アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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6祝 打ち砕け、壁
♪32 司会者「ではここで第一問!雪山を登山する時最も気を付け言祝さん早い!答えをどうぞ!」アイドル「こおりタイプのポケモンに気を付ける!」司会者「ゲームと現実をごっちゃにしてはいけません!」


ー*ー

 

 「コトホギさん、ごめんなさい…」

 

 手を震わせながら、歌姫アリア・カナサシは連れに詫びた。

 

 「/Outputいえ、私こそ…End」

 

 言祝アリアは、応えながら薪を火の中へ投げ込んだ。

 

 火がつかの間弱まり、煙を吹き上げ、パチパチと弾けて勢いを取り戻す。

 

 どうしてこんなことになったのか?…イーブイは、雪洞(かまくら)の天井を見上げながら、自分のトレーナーたちの数時間前を回想し始めた。

 

ー*ー

 

 シンシュー地方、フジナドシティ北方。

 

 晩秋の山を、言祝アリアはさくさくと踏みしめていく。

 

 「もう、凍り始めてるわね…」

 

 霜柱を爪先でつつきながら、アリア・カナサシは冬の早さを感じ嘆いた。

 

 「/Outputイーブイを、戻したほうがいいですか?End」

 

 足先が冷たいでしょうし…言祝アリアは、隣を歩くパートナーを案じて一言。

 

 「…いえ、やめておきましょう。貴女が腕に抱えたほうが賢明よ。

 

 サーナイト、ホバーで移動していいわ。」

 

 サーナイトが、サイコパワーで地面からわずかに浮き上がる。これはこれで消耗するが、足が冷えるよりはいいだろうとサーナイトもアリア・カナサシ自身も感じたらしい。

 

 「しかしこれは先が思いやられるわね…」

 

 「/Outputかなり高いところまで行くんですよね?End」

 

 「そのつもり…なんだけど、なぜ麓の道を選ばなかったのか後悔しているところよ。」

 

 シンシュー地方の道路網は谷間を軸としてできているが、山がちな地方だけあって峠道も多いしイロリ村やムラサキ村の時は峠道を通っている。…とはいえ雪が降れば話は違うし、そもそも今回は登山と言えるほどには高いところを経由する予定なのだ…大丈夫か?歌姫が早くも嫌な予感に苛まれるのは仕方がない。

 

 「/Outputでも、まだ山々もてっぺんのほうしか白くなってないですし…いざとなればチルタリスにライドすることもできます。なんとかなるのでは?End」

 

 言祝アリアは、木々の隙間から見える向かいの山々を仰ぎ見て尋ねる。

 

 「コトホギさんはこの世界に詳しくないからそう思うわよね。

 

 …この地方の初雪は、自然現象とは限らないわよ。それにチルタリスじゃこおりは二重弱点だし。」

 

 これほど寒くなっていたら、こおりタイプポケモンが原因で降雪してもおかしくない…なにしろ彼らとて活動日数は長くしたいのだから、早く自分たちの季節を訪れさせて悪いことなど一つもない。

 

 「/Output『ゆきげしき』『ゆきふらし』の意義ってそういう…End」

 

 結論から言えば、すべて的中していたのだ…心配性な歌姫の予感は。ただ、その始まりは2人のアリアの予想もしないところでとっくに起きていたのだが。

 

ー*ー

 

 1日前、ユキコシ地方、サンゴジュシティ。

 

 やたらと強いトレーナーの多いユキコシでも「最強」のだいぐうじ(ジムリーダー)を抱えるこの都市の中央、真新しい警察署ビルの一室で、だいぐうじチューリップはジュンサーと向き合っていた。

 

 「寒くなってきましたね。暖房は?」

 

 チューリップが、緊張した面持ちで首を縦に振る。人見知りの彼女にとって、とても口を開いて会話するテンションにはなれない。

 

 「彼なら、まだ黙秘しています。」

 

 無駄だろうな…チューリップの見立てはそうであった。賊が口を開かないのならエスパーポケモンで心を読めばよく、黙秘権など司法用語以上の意味はない。

 

 「そこで、だいぐうじにご協力いただきたいのです。」

 

 人見知りなチューリップに、他人の頼みを断るスキルが実装されていようはずもない。彼女はこくこくと頷いた。

 

 「…実はかの賊、ポケモンの読心(サイコメトリー)の効きが悪いのです。」

 

 「…サ、」

 

 「サ?」

 

 「サイコジャマーの、せい…?」

 

 サイコパワーによる読心はジャミングできる…そのせいではないかと、チューリップは考えた。ただ逮捕後に身体検査はしたはずだし、歯に隠したり呑み込んだりしたところで見つけることも逆ジャミングすることも容易い。

 

 「逆ジャミングできない、新型、とか…?」

 

 それなら納得もいく…ユキコシ地方が誇る悪の組織ゴフク屋は様々な地方の悪の組織の残党を吸収して技術力を高め続けており、対抗技術はオタチごっこになりがちだからだ…が、ジュンサーが技術力で負けるたびにぐうじ(ジムリーダー)を頼るわけがないので、チューリップにはいまいち納得できないでいた。

 

 「いえ…ジャマーの類は見つかりませんでした。

 

 ただ、ポケモンたち曰くサイコパワーではなく、心そのものにノイスがかかっているそうで…私たちサンゴジュ署は、賊が特殊なメンタリズムによって思考を『隠して』いるのだと考えています。」

 

 「…そんな話は、聞いたこと、ないです…」

 

 「仮にゴフク屋の新メソッドならば、今頃別の署からも報告があるはずです。そうでないということは、彼らは別の地方の悪党ですね。」

 

 はるばる他所の地方から何をしに、謎のメンタリズムを持つ悪党はやってきたのか…訝しみながら、チューリップは祈りを南に捧げた。

 

 南の山脈で、白く神々しい雪の化身が、広い三角州へと山をタッタッと飛び降りる。

 

 ジュンサーとチューリップが、取調室に入って賊と向かい合う。他所の地方の賊ー髪をぼさぼさにした若い男は、ジュンサーらに見向きもせずにヨガをしながら目をつぶっていた。なるほど何を考えているのか読めなさそうな奴である。

 

 「…くる!」

 

 チューリップが叫ぶ。窓の向こうに雪がちらつく。

 

 もう!?ジュンサーが驚愕するのと時を同じくして、警察署の屋上にて、吹雪とともに猛烈なサイコパワーが渦巻いた。

 

 それは巨大なアローラキュウコン、あるいはユキコシー/シンシューキュウコンかに見えた。だがしかし、それらならいずれもこおり/フェアリータイプ、サイコパワーなど放ちはしない。

 

 「ユキツヌシカミ、お願い、この賊の気持ちを読んで…!」

 

 ”「いいでしょう、だいぐうじ」”

 

 ユキツヌシカミ(雪津主神)ーサンゴジュシティが誇るよりしろさま(ぬしポケモン)は、サンゴジュシティ南方のはてやま連峰に眠るユクシー・アグノム・エムリットから受け継いだエスパー能力を発動し、チューリップが向かい合っている賊に心眼を向け…

 

 ”「これはいけません。

 

 チューリップ、人の世のことは任せます。

 

 仲間たちが、危ない…!」”

 

 吹雪をまとい、ユキツヌシカミは南へと駆け戻っていった。

 

 「だいぐうじ、よりしろさまはなんと?」

 

 「…コイツはポケモンハンターです。狙いは、我らがよりしろさまの仲間、はてやま連峰のユキコシキュウコン…!」

 

 賊が、血相を変えて転げ落ちた。

 

ー*ー

 

 はてやま連峰某所。

 

 サンゴジュ署からの通報を受けて山岳警察がやってくるよりも早く、ポケモンハンターたちはとある山頂へ集結していた。

 

 「一人いねえけど大丈夫か?」

 

 「ああ、アイツなら街に居残りだ。せいぜいジュンサーどもの捜査を攪乱してくれるだろうよ。」

 

 「本人にはそれを教えてないんだろ?相変わらず性格悪いなあ。」

 

 「よせやい、あんまり褒められると照れちまう。

 

 それで、キュウコンは?」

 

 「もう見つけたぜ。ぼちぼち始めようや。」

 

 ポケモン捕獲ネットの発射ランチャーを構え、ポケモンハンターたちは札束を思い浮かべながら引き金を引く。

 

 永久氷河の上、いくつものネットが空を飛び、ユキコシキュウコンたちが慌てて逃げ走る。

 

 捕獲成功をポケモンハンターたちが確信した直後。

 

 【ユキツヌシカミの ザ・グレイシャルワールド・オールフリーズ!」

 

 世界が、凍りついた。

 

 飛翔するネットも、変事に驚くポケモンハンターたちも、一斉に氷の牢獄へと閉じ込められ。

 

 静けさを取り戻したはてやま連峰に、しんしんと雪が降り始めた。

 

ー*ー

 

 シンシュー地方、フジナドシティ北方。

 

 北のシラアイタウンへと山越えを試みていた少女たちは、突如として真西から吹雪にふきつけられ、慌てふためきながら岩陰に逃げ込んだ。

 

 「いくらなんでも突然どうして!?」

 

 双眼鏡片手に、吹雪の風上をアリア・カナサシは覗き込む…太陽を後光にし、遥か北の山の尾根に神々しいナニカが立っていた。

 

 雪は本格的に強くなり、すぐにナニカの影は見えなくなってしまう…けれど、それと入れ替わるように、サーナイトが頭を押さえた。

 

 「どうしたの…?

 

 …強力なサイコパワーを感じる?それは…」

 

 またたく間に天候を急変させ、エスパーポケモン最強クラスのサーナイトに悪影響を与えるようなポケモン…

 

 「ユキツヌシカミ…!」

 

 「/Outputそれって、なんですか…?強そうですけど…End」

 

 「シンシューキュウコン…というかユキコシキュウコンの特殊個体(ぬしポケモン)よ。ユキコシ側では伝説のポケモンから力をもらっただとか、事実上の神様だとか、いろいろ言われているけれど…

 

 誰かがちょっかいを出して怒りを買ったわね。これは本降りになるわ。」

 

 この事実上の神格(デファクト・レジェンド)棲まうはてやま連峰はユキコシ・シンシューの境目の山…なんということか、ユキコシ側で起きた不手際によって、シンシュー地方シラアイタウン周辺は厳冬入りしたのだった。

 

 「コトホギさん、急ぎましょう。ぼんやりしていては雪に埋もれてしまうわ。」

 

 「/Outputむしろ、ここは引き返すべきでは?シラアイタウンまではまだまだありますよね?積もりそうですし…End」

 

 「…それは…いえ、でも、ここからはてやま山頂まではそれなりの距離があるわ、見た目以上に。ユキツヌシカミはしょせんユキコシのぬしポケモン、山で隔てられたこちらには直接の影響はそうは続かないはずよ。」

 

 靴を長靴に履き替え、吹雪を見通すためのライトを付け、アリア・カナサシはストックで地面を突いた。

 

ー*ー

 

 ユキコシ気象庁発表

 

 ユキコシ地方サンゴジュシティ周辺、及びコーシュー=シンシュー地方シラアイタウン周辺は、本日より厳冬入りしたものと見られます。

 

 ポケモン性の強い低気圧がはてやま連峰に発達し、多量の水蒸気を蓄えた北方海上の冬型大陸高気団を列島上空に引き込んだことで、連続的に降雪帯が形成されています。

 

 本日深夜にかけてから、サンゴジュ、シラアイで数十センチの積雪となるでしょう。またこれに伴い、海洋気象が急速に悪化し、海上ジュンサ庁ユキコシ地方統監部はサンゴジュ海域に冬季警報を発令、航行を大幅に制限するように勧告しています。

 

ー*ー

 

 「見立てが、甘かった…!」

 

 あれよあれよと言う間に、雪は膝丈まで積もり、2人のアリアの行く手を阻んだ。

 

 先へ進むことはできる、しかしたかが知れている。慣れない雪山道に体力と体温はみるみる奪われた。もはやこれでは…

 

 「/Output遭難、ですよね…?End」

 

 器用にイーブイを抱えながらタブレットを叩く言祝アリア。その言葉に、アリア・カナサシは頷くしかなかった。

 

 「…野営しましょう。どうにも、これは…っ!?」

 

 「/Outputどうしました?End」

 

 「圏外よ…」

 

 助けを呼ぶこともできないらしい…もしかして詰みかと、アリア・カナサシは顔を雪のように真っ白にした。

 

ー*ー

 

 「/Outputくよくよするのはやめましょう。どうしますか歌姫さんEnd」

 

 雪洞(かまくら)の中でひとまずの暖を取り、火にかざして温めた手で言祝アリアはイーブイの背を撫でる。

 

 「どうしたものかしら…歩いては…行けないこともないけれど…」

 

 雪中強行突破は無理そうだと思ったから野営しているのだ。望みは薄い。かといって無理をせず野営を繰り返しながら雪をかき分けていっても、食料が足りない。

 

 「/Output正攻法での踏破は困難、なら、ポケモンライドはどうですか?End」

 

 「ワタシラガには乗れない、チルタリスには寒すぎ…

 

 …アマルルガには最適の環境だけれど、この環境でのアマルルガの体温って人間が乗れるものじゃないほど冷たいのよね…」

 

 ポケモンに頼ることもできないらしい…自力での脱出は困難だ。

 

 「/Outputなら、花火的なものでSOSを求めるとか?End」

 

 「街まで音は届かない、となると光だけど、シラアイタウンの田舎っぷりだと厳しいし、全力を込めて一回やるだけやってみる…ってことになるわね。」

 

 「/Output手詰まりじゃないですかEnd」

 

 「手詰まりなのよ。」

 

 本当に?本当にそうなら絶体絶命であるが…

 

 言祝アリアは、しばらくてしてしとタブレット端末を叩き、そして顔を上げた。

 

 アリア・カナサシと、目が合う。

 

 「その様子だと、どうやら何か、考えがあるようね?」

 

 「/Output歌姫さんこそEnd」

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