アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
「/Output何が目的なんですか?End」
言祝アリアが、尋ねる。
「目的?目的!
それならずっと!同じです!わたくしたちは!世界を!わたくしたちの科学で染め上げたい!」
アリア・カナサシは、その言葉に首をひねり、そして徐々に、表情を驚愕で染め上げていった。
「…まさか、
世界を己の科学で染め上げる…マッドサイエンティストたちは最初から、その思想の下にこの街を築き上げてきたのだ。そして今回は、街の建設ではなく街の破壊というカタチでその思想が発揮される…
「わたくしたちの『可能性』を引き出し制御する理論は!並行する可能性を操作する科学は!世界すべての可能性を!制するでしょう!
明日は晴れるか雨が降るか!この勝負は勝つのか負けるのか!わたくしたちの未来はどちらか!
…すべての可能性を制した者は、世界を制すると言っても過言ではないでしょう!」
世の中のすべての「可能性の分岐」で、自分たちにとって都合のいいものだけを選択させ続け、世界をそのように捻じ曲げる...そんなテクノロジーがあれば、確かに世界を制することができるだろう...なにしろご都合主義の科学化だ。
「いずれ!わたくしたちは!わたくしたちが常にうまくいく可能性を汲み上げ!世界をそちらへ収束させることができるようになる!
...ですが、そのためには!この湖底に沈む!可能性を司る伝説のポケモンが!必要なのです!
邪魔をする者は!すべてなぎ倒せ!ミュウスリー!」
【ウルトラマッドサイエンティストの Dr.バックレアが 勝負を 仕掛けてきた!】
ー*ー
アリア・カナサシのニンフィアはやられてしまい、今健在なのは言祝アリアのイワパレスのみ…もちろん戦力は不足している。
「みんな、出てきなさい!」
「/Outputお願い、みんな!End」
2人のアリアが、ボール10個を一気に投げた。
【ミュウスリーEXの サイコキネシス!】
サイコパワーで、ポケモンたちが宙へと持ち上げられる。先ほどと同じように、地面へと堕として叩きつけるつもりなのだろう。
「ワタシラガ、コットンガード!」
「/Outputアシレーヌ、ラプラス、なみのり!チルタリス、コットンガード!End」
生み出された水かさと綿毛をクッションに、ポケモンたちはサイコキネシスによる叩きつけを耐えてみせた。
ミュウスリーEXが、レンズの目を小刻みに拡縮させる。
【ミュウスリーEXの…】
内蔵されているEXオーバーラップ技術の真髄たちが、ギュルギュルと音を立て駆動する。それらは、一般に「真空の揺らぎ」と呼ばれる宇宙の基底エネルギーの変動から、エネルギーを抽出していた。
【
白熱。光球が空間を抉り、吸い寄せられるようにしてメロエッタに衝突。そしてその一撃で、メロエッタは戦闘不能へと追い込まれた。
「メロエッタ、戻って!
全員オーバーラップ!サーナイトはメガシンカよ!」
アリア・カナサシが、10枚のディスクを取り出して自分と言祝アリアのポケモンたちへ放り投げる。と同時に、メガシンカエネルギーが彼女とサーナイトを輝かせた。
「/Outputチルタリスも!End」
アリア・カナサシに続き、言祝アリアもキーストーンを掲げる。
ミュウスリーEXの超合金の耳が、クイクイと動いたー直後、2人のアリアの10体のポケモンからあふれ出し始めていたエネルギーが、一瞬だけ急速に弱まる。
(...EXオーバーラップを、阻害されかけた...!?まさか『可能性の汲み上げ』って、敵味方を問わないの...!?)
「お気づきに!なられたようですね!
そうです!通常のディスク型機器『EXエディッションプレート』ではなく!ミュウスリー機体内に内蔵されている『EXエディッションドライヴ』は!自らの可能性を引き出し重複させるEXオーバーラップとともに!敵の敗北の可能性を引き出し現在の可能性と差し替える
常に、パラレルに未存な可能性から!自らの有利と敵の不利を!現実の世界線へと重複させる!勝敗の可能性選択を引き寄せ続けるのです!」
「/Outputでもその機能はまだ不完全で不具合がある、違いますか?だから、作動に失敗してEXオーバーラップに一応成功している…!
復旧前に畳みかけます!最大火力で一斉攻撃!End」
言祝アリアにとって、それは何もおかしいことではない...アイドルにとって、小さなライブハウスから国際的大舞台まで、現場の機材トラブルなど珍しくはないのだ。
「コトホギさんの言うとおりね。
ハイパーボイス、げんしのちから、ギガドレイン、ふぶき!」
十色の攻撃が、ミュウスリーEXへと殺到する。避けることなど不可能かに思われた。
大爆発。
クレーター状に芝生がえぐれ、その中央でミュウスリーが横たわっている。
「やった...わよね?」
【ミュウスリーEXは ねごとを つかった!】
【ミュウスリーEXの
言祝アリアのイワパレスEXが、爆発とともに力尽きる。「いやいやいや」アリア・カナサシは絶句した。
「まっさか!わたくしの!科学力に!不具合があるわけありませんでしょう!
ミュウスリーの人工知能が、通常のポケモンだろうがポケモンEXだろうが10体程度なら大したことない!勝敗の可能性は変動しないと判断した!その程度のことです!」
「無茶苦茶すぎるわよ!?10対1で、手抜きでバトルして、おまけに回復のためって言ってもねむりこけるなんて!」
「/Outputたぶん違います歌姫さん!
『ねむり』で回復して、ねむり状態の間に『ねごと』で出せるワザの選出も、寝ている間の照準も、全部『可能性の操作』でやっているんです!
使いたいワザを使える可能性を引き出して、それが命中する可能性を引き出して!End」
バックレアが、パチパチと拍手する。
「そんな、それじゃ、ネッコアラと同じで眠ってても止まらないし、それどころか、一撃必殺ワザも『命中している可能性』を引き出してくることができる...ってことじゃない!」
【ミュウスリーEXは ねごとを つかった!】
「だから!そう言っているではありませんか!」
【ミュウスリーEXの ぜったいれいど!】
「聞いてないわよ!」
「/Outputとりあえず攻撃!なんでもいいですから!歌姫さんのポケモンも!End」
全力の一斉攻撃を、なんでもないかのようにねむりで回復され。
命中率30%のはずの一撃必殺ワザを「命中している可能性を引き寄せる」ことができると発覚した。
ミュウスリーEXへの逆転の可能性が見つからない...2人のアリアも、ポケモン達も、もはや恐慌状態にあった。
ー*ー
【ミュウスリーEXは ねごとを つかった!】
【ミュウスリーEXの ぜったいれいど!】
アマルルガEXが気絶する。
【ミュウスリーEXは ねごとを つかった!】
【ミュウスリーEXの ぜったいれいど!】
ラプラスEXが気絶する。
【ミュウスリーEXの ねむり!】
薄目を開けかけていたミュウスリーEXが再びスリープし、同時にそこそこ削られていたHPが完全回復された。
「/Output歌姫さん、どうすれば…!End」
「いったん退いて立て直す…いえ、そういうわけにも…」
カナサシ湖の凍りついた湖面の下から、まるでアリア・カナサシを引き止めるかのように、怪音が、いや悲鳴が、聞こえている。
湖面が複雑にひび割れ、あちこちから氷片がいくつも舞い上がる。
「逃げても!いいんですよ!
しかし!その場合は!わたくしたちの!不戦勝ですがね!」
カナサシ湖のはるか中央が、原色のキラメキを見せている。
湖底に封印された邪神「おひだりさま」…どうやらその復活は、かなり差し迫っているようだった。
(人数を集めれば、回復させて立て直せば、何か奇策を用意すれば…!ミュウスリーに勝てるかもしれない…!
でもウルトラマッドサイエンティストの狙いは時間稼ぎ!短期決着はとてもできないわ…!)
【ミュウスリーEXは ねごとを つかった!】
【ミュウスリーEXの ぜったいれいど!】
チラチーノEXが気絶する。
チラチーノをボールへ回収しながら、言祝アリアは考え続けていた。
(状態異常はダメ、ねむりに重ならないし、CC:パオジアンEXは機械であることを活かして再起動で状態異常回復してました。
のろいで定数ダメージ…いえ一斉攻撃でも完全回復されてしまうのに、4分の1を削ったところで回復に追いつかれます。
こちらも一撃必殺ワザを…いえ、ミュウスリーEXが『可能性』の能力で確率を操作して自分のワザを必中にできるのなら、相手のワザを必ず外れるようにもできますか…
それか『ほろびのうた』で倒す…?でも、それをすればこちらも全滅、後がなくなりますね…)
勝てる可能性が見当たらない…それもそのはずだ。ミュウスリーEXは、こちらのEXオーバーラップをキャンセルできるにもかかわらず、しなかった。それはつまり、そうしなくてもミュウスリーEXにとって負ける可能性は生まれないということ、言い換えれば、ミュウスリーEXの人工知能は、2人のアリアが何をしようとも勝てる可能性などないと予測演算しているということだ。
おおむねそんなことに気づいて、言祝アリアは愕然、タッチペンを取り落としそうになった。勝ち目がないことにではない、勝ち目が一つしかないことに驚いたのだ。
「/Outputもしかしなくても、人工知能の予想外のことをしないと勝てなかったりしますよねEnd」
「御名答です!ですがそれができるものか!
人工知能が予想もしなかった、現実世界へ汲み上げようと思いもしなかった可能性を見せれば、あるいはわたくしのミュウスリーEXに勝てるかもしれません!が!
できますか?この、エクリプスタウンの全智の頂点に立つ高性能AIを!超えることが!」
「同じ内容を2度繰り返さなくていいわようざったらしい!」
叫びながら、アリア・カナサシは残りの戦力を数えて脳内で算盤をはじく。
(もう、猶予はない…!)
おひだりさまが封印から蘇った時何が起きるか想像もつかない。力の分与だけでも絶大な龍神様をして、相打ちするしかなかった相手だ。ことによるとシンシュー地方くらい地図から消え失せてもおかしくはない。
【ミュウスリーEXは ねごとを つかった!】
【ミュウスリーEXの ぜったいれいど!】
ワタシラガEXが倒れる。
「コトホギさん」
アリア・カナサシは、ボールにワタシラガを戻しながら、言祝アリアに目を向けるでもなく、呟くように声をかけた。
「/Output…思ってましたよ。歌姫さんも、同じだって。選択を迫られるのは。自分に、自分の力に目を背けられなくなるのは。
どうします?End」
「…私は決めたわ。
今度は間違えない。だから…今度は間違いじゃない!
謹み敬いて乞い奉る!湖底の竜神様よ、我が身に下りてその名を轟かせ給え!我、アリア・カナサシこそ、当代の現人神なり!汝の依代なり!」
アリア・カナサシが、凛とした、決意に満ちた声を響き渡らせる。
”「
何者かの叫び、おぞましく、怖ろしく、畏ろしく、すさまじく、素晴らしく、そして何よりも大きく何よりも静かな叫び声が、湖底から人々の耳朶を打って、自らの依代に応えた。
(これが、カナサシ湖底の、龍神...!)
眩い光が、言祝アリアの視界をコンマ数秒だけ奪った。
ー*ー
にわかな風が、雲を吹き流す。
言祝アリアは、アリア・カナサシから四方へ発散されたプレッシャーに、思わず一歩後ずさりした。
アリア・カナサシの姿が、ぼやけている。人ならざる力が混じり、神の身体となったからだ。神様を人が直視すれば目がつぶれてしまうがゆえに、神様は慈悲で自らの姿が見えないように隠れるのである。
と、その口が、ゆっくりと開かれた。
「■■■■■~♪、■■■■■■■■~!!♪」
知られていない言語、知られていない呪文、知られていない祝詞...神々の興ずる歌。
世界が震えるような…アイドルとして音感を鍛え上げた言祝アリアの耳には、音波を通じて世界へ異質な何かが流し込まれたのを、感じることができた。
【
【
【シンシューキュウコンEXは 祝歌状態に なった!】
【シンシューキュウコンEXの すべての能力が さいだいまであがった!】
【イーブイEXは 祝歌状態に なった!】
【イーブイEXの すべての能力が さいだいまであがった!】
【アシレーヌEXは 祝歌状態に なった!】
【アシレーヌEXの すべての能力が さいだいまであがった!】
【ミュウスリーEXは 呪歌状態に なった!】
【ミュウスリーEXの すべての能力が がくーんとさがった!】
それはまさしく、神様の恩寵であり、天罰…ポケモンたちから力がみなぎり、ミュウスリーEXはチカチカと各部の電照を切らす。
現人神アリア・カナサシの代行する竜神様のバフ・デバフーそれは、あまりにも激烈な、まさしくチートと言えるものだ。味方のすべての能力値ランク補正を最大に、敵のすべてのランク補正を最小にする...つまり単純に言えば攻守に16倍の差を与える代物なのだから。
ミュウスリーEXの機械の耳が、ピクピクと震え。
【ミュウスリーEX(呪歌)は EXエディッションドライヴを 逆回転させている…】
【ミュウスリーEX(呪歌)の アンチEXオーバーラップ!】
瞬間、最先端マッドサイエンスは、敵対する相手の「可能性」を剥奪し、彼らに都合がいい可能性を世界から取り除いていく。
【
【シンシューキュウコンEX(祝歌)の EXオーバーラップが 解除されている…!】
【イーブイEX(祝歌)の EXオーバーラップが 解除されている…!】
【アシレーヌEX(祝歌)の EXオーバーラップが 解除されている…!】
言祝アリアは焦るー確かに自分たちのポケモン4体は現人神と化したアリア・カナサシの補助を受けていて、自分もその神威を感じている。それでも、ポケモンEXというこの地方独自の、そしてポケモン原作に存在しないかつポケモン原作のどのパワーアップ形態より強力なパワーアップが解除されてしまった、その「科学」に、慄きを隠せないし心配を禁じ得ない。
「■■■■■■■♪、■■■■■■■~♪、■■■■■■■■~~♪!」
言祝アリアの伺うような視線を受けても、アリア・カナサシは何も返さなかった。現人神として、信じる者に恵みを、仇なす者に罰を与える歌を歌い続け、しかしどうやら歌を中断して指示を下すことはできないらしい。「神はみだりに現世に関わるな」ということだろうか?
言祝アリアは、アリア・カナサシの、今や人間離れした深紅に染まった瞳を見つめ、何を彼女に期待されているのか察した。
(...
わかりました。あなたが神をやるのなら、私が
「/Outputサーナイト、キュウコン!私が指示を出します!End」
わかったーメガサーナイトとシンシューキュウコンは頷いた。いくら現人神がついているからと言って、マッドサイエンスの極致たるミュウスリーEXに無策で挑むのが自殺行為であることには変わらないからだ。
(...考えるんです私!ミュウスリーの「ねむり」「ねごと」をまずは封じます!
AIですし「ねむってねごとで一撃必殺ワザ、ワザの選択と命中は可能性理論で確率操作」というプログラムは組まれているのでしょうけど、それをするには前提があるはず...!前提を崩せば、いけます!)
「■■■■■■■♪、■■■■■■■~♪、■■■■■■■■~~♪!」
ましてアリア・カナサシの現人神としての顕現と、それによる能力の大幅な低下だ。これで異変を感じて起きないのは、サイコパワーで睡眠中の感知ができるとしても、よっぽど...
(いや違う!安眠を貪り続けるのは、それでハメ技になるとしても、ちゃんと安全を確認しないとできないはず!サイコパワーだって弱まったはず!それにあれは機械!)
ならば、きっと、ミュウスリーEXに安眠を可能たらしめているのは...
「/Outputキュウコン、ふぶきです!End
アシレーヌはうたかたのアリア、イーブイとサーナイトはハイパーボイス!End」
雪嵐が吹き荒れ、アリア・カナサシの神歌に伴奏が添えられた。
ー*ー
>ナノカメラ群、ホワイトアウトにより撮影不全
>聴音機群、ノイズ過多によりエコロケーション測位機能不全
>ナノカメラ群の保温、画像解析高度化を試行
「/Outputふぶき!止めないで!End」
>ナノカメラ群保温に失敗 映像データのノイズ過多
>逆位相音波によるノイズ除去を試行
>ノイズの複雑な和音性により除去に失敗
>機体「ミュウスリー」への状況データ不足
>機体「ミュウスリー」への外部からの安全確保不全
>これより機体「ミュウスリー」のスリープを解除、外界の自立観測・戦闘を再開
ミュウスリーEXのカメラアイのシャッターが、ウィーンと開かれ。
【ミュウスリーEX(呪歌)の ぜったいれいど!】
今しがた用意していたのであろう一撃必殺ワザが、ふぶきの中へと放たれた。
イーブイの前面に張られた「まもる」バリア。それをぜったいれいどは容易く貫通するーEXエディッションドライヴが「『まもる』に失敗した可能性」を現実世界へ引き出したのだ。
だが言祝アリアは二段構えで指示を出していた。「みがわり」-こちらに失敗する可能性は存在しない。
そして、視界のほとんどない状態で無効なぜったいれいどを放ったその時間は、明らかなミュウスリーEXの隙。
「/Outputハイパーボイスで圧殺!End」
ミュウスリーEXが、咄嗟に耳の高精度マイクをシャッターする…が、現人神からのバフを得た4重ハイパーボイスの強音はマイクの音感素子を緊急シャットダウンせしめ、同時に機体の超硬合金にわずかな弾性疲労を強いた。
【ミュウスリーEX(呪歌)の エックスボール!】
ミュウスリーEXの手から、宇宙の揺らぎの可能性から抽出されし基底エネルギーが投げつけられ、空間を抉り飛来する。
「/Outputサーナイト、相殺!End」
【メガサーナイト(祝歌)の ムーンフォース!】
メロエッタを一撃で下した攻撃は、しかし今度はメガサーナイトに届くことはない。ミュウスリーだけEXオーバーラップしていても、「祝歌状態」の4倍と「呪歌状態」の1/4倍で、単純計算で8倍、もともとミュウスリーのほうがメガサーナイトよりずっと強いこととエックスボールというワザの規格外さを入れても、なおぎりぎり、メガサーナイトのムーンフォースは伯仲した。
伯仲で充分だ。なせなら、メガサーナイトは一体で戦っているわけではないから。
アシレーヌ、イーブイ、そしてシンシューキュウコンが、ハイパーボイスを三方からミュウスリーEXへ聞かせ続ける。徐々に剥がれ始めた外装に耐えかね、ミュウスリーEXは口を開いて内部のスピーカーを露出させた。
【ミュウスリーEX(呪歌)の 逆位相ハイパーボイス!】
電力を湯水と使った、逆位相音波によるハイパーボイスの打ち消し。「音ワザは多方面に拡散するし防御を回折するが、音波を遮られたり消されると無力」というロジックに則った対抗策だった。
スピーカーから逆位相音波を垂れ流しながら、ミュウスリーEXは人工筋肉の出力を最大にし、地を蹴る。
【ミュウスリーEX(呪歌)の サイコブレイク!】
狙うはただひとつ、この形勢を生み出したる、歌姫アリア・カナサシ自身。サイコパワーを宿した拳が、なんとミュウスリーEXの本体からロケットパンチよろしく発射される。
(は!?機械で戦うならロケットパンチは浪漫とでも言うのですか!?)
あんまりにもあんまりな攻撃に、言祝アリアは対応を思いつかず、ミュウスリーの設計者たるDr.バックレアを見る。正気を疑われている視線で見つめられたバックレアは、超然と何かの計器をいじっていた。
むろん、言祝アリアの指示がないからといって、アリア・カナサシの歴戦のポケモンたちがこれを見逃すはずもない。というかメガサーナイトもシンシューキュウコンも、別に言祝アリアを信じているわけでもなかった。
【メガサーナイト(祝歌)の サイコキネシス!】
【シンシューキュウコン(祝歌)の ゆきなだれ!】
サイコキネシスで無理やり減速させられたロケットパンチを、雪雲の崩壊が撃墜する。
今やミュウスリーEXは片手、スペックの差も明らか、追い詰められている…気を取り直した言祝アリアも、未だ息を切らさず歌い続けるアリア・カナサシも、だからこそ、気を抜けない。
「■■■♪!■■〜■♪■■■■■■■■■♪」
(まだもう一段、何か隠しているはずです!)
バックレアが、ふむ…とうなずく。言祝アリアがタッチペンを構え直す。
「そろそろ!発動!ですかな!?」
「/Output来ますよ!準備!End」
ミュウスリーEXの全身が、理論上最大クラスのデバフを受けているとはとても信じがたい、強大なオーラを放射する。
>通常戦闘での敵対対象排除は不可能と判断
>エマージェンシー戦闘を行います
>機体内データのクラウド保存を確認
>秘匿テクノロジーの焼去シークエンス始動
「ええ、認めましょう!
わたくしの頭脳も!ミュウスリーのAIも!英雄歌姫が復活するとは思わなかった!
数百万人を戦火に巻き込み!数万人を自ら殺し!数十万人を殺させたアリア・カナサシは!二度と再起できないと!」
「
人の身にもぎりぎり理解できるグレードへフォーマットを落とされた神の歌が、バックレアに答える。言祝アリアは名前を呼ばれたとともに、途方もない力の一端に全身を揺さぶられる感覚で座り込んだ。
>EXエディッションプレート、リミッター解除
>サイコパワー精製炉、リミッター解除
「ともあれ!問題はないのです!予期せぬ可能性が発生したとしても!
ミュウスリー!実験に不要な因子は排除です!」
全自動でバトルしているのだからバックレアの指示に従ったわけでもあるまいが、ミュウスリーEXは、全身からのオーラを爆発的に膨れ上がらせたかと思うと、空気を赤熱させ、足元に無数のヒビを発生させ、そして閃光した。
【ミュウスリーEX(呪歌)の サイコバーン!】
爆風。爆音。爆光。
無数のネジを四方八方へ散らしながら、臨界へ至った超常のエネルギーはすべてを吹き飛ばす。
可能性の制御というマッドサイエンスは、「たまたま、すべてのサイコパワーが都合よく4体に最大のダメージを与えるように吹き荒れた可能性」を現実世界へ引き出して見せた。
メガサーナイトが、シンシューキュウコンが、アシレーヌが、イーブイが、遥か遠くへ吹き飛ばされる。
信号機に突き刺さったメガサーナイトのメガシンカが解除され、シンシューキュウコンはビル壁にめり込んだままうなだれ、イーブイは窓ガラスを血まみれにしてその奥に消えた。
湖面に叩きつけられ、厚い氷を割って摂氏0度のカナサシ湖の水中に沈んだアシレーヌが、血で湖水を赤くしながら割れた氷上へ浮かび上がる。
ミュウスリーEXの爆心地、バラバラ、見当もつかない焦げた部品が無数に散乱するのを見つめ、言祝アリアは安堵…できない。
(しとめ…いやまだ!?)
何かしらのチップがつながった、腕らしきもの…それが、アシレーヌがぷかりと浮かぶ湖面へと、ロケットブースターを吹かせ飛び出したのだ。
【ミュウスリーEX(呪歌)?の サイコブレイク!】
言祝アリアが、アリア・カナサシが、目を剥く。
バックレアが、獰猛に笑う。
起き上がったアシレーヌが、目前に迫る脅威に、驚愕でフリーズする。
“「
神の、声。
【竜神様の りゅうせいぐん!】
音速の壁をぶっちぎって飛来する流星が、アシレーヌの手前数mで、ロケットパンチを湖中へと叩き落とした。
「宇宙規模の事象で、地上の騒動に干渉する…
空中の敵を、もろともに湖底へ沈める…
やはり予想通りの正体でしたか…カナサシ湖の竜神…」
バックレアは、そのポケモンとしての名を、仮説として推定されてきただけで断言できなかった神の名を、叫んだ。
「レックウザァッ!」
バックレアの叫び声に応えるかのように、カナサシ湖が七色に閃光…そして不気味に沈黙。
ここに、ミュウスリーの破壊でマッドサイエンティストたちの白色クーデターは破綻し、カナサシ湖畔は静寂を取り戻したのだった。
・宇宙規模の事象で地上の出来事に干渉する
・空中の敵を、もろともに湖底へ沈める
龍神の言い伝え「カナサシ湖周辺で祀られていた暴れ神「おひだりさま」に対して、宇宙から襲来して湖底へ鎮め、ともに沈んだ」を表すとともに、「グラードンとカイオーガという地上の争いに対し、宇宙から介入した」「宇宙に浮かぶデオキシスを大気圏内へ叩き落とし、地上で雌雄を決する」など、レックウザという種族そのものが持つ神様としての「記号的性質」。