アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪31 二律背反とアウフヘーベン

ー*ー

 

 アリア・コトホギは強かったです。アリアくんが何らかの望みを託しているのもわかろうほどに。

 

 トレーナーとしてこそ荒削りでしたが、輝かしい心の旋律を感じました。あれはおそらく、他者に信じられることでレベルアップする類のトレーナーでしょう。そしてアリアくんは、その素質をどうやってか感じ取った。

 

 「新時代の風と、言うものなのでしょうね。」

 

 依代様、歌姫アリア・カナサシ…戦略兵器級ともなる現人神その手綱を、アリア・コトホギという同名の少女が握っている…そう認識するしかない。このフジナドシティを含めたシンシュー地方の命運は、直接にはあの少女に…

 

 「…曲名『シンシューの国』ですか。」

 

 アリア・コトホギは、何を思っているのでしょうか。私たちが血まみれにして血まみれになって守ってきたこのシンシューに。アリアくんが血の量にくじけたシンシューに。

 

 「それでも私はこの街を、この地方を愛しています。だから、学生たちと立ち上がった。

 

 歌姫、きっとあなたも、その楽譜を途切れさせたわけではないでしょう?」

 

 かつての英雄が再び立ち上がろうか悩んだ時、アリア・コトホギが情にかられて動いてくれるのなら。

 

 「その時、英雄歌姫に見込まれたあなたが、真の英雄(偶像)たることを願っています。」

 

ー*ー

 

 レンゲ教授がジムバトルの余韻をひとり噛み締めているころ、2人のアリアはと言えば、フジナドシティ北方の河岸段丘を歩いていた。

 

 イーブイとともに軽快なステップを刻む言祝アリア。秋風にはためくニンフィアのリボンを手先でもて遊ぶアリア・カナサシ。

 

 と、行く手の先から騒ぎ声が聞こえてくる。

 

 「…荒々しい声、少なくとも2人…喧嘩ね。」

 

 「/Output歌姫さん、急ぎましょうEnd」

 

 ポケモンとともに走り出す2人のアリア…だが、すぐさま、目の前に黄色と黒の柵が現れた。

 

 「…立ち入り禁止…?」「/Outputでも声はこの先から…泥棒でしょうか?End」

 

 泥棒と聞いて、イーブイが柵をぴょんと飛び越える。

 

 「あっ」

 

 とたんに鳴り響く警報音。

 

 「/Outputイーブイ!?End」

 

 「「コラァーっ!」」

 

 怒鳴りながら駆けてくる足音。イーブイをボールに戻してもなんともならなさそうである。…それに柵をみだりに越えれば警報音がするということは、中で口論しているのは泥棒などではなく、正当な立ち入り権利者らしかった。

 

 「ドクケイル、どくのこなじゃ!」「アゲハント、エアスラッシュだ!」

 

 「なんて物騒な!ニンフィア、ようせいのかぜよ!」

 

 毒霧が吹き飛ばされて、その向こうから、作業服の男とスーツの男が現れた。

 

 「ここは農地じゃ!怪しい奴め!」

 

 「ここは保護区だ!怪しい奴め!」

 

 ピタリと揃ったセリフ、そして数秒の沈黙。

 

 作業服とスーツが、同時に顔を見合わせ。

 

 「農地じゃと言うておろうが!」

 

 「保護区だと言っていますが!」

 

 「「ぐぬぬ…!」」

 

 アリア・カナサシは、肩をすくめてみせた。

 

 「怒鳴る前に意見を統一してきなさいよ…」

 

 「/Outputあはは…とりあえず、両方の話を聞いてみましょうEnd」

 

ー*ー

 

 「さっきはすまんかったの。あいつが分からず屋だもんで、嬢ちゃんたちに心配かけさせてしもうたな。」

 

 作業服の男は、背丈くらいの木々が並ぶ農園を歩きながら、2人のアリアに喋る。

 

 「このあたりはの、昔からマユルドを育てて生計を立てて来たんじゃ。」

 

 鳥ポケモン避けの鳴子やかかし、木々を覆うネット。その奥で、むしゃむしゃと葉をむしばむ音がする。

 

 「ストレスを与えんようにケムッソを育てての、まるまると大きいマユルドになる。そうしたら糸を取るんじゃ。」

 

 養蚕ー言祝アリアの脳裏には、そんなワードが浮かんだ。しかし解せないことがある。

 

 「/Outputケムッソの半分はカラサリスに進化しませんか?End」

 

 「よう知っておるな、嬢ちゃん。

 

 この辺のカラサリスは小さい。マユルドは大きいんじゃがな。じゃから、なるべくマユルドにしたい。それで、揉めておるんじゃ。

 

 昔からここはマユルドの農地じゃったんに、あやつらはカラサリスを保護したいと言うての…」

 

 「…ケムッソの進化先の種類を、変えられるのね?」

 

 「木を切ればカラサリスになると、そう言っておった。酷い話じゃ。ケムッソたちの餌を無くしてしまおうなど。なあドクケイル。」

 

ー*ー

 

 「先ほどはご迷惑を。連中が折れてくれないもので、要らない手間をかけさせてしまったね。」

 

 スーツの男は、足首くらいの高さの草しげる荒地を歩きながら、2人のアリアに喋る。

 

 「このあたりのアゲハントは、世界的に見ても特別小さいことで知られているんだ。」

 

 草の隙間から、はたはたとアゲハントが飛び立つ。その大きさはなんとバチュルなみであった。

 

 「昔から、このあたりをケムッソの保護区として、アゲハントを守ってきた。夏、アゲハントの恋のシーズンには鱗粉で虹色の霧ができてね、多くの人が見物を楽しんだんだ。

 

 だけど、もうアゲハントはほとんど見られない。」

 

 絶滅危惧種ーそんなワードが、言祝アリアの脳裏に浮かんだ。と、ここでアリア・カナサシが口を開く。

 

 「さっき、ケムッソの進化先を変えられるような話を聞いたわ。それが原因?」

 

 「ああ。

 

 かつては、洪水でできた荒地を草が覆って、そこにまばらに木が生えていた。

 

 木に登ったケムッソは、鳥ポケモンに見つかりやすいから毒を蓄え、マユルド、そしてドクケイルになる。

 

 草に隠れたケムッソは、身体を草丈に小さくして、氾濫のたびに移り変わる草地を探し回るためひこうタイプのアゲハントになる、カラサリスを経てね。」

 

 「/Outputアゲハントの減少は、草地が減っている、ということですか?End」

 

 「ダムで洪水が起きなくなり、荒地は新しく作られない。そして、マユルドのために開拓だと、荒地に木を植えていく…木を減らして草地を作らないと絶滅だというのに、酷いよなアゲハント。」

 

ー*ー

 

 「/Outputこれはこじれるわけですね…End」

 

 言祝アリアは、宿のロビーで郷土史の本を片手にごちた。

 

 「まさか、農地も保護区も、両方だったとはね…」

 

 ケムッソを守り育てていく…それは、この地域にとって昔から変わらぬこと。ただ、養蚕(養マユルド?)で生計を立てる農家にとってそれはマユルドードクケイルの農地であり、貴重なポケモンと幻想的な風景に親しんできた人々にとってそれはカラサリスーアゲハントの保護区であったのだ。

 

 ケムッソがどちらに進化するかわからなかった時代は、それで良かった。牧歌的な時代、ここは農地でもあり保護区でもあり、それは矛盾せず…けれど、進化の法則が「木か草か」であるとわかって、牧歌的な時代は終わった。

 

 「あえて妥協させるならアゲハントね。マユルド農家には生計がかかってるし、サイズの特徴が遺伝するかはともかくアゲハントとという種だけなら木を切ればいつでも復活できそうだわ」

 

 「/Outputそうとも言えませんよ。私の世界のシンシュー(長野県)で、養蚕は衰退産業でしたから。

 

 …遅れているとされるこの世界のシンシューでは、まだ競合はウールー系と植物繊維だけですが、平和が続いて発展すればいずれ…End」

 

 「あーそっか、化学繊維…!」

 

 今はとち狂ったマッドサイエンスをしているエクリプスタウンにしかないが、情勢の安定が続き外資系の化学繊維が安く入ってこれば、高く生産効率の悪いむしポケモン繊維産業など木っ端微塵であろう。

 

 かといって情勢不安定を望むわけにもいくまい。それに、もしそれでまたぞろシンシュー大戦になろうものなら不景気による内需縮小と禁輸措置による外需消滅で高級繊維産業は息絶えてしまう。

 

 「…どうせ風前の灯火のマユルド産業より、アゲハントのいる風景を未来に残したほうがいいかもしれない…

 

 全体の利益ベースでの話も、分が悪いわけね…」

 

 そもそもシンシューの外ではもはや、ポケモンの生息地を追いやっての産業は古いやり方だ。自然保護というのもそうだし、ポケモンと共に生きるポケモントレーナーという生き方がメジャーな時代に「ポケモンを追いやって作られた商品」はウケが良くない。…4年前まで戦国時代のような戦乱をしていた地方に言っても仕方ないが…

 

 「/Outputでも、首を突っ込んだからには、みんなが納得する落としどころを見つけないと、気がすまないですよねEnd」

 

 「そうね、コトホギさん。」

 

ー*ー

 

 結局、理由なき納得などありえないのだ。少なくとも言祝アリアはそう考えている。

 

 「/Output論点を整理しましょう。私たちは3つ、理由を作らなければいけません。End」

 

 「マユルド農家がアゲハントの保護区を守る理由。

 

 アゲハント保護者がマユルド産業に妥協する理由。

 

 それに、マユルドの繊維が消費者に買われる理由、ね?」

 

 そこで2人は頭を抱えた。それができれば苦労はないというやつである。

 

 「…考えていても仕方ないわ。ご飯にしましょう。

 

 サーナイト、ニンフィア、アマルルガ、ワタシラガ、キュウコン、メロエッタ!出ておいで!」

 

 「/Outputですね。

 

 イーブイ、アシレーヌ、チルタリス、ラプラス、チラチーノ、ご飯ですよ!End」

 

 ぞろぞろポケモンを引き連れ、食堂へと向かう。見れば他にもちらほら、ポケモンを連れたトレーナーらしき宿泊客が歩いていた。

 

 「/Output難儀な話ですね。これだけいろんなポケモンがいて、限られた種類しか産業にならない…同じケムッソの進化系ですら明暗がわかれてるなんて…End」 

 

 「人間に飼われるというのは、それはそれで繁栄の手段だものね。」

 

 イネやコムギが、大量に人間に捕食されるかわりに地上の広大な面積で手厚く蔓延らせてもらえるように。マユルドードクケイルはこの地の農家にとってイネやコムギの立場であり、邪魔なカラサリスーアゲハントは田畑の雑草の立場である。

 

 「/Output自然保護では弱いですよね。ポケモン愛護的な話ではどうでしょう?End」

 

 サーナイトが首を横に振ってみせた。シンシューではポケモンの命が軽いことを、ポケモン自身が悟ってしまっているらしい。

 

 「まだ弱いわ。4年前までポケモンに人やポケモンを殺させて戦争してた地方だもの。」

 

 シンシュー地方の病巣の深さに言祝アリアが唸る。進歩的なことをするには進歩的な思想の土壌が必要なのだ。

 

 「/Outputあー…せめて、他の地方の目を取り入れることができれば…End」

 

 「それで何か利益になる?ならなきゃただの外圧よ?」

 

 そう言われてしまえばそのとおりだ。言祝アリア自身、「海外の『先進的な考え方』に従わせる」やり方があまり筋が良くないことを前世で知っていたし、平和なポケモン世界で戦争をやらかすシンシュー地方の気質ではうまくいくわけすらない。

 

 ふと、アリア・カナサシはもう一度、ポケモントレーナーが連れている種々のポケモンを見る。

 

 「でも、コトホギさんは家畜化されたポケモンが繁栄してるみたいに言ったけど、彼らだって人間の寵愛を受けているわよ。」

 

 「/Output人類の供ではなくても、トレーナーの供ではある、といったところですよね。

 

 …そうか、歌姫さんEnd」

 

 「何か、閃いたのね?」

 

 「/Outputポケモントレーナーたちの『愛』、アゲハントとマユルドのために、使えますよEnd」

 

 言祝アリアは、人々の愛を集めるアイドル(偶像)らしく、満天の笑みで応えた。

 

ー*ー

 

 パルデア地方、セルクルジム。

 

 ジムリーダーのカエデは、国際電話がかかってきたとジムの窓口から呼ばれ、受話器を取った。

 

 「もしもしはじめましてジムリーダーカエデ、シンシュー地方、カナサシジムのアリアよ。

 

 突然だけど、一つ、相談があるの。多くのむしポケモンの将来にかかわることで。」

 

ー*ー

 

 「私たちを納得させる提案とは、なんだ?」

 

 「儂らを納得させる提案とは、なんじゃ?」

 

 先日のスーツ男と作業男ーどうやらアゲハントの立場とマユルドの立場の代表であったらしい…は、睨み合いながらも招きに応じやってきた。

 

 「/Output農家の皆さんは、マユルドで今までどおり生計が立って、あわよくばそれが発展するなら、アゲハントの保護に協力できますよね?End」

 

 「じゃが、儂らの農地に儂らが木を植えて儂らがケムッソを育てるっちゅうのに、なして邪魔されねばならん?」

 

 「/Output保護の立場でも、アゲハントの育つ草地がある程度維持されるのなら、マユルド農家に妥協することに納得できますよね?End」

 

 「ああ、もともと保護区のあちこちに転々と移り変わる草地が住処で、保護区のすべてではないからな…」

 

 「/Output…あちこちの地方の、著名なむしポケモントレーナーに、ここについて伝えました。

 

 かつて、マユルドから糸を得るために人々がケムッソを守ってきて、特別なアゲハントの楽園になっていたところがある。けれど今は、マユルドとカラサリスの進化分けができるようになって、マユルドのためにケムッソを守るのか、アゲハントのためにケムッソを守るのか、人々が対立し始めている…ってEnd」

 

 作業服もスーツも、まさか他所の地方が絡んでくるとは思わず、驚きに声も出ない。

 

 アリア・カナサシが、セリフを継ぐ。

 

 「ただのむしポケモンの繊維産業なら、この先未来は明るくないわ。絹糸より綿糸、綿糸より化繊のほうが安いから。

 

 でも彼らは言ってくれた。もしそれが、特別なむしポケモンと共存してきた歴史があるという代物なら、多くのポケモントレーナー、とりわけむしポケモンを愛する人々は買おうと思うだろうし、むしポケモンのスペシャリストとしても勧める価値がある…って。

 

 どう?お互いにとって、これはチャンスだと思うんだけど。」

 

 「…それは、木々を増やして生産量を上げんでも、世界のむしポケモントレーナーの愛に訴えかければ、マユルド糸の単価を上げて生き残れる…と?」

 

 「…それは、アゲハントの保護が、農家の皆さんにとって付加価値になる、ということか?」

 

 「細かいことは自分たちで話し合えばいい。だけど、折り合いの最初の一歩は見えたでしょ?」

 

 作業服の男とスーツの男が、互いの顔を見つめ、おずおずと手を差し出す。

 

 言祝アリアは、やっと肩の力を抜いた。

 

ー*ー

 

 「/Outputあんなふうに、みんな擦り合わせあって、やっていけるといいですねEnd」

 

 コトホギさんは呑気な言いようだけれど、わかっていなさそうね。

 

 細切れでまとまりのないシンシュー地方を、一つの歌の上にまとめて、ふるさと意識を統合シンシューへのそれにまとめる。

 

 対立する二者を、両者がより高次の目的に結集するように説得する。

 

 アリア・コトホギ、貴女は私に、どれほどの未来の可能性を見せてくれる?





 旅を続ける2人のアリア、次なる目的地は、シンシュー地方(長野県)シラアイタウン(北アルプス広域連合大町市)

  「コトホギさん、ごめんなさい…」

 冬迫るシンシューで、アリア・カナサシは重大なミスをやらかす。

 一方で山脈を越えた北、ユキコシ地方(北陸地方)サンゴジュシティ(富山県富山市)でも、騒動は始まっていた。

 「だいぐうじ、よりしろさまはなんと?」

 「それで、私たちホープ団に頼みがあるというのは?」

 「/Output手詰まりじゃないですかEnd」

 国境の山で、アイドルは蘇る。

 「何もかも思い通りになった」「私たちには、あなたが必要なんです!」

 そして、導かれた偶像と悪党が、シラアイジムに集った。

 「ホープ団海軍の英雄、このウキクサ様が相手だ。」「ホープ団陸軍、中将ハッカ。サンゴジュシティを燃やした女、なんて呼ばれてるわね。」「ホープ団で航空戦と対外交渉を担当しております。空軍中将、アルソミトラと申します。」

 「争いは近いであります。あなたが歌わないのは勝手です。ですがその場合、誰が戦うことになると思います?

 シンシューの民とポケモン達だ。」

 「あなたは何も知らない。

 エクリプスタウンの科学者どもが何をしようとしているのか?コウジタウンの卑怯侍が今度は誰に寝返ろうとしているのか?ロクショウタウンに巣食う侵略者は何を次に引き起こしたがっているのか?」

 転生ポケモンアイドル第1部6祝「打ち砕け、壁」、結末へと加速する偶像たちを見逃すな!

 
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