アイドル、ポケモン世界を歌う! 〜ポケットモンスターTen Colors〜 作:十二の子
ー*ー
【レックウザ(アルビノ)は 祈声状態に なった!】
息を呑み、自分の役割すら忘れかけて、天に昇る龍神様を見上げていたアリア・カナサシの意識を、言祝アリアが歌詞の合間に呼び戻す。
「歌姫さんッ!」
はっと、アリア・カナサシは我に返り、現人神としての力を声に依らせた。
「例えばそう、澄み切ったあの空に〜♪」「
現代と古典、人々の巫女と依代の巫女…2つの歌声を、2人の偶像が重ね合わせる。それは拙いパッチワークのような即興の音楽で、けれどメロエッタとアシレーヌがボールから出るなり意を汲んだ。
神に祈るための歌と、人が祈りを集める歌に、旋律が添えられ、素朴な歌が賑やかさを増していく…原始的な音楽の発展を体現するような歌とともに、龍神様から煌々と、後光を幻視させるほどの覇気があふれ出してきた。
【レックウザ(アルビノ)(祈声)は 祝歌状態に なった!】
(重複するの!?私の現人神の歌声のバフと、コトホギさんの声が持つ未知のバフは!?)
アリア・カナサシはそれをあり得べからざることだと考えるー龍神の力を借りし歌声は、敵の能力を最小にする「呪歌状態」、味方の能力を最大にする「祝歌状態」をもたらす...すなわちそのバフは常に理論値であって、さらなる上はありえないはずなのだ。それがありえるとすれば、言祝アリアの歌声のバフは通常の能力上昇とはフォーマットが異なる、例えばスキン系特性のような補正...だが、それにしても、今の龍神様が放っているオーラは強すぎる。おそらく、よほど強力なバフ効果なのだろう...言祝アリア自身がすごいのか、2人のアリアの相乗効果なのかは不明だが。
(これなら、おひだりさまを倒せるかも…!)
【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】
【メガレックウザ(アルビノ)(祈声)(祝歌)の エメラルドブレイク!】
果たして、レックウザ(アルビノ)が放つ衝撃熱波は...
...言祝アリアめがけ天から堕ちる光爆を迎え撃ち、空中で爆ぜ、破滅の光を強烈な閃光そして赤外線と電磁波へと粉砕した。
もとが都市を破壊して大穴を穿つほどの莫大なエネルギーである。赤外線は熱波となって肌に熱さを感じさせ、電磁波はなおのこと強烈であってEMP効果によってエクリプスタウン中の電子機器を破壊した。
知らぬところで、エクリプスタウンのハード面だけではなくソフト面にも重傷を負わせていたが、2人のアリアの斟酌するところではなく...ただ、2人は手詰まり感を覚えている。
積めるだけバフを積んで、伯仲...「可能性」を司る邪神たるや、それだけ圧倒的なのだ。もちろんそれを封印し続けている間に龍神レックウザが弱まっているのも1つの原因だろうが。
もっとも焦っていたのは、敵も同じだった。これも2人のアリアが知る由もないことで...故に、言祝アリアがガクンと膝をついた時、2人とも、何が言祝アリアの身に起きているか理解できなかった。
(...え、力が入らな...というか手を突いたのに手ごたえが...)
バランスをとるため咄嗟に地面に突いた手が、否が応でも、言祝アリアの目に入る。
(...手が、透けて!?)
【UB00 LEFT_GX(呪歌)は 言祝アリアから 可能性を奪おうとしている…】
ミシャグジ神は可能性を司る伝説のポケモン、ゆえに、自分の力で真っ向勝負で龍神レックウザに勝てないと察して、搦め手...すなわち龍神レックウザのバフを引っぺがすため、元凶たる言祝アリアの排除に乗り出したのだ。
そもそも、言祝アリアはミシャグジ神を魅了し、照準をレックウザから言祝アリアへとズラさせてくる。この小癪な干渉からして気に食わないものであり...ミシャグジ神は最初、「言祝アリアの歌声に魅了される可能性」「言祝アリアの歌声がバフ効果をレックウザに対して帯びる可能性」の排除にかかった。
そして失敗した。
ミシャグジ神は、如何に最凶の邪神と言えども、ただの伝説のポケモン...言祝アリアのアイドルとしての本質をちっとも理解してはいなかったのだ。言祝アリアがアイドルとして君臨する限り、彼女の歌声に異能じみた魅了と高揚の効果は憑いて回るということも。「歌声になんの力もない可能性」など、万に一つ、億に一つもなかったのである。
そしてミシャグジ神は、「言祝アリアがそもそも存在しない可能性」を現実に汲み出すことにした。結果、言祝アリアには、元からあった「存在している可能性」に「存在しない可能性」が重複し、実在が不確かとなったのだ。
言祝アリアが不明瞭な存在となったことで、相手のバフが弱まり、ミシャグジ神はついに、メガレックウザ(アルビノ)に邪魔されず小癪な言祝アリアの抹殺をすることができるようになった。
【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】
【メガレックウザ(アルビノ)(祈声)(祝歌)の エメラルドブレイク!】
破滅の光爆は、衝撃熱波を突破して、言祝アリアへ堕ちた。
ー*ー
そもそも、敵の存在しない可能性を現出させたり、敵の権能の存在する可能性を現実から排除しようとしたりできるのなら、最初からそれですべてが解決するはずだ。なぜそうしなかったのか?
おひだりさまは、ミシャグジ神という名前とともに権能を肥大化させたものの、本来は慎ましく権能を使う伝説ポケモンだったのである。なにしろ、現実と相違するパラレルな可能性を現実世界へ重複させる…というのはパラドックスを招く仕儀だ。そのパラドックスを攻撃威力に転化放出する「めつぼうのひかりGX」があるとは言え、みだりにパラドックスを起こすのは生物としての本能に反する。
だから、ミシャグジ神は、切羽詰まって「言祝アリアが存在しない可能性」を現実に引っ張り出したものの、それが引き起こすことを理解するには経験不足だった。
実在と非実在というパラレルが重複し、パラドックスによって現実性そのものが揺らぐ言祝アリアという存在。そこに攻撃をぶつけても、存在しないものは破壊できないのだから「何も破壊できない」可能性が出現し、そしてそれは言祝アリアの実在側の現実にも作用する。言祝アリアは今や、実在している可能性と実在していない可能性が半々、抹殺されている可能性と抹殺されていない可能性も半々、論理パラドックスまみれで現実強度そのものが極度に低下、そういう状態に陥った。
現実そのものに不全が起きる中、ふらつく言祝アリア(の可能性)の胸ポケットから、メタリックな石板が言祝アリアの死体(の可能性)の上に落下する…
(おかしい…!?
アリア・カナサシは、目を疑い...そして、言祝アリアと出会うきっかけとなった、公安統監部の調書を思い出した。
ー「スパイでないというのなら、あのGXマーカーをどこで手に入れたっ!あれはコーシューでしか手に入らん!」
ー「…祠で見つけた?石柱と、ネクロズマをコピーした紙の間に挟まっていた?何を馬鹿な。あそこはコーシュー軍の諜報アジトで、石柱と紙の間が隠し場所だっただけだろう!」
(今ならわかる…石柱の祠は古代の信仰、私たちカナサシ一族が来る前の、モリヤ一族が治めていたころの信仰の名残...そしてネクロズマは、アローラのそれじゃない...おひだりさまの像をネクロズマと見間違えたんだわ!)
シナプスがスパークする。アリア・カナサシは、声が届くか疑わしいのを承知で、そのひらめきを叫んだ。
「コトホギさん!
貴女がそれをコーシューの秘密アジトから手に入れた時、ネクロズマの像が貼ってあったのよね?」
奪われるリスクを冒してシンシューでそれを改造していた理由、呪術的な意味がありそうな張り紙...それは、シンシューの神に立ち向かうためのものではない?」
ポケモンEX・GXは「可能性を重複させる」パワーアップであり、可能性を司るミシャグジ神の前では使えない...だが、何らかの対策を、コーシュー軍が立てようとしていたとしたら?
賭ける価値はある、が。
「今の私では無理です!」
ーもはや声が届かなくたってわかる。喋れるのか喋れないのか、生きているのか死んでいるのか、そもそも最初から実在したのか実在しなかったのか...あらゆる意味で現実が不全を起こしている言祝アリアという存在は、もう物を掴めるのかすらはなはだ疑わしいし、ましてやGXマーカーの発動など不可能だ。
だからアリア・カナサシは、タワー最上階から飛び降りた。
タワーの高さは数十m、みるみるうちに地面が迫る。
「サーナイトッ!」
【サーナイトの サイコキネシス!】
ボールから飛び出したサーナイトが、間一髪、アリア・カナサシを浮かばせて、言祝アリアのすぐ横に下ろした。
「…死ぬかと思ったわ。」
言祝アリアの死体(の可能性)を踏み、脚をすり抜けさせながら、アリア・カナサシはGXマーカーを拾い上げる。
ミシャグジ神が、ひるんだ気がした。
「一か八か、やる価値はあるわ...龍神様、GXオーバーラップ!」
【レックウザ(アルビノ)(祈声)(祝歌)は GXオーバーラップしている…!】
【UB00 LEFT_GX(呪歌)は マルチバースシフトを発動し レックウザ(アルビノ)(祈声)(祝歌)の可能性を奪おうとしている…】
【UB00 LEFT_GX(呪歌)の マルチバースシフトは 失敗した!】
【レックウザ(アルビノ)(祈声)(祝歌)は
ここに降臨するは、パラレルなカナサシ湖の龍神の可能性を収束させた、真の龍神。あらゆるレックウザの可能性を内包し、それどころか諏訪明神タケミナカタの武神としての可能性をもその身に秘めた、至上の存在。
言祝アリアの手から落ちたレックウザのモンスターボールが、砕け散る。今やその存在は、1つのボールに収まりきるようなシロモノではない。
ミシャグジ神...カナサシ湖底の邪神ミシャグジとしての己ではない、己に汲み上げたミシャグジという可能性が、タケミナカタの可能性を持つ
【
全天が閃光し、光が、因縁の敵を呑み込まんと迫る。
【
猛烈な竜巻が、
天から堕ちる、破滅の光ー
ーだがそれは、龍神の竜巻に呑まれ、中まで届かない。
【
呑み込んだ破滅の光すらも威力に加え、デルタ型の空気の巨大砲弾が、ミシャグジ神に迫る。
ミシャグジ神は、用意していた次の攻撃を、迎撃のために解き放った。
【UB00 LEFT_GX(呪歌)の てんこがすめつぼうのひかりGX!】
カナサシ盆地の空が、閃光に支配され、エネルギーとエネルギーのぶつかり合いによって大いに空気を失う。
膨大な熱量と真空状態によって水位が低下したカナサシ湖の上。急速に形成されつつある、成層圏を突き破るほどの巨大なキノコ雲の下。
漆黒にして極彩、暗黒にして虹色の輝きを放つミシャグジ神は、未だ落ちず。
「ダメ...だったのですか!?」
「いや、まだよ!」
キノコ雲を裂き、それは宇宙から、逆落としに突っ込んだ。
【
龍神は、邪神に身体を絡めながら、音速でカナサシ湖へと突っ込み、湖底に突き刺さる。
それはまるで、相打ちとなりともに湖底に沈んだいつかの神話のようで...しかし今は、龍神には、役目を託せる人間がいた。
ひょろひょろ、ぼろぼろの身体ながらも、アルビノのレックウザが湖面を突き破り土砂をまき散らして空へ躍り上がった。それとともに、ぷかりと、湖面にミシャグジ神...そう呼ばれたウルトラビーストが浮かぶ。戦闘不能となった今も、カラフルにしてモノクロ、あらゆる可能性を秘め矛盾した色彩はそのままだった。
現実性を取り戻した言祝アリアは、途方に暮れる。
「…これ、どうにかしろってことですよね?」
そうしなければ、しばらくすれば回復して、またぞろ迷惑をほうぼうにかけるだろう...しかしどうやらレックウザ(アルビノ)は封印を手伝う気はないらしく、宙でじっととぐろを巻いている。
「ゲットして沈めればいいわ。
ポケモンとしてのおひだりさまはモンスターボールがもっとも封印の材料として効くし、神としてのおひだりさまは湖底に封印された神話になぞらえられるのがもっとも効くはずよ。」
物理的な意味だけではなく、儀式的な意味でも、ボールに入れて湖底に放り込むのは効果抜群だーアリア・カナサシはそう言った。
言祝アリアはわたわたと首を振る。...拒否の言葉を口にすれば、それはアイドルの言葉となって、絶対の指示になってしまうから、声を出せない。
「それをすべきなのも、できるのも、きっと、貴女なのよ。
神話を継ぐとしたら、それはきっと。」
ふさわしくないだなんて言わせない...アリア・カナサシの瞳はそう告げている。
「そうじゃぞえ。吾らの長き企みを砕いたのは、紛れもなくそなたというイレギュラー!胸を張るのじゃアリア・コトホギ!」
声とともに、タワーの上から、何かが落ちてきた。とっさにキャッチする。
(ジムバッジと…ウルトラボール…!?)
ウルトラビーストを捕獲する専用のボール。それを投げてよこしたツクバネは、すでにタワー最上階から姿を消している。
敵をして、認めたのだ。カナサシの新たな神話の締めにふさわしいのは、言祝アリアだと。
レックウザ(アルビノ)もまた、コクコクと頷くや、身をひるがえして宇宙へと飛び立っていった。
言祝アリアは、ウルトラボールを握りしめた。
精一杯の力で、えいやっ、湖へと放り投げる。
ウルトラボールからのボールビームが、ゆっくりと、矛盾した光を放つ邪神へ伸びていって。
空中で、ボールが1度揺れる。
(...お願い。これで、終わって。)
2度、揺れる。
”「
3度、揺れる。
そして、止まった。
「カナサシ湖の邪神、ゲットです…!」
ミシャグジ神を収めたウルトラボールは、湖面にちゃぽんと着水し、そして波間に沈んでいった。
ー*ー
エクリプスタウン叛乱、邪神討伐により終結!市街は壊滅か(シンシュー中央新聞号外)
バックレア率いるマッドサイエンティスト集団によるエクリプスタウン白色クーデタ―は、これを裏から操ってきたカナサシおみやだいぐうじ兼ジムリーダー、ツクバネ・モリヤによる、伝説の邪神「おひだりさま」の復活を惹起させたものの、昨日夕方、終結した。
バックレアには「UB00 LEFT」、ツクバネには「ミシャグジ神」と呼ばれた邪神の正体は、光ではなく可能性を司るネクロズマ(またはその近縁種)であり、かつてこれを鎮めたとされるカナサシ湖の龍神レックウザを一時圧倒した。
カナサシ湖南岸に所在するエクリプスタウン中心市街は邪神の攻撃を集中的に受け、英雄歌姫アリア・カナサシと有志1名及び龍神様による鎮圧までに、市街の80%を消失、また逃げ遅れた住民数百人ポケモン数千体が犠牲となった。
中心市街の都市機能喪失により、エクリプスタウンの主要機関はカナサシ湖北岸の北カナサシタウン、または南方のカナサシ高原山麓へ臨時移転し、避難住民の生活支援とエクリプスタウンの復興を急ぐ方針。なお、旧エクリプスタウン指導部のマッドサイエンティスト集団は逮捕されたものの、逃亡したツクバネ・モリヤの行方は不明であり、公安統監部が捜索中である。
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ガシャン、ガシャン。
油の足りない身体を動かし、数年ぶりに倉庫からはい出した予備のアンドロイドが、夜のカナサシ湖面を見つめる。
「…UB00 LEFTは鎮圧されましたか…」
どうしても人間っぽくごまかせない違和感を、白衣で体型を隠してごまかし。
「しかし、一度開いてしまった世界の穴はふさがらないと思うんですけどねえ。溢れ出した可能性、今更どうにかできるんですか?」
ミシャグジ神の攻撃のドサクサで筐体ごと破壊されたはずのDr.バックレア、そのバックアップは、静かに、誰もいない夜のカナサシ湖を立ち去った。
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カナサシ湖の湖岸の中でもっとも人気がない、山が迫る波打ち際。
1つのウルトラボールが、打ち上げられている。
ボールには萎んだウキが結わえ付けられていて...そしてウキからは、ピコーンピコーン、どこへともなく信号が発信されていた...