アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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 ※前作「転生ポケモン令嬢」のかなり重大なネタバレがあります。


♪34 モロコシ「列島を混乱させたユキコシ事変から7年、シンシュー地方はユキコシ派、コーシュー派、ジョウト派の3つに別れ」歌姫「シンシューの自決権どこ行った?」

ー*ー

 

 「/Outputなんというか、シラアイタウン、ちょっと雰囲気がアングラですね…End」

 

 バラックが並び、商店街は屋台が多く、闇市のようである。あちらこちらに地下への階段が開いている。道行く人の中にもちらほらと、サングラスや入墨など、風体の悪い者が混じっていた。

 

 「…そりゃ、シラアイタウンは悪の組織のお膝元だからね。」

 

 言祝アリアが、ビクッと身体を震わせる。前世、日本においては重度のポケモンオタクであった彼女には、サカキがジムリーダーを努めロケット団のアジトとなっているトキワシティのことが思い出された。ともあれ(バトルの実力が充分といえど)美少女2人がそんなところをふらふらしていて大丈夫なものなのか。

 

 「…このシラアイタウンを牛耳るのは、悪の組織、ホープ団。北のユキコシ地方で1000年戦い続けたゲリラ組織ね。」

 

 「/Output…果てしなくヤバいじゃないですかEnd」

 

 タブレット端末からの出力音声を最小にして、言祝アリアはアリア・カナサシの苦々しい表情に応えた。…1000年も蔓延った悪のゲリラ組織?それはもう、悪の組織というよりは内戦敵国とかそういうやつである。

 

 「大丈夫、もうユキコシ奪還の夢は諦めたみたいだから。

 

 彼らは、ユキコシに2000年前栄えていた古代文明の末裔を謳っていてね。だから自分たちこそユキコシを統べる権利があるって言ってたんだけど、肝心の古代ユキコシ文明が7年前、反転世界から復活しちゃったの。」

 

 これには言祝アリアは絶句した。しかし話はまだ続く。

 

 「古代文明にとって、今のホープ団は奴隷の末裔でしかなかったし、ユキコシ地方はギラティナに世界を滅ぼしてもらうための生贄でしかなかった。そんなわけで死にかけて心折れちゃったらしくて。   

 

 今はユキコシ地方と和解しているの。」

 

 「/Outputじゃあ、プラズマ団穏健派と同じで、今は悪の組織じゃないんですね?End」

 

 「ユキコシにとってはね。私にとっては…

 

 7年前からのシンシュー内乱では、シンシューの人々は最初はコーシューからの侵攻に対して折れるか立ち向かうかだった。だけどすぐに、シンシューとして頑張るか、コーシューに下るか、それともユキコシやジョウトを頼るかという分裂になって、そしてシンシュー派の中でも分裂した。

 

 私たちカナサシおみやが率いる都市連合と、そしてコミューン議会が率いるジンザモシティに。シンシュー最大の人口の民意で戦うジンザモシティはめっぽう強くて、だけど衆愚的というか民衆ヒステリーというか…格下の衛星都市が従わないのがよっぽど気が食わなかったのね。

 

 シラアイタウンに進駐した。」

 

 それも2度もーその間、ジンザモの勢力はシラアイを植民地のように扱い、粛清劇をやらかし、散々であったという。

 

 「シラアイタウンの住民は、ジンザモに代わる強者の後ろ盾を欲していた。けれど南のフジナドにその余力はなく、東はジンザモ、北のユキコシ地方と西のジョウト地方へはかなり山深い向こう...彼らは、ユキコシ・ジョウト・シンシューの3地方の境の奥山に1000年潜伏してきたホープ団を頼ることにしたの。」

 

 シラアイタウンにとっては、ホープ団はガラこそ悪いが1000年のつながりがある。そして年月の間に力を蓄えたゲリラ組織だけあって、ユキコシ地方と終戦してなおホープ団の実力は充分だった。

 

 「だからこの街は今、ホープ団の大幹部がジムリーダーとして招かれた、まさに悪の組織のお膝元...っと、見えてきたわ、たぶんアレがシラアイジムよ。」

 

 アリア・カナサシが指さす先にあったのは、いくつもの岩がそびえる地帯、そうまるで...

 

 「/Outputカッパドキア?End」

 

ー*ー

 

 「ホープ団糧秣軍中将、モロコシであります。

 

 歌姫にその連れ、よくシラアイジムまで来ましたね。」

 

 岩窟の入り口で、気難しそうなメガネの男はそう告げるなり腕時計を見た。

 

 「予定から1分押しているであります。さっさと要件を伝えます。

 

 アリア・カナサシ、アリア・コトホギ、お前たちには、待ち受ける3人のジムトレーナーのポケモン3体を倒し、私のところへ辿り着いてもらうであります。

 

 そしてここからが重要ですが、お前たちにはここで受付からアイテムを貸し出すであります。そのアイテムは各5000円ぶん、かつ5個までとし、また2人で相談して借りることはできません。そして、そのアイテムとオーバーラップ用アイテムのみで、3人のジムトレーナーと私に勝ってもらうであります。」

 

 「それが『糧秣軍』のやり方、というわけね?」

 

 陸軍でも海軍でも空軍でもない。兵站・後方支援を扱うのがモロコシの仕事であり、ゆえにチャレンジャーが限られた金額・輸送量で最適なアイテムを選べるかを試しているーアリア・カナサシはそう見抜いた。

 

 「そのとおりであります。では、ジムバトルでお会いしましょう。」

 

ー*ー

 

 やたらと安いので5000円でも安心ですが。

 

 アイテム5個というのは、誓約として大きいですね…ダメージ回復、特殊状態回復、それに復活すべてあわせて5ですから。

 

 …ダメージ回復アイテムは諦めるしかありません。アイテムなしでも替えが効きますし。

 

 うん、こうするのがいいでしょう!

 

 【言祝アリア 購入アイテム:げんきのかけら(1500円)×3、ラムのみ(200円)×2】

 

ー*ー

 

 まさかアイテム購入のために手持ちのお金を軍票に換金させられるとは思わなかったわ。軍票は余ったとしてもシラアイタウンでしか使えない以上、これかなり姑息な政策…いえ、この価格と品質がシンシューの相場でなくてユキコシのそれだとすれば、そもそも赤字なのでしょうね。

 

 …ジムトレーナーが3人、か。ホープ団は陸海空軍を糧秣軍が支えていたはず。もし、今までのいくつかのジムと同じく、ジムリーダーモロコシも私やコトホギさんを試そうとしているのなら、3大幹部を出してくる可能性があるわね。

 

 軍の一将を務めるクラスなら、サシで私と伯仲するか…つまり、崩れたらすぐに立て直さないと取り返せない。

 

 崩れないように自動回復と状態異常対策、それに立て直せるように復活アイテム、配分はまあこんなところね。

 

 【アリア・カナサシ 購入アイテム:げんきのかけら(1500円)×2、オボンのみ(200円)×2、なんでもなおし(600円)×1】

 

ー*ー

 

 3人のジムトレーナーが待ち構えているという洞窟の道を、2人のアリアは慎重に進んでいく。

 

 まもなくして、上へと向かう階段が現れた。

 

 「地上に出る階段ね。コトホギさ」「/Output歌姫さん、階段がもうひとつ!End」「…分かれ道…」

 

 どうする?2人は顔を見合わせ、おもむろに握った手を出す。

 

 「イシツブテ、シザリガー、カミツルギ、じゃん、けん、ぽん!」

 

 ロック・シザー・ペーパーのポケモン版なんて知らない…あたふたと言祝アリアがグーを出して負け、アリア・カナサシは勝利の確認すらせずに右手の階段へ足を進めた。

 

ー*ー

 

 …右を選ぼうが左を選ぼうが、どっちの階段の先もわからないんだから、騙し討ちみたいなことする必要なかったのよね…

 

 しかも、なんか結局めんどくさい方を引いた気がするし。

 

 「こりゃカナサシおみやの英雄様じゃねえか。一度戦ってみたかったから俺も運が良い。」

 

 「ホープ団海軍中将、ウキクサ…」

 

 不屈の男、ユキコシ地方史に残る侵略者、海洋ゲリラ戦の第一人者…

 

 「そうとも。ホープ団海軍の英雄、このウキクサ様が相手だ。

 

 英雄同士、死合おうぜ?

 

 ラグラージ、メガシンカッ!」

 

 「サーナイト、オーバーラップしてメガシンカっ!」

 

 「ラグラージ、ハイドロポンプだ!」

 

 「サーナイト、ムーンフォース!」

 

 ポケモンEXだから威力は断然勝て…は!?

 

 「俺のラグラージ、そこらへんの雑魚と同じに考えてもらっちゃ困るな。

 

 じしん!」

 

 「サーナイト、地面に向かってムーンフォース!飛んで!」

 

 …ちっ、立ってられない…砂埃で良く見えない…!

 

 「それを待ってたぜ…反動で飛べても、空中で飛び回れるわけじゃねえ。落ちてくるしかねえよな?」

 

 まずっ…!

 

 「サイコキネシス!ラグラージを近寄らせないで!」

 

 「遅いっ!アクアブレイク!」

 

 強い…思っていた以上に…

 

 なんとかオボンで保たせたわね。

 

 「サーナイト、まだ、やれるわよね?

 

 …一段、ギア上げるわよ。ブリリアントアロー!」

 

 「フン…ラグラージ…

 

 クイックターン!」

 

 い、EX技不発!?

 

 「ダダリン、アイアンヘッドだ!」

 

 「サーナイト、引きつけて!」

 

 「な…」「鎖を掴んでぶんまわせっ!」

 

ー*ー

 

 アリア・カナサシがウキクサ中将と熱戦を繰り広げている頃。

 

 言祝アリアもまた、時代の怪物と向き合っていた。

 

 「あんたのことは諜報部から聞いてるわ。アリア・コトホギ、会えて嬉しいわよ。」

 

 モンスターボールを構えた体勢で待ち構えていた、真冬だというのにショートパンツの美女。ぼさぼさの髪と目の隈からはずぼらな印象を受けるが、鋭い目からは獰猛さが煮え立っている。

 

 「/Outputどなたですか?End」

 

 「ホープ団陸軍、中将ハッカ。

 

 サンゴジュシティを燃やした女、なんて呼ばれてるわね。」

 

 転生者である言祝アリアは、原作に登場しないその街のことを良く知らない…が、この女が悪の組織の危険人物であることだけは間違いなさそうである。

 

 「リザードン、やるわよ。」

 

 「/Outputラプラス、オンザステージ!End」

 

 タイプ相性は悪くない…言祝アリアは安堵…する余裕もなく、気を引き締め直させられた。何故なら、ハッカの胸元の勲章が、リザードンの首元の勲章が、輝きを放っていたから。

 

 「あんたの実力を限界まで引き出せって、そういう頼みなのよ。悪く思わないでくれる?

 

 リザードン、メガシンカよ!」

 

 メガリザードンY…それでもなおみず・ひこうタイプのラプラスに対して相性がいいとは言えないが、種族値で負けていることを考えるとなんらの安心もできない。

 

 「/Outputラプラス、ふぶき!End」

 

 「リザードン、ブラストバーン!」

 

 ふぶき吹き荒れる中、メガリザードンYは地面へと急降下、勢いのままに大地を殴る。地が割れ、四方へ地割れが広がり、大地から猛火が噴き出す。

 

 「/Outputなみのり!End」

 

 ふぶきは停止、代わりにラプラスは波をまとってブラストバーンを鎮火しながらメガリザードンXへと突進した。

 

 メガリザードンYが、あわてて真上へと飛び逃げる。

 

 「/Outputハイドロカノン!End」

 

 「だいもんじ!」

 

 高圧放水と膨大な熱エネルギーが空中で交錯し、水蒸気爆発を起こして2体の姿を覆い隠す。

 

 爆煙はいつ晴れる?どこからどうやって次の攻防を始める?

 

 緊張が流れる。

 

 ハッカが、息を小さく吸う。

 

 「リザードン、オーバーヒート!」

 

 ー果たして、メガリザードンYは、ラプラスの背後にいた。

 

 「/Outputゆきなだれ!End」

 

 まだ晴れない煙の中で、赤い輝きが灯り…直後、白煙が凝結して崩落する。

 

 澄み渡る景色の下、水たまりに、ラプラスとリザードンが、折り重なって付し倒れていた。

 

 「あんた、思ったよりやるね。

 

 行け、オオニューラ!」

 

 「/Outputアシレーヌ、オンザステージ!End」

 

 「オオニューラ、じごくづき」

 

 オオニューラの毒手が、アシレーヌへ迫る。

 

 「/Output近づけないで!うたかたのアリア!End」

 

 しかしこの指示を出しながら、言祝アリアの脳裏ではオオニューラとアシレーヌのすばやさ種族値がよぎっていた。とうてい後出しではかなうまい、と。

 

 オオニューラの毒手がアシレーヌの喉を突く。アシレーヌが吹き飛び、うたかたのアリアはキャンセルされる。

 

 アシレーヌが姿勢を取り戻し息を整える間にも、オオニューラは「きあいだめ」を終えていて。

 

 「オオニューラ、フェイタルクロー!」

 

 再び、毒手がアシレーヌに迫る。

 

 「/Outputアシレーヌ、アクアジェット!」

 

 オオニューラが腹へ貫手を見舞うその直前…アシレーヌは、宙を飛んだ。

 

 「オオニューラ、アクロバットで追随!」

 

 アシレーヌが噴射する水のジェット噴流に、あろうことかオオニューラは飛び乗ってその上を走りだした。宙を飛ぶアシレーヌへ、オオニューラが水を蹴り宙を駆けジャンプを繰り返し迫る。

 

 「/Outputうたかたのアリア!End」

 

 じごくづきの効果は長続きしない…アシレーヌの視線がオオニューラを向いた時にはすでに、オオニューラも毒手をかまえていた。

 

 「させるな、オオニューラ、じごくづきっ!」

 

 オオニューラの毒手が、アクアジェットの中のアシレーヌの喉へと伸びーその瞬間、アクアジェットの水流そのものが爆発した。

 

 ワザ「うたかたのアリア」は、歌で水のバルーンを拡散して周囲を攻撃する音技だ。アシレーヌはアクアジェットの水流そのものを、水のバルーンとして使っていたのである。

 

 オオニューラが、毬玉のように宙を跳ね、地面に墜落する。戦闘不能だ。

 

 「…戻って、オオニューラ。

 

 最後の一体ね。行け、マフォクシー!」

 

 「/Outputもう一度うたかたのアリア!」

 

 「マジカルフレイム!」

 

 ハッカ自身、わかっているーただでさえ威力が劣るのに、みずワザをほのおワザで迎え撃てるわけがない。

 

 爆発。地面に叩きつけられるマフォクシー。

 

 「/Outputハイドロポンプでとどめ!End」

 

 マフォクシーめがけ、最後の一撃が放たれた。

 

 立ち上がろうとしていたマフォクシーが、迫る水流に目を見開く。

 

 「マフォクシー避け」「トロピウス、ソーラービームです。」

 

 その光線は、真上、雲の隙間から撃ちおろされた。

 

 ハイドロポンプは蒸発してかききえ、爆風がマフォクシーを覆い隠す。

 

 「誰!?」

 

 上空からゆっくりと降りてくるトロピウス。その口元には早くも2発目のソーラービームが用意されている。

 

 「もう一度ソーラービームです。」

 

 「/Outputムーンフォース!End」

 

 アシレーヌが、押され、地面に押し込まれ、そして後ろへと吹き飛ばされる。

 

 「私が誰か、ですか?

 

 ホープ団で航空戦と対外交渉を担当しております。空軍中将、アルソミトラと申します。」

 

 アルソミトラ、そう名乗る最後の三大幹部は、ハッカに「余計な手出しをしに来たわね?」と嫌そうな目をされても気にも留めず、トロピウスから飛び降りた。

 

 「/Outputそちらが2人がかりなら、私にも考えがあります。

 

 イーブイ、オンザステージ&オーバーラップ!End」

 

 地脈の力が地中からあふれ出す。イーブイからエネルギーが迸る。秘められた可能性が浮かび上がり、イーブイGXがブースターGXへと進化する。

 

 「/Outputイーブイ、トロピウスへかえんほうしゃ!アシレーヌ、マフォクシーへハイドロポンプ!End」

 

 イーブイ(ブースター)GXから放たれた炎が空へと伸びていき、トロピウスが必死に飛び逃げる。アシレーヌから放たれた水撃は今度こそマフォクシーを仕留めるかに思われた。

 

 「ハッカ、せっかくなのでこれを持ってきたのです。どうぞ。」「やるわね。」

 

 だから、言祝アリアは、アルソミトラがハッカに金色の正十面体結晶を渡した時も、ハッカの手の上の結晶が金色の粒子を周囲にまき散らし始めた時も、焦りで脈拍を速めたりはしなかった。

 

 「マフォクシー...

 

 …BREAK進化よ!」

 

 言祝アリアが、初めて本能的な危機感を感じて、一歩後ずさる…それと同時に、金色の粒子が、マフォクシーの体表に凝結した。

 

 【マフォクシーBREAKの マジカルフレイム!】

 

 黄金のマフォクシーから撃ち出された金色の火炎が、ハイドロポンプを瞬時に蒸発せしめた。

 

 言祝アリアが絶句するーポケモンが金色に染まる進化形態?そんなものは知らない。ましてマフォクシーのマジカルフレイムがアシレーヌのハイドロポンプに勝つ?ありえない。

 

 言祝アリアが呆然としている間に、トロピウスはアルソミトラを載せ直してイーブイ(ブースター)GXの射程圏外へ飛び去って行った。

 

ー*ー

 

 「メガサーナイトだけで終わりそうね。」

 

 ウキクサのメガラグラージが、ぱたりと倒れる。

 

 「何やってるんですかウキクサ?」

 

 空からトロピウスとともに降りてきた空軍中将は、呆れ声で海軍中将に問うた。

 

 「おうアルソミトラ、あの歌姫、さすが軍の統領やってただけあるぜ。俺に劣らねぇ強さだ。」

 

 「だからって…そもそもEXオーバーラップなしではスペックが半分なんですよ?相変わらず粗暴な戦い方を…

 

 …まあ、こんなこともあろうかと、思ってはいましたが。」

 

 ハッカに渡したのと同じ、金色の正十面体結晶。アリア・カナサシが目を剥く。

 

 「それは...BREAKオーラ結晶!力場のないユキコシ外では使えないでしょ…!」

 

 ユキコシ地方にのみ存在する、特殊なオーラでできた概念力場。その下でのみ実現されるパワーアップであるBREAK進化が、シンシューでできるはずはない...

 

 「8年前、優秀な科学者が我がホープ団に入りましてね…短時間なら、ポータブルで疑似BREAK力場(フィールド)を展開してBREAK進化を使えるようになったんですよ。

 

 さて、ハッカにも航空支援を出しておきますか。ムクホーク、オトシドリ!」

 

 2体のひこうポケモンが、空を飛び去って行く。ウキクサはそれに目もくれず、ボールと金色結晶を掲げた。

 

 「しっくり来るねぇ。やっぱり俺はユキコシの民だぜ。

 

 オムスター...

 

 …BREAK進化ァッ!」

 

 金色の粒子が満ちる。オムスターへと凝縮する。オムスターの体表が金色に染まる。

 

 金色の触手が、(メガ)サーナイトEXをからめとった。

 

 【オムスターBREAK専用特性:あぶないしょくしゅ 相手のポケモンをランダムに入れ替えられる】 

 

ー*ー

 

 言祝アリアとアリア・カナサシは、一気に劣勢となった。

 

 荒れた地面を、岩陰から岩陰へ逃げる。それを着実に追い詰めていくのは、ハッカのマフォクシーBREAKとウキクサのオムスターBREAK。そして上空では、トロピウスとムクホークとオトシドリが我が物顔で飛び回り、空襲を繰り返す。

 

 「コトホギさん、どうやら元気そうね。」

 

 一つの岩陰で鉢合わせた相手に、アリア・カナサシはそう呼びかけた。

 

 「/Outputそう見えます?

 

 ジリ貧ですよ。End」

 

 「私はオボンを使いきったわ。コトホギさんは?」

 

 【アリア・カナサシ 残りアイテム:げんきのかけら×2、なんでもなおし×1】

 

 「/Outputまだ何も使ってはいませんが、ラプラスとアシレーヌをやられましたしイーブイもイワパレスも手負いです。回復させたらげんきのかけら1つしか残りませんね…End」

 

  【言祝アリア 残りアイテム:げんきのかけら×3、ラムのみ×2

 

     うち使用保留アイテム:げんきのかけら×2】

 

 『BREAK進化には勝てそう?』

 

 「/Outputブレイクしんか…?End」

 

 「ポケモンの身体が金色になるアレよ。ユキコシ版のメガシンカみたいなやつね。…私も映像でしか見たことなかったわ。」

 

 それならば、知らなくても無理はない…言祝アリアは納得し、そして頷いた。

 

 「/Outputそれだけならなんとかなってます。特性と専用ワザくらいは増えてるかもですが大まかに変わりませんし、ポケモンEXやGXの2倍ほどには種族値も増えてなさそうですEnd」

 

 アリア・カナサシも同じ見立てである。そもそも、「強すぎるのでポケモンバトルでスコアを2倍換算する」などという特殊ルールが作られているポケモンEXは強化形態としても別格なのだ。

 

 「/Output問題は、むしろEnd」

 

 言祝アリアが、タッチペンをタブレット端末から離して真上へと向ける。

 

 【トロピウスの ソーラービーム!】

 

 【ムクホークの エアスラッシュ!】

 

 【オトシドリの いわなだれ!】

 

 空爆。まさにその言葉にふさわしい攻撃が、アリア・カナサシのワタシラガと言祝アリアのイーブイ(ブースター)GX、アシレーヌを襲った。

 

 逃げ惑う3体、けれどすでに何度目かの空襲についに耐えきれず、ワタシラガとアシレーヌがボールに戻されていく。

 

 「おいでニンフィア!

 

 ...ええコトホギさん。アルソミトラの近接航空支援をなんとかしないと、どうにもならないわ。」

 

 そんなことは、言祝アリアだって言われなくともわかっている。ただ、それができないから2人とも困っているわけで。

 

 「/Outputこちらの攻撃が届かない絶妙なところから攻撃してきますよね。空軍ってそういうものですけどEnd」

 

 制空権なき陸戦戦力などこんなもの、というほうが正しいかもしれない。2人のアリアの手持ちポケモンで飛べるポケモンはワタシラガとチルタリスだけ、ワタシラガはもうやられてしまったし、メガシンカとオーバーラップの重ね掛けができるチルタリスをジムトレーナー戦で出してしまうのは惜しい。

 

 数十秒、悩む素振りを見せ、それから言祝アリアはおもむろにチラチーノをボールから出した。

 

 「/Output歌姫さん、ニンフィアに、スピードスターって覚えさせてます?End」

 

 「ええ、ちょうど思い出させて…それが?」

 

 「/Outputわなを仕掛けましょう。…BREAK進化とかいうのを、相手が自分たちだけの切り札だと思っているのなら、使えますEnd」

 

ー*ー

 

 金色の粒子が、岩陰に沸き上がり、華々しく光を散らしている。

 

 

 そんなわけはないーアルソミトラはそう思った。

 

 ユキコシ地方に於いては、BREAKワザ・BREAK進化に特別なアイテムは必要なく、オーラ結晶(カケラ)が必要なのは空間中のオーラが払底している場合だけだ。けれどそれはBREAK力場が存在するユキコシだけで、力場が存在しない外の地方ではBREAKオーラは概念的に存在することすらできない。そして、疑似BREAK力場の技術が流出しているはずはないから、アリア・カナサシと言祝アリアがBREAK進化なりBREAKワザなりを使えるはずもない。

 

 純粋なポケモントレーナーとしては、見え透いた罠だと鼻で嗤って済ませただろう。だが、軍人としてのアルソミトラは、そういうわけにいかなかった。

 

 もし仮に軍事機密が流出しているとしたら?カナサシおみやの英雄歌姫が、ホープ団の最新技術を掠め取っているとしたら?万が一そのようなことがあれば、ホープ団のシンシューでの軍事的優位は不確かなものとなってしまう。

 

 「ムクホーク、オトシドリ、ブレイブバード。トロピウス、ドラゴンハンマーです!」

 

 だからアルソミトラは、岩陰へと3体のポケモンを総突撃させた。それは軍人としての反射的行動であり...

 

 「ニンフィア、ミストバースト!」

 

 「/Outputチラチーノ、ハイパーボイス!End」

 

 フェアリーエネルギーの大爆発と、響き渡る爆音。その坩堝へと頭から突っ込んでしまった3体のひこうポケモンは、たちどころに脳震盪を起こして気絶した。

 

ー*ー

 

 「互いに砕きあわせたスピードスターとか、そんなところよね?」

 

 ハッカもウキクサも、2人のアリアがどうやってBREAK進化もどきを演出したのかの見当はついていた。

 

 「俺にゃわからねぇ。アルソミトラの奴は、策に溺れがちだがバカじゃねえ…小手先の小技で騙せるように思えねぇんだよな。」

 

 ただ、やり方はわかっても、それがどうして成功できたのかは納得できないでいるわけだが。

 

 「こっちには、演出効果の天才がいるのよ。ね、コトホギさん?」

 

 「/Outputアルソミトラさんのほうに、それっぽく見えれば、疑わしいだけでも何か過剰な反応を引き出せる…そう思ったんですEnd」

 

 「人の心を読んで、人に見せて、人の行動を操るか。即興でやられちゃたまらないわね。」

 

 全然そんなこと思っていなさそうに、ハッカは両手をひらひらさせた。

 

 「ハッカの言う通りだ。それにもう俺はお前らのことを認めたからな。あんまり長々とやっても意味ねぇ。」

 

 「あら、じゃあさっさとジムリーダーのところへ通してもらえるの?」

 

 「それは無理な相談よ。

 

 同じ階級でも、あたしら陸海空軍はただ飯を食う立場、モロコシの糧秣軍は飯を作って運ぶ立場。頭が上がらないのよね。」

 

 「そういうこった。仕事はサボれねぇ。

 

 んなわけで、一撃で決着、つけようぜ。」

 

 「/Output望むところです。イーブイ、ワンモアオンステージ!End」

 

 「そうね。やぶさかじゃないわ。

 

 サーナイト!」

 

 一呼吸の、沈黙。

 

 そして4人は、一斉に叫びあるいは音声出力した。

 

 「やっちまえオムスター!」

 

 「焼きつぶしなさい、マフォクシー!」

 

 「サーナイト、全力を見せてやるわよ。」

 

 「/Outputラスサビですよ、イーブイ!End」

 

 【オムスターBREAKの メテオビーム!】

 

 【マフォクシーBREAKの サイコキネシスBREAK(サイコストーム)!】

 

 М(メガ)サーナイトEXの ブリリアントアロー!】

 

 【イーブイGXの とっておき!】

 

 黄金のオムスターBREAKが、目もくらむばかりの光線にいわエネルギーを込めて放つ。

 

 対するはМ(メガ)サーナイトEX。無数のフェアリーエネルギーの矢を現出させるやいなや、それらを一束にまとめ、はっしと発射する。

 

 マフォクシーBREAKは、黄金の身体から黄金のサイコパワーを放出し、自らをサイコパワーの竜巻で包んだ。

 

 ぐんぐんと大きくなる金色の竜巻に、イーブイGXが身一つで飛び込んでいく。

 

 いわエネルギーの光線と、フェアリーエネルギーの矢が衝突した。閃光をパチパチ弾きながら、互いにぐいぐいと押し合っている。

 

 サイコパワーの黄金竜巻が、ギシギシときしみ音を立てながらまだまだ大きくなっていく。

 

 ウキクサが笑う。

 

 ハッカが手に汗を握る。

 

 アリア・カナサシが髪をかき上げる。

 

 言祝アリアが祈る。

 

 フェアリーエネルギーの矢が、いわエネルギーの光線を裂いて四方へ散らしながら前進を始めた。オムスターBREAKがズルズルと押され、それよりずっと早く矢が迫り、そして衝突。

 

 サイコパワーの竜巻が突如として大爆散し、広がる爆煙の中からマフォクシーBREAKとイーブイGXが反対方向へと吹き飛んでいく。

 

 立っていたのは、М(メガ)サーナイトEXのみだった。

 

ー*ー

 

 「コトホギさん、そんなに引きずることないわよ。」

 

 別にバトルとして引き分けても、3体倒したならジムリーダーに挑戦できる…問題はないのだと、アリア・カナサシは言祝アリアを慰める。

 

 「/Outputでも、歌姫さんは勝てたのに、私は…End」

 

 「そういうこともあるわよ。地力が違うわけだし。」

 

 ジムリーダー戦バトルコートが、ゆっくりと開かれる。

 

 「無事、3中将を越えたようでありますな。」

 

 デスクの上の書類を眺めていたモロコシ中将が、立ち上がって敬礼を一つ。

 

 「ええ。なかなかしびれるバトルだったわ。」

 

 「なかなか、か…

 

 …一つ、聞いておきたいであります。ポケモンの回復をさせながらでいいので応えるであります。」

 

 いそいそと、2人のアリアは残りの回復アイテムを出して、気絶していたりダメージを受けているポケモンに使う。

 

 「/Outputイーブイ、ラプラス、アシレーヌ、もう少しお願いするかもEnd」

 

 【言祝アリア 残りアイテム:ラムのみ×2】

 

 「ワタシラガ、ニンフィア、後詰めを頼むわ。」

 

 【アリア・カナサシ 残りアイテム:なんでもなおし×1】

 

 それで何?アリア・カナサシが視線を送ったのに応じて、モロコシは再び口を開いた。

 

 「アリア・カナサシ。あなたはなぜ、軍に戻らないでありますか?」

 

 「…もう、惨事を引き起こすつもりも見るつもりもないからよ。」

 

 「そうでありますか。

 

 ですがどのみち、ナショナリズムが高まろうが高まるまいが、争いは近いであります。

 

 あなたが歌わないのは勝手です。ですがその場合、誰が戦うことになると思います?

 

 シンシューの民とポケモン達だ。」

 

 「それは…」

 

 アリア・カナサシとて、戦争から逃げていても、戦争から逃げ続けられないことは察している。分裂したまま中世に毛が生えたような体制を続けさらにはコーシューに狙われるシンシュー…いつまでもなんの波乱もなく時代に乗り遅れ続けられるわけがないから、彼女は言祝アリアを時代を動かすために担ごうとしているのだ。

 

 「なぜあなたは、再び歩き出そうと思ったのでありますか?旅に出たのでありますか?」

 

 そうだ。それはアリア・カナサシにとって答えが出ている問いだ。結局彼女はシンシューの未来のために黙ってはいられないからだ。だから、それを言おうとして、しかしそれより先にモロコシ中将が次の言葉を。

 

 「…あなたは善なる人だ。本官らとは違う。だからなのでしょう?シンシュー地方のため、動くことにトラウマがあっても動かずにはいられない。

 

 志があって旅に出て、志があってこうしているのでしょう?それなのに、やらなければならないこともやらなければならないということもわかっているのに、初心と躊躇の間で彷徨っているのなら、背中を押すのが、ジムリーダーとしての私の役目であります。

 

 さあ、バトルを始めましょう。」

 

 【シラアイジムジムリーダーの モロコシが 勝負を 挑んできた!】

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