アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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※本作は科学者やサイエンティストに対する偏見を助長するものではなく、あくまでフィクションです(なんなら私自身理系院生です)。
 また同様に、シンシュー地方を「文明の行き届かない戦乱の地」のように描写しておりますが、モデルとなった地域への偏見を助長するものではなく、また作者がこのように考えているわけでもありません(私のような昆虫オタクにとって、長野・山梨県は観光と自然を楽しめる素晴らしい土地であることを伝えておきます。中央新幹線が未開通な現在、名古屋からでもそれなりに遠隔であることは事実ですが…)。

 学会前なので本格的に更新遅延すると思います。数週間規模で更新止まるかも。


♪4 ポケモン世界、ポケモン博士抜きで。

ー*-

 

 しんみりとした空気をどうにかしたくて、私はただそのつもりで、歌姫さんに聞いたんです。

 

 ”あの、ゲームだと、ポケモンの物語って、主人公が10歳でポケモン博士から「最初の一体のポケモン」をもらって旅立つんです。

 

 私も、もらえたりしますか?...イーブイを返してもらえるって言うのにあつかましいのはわかってるんですけど…”

 

 その時の、あっさりとした答え、ちょっと忘れられないかもです。

 

 「いないわよ、そんなの。

 

 …何、そんなに驚いた顔しなくてもいいじゃない。いちいち面白いリアクションの子ね。」

 

 元アイドルですから…

 

 「ここシンシュー地方は山奥のド田舎、4年前まで内戦してた修羅の地、この世紀にもなってヒスイ時代のシンオウと危険度据え置き。いないわよ、そんなの。」

 

 ”最初の三体が配られない…ってことですか?”

 

 「最初の三体じゃなくて、最初の三体もそうだけどそれ以前に、それを配るポケモン博士がいないの。」

 

 ポケモン博士がいない地方。

 

 絶句しました。

 

 「…まあマッドサイエンティストなら掃いて捨てるほどこのエクリプスタウンにあふれかえってるけど。」

 

 何もこんなロクでもない地方に転生させなくてもいいじゃないですか、神様仏様アルセウス様、ね?

 

 「そういうわけだから、会いに行ってみる?せっかく会いたそうだし。」

 

 ”あまり気が進みませんね。”

 

 だってマッドサイエンティストです。オーキドとかプラターヌとかは好きなキャラですが、どっちかというとアクロマとかザオボーみたいなのが出てくることはもう見えてる地雷です。

 

 「…『せっかく会いたそう』なのは、貴女じゃなくて、向こうの方なのよ…どうやって嗅ぎつけたんだか。」

 

 ますます気が進まなくなってきました…

 

ー*-

 

 可能性の殿堂(プロパビリティ・タワー)

 

 そう呼ばれる、偏執的狂気に満ちた塔が、エクリプス湖の波打ち際にそびえ立っている。

 

 なにしろそれは無数の枝を持ち、枝先に謎のマシンをぶら下げているのだ。設計者たるマッドサイエンティストたちは「空中に実験室を置くことで市民の安全と実験スペースの確保に配慮し…」などと言っているが、市民は「どうせ、『無数に枝分かれする可能性を表現した』くらいだろ」と思っているこの反重力的ビジュアルのシンボルタワーに、言祝アリアは案内された。

 

 「…覚悟を決めてほしいの。

 

 今から会うのは、エクリプスタウンに寓居する数百人のマッドサイエンティストのトップに立つ、マッドサイエンティストの中のマッドサイエンティスト…ウルトラマッドサイエンティストよ。」

 

 (ウルトラマッドサイエンティスト。)

 

 激辛グルメ番組並みにヤバそうな響きだ、甘党の言祝アリアはそう思った。

 

 「おっと歌姫殿、それはあんまり失礼な言い草じゃないかね?」

 

 歌姫は、背後から聞こえてきたその声にため息一つ、振り返ったー

 

 ー白衣を着こんだ、腹太鼓ができそうな恰幅のおっさん。それが、ギラギラした目を持つその男への、言祝アリアの素直な第一印象であった。

 

 (まだそんなに有名なじゃなかったデビュー最初期、いましたね…こういういかにもなエロおやじ…)

 

 「は?アンタなんてウルトラマッドサイエンティストで充分よ。それともなに、数十年姿が変わらないから、『ホウオウの血を呑んだバケモノ』とでも?」

 

 「フッハッハ、わたくしがホウオウをホープ団から買い取りたかったのは事実ですが、成功していたとしても血を呑むなどという神秘的な方法は取りません。

 

 わたくしの!これは!すべて!科学の!たまものでございます!

 

 街も!人も!そしてポケモンも!」

 

 あっコイツ狂人だー言祝アリアは自分の人を見る目の無さを恥じた。

 

 「それでそれで歌姫殿、歌姫殿が握られているという異世界転生者、連れてきてくださったのですね!

 

 さあ、その少女を早くこちらへ!サンプリングしたい!

 

 重力曲率は?遺伝情報は?サイコパワー感応度は?変化ワザ指数は?バイタルデータは?身体能力に違いはあるのでしょうか?保有無症候菌類は?ポケルスも存在しないのか?

 

 ポケモンのいない世界の人類!異世界から来た人間が持つ、異世界の痕跡!ああ!アブストが長くなりそうだ!」

 

 (ひえっ…)

 

 言祝アリアが一歩二歩と後ずさりする。

 

 「あの、さ。

 

 別に引き渡すつもりじゃないから。ただ、相談と、ちょっと借り物をしに来ただけで。」

 

 「なんと!ふむ!

 

 しかし、たまたま観測機器の傍を通り過ぎてまぐれでデータが取れてしまうこともありますからな!ささ、こちらへ…」

 

 見るからに何かを測定していそうなゲートの方角へ、おっさんが手招きする。

 

 (え、えっと…で、でも行っちゃいけない気がする...ど、どうすれば…!?)

 

 あわあわする言祝アリアの手を歌姫が引く。もう片手でモンスターボールを握りながら。

 

 「来て、キュウコン。

 

 れいとうビーム。」

 

 透明感のある白い毛並みのきつねポケモンが、氷点下のビームを、点滅中の金属ゲートへと吹きかける。

 

 「ああっ、そんな殺生な!」

 

 凍り付いてうんともすんとも言わなくなったゲートを、歌姫は言祝アリアを引きずりスタスタ通り抜けた。

 

ー*-

 

 ”あの、アローラキュウコン、ですか?アローラから遠く離れた内陸ですよね?行ってきたんですか?”

 

 アローラ地方ですらラナキラマウンテン周辺にのみ棲息し、他の地方ではトレーナーからもらうか放されているところでゲットするしかないポケモン、アローラリージョンフォームロコンとその進化系のアローラキュウコン。それが内陸地方であるシンシューにいるのは、言祝アリアにとっては意外なことであった。

 

 「いえ、違うわ。

 

 この子は収斂進化、アローラのすがたじゃなくてユキコシのすがたよ。あるいはシンシューのすがたと言わなくもないけど。」

 

 ”どう違うんですか?”

 

 「…さ、さあ...タイプは同じ、覚えるワザも同じ…ああ、特性が違うんだっけ?」

 

 「『ゆきふらし』で雪を降らせられない個体はすべて『ぜんてんこう』持ちで天候変化の影響を受けない個体ですね。」

 

 そうじゃないと「ゆきがくれ」では耐えられないからー理由が過酷過ぎる。

 

 「で、それはそうと、見てもらえた?ウルトラマッドサイエンティスト。」

 

 「もうその呼び名でいいですよ歌姫殿。

 

 …なるほど、異世界人…アリア・コトホギだっけ?は喋れないと。」

 

 「トラウマだそうよ。なんでも声のせいで酷い目にあったんだって。何か、解決策がないか相談しに来たの。

 

 …おみやで祈祷してもいいけど、本人が硬く決めた心因性の問題って信仰じゃ解決できないし、ポケモンで精神干渉したら神格でも非神格でも結局それは洗脳でしょ?」

 

 ”お、お手柔らかに…”

 

 「フッハッハ、洗脳!それも!悪く!ありませんな!

 

 恐怖を消し去る薬剤!さあ!どれから試します!?科学はたくさんの可能性をくれますよ!」

 

 言祝アリアが椅子ごと後ずさり、歌姫は頭を抱える。

 

 「こ、このマッドサイエンティスト…!」

 

 「誉め言葉ですな!

 

 それともどうなさいます!?催眠!脳埋め込みチップ!ゴーストポケモン憑依なんてのも!ま!科学の!範疇です!」

 

 そろそろ言祝アリアは椅子から転げ落ちそうである。

 

 「…ワタシラガ、こいつを黙らせて。」

 

 【ワタシラガの わたげ!】

 

 「フッハ、何をモガモガ…ムググ、ゲホゲホ…」

 

 「はあ…話が進まない…

 

 あのさ、声を出したがってない子に無理やりしゃべらせても可哀そうなだけでしょ。

 

 しゃべらなくても旅ができるようにしてほしい、ってことなの。」

 

 「なるほど、義体技術!脳にもう一つ口を外付けして喋らせろと!しかしさすがにわたくしどもの科学でも数週間の技術発展が必要です!それよりサイコスキャンで精神を投影して、人工音声を!」

 

 「極端極端。アンタよく逮捕されてないわね。

 

 筆談を読み上げてくれるくらいでいいのよ。」

 

 「なんと!

 

 書いたものを読み上げる!?ンなものは子どもの夏休み工作!科学のたまものではなぁい!」

 

 なんだか一生分のドン引きをした気がする...というのが、言祝アリアの偽らざる感想であった。

 

ー*-

 

 「フン、これがご希望のオモチャです。」

 

 ぞんざいに、それはもうぞんざいに、マッドサイエンティストは一台のタブレット端末を放ってよこしてみせた。

 

 「直接画面に書き込むか、紙に書いて画像を読み込めば、指定したとおりのプリセット音声あるいはカスタマイズ音声でしゃべってくれます。

 

 …本当にハイテクは要らないのですね?せめて思考入力くらい」

 

 言祝アリアが返答する…前に、歌姫は首を勢いよく横に振った。

 

 「充分よ。それよりバトルコートを借りるわね。」

 

ー*ー

 

 バトルコートに連れて来られるなり、言祝アリアは渡されたばかりのタブレット端末をてちてちと叩いた。

 

 「/Outputあの、どうして提案を断ったんですか?いろいろ行き過ぎでしたが、思考入力というのは悪くなかったと思うのですが…/End」

 

 「…特徴的な出力開始音ね…」

 

 あまりにも人間と遜色なくしゃべれるからこそ、わざわざ関数を発音させる初期設定になっているらしい...歌姫はこれを設計しただろうマッドサイエンティスト集団の意味わからなさに肩をすくめる。

 

 「…あのウルトラマッドサイエンティストを、甘く見ちゃだめなのよ。いろんな意味で。」

 

 「/Outputいろんな意味?/End」

 

 「…一つには、この街の科学は数十年進んでるけど、アイツはもっと進んでるってこと。

 

 もう一つは、科学ばっかで倫理が無茶苦茶ってこと。

 

 そして最後の一つは、科学のためならなんでもやるってこと。

 

 思考入力なんて許したら脳内盗聴されるわよ。」

 

 「/Outputえぇ…

 

 じゃ、じゃあ私が書き込んだ会話も盗聴されてたり?/End」

 

 「…そんな無駄なことはしないのが、あのウルトラマッドサイエンティストがウルトラマッドサイエンティストたるゆえんなのよ。

 

 この後私が外資のセキュリティ会社にその端末を出したら、バックドアの類はロトムでも入れれば一発で見抜かれる。だから、外の地方でもとっくに実用化されてる『読み上げ入力ソフト』くらいのものにわざわざ小細工は仕込まないでしょうね。」

 

 エクリプスタウンの外では再現も解析もできない技術を提供しつつ、その中にいろいろと仕込む…そして、どうせ外の地方で解析できるような枯れた技術に仕込んでもバレるから最初からやらない。なかなか抜け目も大人げもないマッドサイエンティストである。

 

 「そんなことより、始めるわよ。」

 

 「/Outputあの、何をですか?End」

 

 「何をって、貴女がさっき頼んできたから、ここに来たんじゃない。」

 

 「/Output筆談は不便でしたから助かりましたけど、私はそんな、読み上げソフトをおねだりしたつもりは…End」

 

 「そうじゃなくて、貴女最初に言ったじゃない。

 

 『最初の一体のポケモンをもらって旅立つんです。私も、もらえたりしますか?』って。

 

 だから…そうね、これはゲームで言えばチュートリアル。

 

 この子と、貴女のイーブイで、私のポケモンEXに勝ちなさい。」

 

ー*-

 

  可能性の殿堂(プロパビリティ・タワー)最上階、カナサシ湖とカナサシ盆地全域を見下ろせるシースルーの展望デッキで、恰幅のいい白衣の男がくつろいでいる。

 

 「歌姫殿は未だ健在にして常に聡明、と言ったところですね。」

 

 完全科学合成ビールをゴクゴクと呷る。

 

 「嗚呼、しかしわたくしは…叶うなら、叶う事なら...

 

 歌姫殿、歌姫アリア殿、あなたも、わたくしの実験のマテリアルにしたいのですがね…!」

 

 ミシミシ…バキッ!分厚い強化ガラスでできたビールジョッキが、粉々に砕け散った。




 この歌姫、面倒見いいな!?

 【キュウコン(ユキコシ・シンシューのすがた) きつねポケモン こおり/フェアリー】

 ユキコシ地方とシンシュー地方の境の山脈の氷河住まう美しいポケモン。ユキコシではサンゴジュ南方の山々からたびたび降りてきては雪山の化身と信じられ、近年特殊個体であるユキツヌシカミのオーラによってロコンから進化することが判明した。一方シンシューでは、北部山脈を吹き降ろす風によって全身凍結することが進化の条件らしい。

 
HP攻撃特攻防御特防すばやさ
キュウコン73768175100100505
キュウコン(アローラ)73678175100109505
キュウコン(ユキコシ・シンシュー)7376907510091505
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