アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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~前回までの転生ポケモンアイドルは~

 誰もを魅了する絶世のアイドルだった転生者、言祝アリアと、龍神の力を込めた歌声のバフデバフで戦況を一変させる歌姫、アリア・カナサシ。シンシュー地方を旅する2人のアリアは、お互いに自分の力についての悩みを抱えながらも6つ目の街、シラアイタウンへ向かっていた。

 シラアイタウンへの山越えの最中、北のユキコシでぬしポケモンが暴れたことにより、山脈地帯の天候が一変。2人のアリアは、突如として雪中に遭難してしまう...!


♪33 ポケモンレスキュー「登山届け出せ!遭難保険に登録しろ!金取るぞコラ!」長野県警「そうだそうだ!心得無しに登山なんかすんな!」

ー*ー

 

 一晩にして腰まで積もった雪、その中に築いたかまくらの中で。

 

 「/Output今の手持ちでどうしようもないなら、手持ちを増やすしかないですねEnd」

 

 言祝アリアは、生きて山を脱出する方法はこれしかないと、そう述べた。

 

 「私も、同じ考えよ。

 

 雪の中じゃ、私たちはほとんど動けないし…雪の中で動けて、私たちが乗れるポケモンでないと、ね。」

 

 「/Outputそれがパッとは思いつかないんですよね。こおりタイプってだいたい身体凍ってるじゃないですか?End」

 

 それにそもそも、この地方になんのポケモンがいるのか、言祝アリアは良く知らない。そして重要なこととして、雪山である以上彼女たちは広範囲に動き回れない気それどころか近くのポケモンを追いかけることすらままならないということがある。

 

 「…一つ、あてがあるわ。

 

 ただそれこそ、全力が必要になるけど…」

 

 SOSとトレードオフ、そういうことだ。

 

 「ゲットにほのおかはがねタイプが必要なのよ。それなりに手強くって。」

 

 ほのおポケモンはおろかほのおワザすら今の2人の手持ちポケモンにはない…というよりそれがあれば雪山の強行突破も可能足り得るのだ。なおはがねワザもない。

 

 「/Outputゲットは、私がしても?End」

 

 「コトホギさんはまだ手持ち5体だったわね。それにほのおワザを出す方法も、貴女にしかないしね。  

 

 今から探し方を教えるわ。シラアイのあたりは密度も高いし、分が良い賭けになるはずよ。」

 

ー*ー

 

 「ワタシラガ、くさむすび。」

 

 雪の中、ちょこんと草生えが出現する。アリア・カナサシは、残り少ない食料であるところのチョコレートやクッキー、きのみを砕いて草生えに振りかけた。

 

 草から、甘い香りが匂い立つ。

 

 「/Outputこれは…?End」

 

 「むしタイプポケモンを呼び寄せる、トラップよ。」

 

 「/Output…むし?End」

 

 雪山を越えるためのライドポケモンを探しているのでは?むしポケモンは、雪にもライドにも程遠いイメージだが…と言祝アリアは首を傾げた。一番あり得そうなのはモスノウだが、乗れば凍えてしまう。  

 

 「しっ、静かに…」

 

 かまくらの中に戻り、火を仰ぎながらしばらく待つ。

 

 ゴソッ、ガサッ…雪を何者かがかき分ける音。

 

 「まだよ。」

 

 アリア・カナサシが、言祝アリアを手で引き留める。

 

 ゴゴソッ…重々しく、引きずるような音が聞こえてきた。餌をしかけたあたりの手前で、音が止まる。

 

 「怪しまれてる…?」

 

 ゴゴソソッ…音が、一際大きく聞こえ。

 

 「コトホギさん!」

 

 逃げられるわよ!そう言われなくても、言祝アリアは袂からGXマーカーを取り出した。

 

 「/Outputイーブイ、オーバーラップ!End」

 

 【イーブイは イーブイGXに オーバーラップした!】

 

 2人がほのおタイプを用意する唯一の方法は、イーブイGXの専用特性「かくせいDNA」で一時的に進化させること…ただ、雪山の環境で勝手にグレイシアに覚醒されてはたまらない。

 

 アリア・カナサシが、焚き火に差し込んでいた長い枯れ枝束を放り投げる。パチパチ弾けながら勢い良く燃える松脂が、イーブイGXへ火の粉を振りかけた。

 

 【イーブイGXは ブースターGXへ 進化した!】

 

 ガサッガササッゴゴソッ!慌てて雪の中を逃げようとする音が聞こえる。逃げられてはかまわぬと、2人のアリアはイーブイ(ブースター)GXとともにかまくらを飛び出した。

 

 (いったいなんのポケモンが…?)

 

 丸っこい石を背負った、オレンジ色のむしポケモン。

 

 大きく縞模様の灰色の岩?を背負った、進化系らしきポケモンもいる。

 

 「/Outputとりあえず…イーブイ、かえんほうしゃ!End」

 

 イーブイ(ブースター)GXからの火炎攻撃を受け、石を背負った小さなポケモンたちはコテンと倒れてしまった。

 

 「/Outputイシズマイ、ですよね?でも…End」

 

 それなら特性「がんじょう」で耐えるはず。それにほのおタイプ弱点ではない…言祝アリアは、一撃でやられてしまった相手を不思議がる。

 

 「そうね。私たちが狙うのはあっちのイワパレス。冬になるとすがたを変えるのよ。

 

 ニンフィア、リボンでとらえて!」

 

ー*ー

 

 イワパレス(シンシューのすがた)(ウィンターフォルム) むし/こおり 特性:むしのしらせ/いてつくよろい

 

 シンシュー地方・ユキコシ地方の境界にそびえる山々に棲息している、イワパレスのリージョンフォーム。原種と非常に良く似ているが、原種と異なり冬季のみ背負う岩が凍土となり、いわタイプではなくこおりタイプへフォルムチェンジする。これは、岩が凍結によって砕けてしまうことに対して岩を凍土に差し替えることで対応したからだと言われている。

 

 特性の「いてつくよろい」は、攻撃を受けるたびに自らのぼうぎょと相手のぼうぎょ・とっこうが一段階下がる。

 

ー*ー

 

 【イワパレスの シザークロス!】

 

 ニンフィアのリボンが、無惨に斬り裂かれる。そしてイワパレスは、鈍重そうな身体を引きずり雪の中をかき分け逃げ出した。

 

 「シンシューイワパレスは深い雪に適応しているわ!逃げられるわよ!」

 

 「/Outputイーブイ、もう一度かえんほうしゃ!End」

 

 【イーブイ(ブースター)GXの かえんほうしゃ!】

 

 【イワパレスの ふぶき!」

 

 視界を、雪煙が覆い隠していく。かえんほうしゃが吹き融かせども、次から次へと湧く吹雪はすべてを包み隠す。

 

 「逃げられる…!

 

 コトホギさん!」

 

 アリア・カナサシは、言祝アリアに呼びかけたーもはやイワパレスを追撃するどころか、攻撃を命中させることすら危ういのだ。

 

 (わかってる…こうなったら、ポケモンバトルじゃなくて、私が決めないといけない…

 

 …でも、でも!)

 

 「…私は聞いたわ。貴女は素晴らしいカリスマアイドルだったって。

 

 貴女なら、イワパレスを従えられる…違う!?」

 

 それをやってしまったら、今までなぜ、声を出すのすら渋ってきたのかという話だ。言祝アリアは、自分のアイドル性というファイナルウェポンを使いたくはなかったし、まして…

 

 (私以外の運命を変えるために私の力を使って、それて私の未来を改善しようとしたら、それは...)

 

 アイドルとして、それを前世でした。磨いたアイドルとしての才能で、多くのファンを得て…そしてその果て、言祝アリア(大三輪遥)は世間から逃げるように姿を消した...

 

 「悪いけど、迷っている余裕はないわ!」

 

 ここでイワパレスに逃げられては、凍死が近づくのみだ...アリア・カナサシに言われるまでもなく、わかりきっている。それでも...

 

 言祝アリアは、刹那の逡巡ののち、アリア・カナサシの表情を見た。-そして、理解した。

 

 アリア・カナサシは、今まで思っていた以上にとんでもない人物である、と。

 

 (...「何もかも思い通りになった」みたいな顔を、するんですね…)

 

ー*ー

 

 イワパレスが逃げ出せば、命がけでそれを捕まえなければならないー出し惜しみしていられなくなった言祝アリアが”覚醒”することを、確かにアリア・カナサシは期待していた。そして本当にそうなりつつある...なんだかんだ言っても追い詰められれば言祝アリアはアイドルとしての「魅了」を使わざるを得ないし、自分もそれを促せる…しっかりその能力を見ることができるだろうと。

 

 けれど、現実にそうなった時に言祝アリアがしたことだけは、アリア・カナサシの予想を越えていた。

 

 (...「仕方ないから思い通りに動かされてあげますよ」みたいな目で、見るのね…)

 

 怒るでもなく失望するでもなく。言祝アリアという少女は、アリア・カナサシのチンケな策謀を受け止める度量を示した。

 

 「/Output歌姫さん、耳をふさいでください。ニンフィアもEnd」

 

 「…ニンフィア、耳をふさいで。」

 

 ニンフィアが、リボンで己の耳をふさぎ、アリア・カナサシの方にもリボンを伸ばす…けれど、彼女はリボンを払いのけ。

 

 言祝アリアはイーブイ(ブースターGX)をモンスターボールへ戻しながら「あなたはいいんですか?」と言わんばかりの視線をアリア・カナサシに向けたが、これは無視。

 

 (その結果がどうなろうと、私には、コトホギさんに無理を強いた結果を聞き届ける必要が、きっとある…!)

 

 そして言祝アリアは、ため息一つ、久々に口を開いた。

 

ー*ー

 

 厳しいシンシューの雪山で餌を見つけるのは、イワパレスにとって容易なことではなかった。

 

 故にこのイワパレスは、群れのイシズマイが美味しそうな匂いを嗅ぎつけた時、一も二もなく重たい身体を引きずってやってきたのだ。

 

 けれどイワパレスも馬鹿ではない…ほのおポケモンの強襲を受けたことで、とっくにこれが罠だと気づいて逃げを決めている…ただ、2人のアリアの悩みが「雪の中では一歩進むのもおぼつかない」だったのとは対照的に、イワパレスの悩みは「雪の中でも自在に進めるが、どのような条件であれノロノロとしか動けない」ことであった。

 

 だから、それはふぶきの向こうから間に合った。

 

 「イワパレス、聞いてください!

 

 私たちには、あなたが必要なんです!」

 

 そんなベタな言葉でも、言祝アリアという稀代の天才にかかれば、異能にも等しい魅了の効果を帯びる。その声の高さ、大きさ、周波数、音色、響き、反響…すべてが、そうなるように無意識下で計算されつくしているからだ。

 

 イワパレスは、振り返った。振り返り声の主を仰ぎたいという欲求に突き動かされた。

 

 そして見た。

 

 吹き散るふぶきの中、雪の結晶に散乱された光をまとい、優しげな雰囲気で手を差し伸べる偶像(アイドル)の姿を。

 

ー*ー

 

 「イワパレス、力を貸してくれますか?

 

 私たちを載せて、麓まで連れて行って欲しいんです。」

 

 イワパレスは、こくりと頭を下げ、籠もっている巨岩も下げた。

 

 言祝アリアとアリア・カナサシが、前からひょいと跳び乗り、岩の上に防水シートを広げる。

 

 イワパレスは、黙々とシラアイタウン目指し雪をかき分け始めた。

 

ー*ー

 

 イワパレスの本体が完全に見えなくなるほどの積雪。それをかき分け進むイワパレスの岩の上に、私たちはいます。  

 

 歌姫さんのワタシラガが出してくれた綿で暖を取りながら、それでもとても寒いのですが、麓に着くのを待ちます。歌姫さんによれば、積雪地帯を抜けるのには半日かからないそうです。

 

 「…コトホギさん、貴女、どうなってるの…?」

 

 「/Output私の声、ですか?

 

 アレはきっとたぶん、理論値なだけですよEnd」

 

 メッセージ、心を伝えるということがうまくいくかは、メソッドにかなり左右されます…言葉選びと言葉遣い、そして声音声色…もちろん、誰がそれを伝えようとしていて、どのような容姿でどのような動作をしているかというナラティブ的な側面も。逆に、それらのテクニックを理論値まで最適化すれば、どんな想いだって必ず伝わるのです。ライブに来た人をみなファンにするアイドルだけではなく、会った人を支持者にしてしまうカリスマ政治家なども、そうですね。

 

 「貴女、そう思ってないでしょ。」

 

 「/Output…ええ。

 

 話は変わりますけど、歌姫さん、影響を受けてませんねEnd」

 

 一曲も聞けば誰だってファンになって狂ったように私を崇めるのですから、あるいはと思っていましたが…

 

 「貴女のアイドルとしての魅力は、声、歌、ダンスで最高に発揮されるとしても、普段から容姿や振る舞いでにじみ出るものでしょう?」

 

 …とっくに私の虜だから今更だと。それでいてさんざん私のことを自分の手札のように、シンシューの未来の可能性を拡げる隠し玉にしようとしているのですからこの人は大した…いえ、私の力に魅入られたからこそ私に期待し利用したいと思う人は、前世にもいましたね。

 

 「/Outputそれもありますが、あなたにとって私の姿は、自分を投影できるものだから…ということはありませんか?

 

 純粋な観客ではないから、ファンにならない。End」

 

 「…それで?この話は、貴女の力の話に繋がってくるのよね?」

 

 「/Outputもちろん。

 

 あなたも現人神(偶像)なら、ファン(信者)をたくさん背負ったアイドル(偶像)のことはわかると思います。

 

 巫女というのは、信者の力を託されて強くなり、その身に神を宿すものですからEnd」

 

 私のアイドルとしての力が、理論的に説明できるとして、本当にそれがそれだけのものだと信じられるわけもないのです。

 

 結局、あの事務所の「アイドルへ信仰を集めるというカタチで、いにしえの巫女が目指したように、神に近いアイドルを生み出す」というそこそこ狂ったプロジェクトは、なんとしたことか字義どおりに成功してしまった…そういうことなのだと、私は納得しています。

 

 「…それは…重い力ね…

 

 …済まなかったとは思っているのよ。それでも私は、いざという時に貴女がその力を振るえるか、アイドルに戻れるかが、貴女の未来、私たちの未来、ひいてはシンシューの未来の可能性を大きくするものと思っているから。」

 

 歌姫さんの言うことは一理あります。けれどわかっているのでしょうか…それは歌姫さんも同じなんですよ?目を背けても。

 

 「/Outputあれ、シラアイタウンではありませんか?End」

 

 麓、雪に染まった景色の中に、ポツポツと家々が見えます。

 

 「そうね。

 

 …あそこのジムリーダーのことほとんど知らないんだけど、どんな人なのやら…」

 

ー*ー

 

 ユキコシ地方、ワカナエシティ。

 

 カラオケの個室を、スーツの男が叩く。

 

 「入って。アルソミトラ中将。」

 

 個室の中でグレイシアといっしょにポテトをつまんでいた赤いドレスの女は、座ったまま、アルソミトラと呼ばれた男に向かいの席を勧めた。

 

 「お久しぶりです。カグヤ・フロックスさん。

 

 それで、私たちホープ団に頼みがあるというのは?」

 

 7年前まで、1000年近くに渡りユキコシ地方を苦しめた武装ゲリラ、ホープ団。その三大幹部の一人を前に、ユキコシ最大の名家の妹令嬢はなんの感情もない様子で書類を差し出した。

 

 「最近、南の山岳地帯がまた荒れそうなの、そちらでも掴んでるよね?」

 

 「もちろん。私はホープ団の渉外と諜報の担当ですから。

 

 エクリプスタウンの科学者モドキどもはあいかわらず何やら企んでいますし、シンシューの多くの要人は誰かが火をつければもう一大乱あると考えていますからね。それについ先日には、コーシューの暴王が死去した。」

 

 普通なら偉大な侵略者の死は平和を示すだろう…ただ、2人はそうは考えていない。

 

 「あら、貴女も知ってたんだ。

 

 遺言は『必ずシンシューを征服せよ』だとかなんとかだったらしいよね。」

 

 「それで?

 

 和解はなされたとはいえ、私たちホープ団への風当たりは未だ強い…醜聞になるリスクがあるのに、世間話のために私を密談に呼んだわけでもないでしょう?」

 

 「…シンシューはウコンタウンのジムリーダーから遣いがあったの。何かしらの災いのタネがシンシューにあって、私たちがそれを見逃せるはずもないから一度見に来い…ってね。それもこともあろうに、フロックスの名を騙って。」

 

 「その挑発は、行かざるを得ないでしょうな。それで?」

 

 「当主様(お姉ちゃん)は、家名の偽りについてはともかく、そうまでして伝えたいことがシンシューに差し迫っているということには、協調が必要だと考えているの。

 

 もし、次のシンシューの騒乱で軸になる人間がいるとすれば?」

 

 「…カナサシおみやの現人神、『英雄歌姫』アリア・カナサシ。」

 

 「…と、その今の旅の連れ、アリア・コトホギ…お姉ちゃんはむしろそっちだって考えてる。私たちのユキコシの旅も、前に一度殿堂入りした私より、私が連れ出したお姉ちゃんのほうが、時代を動かしたしね。

 

 貴方たちには、この2人のアリアに接触して、人物を計って欲しいの。お姉ちゃんは分家に頼むみたいだけど、うまくいかないかもしれないし…汚れ仕事は妹である私の担当でしょ?」

 

 ホープ団と関わることは名家にとって汚れ仕事…そう示唆され、アルソミトラは苦笑した。

 

 「…わかりました。今の彼女たちは、ちょうどシラアイタウンに向かっているところでしたか?

 

 ハッカとウキクサにも連絡して、至急シラアイに向かいます。たまにはジムトレーナーの真似事というのも一興です。…貸しを一つ消しておいてくださいよ?」

 

 「うん。

 

 そうそう、ジムリーダーのモロコシ中将にもよろしくね?」

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