アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜   作:十二の子

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♪41 おひだりさま 神絶の光

 呪歌状態のミシャグジ神の「プロバビリティゲイザー」は、祝歌状態のメガレックウザ(アルビノ)の「ガリョウテンセイ」に貫かれた。

 

 キノコ雲が晴れつつある下、メガレックウザ(アルビノ)は純白の身体に生傷を増やしているが、ミシャグジ神もどこかふらついている。威力は伯仲したープロバビリティゲイザーの「破壊の過程を無視し、破壊された可能性を現実へと引きずり出すことで、破壊の結果を出力する」という効果が、うまく機能していないのだ。

 

 それはつまり、今のミシャグジ神では、メガレックウザ(アルビノ)を破壊できる可能性がない、可能性が万に一つも存在しないから破壊を出力できない、そういうこと。

 

 だから、ミシャグジ神は、横着をやめた。

 

 ミシャグジ神が、自らへと汲み上げたパラレルな可能性を、収束させ、選別する。それは、ー∞から∞までのすべての乱数をかき集めて、正の数だけ採択するような所業。

 

 ミシャグジ神の姿が、くっきりと浮かび上がる。世界と自分との間にコントラストを作って、ミシャグジ神は自らをどこまでも光り輝かせていく。

 

 あらゆる、ミシャグジ神に有利な可能性。それらの併存に、可能性を司るミシャグジ神自身は耐えられても、宇宙は耐えられない。ボールが右へ行くか左に行くか、天気が晴れか雨か、星が存在するか否か、そういう矛盾する複数の可能性がパラレルワールドなしに同じ世界で成立するようには、物理法則はできていない。

 

 ゆえに、論理構造が崩壊し、現実は破綻し、かくてミシャグジ神が蓄えた可能性は、炸裂した。宇宙の破綻が、純粋なエネルギーの光爆、威力という概念そのものとなって、「前方のみへと炸裂する」可能性を付与され、発射された。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の めつぼうのひかりGX!】

 

 龍神様ことメガレックウザ(アルビノ)は、その途方もない威力を察しながらも、避けようとはせず、口を大きく開いて吠えた。

 

 【メガレックウザ(アルビノ)(祝歌)の りゅうせいぐん!】

 

 青空を突き破るように、地平線のあたりから流星がカナサシ湖上空へ飛び込む。地上に直撃すればツングースカ大爆発もかくやというそれが、ミシャグジ神の放った純粋な威力と、交錯した。

 

 どうなるか…湖畔のタワーのすぐ真下に到着したばかりであった言祝アリアは、その瞬間を固唾をのんで見守り…そして知覚を失った。

 

 (鼓膜が、破れ…っ!)

 

 衝突が巻き起こした轟音は聴覚を破壊し、砕け散った流星の塵芥は視覚を無意味にする。

 

 慌ててアシレーヌを出す。砂塵の中、アシレーヌは言祝アリアの意を組んで、アクアリングに言祝アリアを巻き込んだ。

 

 アクアリングの回復効果と湿度で、聴覚と視覚が徐々に回復していく…言祝アリアは即座に、上空に目を凝らした。

 

 メガレックウザ(アルビノ)は、どこにもいない。

 

 (もう、やられて…!?)

 

 「コトホギさん、来れたのね!」

 

 タワーの上からの大声に、言祝アリアは手を振り返した。タブレット端末の音声設定を最大にする。

 

 「/Output歌姫さん龍神様は!?End」

 

 「あっちの山でもがいてる! …っと、またおひだりさまが攻撃してくるわよ!気をつけて!

 

 ■■■♪■■■■〜♪

 

 アリア・カナサシが神の歌声を唄っても、上空のミシャグジ神は、朗々としたその声に構うことなどなく、再び光量を高め始めた。

 

 (な、まさかもう一度GXワザ!?)

 

 Zワザ同等、いやそれ以上にリチャージに時間がかかるのがGXワザのはず。なにしろ可能性を収束させているのだから、ある程度時間を経ないと充分に可能性の分岐が発生していないのだ。

 

 けれど、ミシャグジ神は、知ったことかと言わんばかりに光爆を解き放った。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の めつぼうのひかりGX!】

 

 山肌に叩きつけられてもがいているメガレックウザ(アルビノ)になど、見向きもしない。ミシャグジ神が狙うのは、先ほどから小癪にもデバフをかけてくる、歌姫アリア・カナサシ。

 

 >敵対神格からの攻撃を察知。

 

 アリア・カナサシが屋上で歌うがために標的となった可能性の殿堂(プロバビリティ・タワー)。主たるマッドサイエンティストたちが捕縛されてなお、超科学の粋は全自動で研究成果を護ろうとする。

 

 >媒体干渉式エネルギー誘導システム、作動準備完了。即時実行します。

 

 >次世代型次元歪曲障壁(ディメンション・ウォール)完全作動まで残り2秒。

 

 空気分子を電磁的に退け疑似真空を生み出し、衝撃と熱運動の伝導を和らげる。その内側で、ガラルのバトル観客席でダイマックスワザを防いでいるバリアのさらに強力なバージョンが、3次元空間に断絶を生む。

 

 そして、閃光と衝撃が着弾した。

 

 タワーに割られるかのように、ビームが左右に逸れる。

 

 樹形図型のタワーはビリビリと震え、超硬合金製の柱に亀裂が入り、それでも耐えた。

 

 が、タワーの背後、受け流された攻撃をくらったエクリプスタウンの街並みは、深い谷間を刻まれていた。どんな最新技術で建設されようとも、純粋な威力の奔流を受けては、基礎ごと瓦礫となって吹き飛ぶしかなかったのである。

 

 近未来都市エクリプスタウンの市街に刻まれた、長さ数キロに及ぶキャニオン。村程度なら消失しているであろうこの惨事が、攻撃ではなく、受け流された攻撃の余波に過ぎないのである。

 

 (な…………)

 

 タワーの上と下で、アリア・カナサシと言祝アリアが絶句する。あんなもの、まともに食らえば骨どころか分子すら残らない…

 

 アリア・カナサシも言祝アリアも知らないことだが、ミシャグジ神が本気なら、こんなものでは済まなかった。可能性の併存による宇宙の破綻、それによって放出される絶大な「威力そのもの」。その理論値は正しく無限大であり、星系一つを破壊することも容易いシロモノだ(ミシャグジ神そのものが、自らが存在する空間の現実強度の破綻に耐えられれば、だが)。

 

 「そんな!?もう一度GXワザ!?報告の限りでは1回だけのはず…!」

 

 愚問だと、ツクバネ・モリヤは嗤った。

 

 「もう一度GXワザを使ったのではない。GXワザを使っていない可能性を、引き出したんじゃぞえ。」

 

 空を飛び戻ってきた、ボロボロの身体のメガレックウザ(アルビノ)。ミシャグジ神は、それを真っ向から迎え撃たんと、再びGXワザのチャージを始めている…

 

 「ミシャグジ様は、可能性を司る神様じゃぞ。

 

 ゆえにこんなこともできるぞえな。」

 

 ツクバネ・モリヤの手に握られていたのは、独特の薄いゴールドを帯びたクリスタルーウルトラネクロZ。

 

 (んな!?)

 

 「知れ、天より出でて万象を滅する、左方の神の御ゼンリョクを。」

 

 そのワザに、射点という概念は必要ではない。「天焦がす」、それはつまり、天空を焦がして発し地上に堕ちるということだからだ。

 

 そのワザに、ぼうぎょ・とくぼうの数値は有意義ではない。「滅亡の光」、それはつまり、防御を透過して滅亡をもたらすということに他ならないからだ。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 ZワザとGXワザの、重ね掛け。特殊なワザであるかないか以前に、2つのワザを同時に使えるはずもない...が、並行する可能性を引き出して併存させるこの神格にかかれば、原理原則など問題にはならない。

 

 エクリプスタウンの空が、白灼した。

 

 (空が、太陽が、光が、堕ち…!?)

 

 2人のアリアとツクバネが、目をつぶり、耳をふさぎ、うずくまる。

 

 タワーの防御システムが、アラートを画面中に並べる。

 

 光が、湖畔に堕ちる。

 

 破滅。

 

 キノコ雲が、タワーの上空に現れる。

 

 衝撃波が、繁華街も住宅街も官公庁もなぎ倒す。

 

 たった一撃にして、都市圏生命そのものに致命的な打撃をこうむったエクリプスタウン。その守り神はと言えば。

 

 丸い、土壌もコンクリートも建物も材質を無視し等しく地面をくり抜いたかのように真円の、円筒の、穴。

 

 アパート程度なら余裕で収まりそうな穴の、その底に、真っ黒な、レックウザの焦げかすが落ちていた。

 

 「りゅ、龍神様ぁぁぁッ!?

 

 ...そ、ん、な...」

 

ー*ー

 

 龍神様が完敗した今、街を守れる者はもはやいない。

 

 邪神は、再び光を蓄えていく。

 

 そして再び、エクリプスタウンに、閃光が堕ちた。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 GXワザ・Zワザの回数制限など気にも留めず、破滅の光爆は連続する。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 エクリプスタウンのガラスというガラスが砕け散り、木はすべての葉を失い、電柱や信号はへし折れ曲がる。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 タワー近くの街並みは灰燼に帰していき、ところによってはまるでドリルで穿ちぬいたかのように深々とした空洞が地面に作られる。

 

 それはエクリプスタウンの終末であった。敵味方100万が3年間入り乱れるシンシュー戦乱でも被害らしい被害を受けなかった稀有な街は今、たった数分、たった1体のポケモンにより、東京大空襲もかくやの壊滅的被害を被り、穴だらけに掘削されている。

 

 そして、湖畔のタワーを守り続けた二重の防壁も、ついに砕け散る時が来た。

 

 バリアの消失とともに、外部から熱風が吹き込み、最上階で歌うアリア・カナサシの肌を焼く。

 

 既に、ミシャグジ神は、次の一撃の用意を終えている。

 

 (あ、私、ついに、死…)

 

 それでも、アリア・カナサシは、自分に迫る終末から、最後まで目を背けなかった。

 

 天が堕ちるかのような、閃光。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー*ー

 

 破滅の光爆は、アリア・カナサシの眼前をかすめ、タワーの真横に着弾した。

 

 タワーがグラグラと揺れる。

 

 (なぜ、外し…

 

 …コトホギさん!?)

 

 なぜかびしょぬれの地面の上、言祝アリアが、ラプラスとともに、ミシャグジ神の「てんこがすめつぼうのひかりGX」により空けられた穴のそばで立っている。

 

 (ギリギリ避けた?というかもしかして、おひだりさまはコトホギさんを狙って?というかコトホギさん、いつの間にか着替えてる?)

 

 ひらひらのミニスカート、もともとのアイドル体型をベルトとコルセットで締め、制服風のブラウスの上に半袖のボレロ。ボブカットの黒髪に光っている髪飾りはキーストーンだろうか?

 

 「/Output歌姫さん、きっと私、あなたと同じことを考えていると思いますEnd」

 

 早着替えでもなんでもなくただの着こなしのアレンジだと良く見れば気づける。それより問題は、彼女の着こなし、表情、身振り手振り、すべてが、ステージの上の絶世のアイドルかのように、人目を惹きつけることで。

 

 「同じ、こと?」

 

 それを聞けば、何かが変わってしまう、世界が色を変えてしまう…そんな予感に、アリア・カナサシはとらわれながら尋ねる。

 

 果たして言祝アリアは、タブレット端末とタッチペンを放り投げた。

 

 「覚悟を決めるなら今だって。

 

 力を正しく使うべき時だって。」

 

 「コトホギさん、声...!?」

 

 廃墟と化した街を背景に、ミシャグジ神の物理的な光量などものともせず、いやそれすらも最適なスポットライトに変えて、言祝アリアはその姿で、動きで、なにより声で、周りを魅力していた。

 

 ミシャグジ神も、もはやアリア・カナサシに目も向けない。

 

 【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】

 

 ミシャグジ神の攻撃がなされた時、言祝アリアは、攻撃の方向を確認したりはしなかった。自分がステージの上のアイドルなら例え邪神であろうと自分から目を離せず自分を狙うしかできないとわかっていたし、邪神が狙いを誤ることもないとわかっていたから…ただむろん、撃ったあとで標的が動けば外すこともある。

 

 「だくりゅう!」

 

 【ラプラス(祈歌)の だくりゅう!】

 

 濁流に己を巻き込むことで、攻撃しながら相手の命中率を下げるワザ…空中高くのミシャグジ神に攻撃そのものは届かないが、しかしミシャグジ神の攻撃を回避することには貢献してくれていた。

 

 (でも、コトホギさん、自分に攻撃を惹きつけたところで、いつまでもは避けられないわよ!)

 

 グラグラ、今にも倒れそうに揺れるタワーの上で、アリア・カナサシは手すりと手の間に汗を染みさせ、真下を見下ろす。

 

 タワーの下、言祝アリアは、モンスターボールを構えていて。

 

 (ミシャグジ神のゲット…?いや、それができるほど魅了が通用するなら、そもそも攻撃してこないはず…)

 

 「アイドルですら死にきれずに転生するんです。伝説のポケモンなら、持ちこたえてくれてますよね?

 

 私に、力をください…!」

 

 ボールは指先を踊り、そのビームは、タワーのすぐ近くに空けられた巨穴…その中に横たわる、黒焦げのレックウザを呑んだ。

 

 「レックウザ、ゲットです…!」

 

ー*ー

 

 手のひらに感じる、特別なレックウザ、その確かな重み。

 

 厳選だってできる通常レックウザや、色違い、ノブナガのレックウザ…そんなのとは違う、アルビノのレックウザ、1000年以上邪神を封印し共に湖底に沈んできた、もしかしたら諏訪明神様に値する、神聖なレックウザ。でもそれだけじゃない…この重みはきっと、データではない生の伝説ポケモンの重み。

 

 神様の重みを感じて、目を啓かれたような心持ちがします。もう1体の神様に対して、私が何をすべきなのか。私がここにいる意義とはなんなのか。

 

 おひだりさま...「御左神様」...きっとそういうことなんですね?

 

 私が、崇拝を集める対象というタイプの偶像(アイドル)...「願いを受ける巫女であり、幸せを与える神の座に並ぶ者」としてのアイドルとして錬成(プロデュース)されて、異能と呼んで差し支えないくらいに才能を磨いてきたのは、こういう運命だったからなように思います。

 

 「もう間違えません。

 

 私も、人々の願いの依代(アイドル)、ファンにとっての現人神(アイドル)だから!」

 

 共に戦いましょう、カナサシ湖の、龍神!

 

 【言祝アリアは レックウザ(アルビノ)を くりだした!】

 

 「レックウザ!オンステージ!」

 

 【言祝アリアは げんきのかたまりを レックウザ(アルビノ)に つかった!】

 

 【レックウザ(アルビノ)は メガレックウザ(アルビノ)に メガシンカした!】

 

ー*ー

 

 かつてその少女は、自分の魅了の歌声が、自分へと危害をもたらすから、あまりにも世の中をかき乱すから、その声を慎んだ。

 

 今やこのアイドルは、自らに危害を引き付けるため、可憐な唇を震わせ、そして歌声を紡ぎ出す。

 

 【メガレックウザ(アルビノ)は 祈声状態に なった!】

 

 心に染み渡る、暖かな歌声…龍神様はそれを胸に、再び天へと駆け上がった。




 「神絶の光」

 1:邪神の絶対的な光

 2:神様をも絶する、アイドルの光
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