な歌声など、とても聞こえるものではない。
2人のアリア渾身の、まぼろしポケモンによる音響攻撃は、不発に終わってしまうのか…?
「/Outputイーブイ、はがねテラスのほうにかえんほうしゃ!End」
【
レンゲ教授は、
はがねにテラスタルしている以上、それをくらえば弱点につきタダでは済まない…が、2体のラウドボーンEXのどちらかがハイパーボイスを止めてかえんほうしゃを迎え撃ったなら、メロエッタEXからのシャイニーボイスのかき消しは不足してしまう。
強力すぎる弱点攻撃か?ねむりorこんらんの確定状態異常か?迷っている時間はなかった。
「『フォルテッシモ』、回避っ!」
戦争経験者たるレンゲ教授は、状態異常でポケモンがアンコントーロラブルになるよりは、ダメージリスクを負うほうを選んだ…ただ、ラウドボーンのすばやさは高くはなく、ポケモンEXとしてほぼ2倍のスペックを得てなお回避性能は鈍重もいいところである。
はがねテラスタルのため、かえんほうしゃは弱点。なおかつハイパーボイスを出すため大口を開けて口内を晒し続けている…急所に命中だ。
ラウドボーンEX(テラスタル:はがね)が大きく仰け反る。
「/Outputイーブイ、フレアドライブ!End」
「『ピアニッシモ』、かばいなさいっ!」
「させないわっ、メロエッタ!」
【
【メロエッタEXの サイコキネシス!】
仲間をかばおうとよたよた歩き出したラウドボーンEXが、サイコパワーで動きを抑えられる。
開いたままのラウドボーンEX(テラスタル:はがね)の口へ、炎の塊と化した
口から煙を噴き上げ、大鰐はひっくり返った。
ー*ー
「…アリアくん、あなたが、サポートに回るとは。」
「レンゲ教授、貴方の勘違いよ。
私こそ、コトホギさんの隣に立たないとって、私はそう思ってるわ。」
レンゲ教授の思い通りでは気分が悪い。…私は、コトホギさんが私に並ぶのにふさわしいのではなく、コトホギさんが私に支えられるにふさわしいと示したい。
「/Outputいつもながら重い期待ですねEnd」
「それだけの可能性が貴女にあるって、私が勝手に信じてるのよ。」
コトホギさんは、まだまだこんなものじゃないって、そう言いたい。
「レンゲ教授は、もう一度私が時代の主役になるって信じてるし願ってるのかもしれない。
だけど私は、次の時代の主役はコトホギさんだと考えている。その時、時代の脇役たる資格が私にありますようにと思っている。
コトホギさん、決着を任せるわよ。
メロエッタ、まもる。」
「/Output…わかりました。
イーブイ、一回もとに戻って。End」
熱風で熱々しかったバトルコートから遮断され、環境の影響を受けなくなったことで、イーブイGXへの退化が可能となる。
当然、次の進化先は一つ。
「/Outputイーブイ、シャワーズへかくせい!End」
【イーブイGXは シャワーズGXへ 進化した!】
「メロエッタ、てだすけ!」
【メロエッタEXの てだすけ!】
「…本当にあくまでサポートに…
いいでしょう、ラウドボーン!」
【ラウドボーンEXの バーニングボイス!】
熱波を伴う、強烈な高音。
「/Output穿ち抜け、ハイドロポンプ!End」
「メロエッタ、うそなき!」
【メロエッタEXの うそなき!】
【ラウドボーンEXの とっこうが ぐんとさがった!】
【
ラウドボーンEXからの熱風が弱められ、音波から角が取れる。
熱風を貫き、ラウドボーンEXの口へ、ハイドロポンプは突き刺さった。
水蒸気爆発…白い爆煙の下、ラウドボーンがゆっくりと倒れていくのが見えた。
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「何事も望み望まれるようにはなりません。けれどあなたたちは、どんな未来であろうとも、当初の誰の望みからも外れようとも、常に並び立って未来を向き続けるのでしょう。
おめでとう、そしてこのバトルにありがとう。こちらが、フジナドジムのジムバッジです。」
様々な悔いを歌姫アリア・カナサシに抱いてきたレンゲ教授は、どこか清々しい表情でジムバッジを2人のアリアへ手渡した。それはきっと、もはや彼の手にも余る存在となった歌姫の隣に立ちあまつさえサポートに回られるような人物を見て、戦い、一つの納得を得たからなのだろう。
「最後に一つクエスチョンです。
あなたがたは、このシンシュー地方に何を考えていますか?」
アリア・カナサシが、左隣に目配せする。左に立つ言祝アリアが、タッチペンを手に持つ。
「いえ、今書く必要はありません。
それを、そのアンサーを、いつか見せてほしい。シンシュー地方に示してほしい。」